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県内製材業の現状と課題

 秋田県の製材業は、「天然秋田スギ」という恵みを活かして本県の木材・木製品製造業を牽引してきたが、昭和50年代半ばから需要の縮小や市場の変化への対応の遅れなどにより出荷額が減少し、苦戦が続いている。製材品は、従来重視されていた一つひとつの木目の美しさよりも、品質の均一化や大量供給などの要素が求められるようになっており、県内では、大型製材工場の設立や乾燥材の生産体制の整備など、競争力強化に向けた取り組みが行われている。
 本県は、集成材および合板部門の集積が全国トップの水準であるほか、スギ人工林の面積・蓄積量とも全国一を誇る。これらの資源を活用しながら、林業を含めた木材関連産業が一体となって市場のニーズに、より的確に対応していくことによって、県内製材業の復権に繋げたい。

1 本県の製材業の現状

 秋田県「秋田県の工業」によると、本県の製材業(従業者数4人以上の事業所)の製造品出荷額等は、平成22年で108億円である。木材・木製品製造業に占める割合は17.1%で、合板(30.3%)と集成材(32.5%)よりも低い。元々、製材業は天然秋田スギ資源を活用して本県の木材・木製品製造業を牽引してきたが、昭和50年代半ばから需要が縮小し、事業所数・従業者数とも漸減基調を辿っている。
 また、平成22年の本県の製材品出荷量(農林水産省「木材統計」)は223千立方メートルと、10年前の12年(442千立方メートル)から半減した。十分な長さや幅、美しい木目など、秋田スギの特長を最大限に活かすため、県内では伝統的に羽柄材(※1)や造作材(※2)が製造されてきたことから、用途別内訳では、板類の出荷量が102千立方メートルと、宮崎県(185千立方メートル)に次いで全国2番目に多い。
 なお、経済産業省「工業統計」によると、本県の普通合板の製造品出荷額等(平成21年)は全国3位、集成材は同1位となっており、県内の合板ならびに集成材工場の集積は、国内トップクラスである。
(※1)土台・柱・梁など家の骨組みとなる部分を補う材料や下地となる材料
(※2)鴨居・敷居など、主に和室で使用される材料

2 本県製材業縮小の背景

(1) 製材品離れの進行
a 本県製材業の出荷額減少の要因として、国内の住宅着工数の減少や、住宅の洋風化による非木質系住宅の登場、2×4工法など木造軸組工法以外の建築工法の普及で集成材が伸び、製材品離れが生じたことがある。
 また、製材品は、木目の美しさや光沢などの化粧性よりも、品質の均一化や大量供給などの要素が求められるようになった。しかし、本県製材業は、「天然秋田スギ」という素材を活かして、これまで多品種少量生産により和室用部材を主力に発展を遂げてきたため、需要縮小の影響を直に受けたほか、新たなニーズへの対応が遅れた。
b 県内の製材工場数は、平成22年で128工場と、全国の1.9%である。製材用動力の出力(※3)階層別割合では、37.5~75.0kwの工場が28.9%、75.0~150.0kwが22.7%、300.0kw以上が21.1%である。75.0kw以上の工場割合は全体の57.9%と、全国(34.9%)を23.0ポイント上回っており、なかでも300.0kw以上は全国(6.9%)を14.2ポイント上回るなど、県内では大規模工場の割合が高い。
 次いで、1工場当たりの年間素材消費量では、本県は3.15千立方メートルで、全国(2.39千立方メートル)よりも0.76千立方メートル多い。しかしながら、出力階層別にみると、本県は75.0kw未満の小規模工場では全国を上回っているが、75.0kw以上で逆転し、特に、300.0kw以上(9.81千立方メートル)では全国(21.00千立方メートル)を11.19千立方メートル下回るなど、工場の規模が大きくなるにつれて稼働率の低下がみられる。このことから、県内では、大量供給体制の整備は進んだものの、品目別構成比に見られるように生産性の低い板類の生産が主力であったため、必ずしも量産やそれに伴う低コスト化による生産性の向上に結び付かなかったと言える。
(※3)製材に用いる動力

(2) 人工乾燥材生産体制整備の遅れ
 乾燥材は、含水率が低く狂いが生じにくいこと、生木よりも強度が高いことが特徴で、品質管理のしやすさから需要が伸びている。また、集成材の原材料(ラミナ)としても利用されており、外材の主力である欧州材のラミナが乾燥材で輸入されていることも、国産材の乾燥化を促している。
 県内の製材出荷量に占める人工乾燥材の割合は、平成22年で19.7%と、全国(27.0%)を大きく下回っている。県内では、乾燥材の生産体制整備が急務となっているが、乾燥設備導入は業者にとって資金負担が大きく、設備の充実は全国から後れを取っているのが現状である。

3 県内製材業活性化へ向けた取り組み

 県内製材業は厳しい状況が続いてきたが、平成22年以降、全国の住宅着工が緩やかな回復傾向にあるほか、東日本大震災の被災地で住宅復旧需要が高まっているため、持ち直しの動きがみられる。また、21年に農林水産省が公表した「森林・林業再生プラン」による国産材の利用促進など施策の支えもあり、国産材の需要は今後も拡大すると予想される。豊かな秋田スギを擁する本県は好機を迎え、県では、林業も含む木材関連業者を結集して、「木材総合加工産地・あきた」の確立を目指している。県内木材関連業界では、官民連携も含めて、課題克服に向けた様々な取り組みが行われている。

(1) 製材品の利用促進
 需要の掘り起こしを図るため、県による県産材の利用推進活動が、平成13年度から実施されている。
 これまで、公共建築物や一般住宅での利用促進、県内で開催された全国規模イベントでの県産材PRなどが行われてきた。21年度からは、財団法人秋田県木材加工推進機構が「木を学ぶ建築講座」を開設し、県産材を活用したデザイン性の高い木造住宅を設計・建築する技術者の養成に取り組んでいる。また、県内で新築またはリフォームに一定量の秋田スギ製品を使用した場合に最大40万円までの助成を行う「環境に貢献する『秋田スギの家』づくり普及促進事業」が昨年5月から11月まで実施され、短期間のうちに191戸の利用実績をもって予算額に達した。このほか、県外のホームビルダーに対しても、商談会や展示会を通じた売り込みを行い、市場開拓・拡大を図っている。

(2) 大型製材工場の設立
 秋田製材協同組合による秋田スギ大型製材工場が、4月に秋田市河辺の七曲臨空港工業団地に完成し、7月から本格操業を行う予定である。同工場の建設には、県から10億円を超える補助金が拠出される。取扱量については、年間原木消費量は県内最大となる14万8千立方メートル、年間生産量はラミナが40千立方メートル、一般製材が39千立方メートル、計79千立方メートルを計画しており、売上は年間30億円を見込んでいる。販売先は、全国大手商社など県外が中心で、2月現在の予約先は、組合員の既存取引先が6割、残り4割が新規開拓先である。
 なお、同工場の稼働に際しては、本県製材業の競争力向上に繋がることが期待されている一方、大口販売先の確保や原木の安定調達、県内の製材業者への影響など懸念の声も一部聞かれる。しかし、同工場は県内の集成材メーカーの集積を活用すべく、ラミナ生産を主力とすることから、秋田スギの更なる消費拡大が期待されている。加えて、同工場の稼働により、秋田スギが県内で加工されずに原木のまま県外に出荷されている現状を改善しようとする、大きな狙いもある。同組合では、「製材品の量産化により、県内製材業の生産性向上と林業の活発化を図る。木材業者や運送業者など組合員30社が一丸となり、市場拡大・開拓を進めたい」としている。

(3)乾燥設備の整備
 県では、本年度から、「農林漁業振興臨時対策基金事業」を設立し、秋田スギの利用拡大のための「乾燥設備の充実」支援にも取り組んでいる。基金の実施期間は3年間で、県林業木材産業課によると、これまで、3工場が乾燥設備の導入・増強を行い、5工場が乾燥技術に関する指導を受けた。残る2年間で基盤整備がさらに進み、本県の製材出荷量に占める人工乾燥材比率の上昇が見込まれる。

4 原木供給体制―林業の現状

 製材品の需要縮小やニーズの変化のほか、集成材のシェア拡大に伴い、安価で供給力が安定している外材の輸入量が増大し、木材・木製品製造業における国産材の利用は減少した。ただし、最近は、世界的な資源保護の動きや中国での利用拡大、ロシアの高関税化から輸入量が減少して、国産材回帰の動きが生じている。そうした中にあって、本県は豊富な秋田スギを擁しながら、伐採が十分に進まないなどの理由から、製材業で原木不足が生じている。

(1) 原木供給体制の問題
 原木の供給についてみると、国内の林業は、長期低迷が続く木材価格に対して伐採費用が高いという課題を抱えている。森林1所有者当たりの保有面積が小さいことや林内路網の未整備による作業効率の低さに加えて、高性能林業機械導入の遅れなどによる運搬費の増大が、伐採費用を押し上げている。特に、本県では、製材業の生産性の向上が進まなかったことから、丸太の価格を抑えることで、製材品の低価格競争に対処してきた。このため、県内の製材用のスギ丸太価格は、現在も全国を下回って推移しており、森林所有者は伐採に消極的となっている。
 秋田県「林業統計」によると、県内の民有林スギ人工林について、面積は平成21年度末で23万7千ha、蓄積(※4)は72,191千立方メートルと、ともに全国一を誇る。秋田スギの標準伐期が50年とされるなか、齢級(※5)別蓄積割合では、まもなく伐期を迎える9齢級(41~45年生)が16.6%で、最も高い。また、除伐や間伐の対象となる3~7齢級が面積の31%(7.4万ha)を占めているのに対して、21年度の間伐実行量は約1.3万haと、間伐は十分に行われていない。原木の安定供給や良質な秋田スギの育成、森林整備の面から間伐の実行量拡大が必要であるが、県内では、森林所有者の規模が小さく、人手不足やコスト高を理由に山林を放置せざるを得ないなど林業経営が弱体化しており、間伐が実施されていない森林の割合が高い。
 また、製材用の原木は、十分な長さが必要であり、腐れや虫穴がないことなど、厳しい条件が求められる。これらに対応する伐採の手間の軽減から、原木は合板用に供給される傾向が強まっており、これも製材業の原木不足に繋がっている。
(※4)立木の量を体積で表したもの
(※5)林齢を5年ごとに区分したもの

(2) 林業活発化に向けた取り組み
 現在、政府のプランの下、全国で林業の活性化が推進されており、本県でも路網整備や高性能林業機械導入の支援のほか、森林の集約化が進められている。林野庁では、平成21年度から、「森林整備加速化・林業再生事業」を実施し、間伐や路網整備などを行った業者を支援しており、本県では、補助を定額または費用の1/2以内として助成を行っている。
 昨年3月には、秋田森林管理署と仙北東森林組合、雄物川流域林業活性化センターが「民国連携協定」を締結した。この協定は、林野庁による取り組みで、民有林と国有林が連携して集約化施業団地を設定し、間伐と路網整備などを行って作業の低コスト化を図るものである。団地は仙北市に設立され、県内では初の事例となった。また、県議会では、今月、路網整備を促進する、全国初の「林内路網の整備の促進に関する条例」を制定した。
 森林の集約化と路網整備、高性能林業機械の導入により林業の採算性を向上させ、森林所有者へ収益を還元すると、担い手減少の抑制や原木の供給安定、植林の活発化に繋がる。

5 まとめ

 製材品は、価格と安定供給体制が重視されるなどニーズが変化したため、製材業では従来の銘木産地の優位性は薄れ、海外も含めた産地間競争が生じている。現在、県内製材業は需要の持ち直しから緩やかな回復傾向にあるものの、円高進行で外材の圧力が改めて高まっている。また、他県でも大型製材工場の設置や規模拡大が進んでおり、競争は激化するものと予想される。厳しい状況が続く中、行政など支援の力を借りながら、まずは乾燥材比率を高めてニーズに的確に対応する体制を整えることが急がれる。
 また、原木供給体制については、林業の再生には長い時間が必要で、目下、行政が主導して活性化を推し進めている段階にあるが、官民連携などにより林業経営の好転を図り、将来的には自立した経営が確立されることが、製材業の生産性と競争力の向上にも繋がる。
 県内における合板・集成材工場の集積は、他都道府県にはみられない強みである。さらに、本県が長い時間をかけて培ってきた秋田スギ人工林は、まもなく本格的な利用段階を迎える。「秋田スギ」は、言うまでもなく、一般消費者にも知名度が高く、抜群のブランド力がある。これら有形無形の資源を活用しながら、林業を含めた木材関連産業が一丸となり、県全体で、効率的な生産体制を整備して大口受注への対応や低コスト化を実現することが、外材からシェアを奪回し、製材業の復権に結び付くものと考えられる。

(相沢 陽子)

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