経営随想
なつかしい未来へ
(アキモク鉄工株式会社 代表取締役)
最近の秋田県の話題のひとつに全国トップの少子高齢化率が挙げられます。昨年末、秋田県が発表した【秋田県年齢別人口流動調査結果[速報]】による平成12年から平成23年までの人口の動態からも、少子高齢化が確実に進行している様子が見て取れます。
少子高齢化が経済に及ぼす影響として、生産年齢人口(15歳~64歳)の減少による経済成長の低下が懸念されます。その解決策として、男女雇用機会の均等化、高齢者の雇用機会の創出、諸外国に比べて劣っているとされる生産性の向上など様々な提言が各方面より出されています。
当社が立地する秋田県北部地域に於いてはその傾向が最も顕著であり、企業存続の基本である継続的な従業員の雇用、若年層の雇用の場創出が直面している課題となっています。
当社に於いてもそのような社会情勢を踏まえ、企業活動を継続させるために新たな企業展開を図ることが急務でした。そこで、当社の強みは何か今一度原点に帰り足元を見つめ直すため、書棚にあった社史『我々の秋木』を読み返し、当社及び地域産業のイノベーションのルーツをたどってみました。
当社の原点は明治40年、井坂直幹翁設立による秋田木材株式会社であります。秋田杉の需要増に対応すべく機械製材による効率的な供給を目指して製材機械工場を設立し、オリジナルの各種製材機械を開発・運用し、加工木材の全国販売を展開しました。明治41年には製材機械の電動化に向けて現在のJR能代駅北部に位置する井坂記念館付近に、木屑を燃料とする100kwの発電所を設立して電気事業を開始しました。その電気は工場及び能代市内867軒の一般家庭にも供給されました。
太平洋戦争時代には、製材機械の技術転用により海軍の戦闘機「ゼロ戦」や爆撃機「銀河」用の離着陸用脚を製造する海軍軍需工場も増設され、終戦時には二千名を超える従業員規模となっておりました。又、戦争末期の資材不足対策として木造飛行機や木造輸送船が開発されましたが、能代のモノづくり技術と秋田杉はこれにも深く関与しておりました。
軍の要請による飛行機用木製プロペラの製造については積層合板用の金型が能代工場にて開発され、栃木工場にて量産化に至るも木製機体の実用化が間に合わず、完成前に終戦を迎えました。
又、木造輸送船については秋田杉に着目した軍の要請により、昭和18年に松下幸之助氏が能代市内の米代川河口付近に松下造船(株)能代工場を設立しました。排水量250トンの木造船専用工場として間口55m・奥行き180メートル・高さ33mの大規模工場を2棟配置し、当時の松下電器のラジオ用キャビネットの流れ作業方式による1日2隻の建造を目標としました。全国より派遣された船大工や地元従業員が様々な苦労とともに木造船の建造を開始した様子が当時の秋田魁新報の記事として確認できます。
木造船建造技術のイノベーションは更なる展開として、空襲にて破壊された各都市の鉄道駅舎や住宅の応急建築物への挑戦でした。現在のプレハブ住宅を連想させる現地組立式の駅舎や簡易住宅を全国へ供給する事業は終戦まで続きました。その後も松下造船能代工場の人々のモノ作りへの熱意は変わることなく、戦後のエネルギー確保の要であった炭鉱地域からの要望を受け、石炭住宅“炭住”製造企業へと転身を遂げました。豊富に残っていた木造船用の秋田杉を主要材として北海道から九州まで“炭住”や一般住宅を全国へ出荷し、平和産業として戦後の日本復興へ大きな貢献をしました。この事実は地元紙“北羽新報”に特集記事として掲載されました。
創業から100年余りの年月が過ぎ、温故知新の精神で地元のイノベーションの歴史に学んだ時、軍需技術を美化することなく平和産業として活かすべき先人の願いが我々の遺伝子に宿っていることに気付かされました。“創造力を引き継いだ責任感”と“無限の可能性”を想い胸が熱くなりました。
昨年、秋田県は実効性のある産業政策として新エネルギー産業戦略を策定しました。秋田県内の再生可能エネルギーである風力・地熱・太陽光・水力が潜在能力として高いレベルであることが報告されており、その地域資源を活用する再生可能エネルギー産業の創出に向けた秋田県の積極的な取り組みが全国的に注目されております。
さて、当社が開発中の水路用小水力発電装置は、落差の少ない水路を流れる水の運動エネルギー、位置エネルギー、圧力エネルギーを効率良く電気エネルギーに変換する装置です。
当社は公共事業部門における橋梁、水門等の製作・据付工事を施工させて頂いている中で、水流との密接な係わりを持ち、豊富で安定した水の流れを環境に優しい再生可能エネルギーとして活用できないものかと考えておりました。
地球的規模でエネルギー問題がクローズアップされている今、県政に肩を押され、地域のイノベーションの歴史に学び、勇気づけられ、それを継続する責任を感じた時、秋田県は農業国であり、どこにでもありながら見落とされてきた農業用水路等における水流エネルギーの有効活用として、地域の農業や生活関連用の分散型電源の用途に向けた小水力発電システム構想が浮かび上がりました。
水力発電の技術はすでに確立されたと言われて久しいのですが、それは水のエネルギーを発電機の回転エネルギーに変換する方法論であり、最も肝心な回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機及び電圧制御の技術はまだ多くの改善の余地が残ったままでした。しかし最近の自動車業界におけるEV開発が駆動用モーターを急激に進化させ、その相乗効果として高効率発電機が開発され始めました。これらイノベーションによるエネルギー変換効率の改善が、低価格・高能率小水力発電装置の実現に貢献することになります。
これらの安定した発電を可能とするハード・ソフトの実現が今後のスマートグリッド社会の早期実現に向けて期待されておりますが、それを可能とする電子部品産業は秋田県で得意とする分野であります。無いものねだりから足元にある地域資源の活用に目を転じること。県内各地のイノベーションの歴史から学ぶ姿勢を持つこと。そこから新展開のヒントが見えて来ると確信しています。
再生可能エネルギーを共通のキーワードとし、県内各地の技術をベースとした農商工連携によって“地産地消の秋田”の実現が可能です。
当社はその一企業として「なつかしい未来へ」を開発テーマとし、いつでも、どこでも、だれでも発電可能な『ユビキタス発電装置』の開発に精進して参ります。
会 社 概 要
1 社 名 | アキモク鉄工株式会社 |
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2 代表者名 | 代表取締役 花下智之 |
3 本社所在地 | 〒016-0122 秋田県能代市扇田字柑子畑1番地29 |
4 電話番号 | 0185-58-3691 |
5 FAX番号 | 0185-58-3688 |
6 設立年月 | 昭和55年10月 |
7 資本金 | 3,000万円 |
8 年 商 | 9億円 |
9 従業員数 | 46名 |
10 事業内容 | 産業機械等の設計・製造、橋梁・水門・クレーンの設計・製造・据付 |
11 社 是 | 『天命に安んじて 人事を尽くす』 |
12 経営理念 | 『企業活動を通じて従業員及び地域社会の生活向上の実現に寄与する』 |
13 企業ビジョン | 『伝統の創造力 受け継いで未来へ』 |