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本県市町村財政の現状(その2)

 本稿では、前号に引き続いて、本県市町村の財政状態を各種指標などから分析を行った。2回にわたる結果からは、各市町村とも限られた財源のなかで、少子高齢化の加速に伴う義務的経費の増加等により、確かに厳しい財政運営を強いられているものの、職員数の削減や、地方債の圧縮など財政構造の改善に取り組んでいる姿がみてとれる。

承前

 前号では、平成22年度決算と18年度決算における財政規模や性質別歳出の状況をみることで、本県市町村財政の状況を概観した。財政規模は地方交付税の増加を主因に拡大しているが、扶助費の増加(200億円)が歳出全体の伸び(440億円)の45%を占めるなど、人件費や公債費の削減にもかかわらず、義務的経費が財政の圧迫要因になっていることなどがみえてきた。また、除雪費の負担が物件費削減の阻害要因となっている雪国特有の状況も認められている。
 本号では、より個別市町村の財政状況を分析しやすい各種指標をみたうえで、市町村の借金に当たる地方債や貯蓄に当たる基金がどのような状態にあるかの比較を行った。
※用語解説は、本稿の末尾にまとめて記載した。

1 主要財政指標

 <財政力指数([基準財政収入額/基準財政需要額]の3年平均)>は1に近い、または1を超えるほど財源に余裕があることになる。全体としては、秋田市を除く全市町村が0.5未満であり、余裕度は低い。おおむね規模の大きい市で指数が高く、町村で低い傾向にある。
 <経常一般財源比率(経常一般財源/標準財政規模)>は100を超えるほど歳入構造に弾力性があるといわれるが、18年度に23市町村で100以上だった比率が、22年度には全市町村が100を割り込んでいる。平均でも8ポイント低下しており、歳入構造の硬直化が進んでいる。
 一方、歳出から財政構造の弾力性をみる<経常収支比率(経常的経費充当一般財源/経常的一般財源)>は24市町村が改善(比率が低下)した。特に、町村の改善が目立ち8町村が二桁の改善となっている。一般的に都市で80%、町村で75%を超えると注意を要するとされるが、18年度には全市町村が80%を超え、90%以上も21市町村あった。しかし、22年度には、90%以上が秋田市と大館市のみとなったほか、井川町、八峰町、藤里町、八郎潟町、大潟村の5町村が80%を下回った。このように、着実に改善が進んでいるものの、依然として全市町村が注意を要する水準を超えており、歳出面でも硬直性は高い。また、町村の比率が比較的低いのは、主として生活保護費等を県が負担していることにより、経常経費に占める扶助費の割合が小さいことも一因とされており、前号で示した一人当たり扶助費の状況とも符合する。
 <実質収支比率(実質収支/標準財政規模)>は、市、町村、全県とも平均は18年度、22年度で全く同率となり、町村が市より約2ポイント高くなっている。経験的に3%~5%程度が望ましいとされ、平均値ではこの範囲に収まっているが、秋田市と三種町が、18年度にはなかった1%台となった。本比率に関しては、必ずしも高ければ良しとするものではなく、5%以上の余剰が続くと、計画していた費用を使用しなかったとして、その計画性が問われたり、余剰分を住民の負担軽減に充てるべきともされる。
 <義務的経費比率(義務的経費/歳出総額)>は、21市町村が改善(比率が低下)している。おしなべて、平成の合併を選択しなかった市町村の改善度合いが高く、これは当該市町村の財政規模が比較的小さいことから、人件費や公債費の圧縮効果がより顕著に現れた結果と思われる。
 <投資的経費比率(投資的経費/歳出総額)>は最も高いのが、村立体育館や交流センター等の大型施設の建設が続いた東成瀬村、最も低いのは八郎潟町で、一桁台は仙北市、三種町と3市町だけである。東成瀬村とともに30%を超えた井川町は、国の交付金を利用した中学校の改築等の影響もあり18年度の3倍近くになっている。
 <自主財源比率(自主財源/歳入総額)>は18年度の全県平均が29.0%で、いわゆる「3割自治」の状態だったが、22年度では、町村平均が2割程度まで低下するなど、自立化が後退している。
 <ラスパイレス指数(国家公務員の給料月額を100とした場合の地方公務員の給与水準)>が100を超えているのは秋田市のみで、他市町村は全て100未満と、国家公務員の給与水準を下回っている。秋田市に次ぐのが、大館市(98.5)、鹿角市(97.7)である。低いのが、五城目町(86.3)、井川町(87.6)である。ただし、千人当たり職員数、人口一人当たり人件費でみると、鹿角市はいずれも全市町村で最も少なく、秋田市、大館市も平均を下回っている。本指数は職員の年齢構成や学歴構成等が影響する指標であり、採用抑制等による職員数削減の効果が現れるまでにはタイムラグがあると思われる。ちなみに秋田市を除く全市町村が全国平均(市98.8、町村95.3)を下回っている。

2 健全化判断比率 

 地方公共団体財政健全化法に基づく健全化判断比率を、同法による最初の試算となった19年度と比較した。
 <実質公債費比率({[地方債の元利償還金等-元利償還金等にかかる交付税算入額]/[標準財政規模-元利償還金等にかかる交付税算入額]}の3年平均)>は、全市町村が財政破綻団体へのイエローカードとなる早期健全化基準(25.0%)を下回った。19年度と比較し、比率が上昇(悪化)したのは3市町(大仙市、にかほ市、羽後町)である。なお、起債に知事の許可が必要となる18%以上の起債許可団体は4市町で、19年度の9市町から半減している。最も比率が高かったのは、三種町の21.6%だが、19年度の23.5%、21年度の24.1%という早期健全化基準への危機水域からは改善がみられる。このほか、19年度に早期健全化基準まで余裕のない23.4%だった八郎潟町が、16.1%まで7.3ポイント改善させている。
 <将来負担比率(将来負担すべき実質的な負債/標準財政規模を基本とした額)>も全市町村が早期健全化基準(350.0%)を下回るとともに、比率を低下させ、100%を超えた団体も12市町と19年度(21市町)から大幅に減少した。各市町村が地方債の発行抑制に取り組んだほか、厳しい歳出見直し等によって捻出した財源で、繰り上げ償還を行ったことなどの結果と考えられる。

3 地方債と積立基金の状況

 市町村の借金に当たる<地方債>の残高は、全市町村合計で427億円減少(19市町村で減少)している。地方債の総額が、年間の歳入総額を超えているのは、18年度には23市町村だったが、12市町村に半減している。そのなかで、由利本荘市が減少させてはいるものの、18年度、22年度とも年間歳入の1.4倍~1.5倍の借金を抱えている。このため、同市では前号でも触れたように、地方債残高を減少させ将来負担の軽減を図るべく、市債の発行を償還額の範囲内に収めるとともに、繰り上げ償還を積極的に行っている。この取り組みの結果は、依然高水準ではあるものの、将来負担比率の低下として現れてきている。人口一人当たりでは、市が町村に比較して少なくなっている。
 貯蓄に当たる<積立基金>の残高は、18、22年度とも秋田市が最も多く、藤里町が最も少なかった。全体で366億円増加しているなかで、最も増やしたのが横手市(45億円増)だが、全体的に合併市町の増加が目立つ。これは合併特例債を利用した地域振興基金の積み増しが要因と思われる。人口一人当たりでは地方債と同様、市に比較して町村が大きい。

4 まとめ

 本県では、秋田市を除くと比較的財政規模の小さい市町村が多く、大型プロジェクト等によって財政構造に影響を受けやすいという特徴がある。また、一時的に公債費は増えるが、繰り上げ償還を積極的に行うとともに起債を抑制することで、実質公債費比率や将来負担比率を改善しようとしている由利本荘市の例などもあり、一時点での指数のみをとらえて評価することは適切でないかもしれない。
 しかし、そういった点を考慮してもなお、主要財政指標や性質別歳出の特徴からみる本県市町村の財政は硬直化し、余裕度の少ない状況の続いていることが、改めて浮き彫りになった。
 一言で本県市町村財政の状況を表すと、「財源に余裕がなく、歳入面では『3割自治』にも届かない状態にあるほか、歳出面でも依然高い硬直性を余儀なくされている」ということになる。
 こうした状況を改善すべく、各市町村とも、職員数や人件費の削減など痛みを伴った財政改革に取り組んでいるほか、地方債残高の圧縮を進めるなどの努力を重ねており、こうした成果が、各種指標や健全化判断比率の改善として現れてきている。
 一方で、一定の行政サービスを確保するうえでは職員数や人件費の縮減には限界があり、また、最低限の公共投資の確保も不可欠である。さらに、少子高齢化の加速するなかでは義務的経費の増加も避けられない状況にある。現下の経済情勢では歳入増には期待できず、しばらくは、行政サービス維持とのバランスをとりながら、公共施設の統廃合や、一部民間委託などの施策を更に進めていく必要があり、施策に優先順位をつけたメリハリの利いた財政運営という、困難な舵取りが求められている。今後は、コンパクトシティの発想や、近隣市町村において「定住自立圏」を形成するなどの広域連携によって、医療や文化などの機能を維持することも選択肢となろう。

―用語解説―

<財政力指数> 標準的な行政活動を維持するために必要な一般財源(基準財政需要額)に対して、標準的な状態で収入となる税収等(基準財政収入額)がどれだけあるかという指標。基準財政収入額を基準財政需要額で除した数値の3か年平均。指数が「1」に近く、あるいは「1」を超えるほど財源に余裕がある。なお、「1」を超えると普通交付税の不交付団体となる。
<経常一般財源比率> 標準財政規模に対する地方税など毎年入る経常一般財源の割合で、「100」を超えるほど、経常一般財源に余裕があり、歳入構造に弾力性がある。
<標準財政規模> それぞれの市町村が合理的かつ妥当な水準で行政を行うための標準的な一般財源の規模を示したもの。標準的な状態で通常収入されるであろう経常的一般財源の規模。
<経常収支比率> 財政構造の弾力性を測定する比率として使われる。人件費、扶助費など毎年支出される経常的経費に、地方税など毎年経常的に収入される経常的一般財源がどの程度充当されているかを示す。一般的には市では75%、町村で70%程度が妥当とされ、それぞれ80%、75%を超えると注意を要するとされる。
<実質収支比率> 実質収支(歳入決算額-歳出決算額-翌年度に繰り越すべき財源)の額の適否を判断する指標。標準財政規模に対する実質収支額の割合で、経験的に3%~5%程度が望ましいといわれる。
<義務的経費比率> 法令や、その性質により支出が義務付けられている人件費、扶助費、公債費の歳出総額に占める割合。高いほど財政構造が硬直化することになる。
<投資的経費比率> 普通建設事業費、災害復旧事業費、失業対策事業費の歳出総額に占める割合。高いほど施設整備等の資本形成が充実していることになる。
<自主財源比率> 歳入総額に対する自主財源(地方税、国県分担金・負担金等)の割合。高いほど行政活動の自主性と安定性が確保される。
<ラスパイレス指数> 国家公務員の職員構成を基準として職種ごとに、学歴別、年齢別に平均給料月額を比較し、国家公務員給与を100とした場合の地方公務員の給与水準を指数で示す。
<実質公債費比率> 負債の元本返済額と支払金利の合計を、標準財政規模と比較し、返済負担の割合を判断する。国保障の返済財源を計算から除くため、実際の負担度が判断できる。本比率は3か年の平均で算定されるため、改善には長期的な歳出削減が求められる。都道府県、市町村とも早期健全化基準25%、財政再生基準35%。市町村では18%を超えると、地方債の発行が協議制から県知事の許可制に移行する。
<将来負担比率> 自治体および自治体が返済に関与する第三セクターなどの負債が、標準財政規模の何年分に相当するかをみる。例えば、将来負担比率200%の自治体は、標準財政規模2年分の債務を負っていることになる。早期健全化基準は都道府県400%、市町村350%。本指標には財政再生基準は設けられていない。
<定住自立圏> 人口4万人超の中心市と、経済や文化面などで関係が深い周辺市町村で構成し、医療など生活機能を強化することで定住人口の増加をめざす。平成21年度にスタートし、本県では、由利本荘市、大館市、湯沢市・羽後町・東成瀬村、横手市の4圏域で作られている。

(佐々木 正)

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