機関誌「あきた経済」
欧州債務危機と日本経済
欧州債務危機は、ギリシャの財政問題に端を発する債務危機が、ギリシャから南欧、ユーロ圏、そして欧州へと広域に連鎖拡大した経済危機であるが、危機が伝えられてから2年が経過する。本年3月の第2次ギリシャ支援決定により現在は小康状態にある。しかし、根本的な対応策は先送りされたままであり、危機の終息は見えず、世界経済や金融システムに重大な影響が及ぶ心配は消えていない。日銀の白川総裁も「欧州債務問題については、テイル・リスク(国際金融資本市場ひいては世界経済に甚大な影響を及ぼすリスク)が低下したとは言え、緊縮財政の影響を含め、今後どのように展開していくかは、引き続き大きなリスク要因であると考えられる。」と4月10日の記者会見で述べている。
欧州債務問題の原因やこれまでの経緯と、「第二のリーマン・ショック」を警戒する声も強い中、リーマン・ショックが日本および秋田県経済にもたらした影響をとりまとめた。
1 はじめに
(1) ユーロ誕生まで
a 欧州債務危機問題の発生した原因については、欧州連合(EU)から通貨ユーロの創設に遡る。EUと通貨ユーロが誕生するまでの年表は次のとおりである。
1950年 「欧州石炭鉄鋼共同体」設立
1958年 「欧州経済共同体」設立
1961年 「ベルリンの壁」建設
1968年 「関税同盟」完成―域内関税撤廃
1979年 欧州通貨制度(EMS)スタート
1989年 「ベルリンの壁」崩壊
1990年 「東西ドイツ」統一
1993年 非関税障壁の撤廃
1993年 マーストリヒト条約(欧州連合条約)―欧州連合(EU)創設―「ユーロ導入」決定
1999年 通貨統合(マネタリー・ユニオン)―ユーロが電子的決済通貨に
2003年 ユーロ紙幣・貨幣の導入
b EUおよびユーロの創設目的
二度の世界大戦の惨禍と米ソによる欧州分割という塗炭の苦しみを味わった反省に立ち、二度とヨーロッパ大陸を戦場にしないという“不戦の誓い”の下、“欧州合衆国”構想が提唱され、ドイツとフランスが軸となって欧州の共同体づくりが進められた。1950年に設立された石炭・鉄鋼の生産量の割当てを決める「欧州石炭鉄鋼共同体」がEUの前身で、その後1958年には経済統合を実現する「欧州経済共同体」が設立され、関税同盟に基づく関税と非関税障壁撤廃によって、域内統一市場が実現した。
続いて、通貨統合―共通通貨の導入が域内統合の最終的なゴールとして位置づけられた。
1993年にマーストリヒト条約(欧州連合条約)が締結され、EUとユーロ導入が決定された。
c 統一通貨「ユーロ」の誕生
1979年にEU加盟国による地域的半固定為替相場制である「欧州通貨制度」の創設を経て、為替変動リスクを完全に除去し、域内の貿易コストをさらに引き下げることができるというメリットがある「共通通貨」への統合の検討が進められた。
共通通貨「ユーロ」誕生を後押しした大きな要因が、1989年の「ベルリンの壁の崩壊」による翌1990年の「東西ドイツの統一」である。東西ドイツの統合は、ドイツ人にとっては悲願であったが、他の欧州諸国にとっては強大なドイツの復活につながるのではないかという警戒心を強めることとなった。このため、ドイツが他の国の警戒心を解くため、自国通貨マルクを捨ててユーロ導入を選択したと言われている。「ユーロ導入は東西ドイツ統一の対価」といわれる所以である。
d ユーロ加盟国(EU加盟27か国中)
1999年にドイツ、フランスなど11か国で導入された後、次のとおり加盟国が増え、現在17か国が加盟、ユーロを導入している。
1999年ドイツ・フランス・オランダ・イタリア・オーストリア・ベルギー・フィンランド・アイルランド・ルクセンブルク・ポルトガル・スペイン
2001年 ギリシャ
2007年 スロベニア
2008年 キプロス・マルタ
2009年 スロバキア
2011年 エストニア
2 ユーロの抱える問題点
(1) ユーロ加盟条件(マーストリヒト基準)
ユーロ加盟に当たっての基準(マーストリヒト基準)、4基準が次のとおり設けられている。
[ユーロ加盟基準(マーストリヒト基準)]
○政府の財務状態:単年度の政府の赤字がGDPの3%以内、かつ債務残高が対GDP比で60%以内
○為替相場の安定性
○物価の安定性(インフレ率)1番低い3か国プラス1.5%以内
○長期金利の水準・安定性1番低い3か国プラス2%以下
このように、非常に高いハードル、特に「政府の財務状態」で厳しい基準が設けられている。
この加盟基準を厳格に適用すると、加盟が可能だったのは、ドイツ、フランス、オランダ、ルクセンブルクくらいで、ギリシャをはじめ他の国は本来参加できなかったと言われている。
なお、単年度の政府の赤字がGDPの3%以内に抑えるという基準は「財政安定・成長協定」として現在も適用されているが、ドイツやフランスでさえ守れない年があり、違反しても制裁が発動されず形骸化していた。
このため、本年3月に財政赤字の削減を義務づける、「財政安定・成長協定」より厳しい内容の「EU新財政協定」締結(発効は来年1月予定)で合意した。
(2) ユーロ圏国家の政策権限
(一般の)国の政策権限とユーロ圏の国家の政策権限との違いは次のとおりである。
[国の政策権限]
一般の国家:金利政策、為替政策、関税政策、財政政策、福祉政策
ユーロ圏国家:財政政策、福祉政策
すなわち、EUとユーロ圏に加盟することによって、①「金利政策」は欧州中央銀行(ECB)に委ねられ、②「為替政策」は各国で決定できなくなり、③「関税政策」はEUに委ねられることとなり、残る権限は「財政政策」と「福祉政策」のみとなってしまったのである。
共通通貨の導入は、“為替調整機能”と“金融(利)政策”の放棄を意味することとなり、このことが、欧州財務危機問題の背景となる「ユーロという共通通貨が抱えている構造的矛盾」を産み出しているのである。
(3) ユーロの抱えている構造的矛盾
①通貨・金融体制と財政の矛盾
通貨が1つになると、国ごとの発展性の格差を為替・金融政策で調整(金利を下げたり、為替を安く誘導すること)できないため、財政でカバーするしかないが、財政が各国ごとにバラバラであるため、調整には限界がある。例えば、日本では財政に余裕がある東京都から地方へと中央政府を通じて財政資金を移転させる制度があるが、その制度がないユーロ圏では、生産性の低い国の経済は常に悪いままとなる。
②経済パフォーマンスと金融政策の矛盾
国ごとに経済パフォーマンス(成長率)に差が生じた場合、金融(利)政策が域内で1つしかないため、望ましい水準の金利より高い国と低い国が生じる。望ましい水準より高い国は発展の可能性が抑制されることとなり、低い国ではバブルが発生しやすくなる。
③財政赤字と公的資金投入の矛盾
(ユーロ圏に限ったことではないが)財政赤字の懸念から格下げとなった国債を保有する金融機関は、資本の増強が必要となるが、自力増強できない場合は公的資金を導入せざるを得ない。しかし、そもそもの問題の発端が財政赤字に対する懸念であり、公的資金投入で財政赤字をさらに増やすことに矛盾が生じることとなる。
ユーロの理念は「再び欧州内で戦争を起こさないため“1つの国”になってしまう」ということであり、最終的にはこの矛盾を解消するためにも“財政統合”に向かうのが自然である。
域内に格差が生じ、また加盟国が増えれば増えるほど当然格差が広がることとなり、構造的矛盾を抱えたままの体制がユーロ危機の本質といえる。
3 債務危機問題の発生
(1) ギリシャの財政金融危機問題の発生
a 財政危機の判明と第1次支援
2009年10月に新首相に就任したパパンドレウ首相が、2010年に政府の財政赤字の隠蔽を公表し、財政赤字の対GDP比が、それまでは3%台と公表していたが、実は12%台(さらに後に13.6%であることが判明)であり、3,700億ユーロの巨額公的債務を抱えたギリシャ財政は危機的状況にあることが表面化した(公的債務残高の対GDP比は113%)。
国債の格付が相次いで引き下げられ、債務不履行の不安から国債が暴落したため、2010年4月にEUに支援を要請した。翌5月のユーロ圏財務相会合で向後3年間で総額1,100億ユーロ(約12兆円)の支援を実施することで合意した。
b 第2次支援
しかし、2010年の経済成長率もマイナス4.5%となり、さらなる財政悪化によって第2次支援が必要となった。
2011年7月に国債元本の一部割引と、EUと国際通貨基金(IMF)による公的支援1,090億ユーロを含む総額1,300億ユーロ(約14兆円)の第2次支援について暫定合意した。
しかし、各国議会の理解が得られず、ギリシャ政府の追加再建策等を受けて、暫定合意から7か月経った2012年2月にようやく正式合意となった(このほか民間投資家の元本削減―53.5%―同意等による1,970億ユーロの削減も実施)。
暫定合意から正式合意まで7か月を要した原因としては、当事者の多さに加えて、とことん議論を突き詰めたがる「欧州人の流儀」が拍車をかけたといわれる。
即断即決を求める市場と、17か国の民主主義の手続きを踏まなければならないユーロ圏の政策決定との時間・スピードの落差が大きすぎ、また、対症療法的“小出しの対策”の繰り返しが、市場の不安・不信を再燃させ、今回の債務危機の長期化、深刻化を招いている。
c ギリシャの財政赤字の原因
ギリシャが以前より抱えていた問題が、上記の構造的矛盾の中で、浮き彫りになり、拡大を続けた。
① 光以外の産業基盤がなく、輸出するものがほとんどないこと。
②年金受給開始年齢が早く(50歳代後半)、年金給付水準も現役時代と大差がない、身の丈に合わない年金制度となっていること。
③脱税を罰する法律がないため、“脱税文化”があるといわれるように、徴税能力が低いこと。
④公務員の人数が多く、給与も民間の2倍前後高く、休暇・勤務時間等も高待遇であること。
政権交代がある度に、支持者の公務員への採用や、公務員手当や年金給付の拡大等、大盤振る舞いを競った結果、赤字拡大に拍車がかかったとされている。公務員の正確な人数把握もされておらず、昨年7月に初めて調査が行われた。
なお、公務員を含む公共部門で働く人口は総人口(約1,100万人)の約10%、労働人口の25~30%ともいわれる。
⑤ユーロ加盟でドイツ並の低金利で借入ができるようになり、物価も上昇したが、消費が増大し、ドイツなどからの輸入が増えて貿易赤字が拡大した。
(2) 他のユーロ圏国への波及
ギリシャの財政危機の露呈により、他のユーロ圏国家の財政状態にも厳格なチェックが行われ、巨額の財政赤字を抱える国に対する不安が高まり、国債利回りが上昇(価格は下落)し、一部の国では資金繰り難に陥り、2010年11月にはアイルランドに対する支援(総額850億ユーロ)、2011年5月にはポルトガルに対する支援(最大780億ユーロ)が決定している。
このほか、公的債務残高が日本、アメリカに次いで巨額のイタリアや、国債残高が多くGDP対比の財政赤字も高いスペインに対しても信用不安が飛び火し、国債利回りが高止まりしている状況が続いている。
(3) 債務危機に対する主な金融支援の仕組み
a 欧州金融安定化ファシリティー(EFSF)
2010年6月に設立されたもので、最大支援額は4,400億ユーロ(約50兆円)で、すでにギリシャ等3か国に対する支援が決まっている2,000億ユーロを除くと、新たに使えるのは2,400億ユーロ(約27兆円)となっている。2013年6月までの期限付き措置として、次の欧州安定化メカニズムに移行することとなっていた。
b 欧州安定化メカニズム(ESM)
EFSFの恒久化を目指し、当初2013年7月に設立予定であったが、前倒しで本年7月に導入、設立される。貸出限度額は5,000億ユーロ(約56兆円)。
したがって、来年半ばまではEFSFとESMの2本立てで支援枠は9,400億ユーロ(約104兆円)となるが、前記のとおりすでに支援が決まっている分を除くと7,400億ユーロ(約82兆円)であり、しかも来年半ば以降はESMの5,000億ユーロに縮小されることとなる。なお、ESMも2014年まで段階的に資本金=融資枠を増加することとなっており、直ちに5,000億ユーロの融資可能とはならない。
c 欧州中央銀行(ECB)
危機に直面するギリシャ等の国債を多く保有する欧州の銀行に対する経営不安が広がったことから、欧州中央銀行は昨年12月と今年2月に合わせて1兆ユーロを超える長期資金(期間3年、金利1%)の供給を実施した。これによって、国債の利回り低下に大きく寄与し、危機の波及が懸念されたスペイン、イタリア国債の償還が乗り切れることとなったものである。
ただし、これも「対処療法」、「時間稼ぎ」に過ぎず、供給された資金によるインフレ進行の圧力につながる「副作用」も懸念される。
d 国際通貨基金(IMF)
(a) 国際通貨基金は、加盟国からの出資等を財源として、財政・金融危機に陥った国に一時的に外貨貸付という形で支援を行い、金融システムや世界経済の安定を維持することを役割とする。現在(2012年4月)の加盟国は188か国。
(b) 現在の融資能力は3,830億ドル(約31兆円)であるが、スペインやイタリアなど南欧諸国の一部が危機に陥った場合、現在の融資能力では対応できないことから、債務危機の封じ込めに向けて、この資金増強が焦点となっていた。
本年4月の20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でIMFの資金基盤を4,300億ドル(約35兆円)超増強することで合意した。
ただし、昨年11月のG20首脳会談(サミット)での基本合意を受けて当初5,000億ドルの増強を目指していたが、アメリカが「ユーロ問題は独仏でまず解決すべきだ」などとして議会の承認が得られず資金拠出を拒否したため、5か月余りをかけて後、ようやく減額合意となったものである。
4 日本経済への影響
(1) 欧州の債務危機の影響が日本に及ぶルートとしては、次の3つがあげられている。
①欧州の銀行の経営不安から、欧州だけでなく、世界の金融システムが危機に陥る。
②金融システムの機能低下で世界の実体経済の減速を引き起こす。
③債務危機の連想が、(公的債務残高の対GDP比が世界で一番高い)日本の国債にまで飛び火する。
(2) 現に欧州で繰り返し、懸念が惹起されている負のドミノ倒しの連想は、[ギリシャの破綻]⇒[ギリシャと同様に既に支援を受けているアイルランド、ポルトガルが破綻]⇒[財政赤字が大きいイタリア、スペインが危ない]⇒[南欧諸国に対する債権残高が大きいフランス、さらにはドイツの金融機関までが危ない]⇒[金融機関の貸し渋りによって世界の景気が一気に冷え込む]という、“リーマン・ショックの再来”の連想である。
(3) リーマン・ショックの日本および秋田県経済への影響
a 2008年9月に、アメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズが負債総額64兆円を抱え倒産、世界的金融危機と世界同時不況をもたらした。
b 当初、当時の与謝野財務大臣は「日本は蚊にさされた程度」と言っていたが、次のとおり震源地である米国をも超えて、日本が最大の被害者となる結果となった。
(a) 実質経済成長率増減(年度―米は暦年、%)
2007:日本1.9、秋田県1.1、(米国)1.9
2008:日本△4.1、秋田県△4.5、(米国)△0.3
2009:日本△2.4、秋田県△0.1、(米国)△3.4
特に、日本の2008年10~12月期のGDPは前期比マイナス3.3%、年率換算でマイナス12.7%となり、第一次石油危機(1973年)に次ぐ約35年ぶりの下落幅を記録した。
(b) 輸出増減率(対前年比、%)
2007:日本11.5、秋田県13.2
2008:日本△3.5、秋田県△23.8
2009:日本△33.2、秋田県△44.4
日本の2009年の輸出額は2007年の64.5%の水準となり、金額でも2年で30兆円近い減額(83.9兆円→54.2兆円)となった。
秋田県においても、一般機械、輸送用機器、亜鉛及び同合金の減少により、約300億円の輸出減(511億円→216.6億円)を余儀なくされた。
(c) 為替相場
2007年9月15日に1ドル104.8円であった円相場は、ドル不信から一気にドル売りが進行し、同年12月17日には1ドル87.1円となり、わずか3か月で17%の円高を記録し、輸出企業はさらにダメージを受けることとなった。
(4) 世界の主要・地域間の輸出入シェア
a 世界の主要・地域(日本・中国・韓国・米国・EU)相互間の2010年の輸出入シェアと日本の地域別貿易状況をみてみると、世界の主要・地域は貿易において相互依存度を高めていることが分かる。EUは、各国にとって10%以上のシェアを占める重要な輸出相手国であり、特に中国にとっては最大の輸出先となっている。
したがって、EU経済が減速することは各国にとって輸出が即減少することとなる。日本においても、EUへの直接の輸出にとどまらず、中国のEUへの輸出が減ることによって日本から中国の現地工場向けの部品や材料の輸出にも大きな影響が出ることとなる。
b 昨年1年間の日本の輸出は、前年比マイナス2.7%で、対中国がマイナス1.4%、対EUはプラス0.1%であったが、昨年10月以降は対EU、中国ともマイナスに転じ、この3月まで6か月連続でマイナスとなっている。(本年3月の速報値では対EUがマイナス9.7%、対中国がマイナス5.9%)
c 中国の対EU向けの輸出の前年同期比増減率の推移は次のとおりである。
2010年 7~9月期 33.5% 10~12月期 23.7%
2011年 1~3月期 17.1% 4~6月期 16.6% 7~9月期 16.1% 10~12月期 6.5%
2012年 1~3月期 △1.8%
昨年後半過ぎから明らかに失速していることが表れている(本年3月単月ではマイナス3.1%とマイナス幅が拡大)。
5 最後に
(1) ①ギリシャの昨年の財政赤字の対GDP比は、当初目標の7.9%を大幅に上回る9.4%に達した、②スペインの失業率は23%で、スペインとギリシャでは若者(25歳未満)の失業率が5割を超えている、③ユーロ圏17か国の2011年末の公的債務残高の対GDP比は前年より1.9ポイント高い87.2%に達した、④ユーロ圏全体の2011年の財政赤字はGDP比で4.1%で、そのうち半数を超える11か国がEUで定められている財政規律の3%を上回った、等々、公表される計数は状況の悪化を示すものばかりで、危機再燃の恐れがくすぶり続けている。
(2) また、本号が発行される直前に実施されたフランスの大統領選とギリシャの総選挙の結果如何では、これまで独仏が中心となって積み上げてきた危機再発・連鎖防止の枠組みが、後退、崩壊することも予想される。さらには、各国の相次ぐ緊縮財政が景気後退を呼ぶ蓋然性は高く、成長戦略の策定・推進もあわせて必要である。
(3) 「各国がそれぞれ国債を発行し償還に追われる」現状から脱するためには、やはり最終的には、“財政統合”、“ユーロ共同債の発行”に踏み込まざるを得ないであろう。
(4)「ユーロの理念」に立ち返り、ドイツが指導的役割を果たさない限り、危機の連鎖は止まらないと言われるが、EU全体でみると、公的債務残高は対GDP比で87.2%であり、ドイツなど経済が強い中核国が支えればユーロ圏内で対応は十分可能である。
(5) ひるがえって、先進国で最悪の公的債務残高(2011年末:対GDP比211.7%、OECD調べ)を抱える日本にとって、欧州債務危機は「対岸の火事」では済まない。財政に対する信認がいったん失墜すると、欧州と同様の危機に陥る恐れがある。危機の連鎖が、実体経済のみならず、日本国債に飛び火しないよう財政再建の道筋を示し、市場の信認を得ていく必要があるのは論を俟たない。
(松渕 秀和)