機関誌「あきた経済」
県内花き卸売市場の現状と課題
花き卸売市場の堅調な推移が続いている。平成23年における秋田市中央卸売市場(花き部)の取扱金額は約22億円で、東日本大震災の影響により落ち込んだものの、平成22年までは概ね横ばい圏内で推移してきた。青果や水産卸が取扱金額を大幅に減少させていることを考えれば、堅調と言えよう。背景には、商品需要が底堅いことに加え、卸売事業者の先を見越した取組み、市場外流通の少ない業界構造等がある。
一方で、人口減少に伴う需要の先細りに加えて、取扱商品の利用範囲が限定的という業界固有の問題も抱えている。本稿では、県内花き卸売市場の現状と課題をまとめた。
1 はじめに
花きの商品としての特徴をみると、野菜や果物など他の農産物と異なる要素が多い。第一に嗜好品的性格が強く、その用途も冠婚葬祭や贈答など特殊なものが多い。そのため、「モノ日」と呼ばれる特定の日に需要が集中する。さらに、開花時期がある商品であるため、消費者に品物を見せる段階で最も良い状態となるように、生産から物流、販売の段階で、時期や温度等を調整する必要がある。
また、その生育状況が気象条件等に大きく左右される。例えば、今年のカーネーションは、全国的に春先まで低温が続いていたことから開花が遅く、母の日までに十分な数が育たなかった。このような状況になると、大手量販店等は外国産(カーネーションは南米コロンビア産が多い)を中心に先に品物を抑えてしまい、地方の卸売市場には限定的な数量しか出回らなくなる。そのため、茎が細いあるいは花が小振りなどといった例年に比べれば、品質のやや劣るモノがやむなく高値で取引される状況となった。商品として花きを見た場合、これらのような特性がある。
2 花き卸売市場の現状
(1)取扱金額
a 取扱高の推移
秋田県内にある花き卸売市場は、秋田市中央卸売市場1か所である。平成23年における同市場(花き部)の取扱金額は21億85百万円、取扱数量は33.6百万本・鉢等であり、例年に比べれば震災の影響で若干の落ち込みとなった。ただし、平成4年の花き市場開設以降の推移をみても、人口減少や競争激化などの厳しい経済情勢のなかにあって、比較的堅調な販売を維持している。
同期間に青果や水産卸が取扱高を大幅に減少させざるを得なかった状況を考えると、花きは堅調が際立つと言える。背景には後述のとおり、商品需要の底堅さに加えて、卸売市場側の取り組み努力などがある。
b 年間の動き
平成22年の取扱金額を月別でみると(23年は震災により、入荷状況が例年と異なる)、前述のとおり、花きには「モノ日」と言われる需要が急伸する日があり、主に3月の卒業・転勤シーズンと春彼岸、8月のお盆、9月の秋彼岸、12月の正月需要に合わせて、取扱金額が大幅に伸びる。
取扱金額を産地別にみると、県内産は7月から10月に多くなっており、特に8月の盆シーズンに集中している。これは本県の気候条件等によるものであるが、出荷側でも盆または秋彼岸に合わせて生産と出荷を調整している。また、この時期は日中の温度が高いものの、夜温は低くなるので(温度が低いことで高品質を保てる)、全国的な流通・販売を考えても、夏・秋需要向けに花きの栽培を行うには非常に適している。なお、産地として秋田市中央卸売市場(花き部)での年間取扱金額の大きい都道府県は、秋田(508百万円)、愛知(360百万円)、沖縄(243百万円)が上位となっており、愛知や沖縄からは本県産の花きが少ない12月から5月にかけて、キクを中心に流入している。
c 取扱品目の構成
花きの種類別の取扱金額をみると、全体の86%を切花が占めており、枝物と鉢物を合わせると、市場の取扱高の97%に達する。花きのなかで用途や価格、輸送などの面で最も用いやすい切花が流通の大部分を占めている。このほか、鉢物については約10年前の平成12年の取扱高は235百万円(9.5%)と、現在のほぼ2倍のウエイトを占めていたが、その後の経済情勢の悪化とともに、洋ラン、シクラメンなどの贈答用品等にかける企業の経費、個人の支出などが抑制されたことから、取扱高が大きく落ち込む結果となった。
この切花を品目別にみると、白一輪キクや小キクなどのキクが942百万円と、切花の取扱高の半分を占めている。また、カーネーションやユリ、バラなどの取扱いも上位となっている。花きはそれぞれの用途に応じて、需要が集中する日が変わり、例えば、バラは転勤・卒業シーズンである3月に需要が集中、ユリはさまざまな用途に合わせやすい花であることから年間を通じて安定した需要があるなど、品目ごとにも特徴がある。
(2)堅調さの背景
a 需要の底堅さ
上述のとおり、花き卸売市場の取扱高は堅調に推移しているが、その背景には、流通の大部分を占めているキクの販売が非常に安定していることがある。キクは葬祭や墓参等の献花需要などから、常に一定の引き合いがあるうえ、値崩れもしにくく、小売店側でも取扱いやすい。葬祭需要は、高齢化している本県人口の年齢構造が大きく影響していると考えられ、墓参に関しても価格面で手頃なことからやはりキクが多用される。
バラやカーネーションの需要も市場開設以来、ほぼ安定している。例えば、秋田ではあまり馴染みが無いが、首都圏では葬祭の献花にバラを用いるケースもある。花きの用途はその土地の風習や時代の流行などによって異なってくるが、将来的に、バラの用途が広まれば、引き合いもさらに多くなると思われる。
このほか、トルコキキョウやりんどうは用途が非常に広く、ブライダルや贈答用、葬祭などに幅広く用いられているうえ、秋田県でもトルコキキョウの品種改良、りんどうの生産増強に力を入れており、県内の卸売市場でもこれら花きの取扱いが多くなっている。
b 量販店需要への対応
消費者への販売の比重が、従来型の小売専門店から量販店(全体の約4割を占めているとみられる)へ移ってきたことにも、市場側は積極的に対応している。例えば、市場内にある仲卸業者では、以前より全館冷温の加工場を建設し、スーパーなどの量販店需要に応じられる体制を構築している。現在では量販店需要は市場に欠かせないものとなっているが、平成10年頃までは量販店需要は大きく育っておらず、仲卸業者の先を見越した取組みが市場の取扱高を支えたと言える。
また、量販店向けの出荷を増やすため、店頭に陳列しやすいように、一定の長さに切り揃えるなどの処理を行い、さらに花にキズがつかないよう配慮しながら出荷するなど、様々な工夫を加えている(例えば、しおれた花や葉が無いか、鳥害・虫食い等が無いか等々)。
c 市場外流通の少なさ
農林水産省食料産業局の調べによると、平成20年の花きの卸売市場経由率(全国)は約84%となっており、青果や水産の市場経由率が大幅に落ち込み、58~63%で推移していることに比べて、花きは市場経由の流通を維持できている。この要因は様々であるが、花きは青果や水産と異なり、販売額のウエイトが小さいため、量販店側でも市場外での取引を積極的に行っていないことが背景にある。加えて、鮮度の高い花を手頃な価格で安定的に欲しいという量販店の要望に、卸売市場側が積極的に応えていることも市場外に取引が移らない一因となっている。さらに、大手スーパー等で販売される花きは品目がかなり限定的であり、そうした条件で量販店側と直接契約できる生産者は限られていることも影響している。このようなことから、市場外流通が少ない状況となっており、卸売市場での取扱金額の安定につながっている。
d 集荷形態のメリット
集荷形態による恩恵もある。市場の集荷形態には主に2つタイプがあるが、一つは生産者・出荷者から物品の販売委託を受けて行う委託集荷と言われる方法であり、もう一つは卸売業者自身が品揃えの必要性などから他の市場等より商品を買い付けて行う買付集荷と言われる方法である。
買付集荷は単価下落などのリスク要因があるほか、量販店などの小売業者からの注文に従って卸売業者が仕入れることから利幅の薄い価格とならざるを得ない。このようなことから、基本的には、販売委託を受ける方が確実に収益に結び付く。
花きの取扱金額を集荷方法別にみると、基本的に委託集荷が多い状況が続いている。平成23年における委託集荷の割合は81.3%となっており、青果(58.9%)や水産(31.0%)と比較すると、格段に高い。この委託集荷の多さが、潤沢な委託手数料収入につながり、卸売業者の経営を強く支えている。
3 今後の課題
(1)販路の維持・拡大
a 量販店等への販売拡大
現状、県全体の需要は比較的安定しているものの、すう勢的な人口の減少から将来的な需要の先細り減少が避けられず、まず、販路の拡大が課題である。このため、量販店取引等のさらなる開拓、拡大のほか、新たな販売チャネルとの取引を進める必要がある。また、他県の同業者あるいはほかの流通ルートとの競合の中で取引を維持・拡大するためには、種類や品質、価格面で消費者ニーズを反映した商品を供給することが欠かせず、市場側ではそうした面での動向把握と対応に努めている。
b 市場外流通の進展への対応
市場外流通の拡大が、青果や水産卸等の取扱高減少の一因となった例があることから、花きにとっても、市場外流通の動向は大きな関心事となる。卸売市場側では、小売サイドの需要にきめ細かく応えることで、市場外流通が拡大せずこれまでどおりの取扱いが維持されるように努めているほか、小売店を通して消費者が花きを購入してもらえるように工夫している。 市場外流通に関しては、生産者と小売店、消費者がコストと時間、作業量等のバランスを見ながら、どの流通経路を選択するかということになる。前述の卸売市場経由率をみても、花きは安定供給ができていることから、高い推移が続いており、市場経由の流通は高い支持を受けていると言える。
(2)品揃えの強化
a 仕入先の開拓
近年、JAなど大規模生産者が東京や仙台などの大市場に商品を集中して卸し始めたこともあり、地方都市の卸売市場では一部の品目で買付集荷が必要な状況となっている。卸売業者としては、委託集荷の方が経営の安定につながりやすいため、必要な品目を安定的に委託出荷してくれる仕入先を新たに開拓していく必要に迫られている。
また、県内の小売店では、商品の一部を秋田市場以外の卸売業者等から仕入れている店舗もある。県内の卸売業者等としては、これらの商品を県内の市場を通じて調達してもらえるように、小売店の多様なニーズを発掘し、調達面や価格面での対応を細かく重ねていく必要もあると思われる。花は生鮮品で、一定期間内に販売されないとロスになるため、品揃えの強化は一概には進めにくい面もあるものの、今後ますますそうした面の必要性が増してこよう。
b モノ日の品揃え
モノ日における品揃えも同様である。これは、卸売市場での取引単価に起因する問題である。首都圏に比べて、秋田県は一般的に小売価格が安いことから、卸売市場でセリ落とされる価格も安くなる。生産者は卸売市場で取引される量と単価を見比べながら、出荷先を決めるため、取引が盛況な市場により多くの品物が流れやすい。このようなことから、モノ日になると、首都圏の市場に品物が比較的多く集まり、地方では流通する品物がやや少くなるとの状況になりやすい。
(3)利用範囲の拡大
業界としても花きの利用範囲の拡大を望んでいるが、本県の場合は特にキク以外の花の需要を開拓していく必要がある。県内では切花の約半分がキクで占められているように(全国は3割程度)、消費者が花きを用いる場面がやや限定的となっている。従って、いかに日常生活へ花きを溶け込ませて需要の拡大を図っていくか、その工夫が課題である。
経済面に重点を置かれがちな現代生活であるが、自分や家族の生活を豊かにするアイテムとして、200~500円クラスの少額の花を定期的に飾るなどのキャンペーンを小売を含めた業界全体で実施していくことも良いと思われる。併せて、花育活動や家庭内の記念日に花を飾ること等を通じて、花のユーザーを増やしていく取組みも必要であろう。
4 まとめ
県内の花き卸売市場は堅調な取扱高を続けてきた。背景には、商品需要自体が底堅いことに加え、卸売事業者の先見的な取組みなどがある。やや数字は粗いが、平成22年における県内の花き農業産出額は約27億円、県内市場で流通している花きは約5億円、差引約22億円は県外市場に流通している計算となる。今後の県内人口の減少を考えると、県内需要は葬祭や墓参以外で大きく縮小していく懸念がある。
これまで、花きは冠婚葬祭など日常生活から遠い場面で用いられてきた。しかし、花見など身近なところあるいは景勝地に咲く草花を見て楽しんでいるように、消費者にとっても花きは日常生活の中で欠かすことのできない存在である。今後、花きの利用範囲の拡大を図っていくうえで、多くの消費者に花きをより身近に感じてもらえる施策を業界全体で講じていく必要があると思われる。
(片野 顕俊)