機関誌「あきた経済」
県内家事支援サービス業の現状
家事支援サービスの市場規模は拡大傾向にあり、新たなサービスも次々に生まれている。県内には小規模個人経営の事業所が多いが、既存業者の業務拡大やフランチャイズチェーン、異業種からの参入もあり、競争は激化している。安定した受注を確保するためには、人材育成と技術力向上に注力し、時代と地域のニーズを的確にとらえた、地域の生活を支えるサービスの提供が求められる。
1 家事支援サービスとは
「家事支援サービス」とは、従来、家族により行われてきた、家庭生活に関わる作業を軽減または代行するサービスである。
サービスの代表的なものは、「炊事・洗濯・掃除などの日常的な家事支援」、「食品・日用品宅配」、「ハウスクリーニング」等であるが、近年は、「妊婦や高齢者等の支援」、「保育所や塾、習い事の送迎を代行する子育てタクシー」など、サービスの種類は幅広く、新たなサービスも次々に生まれている。広い意味では、衣類のクリーニングや持ち帰り弁当、総菜購入などの中食、外食も含まれるが、本稿では、利用者が自宅で受けるサービスに限定し調査した。
2 とりまく環境の変化
(1)共働き世帯の増加
総務省「国勢調査」から、夫婦とも就業の世帯(以下、「共働き世帯」という)と夫が就業者で妻が非就業の世帯(以下、「専業主婦世帯」という)の割合の推移をみると、共働き世帯の割合は上昇傾向にある一方、専業主婦世帯の割合は低下傾向にある。全国、秋田県とも同様の傾向がみてとれるが、22年の共働き世帯の割合は、秋田県が69.1%と、全国(60.8%)を8.3ポイント上回った。
また、NHK放送文化研究所「国民生活時間調査」によると、成人男性の平日の家事時間は、平成12年の36分から22年の50分へ14分増加した。成人女性のうち、主婦は、同10年間で432分から422分へ10分減少したが、有職女性は188分から206分へ18分増加した。依然として、家事に費やす男女間の時間差は大きく、特に有職女性においては、核家族化や地域の繋がりの薄れなどから、家事負担が10年前に比べて増加しており、負担軽減に繋がる家事支援サービスへの需要が高まっていると考えられる。
(2)高齢化率の上昇と高齢世帯の増加
総務省「国勢調査」によると、秋田県の高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は上昇傾向にあり、平成22年は29.6%と、全国平均(23.0%)を6.6ポイント上回り、全国で最も高くなった。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、平成47年には全国が33.7%、秋田県が41.0%に達することが予測されている。
また、高齢世帯についてみると、世帯総数に占める高齢夫婦世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの世帯)の割合は全国が10.1%、秋田県は11.5%となった。また、65歳以上の高齢単身世帯は全国が9.2%、秋田県は10.1%となった。同推計では、本県の高齢夫婦世帯は平成32年(13.7%)まで、高齢単身世帯は42年(16.2%)まで増加が続く見込みとなっている。高齢世帯においては、一般的に体力面、健康面において日常生活や家事等に支障をきたしている人も多いことから、介護保険制度の対象外となる掃除、洗濯、買い物などのサービスへの需要が増加しており、今後も増加が続くと考えられる。
(3)家事労働に対する価値観の変化
ライフスタイルの変化に伴い、家電製品等が多様化し、利便性が高まった反面、それに伴う家事は複雑化している。そのため、家庭では掃除が難しいエアコンや、時間と手間のかかる換気扇、窓枠等の掃除はアウトソーシングする動きが広まりつつあり、家族内で出来る作業であっても「ある程度のコストで依頼できるのであればアウトソーシングし、その分を余暇や睡眠にあてたい」と考える人も増加している。
家の中の消費に関する実態調査を専門に行っている株式会社イエノナカカンパニーの家事代行に関するアンケート結果(平成22年調査、有効回答数4,423人)によると、家事代行サービスの利用経験者は2.5%にとどまったが、「利用したことがないが、今後使ってみたい」と回答した人は26.2%となった。潜在需要が非常に高く、具体的には、子育て中の家事省力化、自宅介護による家事支援などが挙げられ、30代、50代の利用意向が高くなった。
家事の外部委託への抵抗感が薄らいできているほか、潜在需要も高いことから、更なる需要の伸びが期待できる。
3 家事支援サービス業の現状
(1)家事支援サービスの事業所数
各業種の経済活動の実態を把握することができる調査として、総務省「経済センサス」があるが、本稿でいう「家事支援サービス業」というくくりの業種がないため、正確な統計データはなく、事業所数を把握することは難しい。
NTTタウンページ上でカウントすると、秋田県の主な家事支援サービスののべ事業所数は約300か所(平成23年9月現在)で、このうち54.6%が県央地区に集中している。分野別にみると、事業所数が最も多かったのは介護用品や清掃具などのレンタルサービスで、全体の29.4%を占めた。次いで、ハウスクリーニング(21.3%)、訪問理美容サービス(19.9%)、ピザ、すし、飲食などの宅配(14.2%)となった。
(2)市場規模は拡大傾向
株式会社矢野経済研究所によると、全国の家事支援サービス業(ホームセキュリティー、見守りサービス、家事代行サービス、家具・家電レンタルの4分野の合計)の市場規模(平成23年)は、全体で2,103億5千万円となり、前年比4.1%の増加となった。
分野別にみると、「ホームセキュリティー」は934.0億円(前年比6.9%増)と最も大きな市場を形成しているほか、増加率も最も高くなった。次いで、「家事代行サービス」が657.5億円(同2.0%増)、「家具・家電レンタル」が392.7億円(同2.1%増)となった。また、高齢者や子供の在宅状況、安否確認等を行う「見守りサービス」は119.3億円と、4分野中で最も市場が小さいが、増加率は同1.0%増となり、いずれの分野においても、市場規模が前年比で拡大している。
また、日経MJ「2011年サービス業総合調査」によると、家事支援サービスを提供する全国の有力企業11社の売上高の合計は138.7億円で、前年度比10.6%の増加となった。11社のうち、1年前と比べて客数が「増えた」または「やや増えた」と回答した企業は8社。今後1年間については、10社が「増える」もしくは「やや増える」とみている。また、向こう3年間でサービスを展開するエリアについて、7社が「拡大させる」と回答しており、今後は、サービス提供範囲が増え、更に市場の伸びが期待できる分野といえる。
(3)業界の特徴
業界の特徴としては、開業にあたって、特別な許認可や届け出が不要なほか、大きな機器類も必要ないため、施設・設備などに対する初期投資が少なくて済み、新規開業が比較的容易であることが挙げられる。そのため、小規模個人経営が多く、加えて、フランチャイズに加盟することによって、スキルや宣伝方法、その他経営に関するノウハウ等の指導が受けられるため大手チェーンのフランチャイズ加盟店も多い。
また近年は、異業種からの参入もみられる。全国的には、警備会社や引っ越し業者のほか、ホームセキュリティーサービスについては、通信ネットワークを利用したサービスであることから通信事業者や通信機器メーカーからの参入例が多い。また、コンビニチェーンや外食チェーンが、移動販売や宅食サービス事業に参入するなど、異業種からの参入は活発化している。大手チェーンのサービス提供エリア拡大とともに、本県への進出も徐々に進んでおり、県内においても、業者間の競争は激しくなることが予想される。
(4)支出金額にみる家事サービスの利用状況
料金体系は、サービス1回もしくは1時間あたりの料金を規定しているケースが大多数であるが、ハウスクリーニングに関しては部屋の広さや場所ごとに料金を明示する方法が主流である。
総務省「家計調査」(平成23年)によると、全国の家事サービス(①「家事代行料」、②「清掃代」、③「家具・家事用品関連サービス」の3つに分類される)への年間支出金額(全国)は、総世帯平均で10,135円となった。年間収入階級別にみると、年間収入が多い世帯ほど支出金額が上昇しており、年収252万円未満の世帯(6,212円)と、年収731万円以上の世帯(14,060円)では、7,848円もの開きがあった。
秋田市の年間支出金額は10,003円で、全国平均(10,135円)を132円下回り、東北平均(9,282円)を721円上回った。支出の内訳をみると、秋田市においては、家具・家事用品や掃除用具の借賃を含む「家具・家事用品関連サービス」への支出が7,512円と、東北平均(4,996円)、全国(4,252円)を大きく上回り、全国1位となった。本県は在宅介護率が高く、自宅で利用するベッドや車椅子などの福祉用具をレンタルする家庭が多いため、支出金額が高くなっていると考えられる。
家政婦やハウスクリーニング等の料金を含む「家事代行料」は、大都市ほど支出金額が高くなっている。全国が1,716円、東北平均は804円となったが、秋田市はわずか198円と少なく、全国順位は44位であった。本県では、他人が家の中に入ることや家事代行に対する抵抗感が首都圏に比べてまだ強く、利用に対して慎重になるケースが多いためと考えられる。
その他、粗大ごみ処分料や浄化槽掃除代などを含む「清掃代」は2,293円で、全国(4,167円)、東北平均(3,483円)を下回り、全国21位となった。
4 各事業所の取組み
(1)新規顧客の取込み
PR方法はポスティングや折り込みチラシ、インターネット広告等に限られる。
サービスを利用する際、最も気になるのが価格であるが、これまで、料金体系やサービスの範囲が不明瞭という不満が少なからずあった。そのため、各事業所がチラシやホームページで基本的な料金やプランを紹介しているほか、見積りを無料で行い、納得した上で利用してもらえるよう工夫している。大手チェーンにおいては、コンビニで定額チケットを購入し、サービスを依頼することが可能な地域もあるなど、手軽で便利な選択肢が増えている。
また、サービスを利用する際、他人が家の中に入る事に対する抵抗感から、特に初回の利用については慎重になる利用者が多い。しかし、一度利用するとリピート率は高いとも言われており、各事業所では、細かなニーズに応えることで既存客の満足度を高め、口コミによる新規顧客の取込みに繋げている。また、不定期の注文だけでは採算がとりにくいため、既存客と信頼関係を築くことによって、リピーターを増加させ、更には単発利用を定期利用に発展させる努力をしている。
(2)サービススタッフの育成と技術力の向上
同じサービスの内容については、業者間で大きな差が出にくいため、各社、技術力の向上やマナーの徹底に力を注いでいる。
注文は、季節による繁閑の差が大きいため、人件費抑制等の観点から、スタッフはパート・アルバイトが多く、現場での指導が中心となる傾向にあるが、一定レベル以上のスキルを持ったスタッフを確保するよう、業界団体で実施する資格・検定制度を活用し、サービスや技術の質で差別化をはかっている。
日本ハウスクリーニング協会では、8年前から、作業における基礎的な知識と技術を習得し、基準に達した者を「ハウスクリーニング士」として認定しており、現在、全国で約1,500人が認定を受けている。また、平成21年からは、作業工程や書類の整備、クレーム対応などの審査基準を満たしている事業所を「優良企業」に認定し、「優良企業マーク」の付与も行っている。いくつかの団体で同様の認定制度があるが、これらの資格や認定制度を活用し、スタッフのレベルアップと、他社との差別化をはかっている。
(3)地域に根差した複合サービスの提供
平成23年4月、マックスバリュ東北㈱は、イオングループでは県内初となるネットスーパーを開始した。パソコンや携帯電話から注文を受けた商品を、当日または翌日自宅へ配送するサービスで、高齢者や妊娠中、子育て中の人、介護や仕事で店舗に立ち寄る時間がとりづらい人などの利用を見込んでいる。
また、由利本荘市にある㈱岩城のかあさんでは、平成23年11月、在宅高齢者向け生活支援事業として、レトルト加工したご飯や惣菜を詰め合わせた「おかず箱」の訪問配置事業を開始した。県産食材を使ったレトルトの製造・販売を行う企業であるが、食べた分だけ代金をもらい補充する、いわば「置き薬」の食品版である。補充のため、高齢世帯などを週1回訪問し、福祉サービスの機能も果たしている。サービスは由利本荘市松ヶ崎地区からスタートし、24年4月には能代市二ツ井町で、その後も県内外でフランチャイズ加盟店が増加している。
こうした複合的なサービスの提供を行う企業は全国的には少ないが、高齢化、地元小売店の廃業、公共交通機関の廃止等、地域の現状を踏まえ、ニーズを的確につかんだサービスを提供し、事業拡大、受注増に繋がっている好事例である。
5 まとめ
家事支援サービスの市場規模は拡大傾向にあるが、既存業者によるサービスの拡充や異業種からの参入などによって競争は激化し、小規模個人経営の事業所は苦戦を強いられている。
消費者は、様々な媒体を通じ、サービスに関する情報を得やすくなっている。他社との差別化に向けて、サービスの質の向上をはかることはもちろん、PR方法の再検討や情報発信力の強化が重要となる。消費者の関心をひくためには、多彩なメニューを提示する必要があるが、1社が全てをこなすのは難しい。共働き世帯や高齢世帯の増加など、時代や地域のニーズを的確にとらえ、ワンストップサービスを目指して、事業所同士が連携するなど、地域を支える複合的なサービスの提供が求められる。
(佐藤 由深子)