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街なかに“にぎわい”を ~新たな街づくりの課題~

 市街地の再開発事業が、県内各地で進められている。その一つ、秋田市中心部の中通地区再開発事業が計画最終年度を迎え、本年7月には「エリア なかいち」がオープンした。以後、夏の期間は関連イベント開催のほか竿灯祭り等の観光シーズンと重なったこともあり、秋田市の新生中心商店街は多くの人出で賑わっている。この賑わいを一時的なものに終らせることなく如何に持続させていくか、また、周辺商店街を含む市街地全体の活性化にどのように拡げていくか等、今後は「基本計画」に描いた「市民に愛され、賑わいのある街」に至る手立てを、ソフト面からも具体的に講じていくことが課題となる。

1 中心市街地再生の取組

 秋田県内の市街地再開発計画を巡っては、最近のものではJR横手駅東口の事業が終了、また、秋田市中通一丁目地区が終盤にあるほか、大館市や大仙市、湯沢市、鹿角市、その他幾つかの地域で目下具体的事業や計画が進行中である。何れも地方経済衰退の波の中で、住民の減少と市街地空洞化等の現象に見舞われ、地元の行政、経済界はあげて中心商店街の再生や市街地活性化策に腐心してきた折から、こうした再開発を起死回生の事業として不退転の決意で臨んでいる。
 もとより秋田市中通地区の再開発事業も、地域再生への強い期待を担うものである。とりわけ平成年代以降、クルマ社会の一層の浸透とともに大型店の郊外ニュータウンへの立地や、バイパス沿いでのロードサイド型チェーンの店舗展開が進み、中心商店街はこれら市周縁部の商業集積に反比例して、次第に地盤沈下の様相を深めてきた。加えて、中心部で吸引力のあった従来からの大型店や中核病院なども相次ぎ撤退、または郊外に移転し、市街地における往来者数減少に追い討ちをかける恰好となった。昭和30年代から50年代初めにかけての最盛期には、袖を擦り合わせるように買い物客が行き交った秋田市の中心商店街であったが、時代環境の変化につれて、徐々に斜陽化の翳を濃くしてきたのである。
 こうした中心商店街衰退の軌跡は、秋田市のみならず県内外多くの地方都市が同様に辿ってきた道筋でもあり、周知のとおり、一部ではシャッター通りと揶揄されるケースさえ生じている。この長い間の退勢に歯止めをかけ、一転かつての賑わいを取り戻そうと取組まれているのが全国各地における一連の市街地再開発事業で、そこでは「中心商店街の再生」及び住民の「街なか回帰」等が、ともに大きなテーマとなっている。

2 全国の新たな街づくりの状況

(1) 国の支援制度
 以上のような各地の市街地再開発事業に対し、国は「中心市街地活性化法(*1)」により、一定基準を満たす計画について、法律、税制の特例措置や補助事業など、様々な面から支援を行っている。このため、全国的にはこの制度の適用を受けて進めている事業例が多く、本年6月末現在、トータルで107市118の市街地再開発計画(*2)が、本制度に基づく国の支援事業となっている。
 なお、この中心市街地活性化法はそもそも平成10年に制定(*3)されたものだが、後に問題部分として「都市機能集約の視点が十分でない」、「商業活性化にやや偏っている」といった点などが指摘され、平成18年に改正された経緯にある。改正後は、取組の目的が「都市機能の増進」と「経済活力の向上」と定義され、また、支援措置の対象事業も「都市機能の集積促進」、「街なか居住の推進」、「商業等の活性化」等と定められて、総合的な街づくりを目指す方向が明確にされた。
 この法律改正とともに改めて提唱された具体的な街づくりのイメージが、いわゆる「コンパクトシティ」推進構想(*4)である。都市のスプロール化を抑制して市街地のスケールを小さく保ち、職住近接かつ生活に必要な諸機能を中心部に整備した住みやすい街をつくろうというもので、青森市や富山市の街づくり計画がその嚆矢となったほか、幾つかの都市が政策として公式に取り入れている。
(*1)中心市街地を活性化させるために市町村が策定した基本計画について、国が要件や基準等を審査のうえ妥当と認定したものに対し各種の支援を行う制度。この「中心市街地活性化法」に、ゾーニング(土地の利用規制)を促進するための「改正都市計画法」、生活環境への影響など社会的規制の側面から大型店出店の新たな調整の仕組みを定めた「大規模小売店舗立地法」を加えて「まちづくり3法」と総称する。
(*2)秋田県では秋田市と大仙市の再開発計画が認定を受け、国の支援事業となっている。東北全体では、青森市や盛岡市、山形市、福島市など合計16の計画が認定を受けている。
(*3)平成10年の制定時は「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律」という長い法律名であったが、平成18年の改正時に現在の法律名に改められた。
(*4)もともと1970年代に提案されたもので、最近再び脚光を浴びている。

(2)現行再開発事業の成果と限界
 しかし、このコンパクトシティも含めて、これまで国の認定を受けて実施された市街地再開発事業は、所期の目標を達成した地域がみられる一方、諸指標の数値が計画目標と乖離する地域も多く、必ずしも全体として順調な推移とは言い難い状況にある。実際、内閣府地域活性化推進室が先頃公表した認定事業に対するフォローアップ調査結果(*5)をみても、事業自体の進捗は概ね順調ながら、「居住人口」や「販売額」、「空き店舗解消」など、成果を期待する肝心の項目については、目標達成可能と見込む地域が対象先全体の半数以下と、不本意なレベルに止まっている。
 これについては、地域の個別事情のほか、当然ながら昨今の経済環境が大きく影響しているものと思われる。しかし、そればかりでなく、「住民が中心市街地に求める価値観が多様化し、商店街のリニューアルや新たな箱モノ設置に傾斜しがちな従来型の再生事業では、もはや効果も限られるのではないか」との疑問も、近頃は多く投げかけられるようになってきた。つまり、必要な「街づくりのコンセプト」がこれまでとは変わり、基本設計図についても見直すべき箇所が生じているのでは、という、より深層部分での方向性が改めて問われだしたのである。
(*5)中心市街地活性化法に基づき国から認定を受けた再開発計画は、各都市自ら時期を定めて事業の進捗状況及び目標達成の見通し等を、フォローアップ(自己評価)しなければならない。平成23年度は、68市が70の計画について中間フォローアップを行った。

(3)街づくりの新たな視点
 以上の経緯を踏まえ、街づくりの新たな視点が再び模索されだしている。実際、大学や研究機関等を含む様々な方面から多彩な方策が提言されているが、そのうち比較的多くみられる論調は、ごく大雑把には次の方向に集約されるように思われる。
 即ち、中心市街地の再興は商業地としての復活を期すばかりでなく、「街の文化」を取り戻す試みでもある。従って商店街リニューアル及び中心部での住宅、病院、交通機関等々都市機能の整備のほか、ソフト面からも文化的要素や知的風韻、人が憩える仕組み等をバランス良く組み合わせ、それにより、住民が「街に誇りを持ち、街なかのくらしを楽しめる」ようにすることが必要、という提言である。こうした物心両面の機能が整った街は、確かに住民の多様な要求を満たし、「街なか回帰」を促す支援材料にもなると思われる。また、近頃求められるようになった「高齢者などの買物弱者対策」としても有効なほか、市街地の集約という面では、都市インフラの一方的な拡散を防ぐという観点で、行政コストの増嵩抑制にも繋がる。これは、いわば現行の「コンパクトシティ構想」が描く街の姿を、一段と魅力アップした趣旨のものといえよう。
 しかし、こうした理想ともみえる街づくりが果たして短期間に可能なのかと疑問を呈し、それとは逆に、目標範囲を絞って目指す方向を明確にすべき、という意見も少数ながら従前からみられた。住民のくらしを巡る価値観や、クルマ文化に既に適応した社会の形態を、行政や産業界の思惑で一様に市街地指向に変えることは容易ではなく、従って中心市街地の活性化については多くを追わず、むしろ地域が本来持つ長所を生かせる特定の方向に、資源を集中投下して進めることこそ効果的、とするスタンスである。
 以上の両面の提言については、それぞれに長短の要素があり、一概には優劣を断じ難いと思われる。ただし、実際に全国で進められた市街地再開発事業の結果においては、例えば長野市の善光寺周辺や鹿児島市の天文館地区、高松市の丸亀町商店街、豊後高田市の「昭和の町」等々が、にぎわいを復活させた成功事例としてしばしば新聞・雑誌で紹介される。また、身近なところでは、酒田市の「観光まちづくり」なども、施設入場者数が大幅に目標を上回り注目されている。これらの例は、計画立案に当って多くの目標をかざすことなく、当初から「商業優先」の明確な方針のもとで街づくりに専念した先、或いは特別に「観光面に焦点」を当て街並整備に努めた先等、どちらかというと一点集中型の後者の範疇に属する進め方であったことに、留意する必要があろう。

3 秋田市の市街地再開発について

 本県においては、秋田市の「中心市街地活性化基本計画(*6)」及び大仙市の同計画が、中心市街地活性化法による国の認定を受けて、それぞれ事業進行中である。
 このうち秋田市の事業については、平成20年7月から25年3月までの約5年間が計画期間であり、本年7月にはその中核となる「秋田市にぎわい交流館」と商業施設など(地区の愛称「エリア なかいち」)がオープンした。しかし、基本計画書掲載の中通地区のハード関連部分はほぼ終了したとはいえ、全体のコンセプトとして掲げた「千秋公園(久保田城跡)と連携した城下町ルネッサンス(中心市街地再生)」、及び以下の3つの基本方針、
① 買物、イベントなどでリピーターの多い街づくり
② 住み易く、住み続けたいと思える街づくり
③ 商業活動に活気ある街づくり
等に関わるソフト面の取組は、実際にはこれからが正に本番である。
 因みに、先述の「認定事業のフォローアップ調査」における秋田市の自己評価結果によると、活性化計画に関わる諸目標の24年度数値は最終的に達成可能と見込まれており、まずは順調な経過と見做すことができよう。
 しかし、より重要なことは、この状況を長期にわたって持続させるとともに周辺商店街へも効果を波及させる手立てを講じ、市街地全体の活性化を図ることである。そのためには、まず基本計画書の計画項目のうち仕掛り中ないし未着手の作業(*7)について早急な前進を期す一方、実施済みでも成果の乏しい分野については大胆な見直しを加える等、事業レベルの一段の引き上げを行う必要があろう。
 なお、先の他地域の例にもあるとおり、追い求める対象が広範にわたる場合は新たな街づくりのイメージが散漫となり、逆に事業効果が上がりにくくなる嫌いがあるようだ。従って、事業推進に当たってはオールラウンドな計画ではなく、地域の実情に沿った方角で、目指す街づくりの輪郭がより明瞭となるよう調整していくべきと思われる。
 具体的には、全国何処でも似通った傾向のハード整備施策よりも、地域の特色や街が持つ個性を踏まえ、まず我々住民が強い愛着を持てる種類の街をつくる方向で、知恵を絞ることが望まれるところである。地元の若者たちが手作りで立ち上げた「秋田ヤートセ祭り」や、「千秋公園JAZZフェスティバル」等が、街の行事として今ではすっかり地域に浸透して、高額な施設・設備を伴わずとも毎回大勢の市民で賑わっている事例は、その方向を探る上での恰好のヒントとなるであろう。
(*6)秋田駅周辺から通町までの区域(約119ha)を対象に設定した再開発計画。40の個別事業からなり、そのうち「中通一丁目地区市街地再開発事業」が基幹をなす。
(*7)上記40の事業について、24年3月現在11事業が完成、ソフト事業など15事業が実施中、13事業が未完了、1事業が未着手となっている。「買物ポイントによる駐車場無料利用システムの導入」や「タウンビークル運行事業」等について、現在、準備が進められている。

4 最後に

 先般、流通大手のグループ企業が、物販、農業、観光などを組み合わせた新たな大型施設を秋田市郊外に建設する構想を明らかにした。市街化調整区域での計画となることから、仮に実施するとしてもまだ多くの曲折があるものと予想されるが、何れにしても、新たな大型店進出がもたらす影響の大きいことは、過去の例からも明白である。
 本構想でもみられるように、近頃の大型店はショッピング面ばかりではなく、銀行、医院、旅行社、レストランといった街の諸機能、それに劇場その他のアミュズーメント施設まで備えた、いわば独立したミニ・コンパクトシティの様相を呈している。そうした際に地域の新たな街づくり事業が、規模の違いがあるとはいえ類似の形態を指向しても、市内全体の人口が減少に向かう中、先々厳しい競争を強いられることは必至であろう。
 従って、秋田市の例に限らず一方に大型店問題も抱えての市街地再開発は、むしろ視点を変えて、大型店や郊外型チェーン店等が本来的に欠いている性質、つまり先にも述べた地域の特色、街の個性といった「地域のアイデンテティ」を機軸として、新たな方向性を検討することも有効ではなかろうか。均一性を基調とする全国展開の商業形態には、「個性化」の面から街づくりを進める対処策も一法。先に並べた「賑わいを取り戻した街」の事例は、ちょうどそうした面の可能性を示唆しているようにも思われる。

(高橋 正毅)

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