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秋田県の建設業の現状と課題

 本県建設業界を取り巻く環境は、国や地公体財政の厳しい状況から公共工事の縮減が長期にわたっているほか、住宅着工の減少が続くなど民間工事にも勢いがみられず、依然として厳しい状況にある。本稿では、公共工事を中心に県内建設業の現状と課題を探るとともに、新分野進出への動きや、復興需要への取り組みなどについても概観した。

1 はじめに

 本県建設業は平成21年度における総生産額が2,405億円と県内総生産額(名目)3兆6,972億円の6.5%、就業者数でも約10%を占めるなど、本県における主要産業のひとつである。また、社会資本整備の担い手としてだけでなく、災害対応や除雪等を通じて、地域住民の安全・安心の確保に重要な役割を果たすなど、社会にとってなくてはならない存在であることも論をまたない。
 このように重要な産業でありながら、一方で長期的な低落傾向がいわれて久しいのも事実である。総生産額を10年度と比較すると、金額でほぼ半減(48.6%減)、構成比でも4.9ポイント減と、残念ながら、本県産業における存在感は薄れてきている。

2 本県建設業の現状

 平成4年度以降の建設投資額の推移を出来高ベースでみると、ピークの8年度(9,062億円)比で23年度(3,236億円)は64.3%減と、およそ3分の1の水準に落ち込んでおり、長期的な減少傾向に歯止めのかからない状況が続いている。公共工事と民間工事別にみても、ピーク比で公共工事(ピーク10年度5,377億円)が68.0%減、民間工事(同8年度4,228億円)が64.1%減と、同様の落ち込みを示している。ただ、公共工事がほぼ一貫して減少しているのに対し、民間工事は14年度を底に介護・福祉関連施設等の建設受注から回復の兆しもあったが、経済環境の悪化を受けて19年度から再び減少基調に転じ、21年度以降は2,000億円を大きく下回る推移が続いている。
 本県の公共工事比率の推移を全国と比較してみると、本県がここ20年近く50%~60%台で推移しているのに対し、全国では近年、40%を下回る年が多く、本県とは、15~20ポイントの開きがみられる。依然として公共工事に依存せざるを得ない本県建設業の体質が表れている。
 一方、低迷する工事を請け負う業者数の推移をみると、県内の建設業許可業者数はピークの12年度(5,760業者)に比して1,482業者(25.7%)減の4,278業者と4分の3ほどに減少している。しかしながら、3分の1にまで激減した建設投資と照らし合わせると、依然として工事量に比べ業者数の多い状況が続いているといえる。建設投資額と建設業者数のバランスが取れない、業界でよく言われる「供給過剰」で「過当競争」の状態が続いていると言わざるを得ない。さらに、この4,278業者を資本金階層別にみると、個人(27.6%)を含めた資本金500万円未満の中小業者が54.2%と半数以上を占めており、規模の零細性が目立つ状況となっている。

3 秋田県発注工事の状況

 本県公共工事の主力を担い、発注実績を確認できる県工事について推移をみると、ピークの10年度(2,509億円)に比して、直近の23年度は710億円と71.7%減少。3割を切る水準まで落ち込んでいる。
 こうした長期減少傾向にある県工事の最近10年間について、事業種別に前後半5年毎にみたのである。前半5年(14~18年度)と直近5年(19~23年度)の比較では軒並み減少しており、発注合計では42.7%減となっている。特徴としては、①河川工事が唯一、125億円(40.8%)増となっているほか、②災害復旧工事が10.7%減と比較的減少幅が小さいこと、③19年9月に供用開始となった秋田中央道路の工事終了に伴い、街路工事が8割減となっていること等があげられる。近年、洪水被害等の災害が多く発生し、その復旧や、災害への未然防止のために河川改修等を積極的に行ってきた表れとみられる。このことは、また、地域のインフラ整備の中心となる道路事業や農業振興のための農業基盤整備事業が変わらず上位を占めていることなどからも、順位を上げた治山事業などとともに、限られた財源の中で、必要事業にメリハリのついた投資をしようという県当局の思いが読み取れる結果となっている。
 しかしながら、県が公表している「財政の中・長期見通し(24年2月試算)」では投資的経費は24年度当初予算に比べて34年度には更に11%の減少を見込むなど、県財政の厳しい状況を反映して、なおしばらく減少傾向を辿るとしており、公共工事に多くを期待できない状況が続くことは覚悟せざるを得ない。

5 県の取り組み

 公共投資の縮減が続くことによって、公共事業依存度の高い本県建設業は厳しい経営を迫られることになる。しかしながら、地域の安全・安心を担うとともに、地域経済および雇用を支える建設業は、社会に欠かすことのできない存在であることから、県では「地域を支える建設産業の振興」が必要として、企業合併等を含めた経営力・技術力の強化と、新たな活動領域の拡大に向けた環境整備を推進することとしている。ホームページに「建設業経営改善サポートサイト」を開設し、前述の新分野進出事例集に加え、現状を分析し、将来像を示すとともに、各種支援制度の紹介などを行っている。将来像のなかでは、県民が望む建設業の姿を
①優れた技術力・施工力・経営力により良質な社会資本や民間建築を適正な価格で提供する
②地域に根ざした生活・産業の発展に取り組む
③災害などの非常時に安全安心の確保のため中核的に活動する―としている。
 これらの実現に向け、(公財)あきた企業活性化センターを窓口として各種経営相談や支援事業などで、本県建設業の経営改善をサポートしているほか、以上のような内容を盛り込んだ「秋田県建設産業振興プラン(仮称)」の策定にも取り組み、来年度からの運用を目指している。
 また、少ない工事の取り合いから低価格入札も増加しており、業者間競争を維持しつつ、工事品質の確保と経営安定を図るため、最低制限価格の算出基準の見直し、過度の低価格入札を繰り返す業者へのペナルティー制度導入、地域要件の見直しなど、入札制度に関する対策も随時行っている。

6 復興需要への取り組み

 「東北地方の建設業界は東日本大震災の復興関連工事が本格化するなかで、需要に応え切れないほどの工事量を抱えている」と一口に言われるが、県内建設業者にも、その影響は出ているのだろうか。着工ベースでの建設投資額をみると、確かに、東北全体および被災3県においては、23年度の公共工事、民間工事ともに大幅な増加を示している。一方で、本県においては、先にみた出来高ベースと同様に、前年を下回っており、「東北」と一括りにされることには違和感を覚えざるを得ない。それでは、県内で過当競争に苦しんでいる企業が、復興工事にどのように関わっているのだろうか。あくまでも、業界団体や、個別企業数社に対するヒアリングでの感触ではあるが、被災地の親密企業からの要請によって民間ベースで応援している例はあるが、一部を除くと積極的に復興需要を取り込もうとする姿勢はみられない。被災地では、地元業者のみでは賄いきれないほどの工事量に、復興事業そのものの遅れも指摘されている。国や自治体もこうした事情を勘案して、復興JV(共同事業体)制度の創設などの地域要件の緩和も行い、被災地以外の企業による参入のハードルを低くするなどの施策を講じてもいる。現実に、山形県などの建設業者が続々と被災地入りしているとの報道もなされている。本県においても、被災に便乗するということではなく、復興を強力に支援するという気持ちを鮮明にしながら、被災地の隣県業者として積極的に乗り出す動きがあっていいのではないだろうか。自社の生き残りとともに、頼りになる企業として県内外にアピールもでき、今後の発展にもつなげられるのではと考える。確かに、資材の高騰や、人材の確保、慣れない土地での工事と難しい面もあるとは思われるが、実際に手掛けている県内企業も出てきていることであり、より積極的な参入を期待したい。

7 まとめ

 現下の経済状況では民間工事に多くは望めず、県の中・長期見通しで示されているように、公共事業の縮減傾向もしばらくは続くことを覚悟しないといけない。こうしたなかでは、新たな公共建物の建設や、道路の造成などだけでなく、既存インフラの長寿命化などのメンテナンスや改修工事も必要不可欠の事業である。それらに対して、待ちの姿勢ではなく、積極的に修理個所の指摘や、長寿命化に向けての提案を行うことも必要と考える。
 国や県などの支援策を積極的に利用しながら経営の改善を図っていくとともに、自社の体力や得意分野を考え合わせながら、新分野への挑戦を行うことや、被災地を含めた隣県に仕事を求めるなどの営業姿勢も大事となろう。
 その一方で、企業の足腰を強くし、地域になくてはならない企業として生き残りを図るためには、得意分野を拡大し、総合力を高めるべく、合併等の再編統合も視野に入れていく必要があると思われる。

(佐々木 正)

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