経営随想
地域間競争を勝ち抜け
(日本銀行秋田支店長)
(地域活性化策の成果はいかに)
秋田の経済をいかに元気にするか――すでに何十年にもわたり問われ続けている課題である。日本がバブル崩壊を経て低成長期に入ると、地域経済の成長率も低下し、大都市圏との経済格差が一段と目立つようになった。経済のグローバル化や財政赤字の拡大により、地方においては、低い労働コストを拠り所にした企業誘致や公共事業による景気下支えにもはや期待できなくなったことも、「地域衰退」の傾向に拍車をかけている。秋田もその例外ではない。当地の地価が1992年をピークに低下を続け、反転の兆しがなかなかみえてこないことにも象徴されている。
こうした状況に対し、行政や経済界が手をこまねいていたわけではない。秋田県では、10年、20年先を想定した活性化プランを構築し、それに基づく施策を毎年、積極的に展開してきた。また、秋田商工会議所は、1980年代後半に、国際化や技術革新、情報化、高齢化といった21世紀に向けた新しい潮流を見据えて、活性化ビジョンづくりの重要性を早くも表明した。これらは時宜を得たものが多く、関係者が経済の活性化を真剣に議論してきた証と言える。
私のような県外からの転勤者の誰もが感じる秋田の素晴らしさも、当地経済の可能性を感じさせる。鮮やかな四季、個性的な祭り、豊かな食文化、人情味溢れる地元の人々等、観光面の魅力は尽きない。また、環境リサイクルや再生可能エネルギー、地下資源、高齢化ビジネス、農林水産業といった、およそ世の中で言われる成長産業のほとんどが当地に何らかの足がかりを有する。秋田経済にとって追い風が吹き始めていることは間違いない。
にもかかわらず、秋田経済が元気になっている、少なくともそうした方向に着実に向かっている、と多くの人が実感できる状況には残念ながらなっていないようだ。経済関係の会合では、きまって「当地経済は厳しい」との挨拶が繰り返される。言わば「秋田疲弊マインド」が定着しているように窺える。なぜだろうか。危機感を醸成するためのレトリックか、控え目な県民性ゆえか、時間が解決するということか、それとも、活性化に向けた議論に何かが欠けているのか。
(地域間競争の激化)
かつて地方経済はジャンボ機の後輪に喩えられた。地方は、景気が立ち上がる(離陸する)ときには一番最後で、後退する(着陸する)ときには一番最初、という特徴を言い表したものである。もっとも、こうした地方経済の大都市圏に対する従属性、劣位性は徐々に変化しているように思う。最近の景気基準日付をみると、秋田県と全国とでかつてほどの時間差はなくなっている。一昨年の東日本大震災後の経済の動きをみても、当地経済が単なる下請けに止まらず、全国、いや世界的なサプライ・チェーンにビルトインされていることが分かる。このところの欧州債務危機をはじめとした世界経済の動きに対しても、直接の輸出がなくとも世界の需要変化の影響を受ける企業が結構多い。原油や穀物価格の変動についてもしかりである。
このように、当地が大手企業の下請け経済であるとの性格は薄まっている。逆に、工夫次第では、従来の発注先に依存することなく、新たな先に製品を納入したり、海外の需要を直接獲得することが可能になるなど、当地経済の自律性が高まっている。
ただ、この点は他の多くの地方にも同様に当てはまる。秋田にとっては、親離れする代わりに、親の力を借りずに他の地域と競争することを迫られている。
(秋田にしかない価値を)
こう考えると、上述の「秋田疲弊マインド」に対する処方箋もみえてくる。すでに多くの指摘があるように、当地の強みや潜在性を前向きに捉えることが必要であろう。しかし、それに止まらず、「他の地域に打ち勝つ」という意識を強く持つべきである。
誤解を恐れず言えば、豊かな自然や食文化、さらに再生可能エネルギーなどの地域資源は、何も秋田だけの強みではない。東北の隣県はもちろん、北海道や山陰、四国、九州にもライバルは多い。これらの地域は、高齢化や人口減少といった悩みも共通に抱えており、その対策にしのぎを削っている。新しい成長の可能性や「課題先進県」であることをいくら唱えても、そこに安住していればあっという間にライバル達に先を越される状況である。
秋田の素材に魅力があることは論をまたない。しかし、素材だけでは勝負にならない。この豊かな素材をもとに「秋田にしかない価値」を生み出し、観光客や産業界の目を秋田に向けさせることが重要である。価値の創造は新たな商品や技術の開発に限らない。情報の集積という道も有効であろう。例えば、高齢化社会の経験と対応策に関する情報を秋田のみならず全国から集め、秋田から常に最新の動向を発信する。データベース構築や定期的なシンポジウムの形をとってもよい。「高齢化の問題なら秋田に行けば何でも分かる」との認識が広がればしめたものである。高齢化に悩む自治体や世界各国から注目が集まるだろう。高齢化に関するビジネスも秋田を拠点に発展する。そうなれば、関連業界の雇用も拡大し、地域に元気がもたらされる。
言うは易し行うは難しではある。しかし、当地には長きにわたって地域活性化論議を重ねてきた自負と意地があるはずである。秋田経済へのフォローの風を活かしつつ、地域間競争を勝ち抜き、秋田が活気づくことを強く期待したい。
(日本銀行秋田支店の概要)
1 代表者名 | 支店長 清水 誠一 |
---|---|
2 所在地 | 秋田市大町2丁目3番35号 |
3 電話番号 | 018-824-7800(代表) 018-824-7815(お札や硬貨に関する照会) 018-824-7819(国庫金に関する照会) 018-824-7802(各種公表資料や金融経済に関する照会) |
4 Fax番号 | 018-888-1070 |
5 URL | https://www3.boj.or.jp/akita/ |
6 設立年月日 | 1917年8月1日 |
7 職員数 | 45名 |
8 業務内容 | 総務課:地域の金融経済情勢の把握(情報収集・分析)、広報、内部管理 発券課:銀行券・貨幣の受払、損傷通貨の引換 業務課:金融機関との当座預金の受払・貸出等の取引、国庫金の受払 |