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農業分野における秋田県女性起業の現状

 本県農業の重要な担い手となっている女性農業者は、一方で活発な起業活動家でもある。起業件数こそ、かつての全国一の座は譲り渡したものの、依然として高い水準を維持しているほか、近年は、活動内容の複合化が進むなど質的な変化もみられる。本稿では、本県女性農業者の起業活動の現状と特徴を探った。

1 はじめに

 2010年農林業センサスによると、本県の農業就業人口(販売農家)に占める女性の割合は50.3%と半数を超え、本県農業および地域社会を支える重要な担い手となっている。60歳以上が73.4%(65歳以上は59.0%)となるなど、高齢女性に頼らざるを得ない本県農業ではあるが、一方で、この農村女性の活発な起業活動が本県の大きな特徴ともなっている。

2 起業数

 平成21年度以降は、隔年調査となったが、農林水産省では9年度以降「農村女性による起業活動実態調査」を行っており、その結果をみてみると(ちなみに、全国調査が行われなかった21、23年度の数字は東北農政局で行った独自調査の結果である。以下、特に表示がない限り、年度は全て平成)、本県の起業数は14年度から20年度まで7年連続で全国一となっていた。しかし、本県の起業数が19年度の442件をピークに減少に転じた一方で、東北平均、全国平均とも増加傾向が続いたことから、21年度には宮城県(424件)に首位を譲り、東北2位となっている。この年は全国調査が行われなかったことから、全国での順位は不明だが、翌22年度には岩手県(421件)にも抜かれ東北3位、全国6位となっている。全国調査がなかった23年度も東北3位は変わっていない(宮城県433件、岩手県431件)。起業件数減少の主な要因は、新たな直売所の開設に伴う統廃合、会員の高齢化による活動停止などが考えられるが、それでもなお、400件台は維持しており、本県女性の起業件数は高水準にあるといえる。
 このように、全国トップクラスの起業数を誇る本県女性農業者であるが、地域別でみると仙北地域が突出して多くなっている。これは朝市や直売所などの流通・販売部門、農産加工や農家民宿・レストランなどの加工・交流部門のいずれでも同様である。以下、平鹿、秋田、由利地域が続いている。ただ、直売や食品加工等の活動数では流通・販売、加工他とも、仙北地域に続くのは北秋田地域となっている。
 起業してからの年数をみると、12年度以降に経営を開始した業歴10年未満程度の若い先が本県(55.7%)、東北(59.5%)ともに最も多くなっているが、昭和49年度以前に起業してから40年近くたっている老舗とも呼べる先が6先あるほか、昭和年代から頑張っている先も42先存在する。

3 起業形態と構成

(1)起業形態別
 起業先を形態別にみると、本県は個人経営の割合が徐々に増えてはいるものの、全体の3割程度で、圧倒的にグループ経営が多くなっている。一方、東北全体では個人経営の割合の増加が著しく、14年度にはほぼ本県と同様だった個人経営が、直近の23年度ではグループ経営を逆転している。本県の特徴の一つとして、グループ経営の多さがあげられるが、これは、本県では以前から地産地消活動などを伴う生活研究グループの活動が盛んで、そうしたグループが母体となって起業活動に結び付いたことが関係していると思われる。
 グループ経営の多い本県ではあるが、法人化の割合は低く、1割に満たない8.1%(33先)となっている。しかし、17年度調査では法人化していたのはわずか2先(有限会社と企業組合)だけだったことと比べると、大幅に増加しているともいえる。同年度の調査では法人化の意向も質問し、23先が法人化の意向があると回答していたが、それらの先の殆どが法人に移行したと思われる。東北農政局によると、法人形態としては農事組合法人が7先(21.2%)、株式会社が5先(15.2%)で、残りは全て有限会社やNPO法人などの「その他」に分類されており、東北全体でみた場合、株式会社(34.0%)と農事組合法人(15.1%)が約半数を占めているのとは対照的である。
 増加しているとはいっても、依然として法人割合が少ない理由としては、後述するように小規模経営で、メンバーの高齢化も進んでいることから、会計処理など法人化に伴う煩雑さを嫌うなど、法人化への必要性やメリットを感じられず、個人経営や任意グループを選択する例の多いことがうかがわれる。

(2)構成メンバーの人数
 グループ経営の先について、構成メンバーの人数をみると、19人未満の小規模グループが7割弱を占めている点は、ここ10年間殆ど変わりなく、東北全体でも同様の状況が続いている。一方で、14年度には1先もなかった100人以上のグループが23年度には15先(5.3%)も出てきており、50人以上のグループ(8.9%)も合わせると14.2%と、全体としては小規模経営が主体となっているなかで、大規模化も着実に進展し、2極化ともいえる動きとなっている。

(3)売り上げ規模
 小規模が主体ながら、一方で大規模化、法人化も着実に進んでいる本県女性起業ではあるが、それでは、年間の売り上げ規模はどうなっているのだろうか。23年度調査では100万円未満の先が最も多く、24.4%と約4分の1を占めている。次いで多い300万円未満を合わせると47.2%で約半数が零細規模ということになる。しかし、その割合は14年度(57.6%)以降着実に減少しており、1,000万円以上を売り上げている先の推移からも、売り上げの上方シフトの進んでいる様子がみてとれる。特に、5,000万円以上の売り上げ層が23年度には30先と14年度(15先)に比べて倍増しているほか、本表では不明だが、県・農林政策課(以下、県)の調べでは3億円台の1先と2億円台の3先を含めた1億円以上の売り上げを計上している先が18先あるなど大規模グループの大型化の進展も特徴的である。

(4)平均年齢
 次にメンバーの平均年齢の推移をみると、14年度では50歳代と60歳代が拮抗していたが、23年度は60歳代が飛び抜けて多くなり、70歳代以上も合わせると、60歳以上が72.4%と7割を超えて、年齢層が一段と高くなっていることが分かる。ただ、17、20年度には全くなかった20歳代が23年度には2先出るなど、若手女性による起業の兆しも出てきている。直売・加工いずれも、メンバー個々の体力などに合わせた活動が可能なことから、高齢女性でも比較的取り組みやすい分野である。しかしながら、今後の起業活動の維持、発展を考えたとき、若手女性による新たな起業、既存グループへの加入促進は重要課題であり、今回の若手の参入は明るい話題といえる。

4 活動内容

(1)東北農政局調べ
 東北農政局の調査から活動内容をみてみると、各年度とも、直売や朝市、農家民宿等での直売コーナーなどの「流通・販売活動」と「食品加工」が最も多くを占めているが、この傾向は近年、より顕著になっている。また、最近の特徴として、東北全体と同様に、食品加工や、流通・販売を中心に、複数部門に取り組む複合化ともいえる事例が増加しており、特に本県でこの進展が目立っている。

(2)県・農林政策課調べ
 これについて、県の資料を元に少し詳細にみると、農産物直売や農産加工が大半を占め、14年度比で増加している状況は東北農政局調査と同様である。また、農村女性がオーナーとなっている農家民宿や農家レストランも大幅に増加しているが、特に、加工体験や体験農場など農作業体験を組み込んだ「その他」に分類される活動に取り組む先が急激に増えてきていることも最近の特徴である。もう一つの大きな特徴としては、起業数は9.1%増にもかかわらず、延べ活動数は73.9%増となっていることで、ここからも1つの起業先が直売、農産加工、農業・農村体験、レストラン等複数部門に取り組む事例が増え、活動数が増加している様子が如実にみて取れる。こうした動きと歩調を合わせるように、起業活動による売り上げも83.5%増と倍増近い伸びとなっている。

a 直売を主要な活動としている先の概要
 複数の活動を手掛けているなかでも、直売を主要な活動と回答している先は167先あるが、通年営業を行っている96先で、参加人数(約5,000人、84.2%)、販売額(44億円、93.5%)ともに殆どを占めている。県によると、23年度の直売による販売額1億円以上の先は17先と全体の約1割で、5割は1,000万円以下の小規模経営となっている。また、販売額1億円以上の直売組織の特徴としては、全て通年営業であること、道の駅内への出店や敷地内に併設している組織が4割で、上位の直売所では、宅配や外販のほか、体験交流等によって地域外からの顧客を集めるなど集客に努めていることなどがあげられる。つまり、上位の多くが加工部門や農家レストランを併設したり、顧客に加工体験をさせるなど、交流拠点・地域農業の情報発信の場として、地域活性化の拠点となりつつあることも、特徴の一つとなっている。

b 加工等を主要な活動としている先の概要
 同様に、加工等活動の概要をみると、参加平均人数は4.2人と通年直売活動の1割弱の少人数経営となっており、販売額も直売活動の2割弱の8.4億円(1先当たりでは3百万円程度)に過ぎない。なかには毎年の販売額が2億円を超える大型組織もあるが、大半は小規模な活動にとどまっている。活動の内訳では、食品加工を主体とする加工部門が201先と大半を占めているが、食品加工組織のおよそ半数は個人経営であり、全体的に規模が小さい。これは、産直施設等へ納入するための食品加工を行っている小規模先が多いことの表れと思われる。その他では、民宿・体験とレストランの体験交流部門が41先となっている。県では、女性農業者がオーナーとなった農家民宿や農家レストラン等は、グリーンツーリズムへの関心とともに、新たな起業活動として注目されており、農家民宿を通した農業体験や直売活動を通した学校給食への食材提供は、子供たちへの地域の農業と食文化を伝える「食育活動」等への取り組みとして期待される部門としている。

5 まとめ

 小誌では以前、17年度の実績を中心に、同様の分析を試み、その際に、グループの高齢化や小規模販売が多い点などを課題として取り上げた。今回、6年後における実態をみたが、基本的な課題は残ったままとなっており、それが、起業数全国一を譲る原因にもなっている。しかし、そうしたなかでも、20歳代での起業が現れ、大規模組織が増加するなどの明るい動きもみられた。何よりも、複数活動に取り組むことで、活動内容の質を高めようとする動きが顕著に現れていることは、将来に明るい希望を感じさせるものである。
 県では、本県の女性起業について、①主力は直売活動と食品加工活動で、全体件数の約9割を占めるが、なかでも女性たちが培ってきた知識や技術を活かした農産加工活動への取り組みは、直売所でもニーズが高く、商品開発意欲も年々向上している。また、②販売が増加している上位直売・加工組織は、観光客等地域外顧客率の高い直売所や、宅配・出張販売・量販店等のインショップで店舗拡大している組織などであり、地域外の顧客の確保は、販売拡大の重要な要素である―などとしている。
 こうした点を考えると、今後は、品揃えや接客等での魅力を高めることが課題である。より一層の売り上げ増加を目指して、顧客層の変化に対応するとともに、リピーターを増やすべく、売り場作りの工夫や、他と差別化できる商品開発などが求められよう。上位組織を除いて、活動に陰りのみられる先もあることから、起業件数にこだわることなく、近隣組織との合併や協働も含めて、組織のあり方を考えていく必要もある。
 今秋に予定されている秋田デスティネーションキャンペーンや来年度の国民文化祭では、県外からの多数の来客が期待できる。こうした機会を逃すことなく、更なる女性パワーを発揮して、「起業」から「企業」への脱皮を加速させるグループの増加に期待したい。

(佐々木 正)

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