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市町村民経済計算にみる「平成の大合併」以降の県内市町村の現状

 先月15日、『平成22年度秋田県市町村民経済計算年報(秋田県調査統計課)』が公表された。「平成の大合併」により、県内の69市町村あった自治体数が25市町村に再編されるなど、県内の市町村の枠組みが大きく変わるなか、このたびの市町村民経済計算の推計結果と、合併がピークを迎えた17年度の翌18年度のそれを比較しながら、県内の各市町村の経済規模や産業構造、所得水準が、合併を経てどのように変化したのか、計数に基づき現状について概観する。

1 市町村民経済計算とは

 市町村民経済計算は、国のGDP統計(国民経済計算)や県の県民経済計算の市町村版にあたり、県内市町村の経済全体を見渡すことができる唯一のマクロ統計である。即ち、各市町村を単位として、財やサービスなどの生産活動によって一定期間に新たに生み出された「付加価値(=総生産)」を、「生産」と「分配(所得)」の両面から推計したものである。(ここでいう付加価値とは、具体的には、生産された財やサービスの産出額から原材料や部品代などの中間投入分を差し引いたもの。)推計にあたっては、県民経済計算の県値を用いて各市町村の水準を示す各種統計指標から按分して算出する。
 この統計からは、県内の各市町村の経済規模や産業構造、所得水準など、市町村においてどのような産業がどの程度の付加価値を生み出しているか(市町村内総生産)、生み出された付加価値が生産活動に参加した個人や企業の所得としてどのように配分されているか(市町村民所得)を、数値等で客観的に知ることができる。
 ただ、公表時期は推計に用いる基礎資料の制約等もあり、対象年度終了後の概ね2年経過後のこの時期となる。

2 市町村内総生産及び市町村民所得の推移

 平成18年度から22年度における県全体の市町村内総生産及び市町村民所得の実額と増加率の推移をみてみると、19年度までは何れも比較的堅調に推移していたが、20年秋の米国経済の悪化に端を発した、いわゆる「リーマン・ショック」を境に、プラス・マイナスの振幅が大きいものとなっている。18年度に約3兆8千億円あった総生産額は21年度には約3兆5千億円と、約3千億円(凡そ横手市一市の規模)をも失う結果となった。翌22年度は、こうした急激な経済悪化からの回復途上にあって、総生産額、所得ともに18年度以来4年ぶりのプラス成長となったものの、未だ回復の緒に就いたばかりという状況であった。

3 市町村内総生産の状況

 市町村別の経済規模を示す市町村内総生産の平成22年度、18年度の両年度について、人口規模の状況とともにみてみると、22年度の総生産額で上位市町村の状況をみてみると、秋田市が1兆2,538億円(平成18年度1兆3,404億円)と県全体(3兆5,261億円)の約3分の1を占め、秋田市への一極集中が顕著に表れている状況に変化はない。以下、横手市が3千億円台、次いで大仙市、大館市、由利本荘市、能代市が2千億円台で続いており、上位6市で、県全体の総生産額の72.6%(同71.4%)のシェアを占めている。このなかで特に注目すべき点は、能代市の総生産額が18年度と比べて市部で唯一増加していることである。これは、この間誘致された医薬品製剤の新工場が操業を開始し、当市の総生産に大きく寄与したことが表れたものと考えられる。
 また、22年度の総生産額を人口規模と比較してみると、総生産額のシェアは18年度同様、概ね人口シェアに近いものとなっているが、秋田市が35.6%(平成18年度35.0%)と人口シェアを5.8ポイント上回っている。また、能代市が0.8ポイント上回っているほか、電子部品・デバイス関連の製造業が集積するにかほ市が0.6ポイント上回っているのが目立っている。
 人口一人当たりの総生産額では、大潟村が5,627千円(平成18年度5,821千円)で最も多く、次いで小坂町が5,003千円(同5,908千円)、にかほ市が4,003千円(同5,363千円)の順。18年度に比べトップが入れ替わったものの、上位5市町村の顔ぶれは変わっていない。

4 市町村別総生産の主な経済活動別の状況

 県全体の市町村内総生産は、卸・小売業では大きな変動はないものの、農業の不振に加え、構成割合の比較的高い製造業が「リーマン・ショック」に伴う世界的な需要縮小の影響を受け2割程度大きく落ち込んでいる。市町村別に主要な産業の総生産をみてみると、
(1) 平成22年度の農業は横手市のシェアが16.0%(平成18年度15.7%)、大仙市が12.8%(同12.6%)、秋田市が6.8%(同5.1%)となっているほか、町村では大潟村が5.7%(同6.5%)、羽後町が4.1%(同3.5%)を占めており、上位市町村間にそれほど大きな開きはない。このなかで、秋田市が18年度に比べ1.7ポイント上昇し、逆に大潟村がシェアを0.8ポイント下げているのが目立っている。
(2) 製造業では、秋田市が24.9%(同22.3%)、横手市が11.4%(同9.7%)、にかほ市が10.6%(同16.8%)と、上位3市で県全体の5割近くを占めている。このほか、大館市が医療機器・医薬品製造関連の一段の集積により、18年度の5.7%から9.1%まで3.4ポイント上昇し急激にシェアを高めているのが目を引く。総じて、にかほ市や由利本荘市など製造業のウエイトが高い市部で減少幅が大きい状況となっている。
(3) 卸売・小売業では、秋田市が18年度に比べややシェアを落としたものの、県全体の半分近いシェアを占め、突出して高い状況に変わりはない。以下、横手市が9.4%、大館市7.5%、大仙市7.3%と続いており、農業や製造業に比べ市部の順位に変動は少ない。

5 市町村民所得の状況

 ここまでは総生産の面から各市町村の現状をみてきたが、新たに生み出された付加価値(=総生産)は雇用者報酬および財産所得、企業所得として分配される。労働力を提供した人に対して分配されるのが賃金(雇用者報酬)であり、他に地代、利子などの財産所得と、企業利潤である企業所得からなるのが市町村民所得である。したがって、市町村民所得は市町村民個々人の所得(給与)だけではなく、企業の利潤を含む市町村民経済全体の水準を表すものであることに留意が必要である。
 市町村民所得の状況をみてみると、平成22年度の所得の高い市町村をみると、やはり秋田市が8,979億円(平成18年度9,474億円)で最も高く、次いで横手市が2,085億円(同2,242億円)、由利本荘市が1,894億円(2,134億円)と市部が上位を占めている。
 一方、市町村の所得水準を比較するときによく使われる「一人当たり市町村民所得」では、大潟村が2,905千円(同3,182千円)で最も高く、以下、秋田市2,775千円(同2,855千円)、にかほ市2,655千円(同3,051千円)の順となっており、この3市村が県平均(2,291千円)を上回っている。因みに同年度の一人当たりの国民所得は2,752千円で、県内においてこれを上回るのは大潟村、秋田市の2市村のみである。

6 まとめ

 平成17年にピークを迎えた「平成の大合併」から8年が経過し、合併の功罪両面が様々に指摘されるなか、合併が落ち着いた18年度と直近の22年度における市町村民経済計算の推計データをもとに、県内の各市町村の経済規模や産業構造、所得水準がどのように変わったかをみてきた。
 この間、バブル景気崩壊以降では最も大きな経済変動を招いた「リーマン・ショック」の及ぼす影響などもあり、県都秋田市の県域に占める重みが突出して高い状況に変わりはないものの、県内市町村間の経済力格差(市部と町村間)がより鮮明に表れる形となっている。
 もとより、県内市町村の順位付けを意図したものではないが、今後、人口減少と少子高齢化の更なる深刻化が見込まれるなか、行財政の効率化や県全体の最適化等を見据え、より広域的な自治体運営が求められる。

(加賀谷 信也)

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