「地域再生」を巡っては、必ずしも企業誘致等による産業振興策ばかりでなく、最近は住民の日々のくらしやコミュニティの充実を図る側面からアプローチする試みも、全国的に広がっている(本誌2012年6月号「『過疎化と地域再生』を考える」参照)。その具体的方向の一つとして注目を集めている取組が、地域固有の伝統文化や芸術振興等を通じての新たな地域づくり活動である。こうした観点からの振興施策については、本県でも総合計画「ふるさと秋田元気創造プラン」の一角に据えて目下注力しているところであり、国民文化祭の地元開催を明年に控えるほか、とりわけ少子高齢化や過疎化進行など地域衰退への対策も急がれる折りだけに、その成果が期待される。
機関誌「あきた経済」
伝統文化の振興と地域再生~地域活性化の新しい潮流~
1 伝統文化に恵まれた秋田県
「秋田県」といえば、全国では一般にナマハゲやかまくら、竿燈まつり、秋田美人、地酒、きりたんぽ等々、比較的郷土色の濃いアイテムで地域をイメージされることが多い。産業や経済面から連想されるケースの少ないことは残念なところだが、逆に言えば、それだけ本県は「文化や芸能・行事、食などを巡り伝統的風韻の強い土地柄である」ことが、広く認識されている様子を示すものでもあろう。
実際、こうした伝統文化の分野では、本県には全国に誇り得るものが数多く残っている。例えば、年中行事や民俗芸能を対象に国が指定した「重要無形民俗文化財」の数は16件に上り、これは全国ダントツの1位、また、人口当たりの祭りの件数が全国最多という報告(*1)もある。さらに、かねてより本県は「民謡の宝庫」、「食の宝庫」として知られるほか、各種アンケート結果によるランキングなどでは、角館武家屋敷通りや大曲花火大会、稲庭うどん等、各々の部門で上位に並ぶ観光地や行事、郷土食の例も少なくない。
その他にも工芸品や遺跡、民話の多さ等(*2)数えれば様々挙げられ、産業経済面ではやや精彩を欠く部分があるにしても、伝統文化の豊かさということでは、本県は紛れもなく全国有数の位置にある。
実際、こうした伝統文化の分野では、本県には全国に誇り得るものが数多く残っている。例えば、年中行事や民俗芸能を対象に国が指定した「重要無形民俗文化財」の数は16件に上り、これは全国ダントツの1位、また、人口当たりの祭りの件数が全国最多という報告(*1)もある。さらに、かねてより本県は「民謡の宝庫」、「食の宝庫」として知られるほか、各種アンケート結果によるランキングなどでは、角館武家屋敷通りや大曲花火大会、稲庭うどん等、各々の部門で上位に並ぶ観光地や行事、郷土食の例も少なくない。
その他にも工芸品や遺跡、民話の多さ等(*2)数えれば様々挙げられ、産業経済面ではやや精彩を欠く部分があるにしても、伝統文化の豊かさということでは、本県は紛れもなく全国有数の位置にある。
(*1) 同志社大学教授・伊多波良雄氏「祭りを地域政策として考える」(一般財団法人地域活性化センター発行月刊誌「地域づくり(2010.7)」の掲載記事より)
(*2) 県指定文化財件数の県別比較(文化庁:平成24年5月1日現在)でみると、秋田県は美術工芸品(243件)や無形民俗文化財(47件)、遺跡(39件)等が東北・北海道の中では多く、逆に建造物(22件)の件数が少ない。また、県教育委員会が目下構築中の民話のデータベースには約7千件が収録される予定のほか、語り部の活動等も他県に比べて盛んといわれる。
2 地域活性化の新しい潮流
折しも、地方の経済・社会は少子高齢化や過疎化進行で、全国的に衰退に歯止めのかからない状況が続いている。そのため、これまでは各地域とも専ら企業誘致等による産業振興に力を注いできたところであるが、最近はそればかりでなく、住民の日常のくらしや地域コミュニティの面にも目を向け、その充実を図ることで活性化を促す方向も、広く目指すようになってきた。最近では、とりわけ各々が持つ固有の文化や伝統行事、食、芸術等の振興を通じてふるさと再生を試みる取組が官民間で活発に行われ、一つの潮流ともなっている。
これは、住民の価値観の幅が拡がって、経済的側面のみならず自然環境や文化、人間関係等を含むコミュニティ全体での充足度が、生活サイドからより重視されるようになってきた、という経緯が大枠として背景にある(本誌2012年6月号参照)。また、そのうち、特に祭りや伝統行事、郷土料理などの地域文化の振興は、地域のアイデンテティや住民の絆意識を醸成してコミュニティ基盤を強化するとともに、そのローカル的要素が他地方の人々の関心を集め、地場経済に新たな活力を呼び込む観光資源としても一躍脚光を浴びだしてきた、といった事情も大きな要因であろう。
こうした伝統文化に着目した取組は、例えば歴史や芸術、食の街づくりといった具合に各地で各様に行われているが、身近なところで近年マスコミ等に紹介されたものから幾つか拾うと、本県の場合は大館市の「アートプロジェクト ゼロダテ」や、湯沢市の「うどんEXPO」、北秋田市のバター餅による地域起こし事業、昨年初めて開催された上小阿仁村の「大地の芸術祭」等が、その好例といえよう。また、青森県では十和田市現代美術館のモダン・アートや八戸市の朝市等が有名であり、その高い集客力がしばしば紹介される。山形県鶴岡市の庄内映画村、山形市で開催の「食の甲子園」、仙台市の「仙台クラシックフェスティバル(通称:せんくら)」等も、同様の趣旨で行われているものであろう。
なお、こうした取組は村起こしレベルの小規模なものから、都市再生を企図する広範囲なものまで多彩であり、特に後者については、仙台市や札幌市等幾つかの都市が「文化都市宣言(*3)」を行い、市政の中核的施策に据えて推進している。さらにその上位では、兵庫県や徳島県など県全体で「文化立県」を宣言し、県をあげて取組に専心している地域もみられる(*4)。
これは、住民の価値観の幅が拡がって、経済的側面のみならず自然環境や文化、人間関係等を含むコミュニティ全体での充足度が、生活サイドからより重視されるようになってきた、という経緯が大枠として背景にある(本誌2012年6月号参照)。また、そのうち、特に祭りや伝統行事、郷土料理などの地域文化の振興は、地域のアイデンテティや住民の絆意識を醸成してコミュニティ基盤を強化するとともに、そのローカル的要素が他地方の人々の関心を集め、地場経済に新たな活力を呼び込む観光資源としても一躍脚光を浴びだしてきた、といった事情も大きな要因であろう。
こうした伝統文化に着目した取組は、例えば歴史や芸術、食の街づくりといった具合に各地で各様に行われているが、身近なところで近年マスコミ等に紹介されたものから幾つか拾うと、本県の場合は大館市の「アートプロジェクト ゼロダテ」や、湯沢市の「うどんEXPO」、北秋田市のバター餅による地域起こし事業、昨年初めて開催された上小阿仁村の「大地の芸術祭」等が、その好例といえよう。また、青森県では十和田市現代美術館のモダン・アートや八戸市の朝市等が有名であり、その高い集客力がしばしば紹介される。山形県鶴岡市の庄内映画村、山形市で開催の「食の甲子園」、仙台市の「仙台クラシックフェスティバル(通称:せんくら)」等も、同様の趣旨で行われているものであろう。
なお、こうした取組は村起こしレベルの小規模なものから、都市再生を企図する広範囲なものまで多彩であり、特に後者については、仙台市や札幌市等幾つかの都市が「文化都市宣言(*3)」を行い、市政の中核的施策に据えて推進している。さらにその上位では、兵庫県や徳島県など県全体で「文化立県」を宣言し、県をあげて取組に専心している地域もみられる(*4)。
(*3) 東京都豊島区「文化創造都市宣言」(2005年)、札幌市「創造都市宣言」(2006年)、仙台市「創造と交流 仙台市都市ビジョン」(2007年)、浜松市「未来へかがやく創造都市・浜松」(2007年)等々、文化・芸術を核とした街づくりを施策の中心に据えて積極的に取り組む例が増加傾向にある。なお、こうした取組を行う街を総称して、「創造都市」という呼称も使用される。もともとは海外から入ってきた概念であるため馴染みの薄い名前だが、何れ文化・芸術振興により都市再生に取り組む趣旨のものである。
(*4) 徳島県、鳥取県、愛知県、兵庫県等。なお、国が進める「クール・ジャパン」計画も、広い意味ではこれらの延長線上にあるものといえる。
3 秋田県の取組状況
本県においては、とりわけ人口減少と高齢化の進展が急で、しかも農山漁村地域の衰退が深刻な状況にあるだけに、その周辺を含む地域一帯の活力アップが、一層焦眉の課題となっている。
このため県は、平成22年度スタートの総合計画「ふるさと秋田元気創造プラン」において、地域再生の取組を施策の柱の1つに据える傍ら、伝統文化や食、歴史資産等の活用を取り入れて、観光と一体で推進する方向を打ち出した。また、23年度には「秋田文化ルネサンス宣言」を行い、「伝統芸能・各種文化財など地域に根付く文化を守り育てていく」こと、および「若手アーティストの育成・支援を通じた地域のにぎわいの創出」に努めることを明らかにするとともに、平成26年秋の「第29回国民文化祭・あきた2014」に向けて、集中的に進めていく方針も示している。
他方、市町村段階においても、もとより多くが地元伝統文化の振興を活性化施策の一つに据えて取組しており、その内容を各々のホ-ムページで紹介している。因みに、文化庁が平成23年度から始めた「文化遺産を活かした地域活性化事業」に計画を申請・採択され、その補助を受けながら実施している県内自治体の取組の一覧をみてみると、そこに並ぶ地域の拡がり、事業内容等からも、こうした方面に傾ける市町村の意欲の高さが窺い知れる。
なお、伝統文化に限ったものではないが、農山漁村地域の活性化促進を目的に、県では「元気ムラ県民運動」も実施中である。これは、県内の各集落が主体的に取り組む「元気な地域づくり」活動について、県の専門班がキメ細かく支援を施す趣旨のもので、目下、全県にわたって活発な運動が展開されている(*5)。事業の種類は農山村における新ビジネス開拓から集落と県民間の交流促進まで多様であるが、本運動の運営サイト(*6)に紹介されている実施例をみると、伝統芸能・行事、歴史、および食に関連する内容のものも多く、地域再生の方向を巡っては、集落や住民自身もこうした分野を重視している様子が強く窺われる。
(*5) 21市町村・47地域・201集落
(*6) 「がんばる農山漁村集落応援サイト」
このため県は、平成22年度スタートの総合計画「ふるさと秋田元気創造プラン」において、地域再生の取組を施策の柱の1つに据える傍ら、伝統文化や食、歴史資産等の活用を取り入れて、観光と一体で推進する方向を打ち出した。また、23年度には「秋田文化ルネサンス宣言」を行い、「伝統芸能・各種文化財など地域に根付く文化を守り育てていく」こと、および「若手アーティストの育成・支援を通じた地域のにぎわいの創出」に努めることを明らかにするとともに、平成26年秋の「第29回国民文化祭・あきた2014」に向けて、集中的に進めていく方針も示している。
他方、市町村段階においても、もとより多くが地元伝統文化の振興を活性化施策の一つに据えて取組しており、その内容を各々のホ-ムページで紹介している。因みに、文化庁が平成23年度から始めた「文化遺産を活かした地域活性化事業」に計画を申請・採択され、その補助を受けながら実施している県内自治体の取組の一覧をみてみると、そこに並ぶ地域の拡がり、事業内容等からも、こうした方面に傾ける市町村の意欲の高さが窺い知れる。
なお、伝統文化に限ったものではないが、農山漁村地域の活性化促進を目的に、県では「元気ムラ県民運動」も実施中である。これは、県内の各集落が主体的に取り組む「元気な地域づくり」活動について、県の専門班がキメ細かく支援を施す趣旨のもので、目下、全県にわたって活発な運動が展開されている(*5)。事業の種類は農山村における新ビジネス開拓から集落と県民間の交流促進まで多様であるが、本運動の運営サイト(*6)に紹介されている実施例をみると、伝統芸能・行事、歴史、および食に関連する内容のものも多く、地域再生の方向を巡っては、集落や住民自身もこうした分野を重視している様子が強く窺われる。
(*5) 21市町村・47地域・201集落
(*6) 「がんばる農山漁村集落応援サイト」
4 伝統文化の振興と地域活性化
以上のように、伝統文化の振興及びそれを通じた地域活性化事業については、県内各方面で取り組まれている。しかし、一方でその成果となると、「地域再生」を実現して賑わいを取り戻した事例が、明確なものとしては未だ周囲にみられないことも、また残念ながら事実である。それどころか、各地域では参加者や後継者の不足から、伝統文化・行事の維持に腐心する先さえ稀ではなく、昨年は100年以上の歴史を持つ「大名行列」の催しについて、中止を余儀なくされた例(*7)もみられた。
実際、県内人口は減少基調に依然改善の兆しがなく、本年2月1日現在では遂に105万人台にまで落ち込んだとの発表が、先頃、県からなされたところである。また、県内への観光客入込み数も、東日本大震災の影響もあろうがここ数年低調であるなど、現段階で関連指標類から活性化進展の跡を確認することは難しい。もちろん伝統や芸術等の振興活動そのものが新しい地域の文化となり、活動の盛り上がり自体が活性化に繋がっている面はあるにしても、再生事業としての本来的目標は、やはり指標に示される実経済面での成果を伴ってこそ達成されるものであり、各地域が真に期待する姿もそうしたレベルのものと思われる。
従って、明年の国民文化祭開催を機会に、我々としては経済面での前進をも念頭に、改めて取組に注力する必要があろう。因みに、先にも記したとおり、本県は他に誇り得る独自文化を数多く擁し、また、そうした地域イメージが全国的に認知されてもいる。このため、このアドバンテージを観光と絡めて活用・PRして行けば、逐次交流人口の拡大を促し、将来は他県と一味異なる地平を拓くことも可能と思われるが、ただし、そのためにはまず我々県民自身が地元文化の価値に理解を深め、経済振興の切り口からポテンシャル実現に強く取り組むスタンスとすることが前提である。それが、次の展開に向けた第1のステップとなろう。
なお、こうした分野は多くが地域の文化催事に由来し、経済効果を追及する事業類とは元々性格が異なるという面も、一方に存在する。近年の地域再生の試みが、これまで必ずしも期待される成果を挙げ得なかった背景には、そうした事情で取組が一過性になりがちなことの他、内容も地域毎にバラバラで観光資源としての価値は小粒に止まるという要因も、一つあったものと思われる。従って、今後経済面の実効を伴う活性化を進めるに際しては、地域同士が広域で連携して取組の体系化・組織化を図り、成果を相乗的に高められる仕組みとすることも必要で、そのための基盤を県内に作る工夫が第2ステップとして求められる。
この点について先述の「文化立県」を目指す地方では、文化事業を産業政策と一体で進めるための組織的なプラットホームを県レベルで設けている例(徳島県)や、財団を設立して行政と地域の橋渡し役としている例(鳥取県)等がみられ、本県にも参考となろう。
要は、豊富な好素材をうまくコーディネートし、県全体で価値ある形にして提供する工夫が必要ということであり(*8)、今後は国民文化祭ほかの取組にその観点も込めて一層の地域文化向上に努め、併せて地域再生面も進展させられるよう期待したい。
(*7) 由利本荘市の本荘八幡神社祭典
実際、県内人口は減少基調に依然改善の兆しがなく、本年2月1日現在では遂に105万人台にまで落ち込んだとの発表が、先頃、県からなされたところである。また、県内への観光客入込み数も、東日本大震災の影響もあろうがここ数年低調であるなど、現段階で関連指標類から活性化進展の跡を確認することは難しい。もちろん伝統や芸術等の振興活動そのものが新しい地域の文化となり、活動の盛り上がり自体が活性化に繋がっている面はあるにしても、再生事業としての本来的目標は、やはり指標に示される実経済面での成果を伴ってこそ達成されるものであり、各地域が真に期待する姿もそうしたレベルのものと思われる。
従って、明年の国民文化祭開催を機会に、我々としては経済面での前進をも念頭に、改めて取組に注力する必要があろう。因みに、先にも記したとおり、本県は他に誇り得る独自文化を数多く擁し、また、そうした地域イメージが全国的に認知されてもいる。このため、このアドバンテージを観光と絡めて活用・PRして行けば、逐次交流人口の拡大を促し、将来は他県と一味異なる地平を拓くことも可能と思われるが、ただし、そのためにはまず我々県民自身が地元文化の価値に理解を深め、経済振興の切り口からポテンシャル実現に強く取り組むスタンスとすることが前提である。それが、次の展開に向けた第1のステップとなろう。
なお、こうした分野は多くが地域の文化催事に由来し、経済効果を追及する事業類とは元々性格が異なるという面も、一方に存在する。近年の地域再生の試みが、これまで必ずしも期待される成果を挙げ得なかった背景には、そうした事情で取組が一過性になりがちなことの他、内容も地域毎にバラバラで観光資源としての価値は小粒に止まるという要因も、一つあったものと思われる。従って、今後経済面の実効を伴う活性化を進めるに際しては、地域同士が広域で連携して取組の体系化・組織化を図り、成果を相乗的に高められる仕組みとすることも必要で、そのための基盤を県内に作る工夫が第2ステップとして求められる。
この点について先述の「文化立県」を目指す地方では、文化事業を産業政策と一体で進めるための組織的なプラットホームを県レベルで設けている例(徳島県)や、財団を設立して行政と地域の橋渡し役としている例(鳥取県)等がみられ、本県にも参考となろう。
要は、豊富な好素材をうまくコーディネートし、県全体で価値ある形にして提供する工夫が必要ということであり(*8)、今後は国民文化祭ほかの取組にその観点も込めて一層の地域文化向上に努め、併せて地域再生面も進展させられるよう期待したい。
(*7) 由利本荘市の本荘八幡神社祭典
(*8) 県・観光文化スポーツ部がそうした面を含めて総括的に進めているため、今後が期待される。
(高橋 正毅)