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本県の子育て支援

  本県は自然環境、居住環境、教育の各面で優れた点を持ち、暮らしやすく、子育てしやすい環境といえる。しかし、出生数が死亡数に届かずに人口の自然減少が続き、しかも減少率も高いことから、少子化対策は県政の最重要課題となっている。このため本県では、平成22年度から25年度までの4年間『ふるさと秋田元気創造プラン』の中で、「県民が一丸となって“脱少子化秋田”を果たす」ことを目標に、「県民参加による脱少子化戦略」を実践している。本稿では、本県の子育て環境整備の現状と課題についてレポートする。

1 本県の子どもを産み・育てる環境

 秋田県は、豊かな自然に恵まれ、持ち家比率が高く、1住宅当たりの延べ面積も全国トップレベルの広さとなっている。教育面においても、平成19年度に再開された小・中学生の全国学力状況調査では、24年度まで毎回、トップクラスの成績を収めているほか、体力・運動能力、運動習慣等調査でもトップクラスとなり、注目を集めている。本県は、自然環境、居住環境、教育の各面で優れた点を持ち、暮らしやすく、子育てしやすい環境といえる。
 秋田県の子どもを産み・育てる環境に関する主な指標をみてみると、全国平均との比較では、秋田県は、平均初婚年齢が夫(全国26位)、妻(同22位)ともに早く、第1子出産年齢(同13位)も早くなっている。また、共働き世帯割合(同11位)が高くなっているが、0~5歳人口10万人当たりの保育所数(同15位)も全国平均を上回っているほか、三世代世帯割合(同3位)が高く、夫の育児時間も全国1位となるなど、本県においては、家族のサポートのほか、保育環境の整備等により、子どもを産み・育てる良好な環境がイメージできる指標が並ぶ。
 しかし、将来人口を大きく左右する出生率は、18年連続で全国最下位となったほか、婚姻率も13年連続で全国最下位となった。合計特殊出生率は1.37となり、3年連続で上昇したものの、平成19年以降、全国平均(1.41)を下回っており、少子化克服、人口増加という点においては、厳しい状況が浮き彫りとなった。
 平成24年の本県の人口(総務省統計局、10月1日現在)は106.3万人で、自然減少率は0.77%と全国一高く、社会減少率も0.35%となった。人口減少率は1.13%で、福島県(※1)(1.41%減)に次いで、全国で2番目に高くなった。また、国立社会保障・人口問題研究所の将来人口予測によると、秋田県の人口は2040年(平成52年)に70万人(平成22年比35.6%減少)にまで減少すると発表され、大きな衝撃を与えた。
(※1) 福島県は原発事故の影響を受け、人口減少幅が拡大(平成22年 -0.61%、23年 -1.93%。)。

2 本県の子育て支援の水準

 婚姻率と出生率が全国最下位にとどまり、合計特殊出生率も全国平均を下回って推移する背景には、全国的な傾向である未婚率の上昇、晩婚化、晩産化などが本県においても進行していることがある。秋田県の平均初婚年齢について、過去10年間の推移をみると、夫は平成15年の29.1歳から24年の30.5歳へ1.4歳上昇し、妻は同期間で27.2歳から28.8歳へ1.6歳上昇した。また、本県の第1子出産年齢は、平成14年の27.7歳から29.3歳へ1.6歳上昇した。
 加えて、構造的な問題として、1970年代以降、進学、就職による若者の県外流出が長く続いていることによる“親となる年齢層の減少”が、現在の出生数減少に大きく影響している。
 こうした問題に対し秋田県は、県内に働く場が少ないことが人口流出の大きな要因と捉え、企業誘致や地場産業の振興、就職支援、職場環境の整備等に長年注力してきた。

(1)経済的支援
~子ども1人当たり助成額は全国第1位
 本県の子育て世帯への経済的支援についてみると、福祉医療費助成については、これまで、就学前の乳幼児のいる家庭のみを対象としていたが、平成24年8月1日から、その対象を小学6年生まで拡大したほか、所得制限も大幅に緩和した。保育料助成についても、他の都道府県と比べて年齢や出生順位、入所施設を問わず助成対象範囲を広く設定しており、施設入所する子どもの約9割が対象となっている。
 平成25年度の当初予算額をベースとした福祉医療費助成額と保育料等助成額を合わせた本県の支出額は約20.1億円である。0~12歳の子ども1人当たりに換算すると、本県は19,235円で、47都道府県の単純平均7,377円を大幅に上回り、全国で最も高くなっている。子育て家庭の負担を減らし、子どもを安心して産み・育てられる環境を整えるための手厚い経済的支援が実施されていることが分かる。
 なお、福祉医療費と保育料の助成制度は県と市町村が協力して実施するものである。

(2)保育環境の整備
 保育環境の整備については、全国に先駆けて導入を進めてきた「ファミリーサポートセンター事業(※2)」や「認定こども園」などがある。
(※2) 子どもを“預けたい人”と“預かる人”とが会員になり、子どもの送迎や急な預かりなどの援助を行い、子育て家庭を地域で支えるシステム。
 内閣府が実施した「全国自治体の子育て支援施策に関する調査」(平成25年3月)では、先進的取組み事例として、秋田市が設置・運営する「子ども未来センター」と「在宅子育てサポート事業」が紹介されている。
 各都道府県の子育て支援については、保育所や幼稚園に通う子どもへの支援が多いなかで、在宅で子育てをしている家庭への支援は、県内外で高い評価を得ている。また、子ども未来センターの利用者は増加傾向にあるほか、在宅子育てサポート事業については、利用者を対象としたアンケート調査において、77%が「満足している」と回答した点も評価される。

(3)民間事業者の取組み
a 子育てタクシー
 平成23年10月1日から運行開始となった「子育てタクシー」は、チャイルドシートの装着や子どもとの接し方を学ぶ講座、保育実習など、様々な講習を修了し、全国子育てタクシー協会から認定を受けたドライバーが、乳幼児を伴う外出サポートや子どもだけの送迎を行ったり、産院や救急病院への移動を助けるサービスで、現在、全国26都道府県で運行されている。  平成25年5月末現在の県内の登録ドライバー数は95人。利用登録者数は増加が続き770人となっている。累計運行回数は2,888回で、子ども1人での通園、通学、通塾等の送迎を行うサービスが全体の約8割を占めている。家族以外の手助けを必要とする世帯が多くあるものの、核家族化等で地域の繋がりが薄れている昨今、保護者の目線によるドライバーのサポートが利用者から好評を得ている。しかしながら、まだ認知度が低く、今後のPR次第では、更なる利用者増加が見込まれる。
b 脱少子化モデル企業
 県では、少子化克服において他の模範となる企業等を「脱少子化モデル企業」としている。若者の県内定着への取組みをはじめ、事業所内託児所の運営や育児休業制度の充実、休業後の職場復帰への支援など、働きやすく、子育てしやすい職場づくりに取組む企業の紹介やその成果を広くPRすることで、若者が秋田の魅力ある企業を発見し、地元定着に結びつくことを狙いとしている。平成23年度は29社、翌24年度は31社がモデル企業になった。
 いずれの取組みも、仕事と育児・家庭の両立に向け大きな助けとなっている。

3 ふるさと秋田元気創造プラン

 秋田県は現在、平成22年度から25年度までの4年間を推進期間とする「ふるさと秋田元気創造プラン」を推進中であり、本年が最終年度となる。このプランの4つの目標の1つとして、「県民が一丸となって“脱少子化秋田”を果たす」ことを掲げ、4つのプロジェクトを設けている。少子化克服に向けた意識醸成、若者の県内定着、出産・子育て環境整備等に止まらず、若者の出会いの場づくりや結婚支援にまで踏み込んだ総合的な取組みを行っている。
 平成23年4月には、結婚を希望する独身男女を支援するため「あきた結婚支援センター」が設立された。25年5月末現在の登録会員数は1,633人を数え、24年度の成婚報告者数は142人と、目標の100人を上回るなど大きな成果が上がっている。25年度の成婚目標は150人で、今後の動向が注目され、全国最下位となっている婚姻率の上昇も期待される。
 県は「脱少子化」の最終的な目標として、平成25年に年間出生数が16年並みの8,000人となることを掲げている。22年以降の年間出生数は依然として減少が続いているほか、目標達成率は22年が91.0%、23年は89.4%、24年は85.5%と低下が続いており、25年の最終目標値8,000人の達成は非常に厳しいといえる。

4 県民の意識と評価~アンケート調査から

 秋田県子育て支援課が平成22年に実施した「子育て環境と意識に関する調査」では、理想の子どもの数が3人と回答した人が55.4%となったが、現実の子どもの数(予定を含む)が3人と回答した人が24.5%、2人と回答した人は55.6%となった。理想と現実の子どもの数に差がある理由としては「子どもを育てるのにお金がかかる」(67.0%)が最も多く、次いで「年齢的な理由等で不安が大きい」(31.5%)、「育児の体力的な負担が大きい」(30.9%)など、経済面、体力面での不安を理由に挙げる人が多くみられた。
 また、秋田県が発表した平成24年度「県民意識調査」によると、少子化対策について「十分である」(0.4%)と「概ね十分である」(2.0%)を合わせた人は2.4%と少ない。一方、「不十分である」(31.5%)と「やや不十分である」(35.9%)を合わせた人は67.4%を占めた。年代別では、子育て世代である30代で不十分と感じる人の割合が最も高くなっている。
 「ふるさと秋田元気創造プラン」における“県民参加による脱少子化戦略”を対象とした平成24年度政策・施策評価結果については、数値目標である出生数が未達成であること、県民意識調査における県民の満足度が低かったことなどから全体の評価は「やや遅れている」となったが、施策ごとの評価は「概ね順調」という評価が並んでいる。
 高卒者の就職後3年以内の離職率や「あきた結婚支援センター」の成婚報告者数、認定こども園等の幼保一体的運営施設数など、出生数以外の各施策は概ね順調に推進され目標値をクリアしているほか、合計特殊出生率が平成22年以降、3年連続で上昇したことは、本県が、様々な観点からの幅広い取組みを地道に続けてきた結果であり、今後の県民意識にも好影響を与えると思われる。

5 まとめ

 官民挙げての少子化克服への取組みは、指標や具体的な取組み事例からも分かるように、整備が進み、全国的にみても先進的に進められている。しかし、県民意識調査での評価が低いほか、婚姻率や出生率のように、未だ十分な結果が得られていないものも多い。人口構造上の問題は短期間で解決できるものではなく、特効薬はないといわれる。しかしながら人口減少、少子化は、地場産業や地域社会の活力を弱め、県勢の衰退を招く非常に大きな問題であることを、改めて認識する必要がある。
 前述の県民意識調査の結果と政策・施策評価結果のギャップが何を示し、県民が具体的に何を望んでいるかを検証し、一つ一つ地道に解決していく努力が必要である。
 まず、非正規雇用の増加や本県の所得の低さなどが婚姻を阻害しているとの指摘もあることから、雇用の改善・安定、産業振興などに、より一層力を注ぐ必要がある。また、これまで本県が行ってきた少子化克服に向けた施策を地道に続けることも重要である一方、今後は、子育て世帯の意識の変化や求めるものを正確に把握し、各施策を利用しやすいよう改善を加える必要がある。子育て世帯それぞれが、その時々で必要とするサービスを選べるなど、対象世帯に選択権を与える方法も考えられよう。子育て世帯にまんべんなく均一に行き渡るこれまでの施策は、変革の時期を迎えているのかもしれない。
 少子化克服に向け、前例にとらわれることなく、常に新しい発想で施策を生み出し、実行することで、「課題先進県」として手本を示したいところである。

(佐藤 由深子)

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