経営随想
時代が求めるもの造りを
(株式会社イトー鋳造 代表取締役社長)
弊社は社名の通り鋳物製品を製造する会社であります。鋳物とはあらかじめ作った型に金属を溶かして流し込み品物を造るもので、青銅器文明から変わらない手法です。現在は、鋳型に砂を用い、鉄系の金属を溶解して流し込む鋳物の生産量が最も多く、弊社もこの方法によって水道用鋳鉄異形管や輸送機部品などを製造販売しております。
水道管を製造している関係からインフラには関心があるところですが、例えば水道管の更新率は全国平均で1%程度です。1%とは100年に1回取り換えるということですが、現在全国で約62万km埋設されている水道管はその材質を問わず100年はもちません。従って今の更新率のままだと、将来、蛇口をひねっても水の出ない所が出てくるという事です。水道事業の一端に携わる者として憂慮しておりましたが、これは水道管路だけの問題ではありません。
笹子トンネルの天井板崩落事故で一挙に表面化しましたが、トンネルや橋なども大半が建設から半世紀前後にさしかかってきています。補修しなければいけない、補修個所を見つけるべく点検している、とニュースにありますが、コンクリートも鉄材も寿命をむかえているのですから「補修」という問題ではないと思います。「更新」しなければならないのではないでしょうか。しかし日本の高度成長期に次々と構築した現在のインフラがこれから先、財政難と少子化を迎える局面でどの程度維持できるか極めて疑問です。
水道用鋳鉄管でいえば、平成10年の生産量72万トンをピークに年々5~6%総需要が減り、現在は25万トン程度です。デフレの時期と重なる訳ですが、単にお金だけとも思えません。
水道管の更新率は地方、田舎にいくほど低下する傾向にありますが、この背景にあるのは少子化ではないかと思います。将来その町や村が大幅に人口減少すると考えた時、現状のインフラをどの程度維持していくかは実に難しい課題です。
その上もう一つ考慮に入れなければならないのは災害に対する備えです。最近の異常気象或いは予想される大震災に対する備えをも含めて包括的にインフラの再構築を考える必要があると思います。
さらにもの造りの空洞化の問題です。弊社は輸送機部品、特にトラック部品の生産量が全体の3分の1を占めますが、輸出車の現地生産が進み、部品は現地調達に切換わりつつあり、いわゆる国内製造業の空洞化は避けられない状況です。
我が国の生産構造はピラミッド型の頂点に大企業があり、企画、開発、設計、組立、営業などを受け持ち、部品の実作は下請孫請と多数を占める中小企業が支える構造でしたが、このボトム部分、実作部分をコストの問題から今まで築いてきた体制を放棄し海外に頼らざるを得なくなりました。親企業に続いて一部の力ある下請中小企業が海外に進出しても、現業の作業員は現地の人です。国内に残る中小企業及び従業員はどう生きるか考えなくてはなりません。直接輸出をする大企業は貿易収支の他に海外への投資の見返りの膨大な所得収支がありますが、しかし大企業とそれらへのサービス提供の産業だけで日本の国が成り立つとは思えません。
最近「米国の製造業が国内回帰を始めた」という記事を読みましたが、米国はかって製造業の衰退によってかなり弱った印象でした。それをIT産業や後にマネーゲームと呼ばれる様々な金融商品を開発する事で「米国式資本主義」を構築し、なんとか世界に君臨し続けてきました。ここにきてシェールガス、シェールオイルの登場でエネルギーが大幅に安くなり、国内生産でも採算が取れるという事です。製造業の復活で米国は再び名実共に世界最強の国家になるのだと思います。
夢として我が国のメタンハイドレートなどが将来、今の米国式に当てはまらないかなどと考えてしまいますが、しかしどの様な状況になっても、国内の製造業の基盤はしっかりとしていなければならないと思います。いずれにせよ、生産なくして経済は成り立ちません。消費者はイコール生産者であり生産なくして消費はありません。
ここまで弊社の製造しているものを通して変化する事業環境を述べてまいりましたが、これらの状況は既に読者の皆様はご賢察されている事です。ただ私はこのような環境下でどう生き残るのか生き残る条件を模索しています。
しかしながら決して悲観はしておりません。もの造りが国内から無くなるとは思いませんし、少子化といっても欧州の大国は人口6,500万人~8,200万人ですから、2050年の日本はそれに並ぶだけの事です。
もの造り中小企業が時代の最先端をいく事は無理があります。なにより先端を走るリスクに耐える力を持っていません。しかし時代に遅れないようについて行かなければなりません。時代が要請するものを造る、その為に必要な投資をし、技術・技能を習得し、さらに付加価値を高めていく、地道に日々向上していく事が生き残るための条件と考えております。
(会社概要)
1 学校法人名 | 株式会社イトー鋳造 |
---|---|
2 代表者名 | 代表取締役社長 伊藤和宏 |
3 所在地 | (川尻工場)〒010-0941 秋田市川尻町字大川反170-73 (七曲工場)〒019-2611 秋田市河辺戸島字七曲台120-20 |
4 電話番号 | (川尻工場)018-862-3573(代) (七曲工場)018-881-1081(代) 11 営業所 |
5 Fax番号 | (川尻工場)018-863-1932 (七曲工場)018-881-1089 |
6 設立年月 | 昭和43年11月5日(創業 明治21年) |
7 資本金 | 1,000万円 |
8 年 商 | 22億2,810万円(平成24年度) |
9 従業員数 | 101名 |
10 事業内容 | 水道用ダクタイル鋳鉄異型管製造販売、トラック他輸送機械の部品製造 |
11 営業所 | 東京、大阪、新潟、秋田 |