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秋田県の水産業の現状と課題

 本県の水産業は、約150種の魚介類が漁獲される一方で漁獲量が少なく、市場の要求を満たすことができずに、県内で流通している県産魚の割合が低いほか、漁業者が減少し、高齢化も進んでいるなどの問題も抱えている。本稿では、こうした本県水産業の現状を各種統計資料から明らかにするとともに、課題解決に向けた県をはじめとする関係者の取り組みなどを探った。

1 秋田県水産業の全体像

 本県は西部を日本海に面し、海岸線の延長は263㎞で、これに沿って6市2町がある。男鹿半島と県北部および県南部の一部は漁業に適した岩礁海岸だが、これを除く大部分の海岸は平坦な砂浜海岸となっている。本県の海岸線延長は、東北では宮城県(842㎞)、青森県(749㎞)、岩手県(709㎞)に次いでいる。(平成15年3月31日現在、水産庁ホームページ)

 本県水産業の県内生産額を平成13年度以降(以下、年号は断りがない限り平成)でみると、一貫して減少が続き、23年度と13年度の比較では15億円(41.7%)も減少している。一方で、減少が続いていた県内総生産額合計は21年度以降下げ止まり、横ばい水準となっているが、農林水産業について、水産業以外をみると、農業はコメの作況や価格動向によって動きが大きいほか、林業は増加傾向が続いている。

 水産業の県内生産額(22年度)を東北各県と比較すると、日本海側(本県、山形県)と太平洋に面した4県では文字どおり桁違いの格差がみられる。本県の23億円は最高の宮城県(426億円)のわずか5%にすぎない。
 22年の国勢調査結果によると、本県水産業の就業者数は877人と全就業者の0.2%で、東北(0.6%)、全国(0.3%)と比して割合は小さい。また、年代別にみても、60歳以上が59.4%と6割に迫っており、農業就業者とともに、高齢化割合は突出している。
 水産加工品の県内産業に占める割合では、約10億円の冷凍水産食品を含めた各品目とも製造品出荷額等全体の0.1%に満たない水準となっている。事業所が1社のみのため数値が公表されていない水産練製品を除いた水産加工品合計でも38億円と、同じく0.3%にすぎない。また、事業所数、従業者数でも全産業に対する割合が合計で1%前後と、本県産業において低位にあるといわざるを得ない。

 水産業は海面と内水面(河川や湖沼)に分かれ、さらに漁業と養殖業に分類されるが、最近5年間の生産量の推移をみると、本県水産業全体の生産量約1万トンのうち、海面漁業が95%前後と殆どを占めており、内水面漁業や養殖業は極めてわずかである。また、全体として減少しているなかでは、海面養殖業の収穫量が増加傾向にあることが特徴的である。
 以上、各種指標に表れる水産加工業も含めた本県水産業の現状は、本県経済のなかでは、生産額、事業所数、高齢化が顕著な従業者数ともに、極めて小さな割合を占めるにすぎない。以下、漁業種別に詳しくみていく。

2 海面漁業の現状

 本県漁業の殆どを占める海面漁業の経営体は、平成20年の漁業センサス(農林水産省統計部)によると、966経営体で、最盛期の昭和53年(1,772経営体)から、ほぼ半減している。うち個人が894経営体と92.5%を占め、団体では、小型定置網の共同設置を主体とする共同経営が52経営体と最も多く、比較的規模の大きい会社組織は19経営体で全体の2%程度である。漁船階層別としては、エンジンの付いていない無動力漁船と取り外しのできるエンジンを付けた船外機付漁船も含めて10トン未満の漁船を使用している割合が漁船使用816経営体のうち778経営体(95.3%)にのぼる。本県漁業は小規模経営体が殆どを占め、沿岸漁業への依存度が極めて高いことが読み取れる。

 漁業経営体で最も多い個人(自営漁業者)894経営体の内容をみると、基幹的従事者は男子が99.7%を占め、女子は3経営体のみである。60歳以上が7割を超え、70歳以上も4割近くになるなど、漁業経営でも高齢化の進展は著しい。また、専業漁業者は3分の1程度で兼業が圧倒的に多く、漁業経営のみで生活を維持することの困難さも垣間見られる。

 22年の海面漁業漁獲量9,533トンの自治体別では男鹿市が半数を占め、にかほ市と八峰町が同程度で、岩礁海岸を持つ市町の漁獲量が多くなっている。

 23年の漁獲量が主に100トン以上だった魚種をみてみると、全体9,456トンのうち魚類が7, 688トンと8割を占め、カニ、貝、タコ等で残り2割となっている。主要魚種のうち、漁獲量の多い上位5魚種はハタハタが1,983トンで、13年以降漁獲量第1位を維持し、次いでマダラが926トン、マアジが673トン、カニ類が581トン、ブリ類が508トンとなり、これら5魚種で総漁獲量の約5割を占めている。1,000トンを超えているのは県の魚でもあるハタハタ(1,983トン)とタラ類(1,069トン)の2種類だけで、単一魚としてはハタハタのみである。フグ類は88トンで全体の1%程度、なかでも「北限の秋田ふぐ」として近年脚光を浴びている高価で市場性の高いトラフグは6トン程度である(県・水産漁港課)。
 金額ベースでも魚類が27億円と4分の3近くを占め、そのうちハタハタが7億円と群を抜いている。次いで、ヒラメ・カレイ類、貝類がおよそ1割で続いている。養殖業は量、額ともに漁業の1%程度の位置づけとなっている。

3 内水面漁業の現状

 内水面漁業でも、個人が221経営体中206経営体と93%を占め、その殆どが湖沼漁業を営んでいる。一方で会社等の団体は、その全てが養殖業となっている。
 23年の本県の主要な河川、湖沼での漁獲量は321トン、このうち、ワカサギを中心にした魚類が99.4%を占め、シジミ、エビ等の貝類はごくわずかだった。本県のワカサギの漁獲量247トンは青森県(418トン)、茨城県(416トン)に次いで全国3位である。養殖業では、ニジマス等のマス類が6割で、コイ、アユが続いているが、量的には全体でも100トンに満たない状況にある。

4 流通

 秋田市公設地方卸売市場(以下、同市場)の24年における水産物の取扱高を県内産・県外産別にみてみると、最も取り扱いの多い鮮魚では、全体で約1万トンのうち県内産は18.1%と2割に満たず、8割以上は県外産となっている。これは金額ベースでも同様で、冷凍魚と塩干加工品ではさらに県外産の割合が高く9割程度となっている。
 なお、本県の産業連環表からみても、17年の漁業の県内調達率は35.5%と大幅な移入超過となっている。
 また、前述のとおり、本県の漁業、養殖業の生産量は年間約1万トンであるが、このうち、同市場での取扱量は2,744トンと3割を切っている。県では独自の聞き取りから、他市場での取り扱いや直売、量販店等への直接出荷等を含めても、ハタハタを除く県内生産量の6割程度は仲買業者を通じて県外へ移出していると推計している。県内水産業は魚種は豊富だが、ハタハタを除き漁獲のロットが小さく、盛漁期が比較的短いという特徴がある。このため、県外産魚が安値で大量に入荷してくる半面、県産魚は比較的高値で売れる首都圏などの大消費地を目指すという傾向があると推測されている。
 移入元の都道府県をみると、鮮魚は数量、金額とも北海道産が多く、冷凍魚および塩干加工品は宮城県産が多く入ってきている。

 合計でも宮城県産が4分の1を占め、トップである。本県産は数量ベースでは鮮魚2位、冷凍魚3位、塩干加工品4位、合計で2位となっている。金額ベースでの本県産は品目別では全て3位だが合計では2位という状況にある。

5 ハタハタ

 本県で最も多く獲れ、県の魚として親しまれている最重要魚種のハタハタについてみてみる。漁獲量の推移を昭和40年から大まかにみると、昭和38年から13年間連続して1万トンを超えていたが、41年にピークの20,607トンを漁獲した後、減少傾向が続き、51年には前年比半減するとともに1万トンを割り込むに至った。その後、漁獲量の減少は加速し、58年には一気に1千トンを割り込み、354トンと41年の2%以下の水準となった。その後、数年間は200トン前後で推移していたが、平成3年には過去最低の71トンまで落ち込んだ。このため、資源の枯渇を恐れた県内漁業者は、平成4年9月から7年9月まで、3年間の自主的な全面禁漁に踏み切った。解禁後は県の資源量予測に基づき、漁業者が漁獲枠を設けて操業を行っている。また、産卵藻場の造成、人工種苗の放流等により、資源の維持に向けた取り組みを継続して行っている。
 その結果、16年には3千トンを超えるなど、近年復活の兆しもあるが、盛期には遠く及ばず、最近では設定した漁獲枠に届かない年も出てきている。
 24年のハタハタの秋田市公設地方卸売市場での取り扱いは数量で657トン、金額で467百万円だが、およそ3分の2は秋田県産である。しかし、北海道や石川県からもほぼ1年を通して、入荷されている。本県の漁獲量1,289トンからすると、同市場での取り扱いは3割程度であるが、直売等を含めるとおよそ9割程度が県内で消費されているものと県では推定している。

 本県では、県の魚として親しまれているハタハタではあるが、全国的な認知度は低く、食べ方も知られていない馴染みのない魚でもある。このため、ハタハタの販路拡大を図り、全国への流通を目指して県とハタハタ加工業者などは「県ハタハタ加工産業振興協議会」を今年6月に設立した。近年、人口減少や食習慣の変化に伴い、ハタハタの消費量が減少していることから、協議会では東京都内での商談会に共同で出展するなど、県外でのハタハタの売り込みを目指している。
 このほか、県でも大型で新鮮な「秋田ハタハタ」を本県のブランド魚として首都圏に売り込むため、全国規模の商談会に出展しているほか、同じハタハタ産地である鳥取県と連携しての「秋田・鳥取 うまいぞ!ハタハタフェスティバル」や、飲食店フェアなどを開催し、首都圏におけるハタハタの知名度アップを図っている。

6 その他の本県特産魚

 本県には、ハタハタだけでなく、産卵場が本県沿岸にあるトラフグ、マダラ、マダイ等のほか、漁獲量が全国トップクラスのイワガキ、ギバサや、河川でふ化放流に取り組むサケ、サクラマスなど特色のある特産魚種が存在しており、県ではこれらを大事な漁業資源として育てていきたいとしている。
 このため、例えば「北限の秋田ふぐ」では県内飲食店等への普及を進めるとともに、生産拡大に向けて、トラフグ種苗の生産・放流を行うなど、新たなブランド確立に向けた足がかりを構築している。
 このほかにも、漁獲量が少なく県民にも知名度は低いものの、深海魚のノロゲンゲや「棒アナゴ」として知られるクロヌタウナギ、さらにはクロモなど、本県の特産としてマスコミなどで紹介され注目を集めている資源もある。

7 県の取り組み

 数値的には、決して大きな存在とはいえない本県水産業ではあるが、県では、衰退に歯止めを掛け、維持・存続のため様々な施策を施している。
(1)担い手の確保
 本県漁業を持続させるには、意欲ある担い手の確保が重要である。しかし、実際には漁業就業者数は年々減少を続けているほか、漁業就業者の年齢構成は60歳以上が約6割を占めるなど、高齢化も進行しており、後継者不足が深刻な問題となっている。県水産漁港課の調べによると、23年度の新規就業者は7人で、うち35歳未満の若手新規就業者は4人となっており、近年は一定程度の新規就業者が認められる。ただ、減少を食い止めたり、高齢化に歯止めをかけるには到底不足しているのも事実である。そこで、県では、漁業就業者の確保に向け漁業技術の習得研修や、「漁業就業者確保育成センター」を設置するなど、新規就業者の発掘および定着を進めている。
(2)漁港漁場の高度利用のための整備
 本県には計22の漁港(県管理10港、市管理12港)があり、漁港漁場整備計画(14年~28年)に基づき、整備を進めている。水産基盤整備事業では、効率的に漁獲を行うための魚礁漁場および魚介類の資源増大を目的とした増殖場の造成も行っており、24年度から33年度までの10年間の計画で実施している。
(3)「つくり育てる漁業」の積極的な推進
 漁業生産の安定化を図るため、22年度に「第六次栽培漁業基本計画」(22~26年)を策定し、栽培漁業を推進している。水産振興センターでは、ハタハタ、トラフグの種苗生産試験およびガザミの種苗生産・販売を、(公財)秋田県栽培漁業協会では、マダイ、ヒラメの種苗生産・販売と放流用クルマエビ、アワビの種苗生産・販売を行っている。本県では水産資源の維持・増大を図るため、栽培漁業の重要性が高く、今後も継続的な種苗放流が必要である。
 特にサケについては、人工種苗のみで資源が支えられていることから、継続的にふ化放流事業を行うための仕組みづくりを支援している。
(4)旬の地魚ブランド力向上への取り組み
 本県では、多種多様な魚介類が漁獲されており、通常流通されているものだけで約150種におよぶ。しかしながら、いつ、どこで獲られるのか、どうやって料理すればいいのかについては、あまり知られていない。そこで、県では、23年度から、地魚を活用したモニターツアー(旬の地魚ツアー)や「地魚料理教室」などを開催し、県民への理解を深める取り組みを行っている。また、地魚は、観光資源としての活用が期待されており、本県はその種類が豊富であることから、四季折々に漁獲される旬の地魚とともに、購入できる鮮魚店や、地魚を主体に提供している食事処をコメント付きで紹介する地魚マップを作製し、消費活動を促している。同時に、消費者の魚離れを食い止め、地魚の魅力を伝えようと、「秋田の地魚セミナー」、「あきたの地魚・旬の魚検定」等々、様々な事業に取り組んでいる。

8 まとめ

 本県水産業については、多品種少量なため、コンビニ漁業と揶揄する向きもある。確かにロットがまとまらず、漁期や天候などに左右されるため、量販店や外食業では取り扱いにくい面もある。しかし、本県には、ハタハタ以外にも、漁獲量は多くないものの、特色のある特産魚が少なからず存在している。
 県外流出の多い一般魚種の地産地消を図るとともに、特産魚については首都圏を中心とする大消費地へ売り込んでいくという、両面作戦が求められるなかで、県内向け、県外向けの施策を着実に行って、消費者の魚離れを防ぐとともに、特色ある県産魚への関心を高めていく必要があろう。
 また、特産魚については、一気に漁獲量を増やすことは現実的ではないが、「秋田ブランド魚種」として売り込むためにも、ストーリー性を持たせるべきと考える。「北限のモモ」、「北限の茶」とともに、「北限」シリーズとして「北限の秋田ふぐ」や「北限のマダイ」を売り込むほか、イワガキについても「秀峰・鳥海山や世界遺産・白神山地の伏流水で育まれた秋田のいわがき」などと謳うことで、ハタハタに次ぐ特産品づくりを目指すことができるのではないだろうか。そのためには、「秋田ブランド魚種」の安定生産などトップブランドを目指した産地づくりを着実に進める必要がある。
 また、近年、農林水産業の6次産業化が喧伝されているが、本県においては佃煮や「しょっつる」、ハタハタの飯寿司など6次産業化は伝統的に行われてきている。しかし、品質、大きさ等原料が安定的に確保できないことも影響し、佃煮等一部を除くと加工業は比較的零細である。水産加工業の基盤強化や拠点施設の整備などをテコ入れするとともに、新たな加工品を開発することで、本県食品加工業のけん引役へ成長させることも可能と考える。

(佐々木 正)

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