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秋田県の「地域づくり」活動

 「地域づくり」活動は、本県も含め今や全国で広く行われているが、その一方で多くの地域では依然人口減少が止まず、雇用機会も少ないままである。活動自体は活発でも「地域づくり」の目標が最終的には地域全体の発展、活性化であることを考えると、こうした状況は取組の多くが必ずしも適切な方式ではなく、また、現在の内容では今後も望ましい地域振興を図ることが難しいのではないか、という危惧さえ生じさせている。これまでの活動の何処に隘路があり、今後どのような方向を目指すべきか等について改めて考えてみた。

1 全国の動向

 少子化進行や若者の流出等から「地方」では人口減少と高齢化の流れが止まらず、多くの地域で地場経済の停滞に加え、コミュニティ機能の低下や財政の硬直化といった問題が深刻化しつつある。とりわけ山間部や離島など交通不便な地区は衰退への傾斜も急で、近頃では「限界集落(*1)」の様相を帯びだした箇所も少なくない。
 このため、改めて地元の魅力を高め、活性化を促進しようとする「地域づくり」活動が、全国各地で広く行われている。こうした地域振興の取組は、一般には経済的側面からアプローチされるケースが多く、「地域おこし」の代名詞ともなった大分県の「一村一品運動」(1980年)を草分けに、地元行政とその住民、および商工会、農漁協、企業、NPO等々、様々な団体やメンバーによりこれまでも懸命に進められてきた経緯にある。
 もとより、これらの取組を巡っては国や県の支援も厚く施され、例えば国の関係では、総務省が「定住自立圏構想(*2)」に係る総合的な振興施策から、個々の集落を対象とした「地域おこし協力隊事業(*3)」まで幅広い後押し策を講じてきている。また、農林水産省や経済産業省等でも各種の補助金を設け、6次産業化、農商工連携を軸にした地場産業振興と経済的自立の支援を行っているほか、最近では各種規制に捉われず大胆に地域振興を進めるという趣旨で、特区制(*4)による事業も内閣が主導し進めている。さらに、各県レベルでも同様、国の施策に沿った地域支援・活性化事業を、何処もキメ細かく実施している。
 ただし、そうした中にあり、行政主導色の濃い一連の計画とは別に、小振りでも地元が主体的に振興に取り組もうとする気運も、一方で急速に拡がりつつある。これは、地域づくり活動の最近の特徴ともいえるもので、実際、国や県の支援を得つつも、具体的な事業に当たっては、地元関連者同士が内発的に取り組む事例が増えている。その具体的な活動の例としては、主に次のような種類のものがみられる。
①地場産品、地域ブランドの開発・製造・販売や、郷土料理、観光農園、農漁業体験その他に関連した新たな事業開拓
②伝統行事、芸能、史跡や伝説または温泉などの地域資源を活用した観光推進
③アニメ、ゆるキャラ、ご当地ヒーロー・アイドル、街コン、地域グルメ等イベント関連による活性化
④地域講座・学習会、フィルムコミッション、芸術・音楽会等の文化事業
⑤里山保全や棚田再生、地域のガーデニング、廃校・空き施設等の地域交流拠点としての活用など、環境保全・地域社会への貢献
 以上の他にも実際には様々な取組の形態があり、目下、各地で活発に進められている。ただし、こうした地域づくり活動の隆盛は、一方では地域間競争を助長する面も持ち、従前から存在した「地域力」の格差をますます顕在化させるとともに、処によっては「地域づくり」、「地域おこし」を巡る過当競争の様相を生み出す一因にさえなっている。また、全国的に拡がった活動の中にはブーム化したものもあり、「地域グルメ」や「地域通貨」等に関連した一部事例のように、時間経過とともに消えてしまったものも、近頃は少なからずみられる状況である。

(*1) 公式の定義はなく、一般的には「65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占め、共同体機能が低下している集落」を指す。県では、これを「小規模高齢化集落」と名づけている。
(*2) 人口5万人程度以上などの条件を満たす中心市と周辺市町村が、相互に役割分担し、連携・協力することにより、圏域全体で必要な生活機能を確保し、地方圏への人口定住を促進する自治体間連携の取組。
(*3) 自治体が3大都市圏等から都市住民を受け入れ、地域おこし協力隊員として委嘱し、一定期間以上、農林漁業の応援、水源保全・監視活動、住民の生活支援等の地域協力活動に従事してもらいながら、当該地域への定住・定着を図る取組
(*4) 特区とは、従来法規制等の関係で事業化が不可能な事業を、特別に行うことを可能にさせる地域をいい、事業推進には税制面の優遇措置なども施される。2002年に構造改革特区(小泉内閣)、2011年に総合特区(管内閣)、2013年に国家戦略特区(安倍内閣)が創設され、このうち国家戦略特区については近く対象地域の指定が始まる見込みである。従来は地域振興の意味合いが強かったが、国家戦略特区は海外都市との競争力アップを目指す面が強められている。

2 秋田県の「地域づくり」活動

 人口減少のスピードが速い秋田県は、25市町村のうち既に20市町村が「過疎地域(*5)」の指定を受けるなど、過疎化進行を巡る深刻度合もひと際高い状況にある。事実、人口減と高齢化が重なり合いながら進む農山漁村では、近年、地域活力の低下やコミュニティの縮小が加速し、特に中山間地においては限界集落化する地域も増えている(*6)。それだけに、農山漁村の振興と再生は、本県の最も基本的かつ喫緊の課題の1つであり、各地元もその推進施策を巡りかねて腐心を重ねてきたところである。しかし、全般的な地域力の低下とともに各市町村の台所事情も一段と厳しさを増している折から、これまでのような財政措置を支えとした新たな産業開拓や、行政サービスによる生活支援拡大等を図る余地は、何処も乏しくなっているのが実情である。
 このため、秋田県では平成22年、長期総合計画「ふるさと秋田元気創造プラン」において改めて地域づくりに全力を傾けることとし、「協働社会構築戦略」のもと、行政や大学、企業、NPO等多様な主体が協働して進めることを、その基本施策に定めた経緯にある。また、今般、それに続く第2期計画(平成26年~29年)においても、さらに取組を強化する趣旨から「人口減少社会における地域力創造戦略」として、県政を巡る今後の重点6戦略の一つに据えている。
 これら長期プランには、具体的な取組項目として多くが挙げられているが、そのうち主なものでは、地域再生・元気創造プロジェクトの展開のほか、「元気ムラづくり」事業、コミュニティビジネス等の起業支援、新たなビジネスモデルの創出、県民等のNPO活動への参加促進施策等々の事業が並んでいる。
 なお、県内各地域で実際に行われている地域づくりの例ということでは、大小含め相当数がある。そのうち国の各省庁の機関誌や経済団体のホームページ等では、下に掲載したようなものが紹介されている。その活動内容の多彩さと地域的広がりからは、地元の取組にかける意気込みの強さが窺われよう。

 [国の諸官庁、その他の団体のHP等で紹介されている秋田県の地域づくりの事例]

1 内閣官房国家戦略室「人口減少社会における地域づくり・まちづくりモデルの事例集(H23.7)」
 ・冷涼な気候と廃校を利用して生ハム工場を誘致(大館市)
2 国土交通省「集落地域の大きな安心と希望をつなぐ小さな拠点づくりガイドブック(H25.3)」
 ・鳥海町笹子地区「道の駅 清水の里・鳥海郷」(由利本荘市)
3 総務省「地域活性化の拠点として学校を活用した地域づくり(H25.2)」
 ・釈迦内サンフラワープロジェクト(大館市)学校を拠点とした地域づくり
4 (一財)地域活性化センターHP
 ・akitaふるさと活力人要請セミナー(秋田県)大学との連携による地域活性化
 ・サンドクラフトinみたね(三種町)アートを活用したまちづくり
 ・新屋表町通り景観まちづくり活動(秋田市)地域資源を活かした地域の活性化
 ・森林ボランティア活動(大仙市)シニア世代との協働による地域づくり
 ・なまはげの里づくり事業・なまはげ館(男鹿市)まちの顔づくり
 ・かやぶき民家集落の再生活動(八峰町)都市と農山漁村の共生・対流
5 みずほ地域経済インサイト
 ・「超神ネイガー」プロジェクト(にかほ市)地域限定キャラクター
 ・「横手やきそば」によるまちおこし(横手市)B級グルメによる地域おこし

(*5) 一般的には人影もまばらな農山村等をイメージするが、公式には人口が長期にわたって減り続けて財政力などが一定規準を下回ったような地域のことをいい、総務省が法律に基づき市町村単位で指定する。
(*6)過疎地域に指定された県内20市町村(3,989集落)を対象に秋田魁新報社が調査(平成22年11月)した結果では、少なくとも165の集落がその範疇に該当、うち9集落は臨界点を超え10年以内に消滅する可能性さえあるという。

3 「地域づくり」の成果と課題

 以上のように、目下、「地域づくり」活動は本県を含め全国至る所で活発に進められている。因みに、各々の事業取組の状況や結果については、各地の行政や事業主体が報告資料等にまとめている。それらから「成果と課題」に関する部分を適宜抜き出して整理とすると、全体的傾向については凡そ次のような点に集約できるように思われる。
 まず「成果」については、
①取組事業の進展により、新たな観光名所、名産品、ブランド品が生まれるとともに、商品販売や観光客も増加した
②地域や関連者に活気が甦えるとともに、生活の充実度も増した。また、高齢者関連のものでは、その生きがいづくり等の面でも効果をあげた
③地元への愛着、誇りが増すなど住民の意識が向上し、相互の連携が強化されるとともに地域としての主体性が増した
 といった具合に、事業の進展およびそれに伴う地域住民・関連者の生活や意識の改善、充実の進んだこと等が、全般に成果としてあげられている。実際、これらの点を彷彿とさせる事例としては、徳島県上勝町の「おばあちゃんたちの葉っぱビジネス」や、福島県いわき市の「フラダンス」による地域再生事業、大分県湯布院町の「保養温泉地」としてのイメージ発信、高知県馬事村の「ゆず加工品」製造・販売事業等々多くの有名な取組があり、そのうち前2者は住民による地域おこしの奮闘ドラマとして映画化(*7)もされ、全国で話題を呼んだ。
 本県でも、平成19年度には農村女性の起業数が全国一となるなど、コミュニティ・ビジネス創造と地域活力向上の面に成果がみられたほか、「元気ムラづくり」事業や、「地域おこし協力隊」、「集落支援員」制度等々で、住み易い環境づくりや高齢者の生きがいづくり、健康づくり面にも成果が上がったと認められている。
 一方、「課題」面では、
①地域づくりの目標が漠然としており、取組がマンネリ化している
②専門分野の人材が不足しマネジメントも不十分、活動内容や成果も自己満足のレベルに止まる
③関連者間で意欲の温度差や利害関係の相違があり、「協働」が逆に重荷になっている
 など、地域づくり活動の内容や体制に関わるもののほか、
④若者の流出や少子化進行に歯止めがかからず、依然として人口の減少が続いている
⑤地域経済の衰退が止まらず雇用機会も少ないままである
 といった、地域経済全体に対する改善効果の乏しい点についての指摘もみられる。
 確かに各地で進められている地域づくり活動において、個々の取組は順調ながら、結果としてそれが地元に雇用や人口の増加をもたらし、ひいては地域全体の発展に結び付いたという例は、残念ながら全国でも多くを聞かない。もとより当初から目標範囲を限定した取組も多いため、結果として住民の生活や意識の向上、関連者の活性化等それに対応した成果を実現したことは、高く評価されるべきであろう。しかし、一方で各地域が過疎化や人口減少対策を大きな課題とし、日夜それに向き合っている実情から考えると、この段階が目指す最終ゴールとは言えないことも、また確かと思われる。
 実は、こうした「活動が地域全体の活性化や地域経済の発展に直結していない」という点は、全国の「地域づくり」の多くに共通してみられる現象であり、活動意義の根底を穿つ問題として、従前から指摘を受けてきたところでもある。
 本県の場合も同様、個々の取組としては順調に進み、また、事業関連者や高齢者の活性化、生きがいづくり等の面に成果をみたという部分でも称揚すべき点は多いが、地域全体を活性化し、急激に進む過疎化に歯止めをかけるという「地域づくり」本来の目的からみると、必ずしも所期の成果を上げ得ていないのが実情である。

(*7) 上勝町:「人生、いろどり」2012年、いわき市:「フラガール」2006年

4 全国の実例から考える

 ここで、全国の有名な取組の中から2つの端的な事例を取り上げ、内容を少し比較してみたい。
 第1の例は徳島県上勝町で、ここは先にも記したように、「おばあちゃんたちの葉っぱビジネス」というユニークな取組内容と、その成功までの劇的過程から地域おこしの見本として全国に名を馳せている。町の衰退に危機感を抱いた農協指導員と地域の農家が、苦心の末、料亭等向けに「葉っぱ」を商品化し、その販売ビジネスを立ち上げたというストーリーが具体的内容で、当初、年間120万円弱(1999年)だった売り上げが、2006年には2億6000万円にまで拡大したと伝えられる。
 第2の例は、長野県小布施町である。ここは長野県内でも最も小さな町で、以前は過疎化に悩むごくありふれた町の1つだったが、「北斎と栗と文化のまち おぶせ」を合言葉に新たな街づくりに取り組み、今や年間120万人を超す観光客の訪れる県下有数の観光地となった、というものである。昔ながらの風情と景観に配慮した町並み整備と美術館の建設、また「小布施栗」のブランド化等に取り組み、それが軌道に乗るや、さらに「花のまちおぶせ」や「小布施農産物ブランド化」等の事業も加えて発展を重ね、現在ではいわば小布施町そのものがブランドとして通用するに至った風さえある。
 事業取組の前後を含む期間について、これら2つの地域の人口と高齢化率の推移をみてみると、まず人口については上勝町が一貫して減少し続け、その結果、最近(2010年)は1970年当時に比べ実に半分の水準にまで落ち込んでいる。一方、小布施町は近年でこそ減少気味ながら、1970年当時に比べると15%もの増加をみている。また、高齢化率についても上勝町は上昇スピードが極めて速く、2010年には52.4%と住民の半数以上が高齢者という状態に達している反面、小布施町の高齢化進捗は緩やかで、2010年の水準も28.0%と、長野県平均(26.5%)と大きく違わないレベルにある。
 双方とも地域づくりの成功例といわれながら、ここに明らかなように、人口と高齢化率からみる町勢には大きな隔たりがみられる。これらの数値が示唆するものは、一連の取組を通じ小布施町は地域全体の発展・活性化面に一定の成果を得たが、一方で上勝町は、事業としては成功したとしても、地域全体の活性化という面では必ずしも十分な成果を上げ得なかった、という具合に、同じ成功でも結果には大きな違いの生じる場合がある、ということであろう。後者のようなケースは、地域づくりに係る有名な取組事例の中にも、しばしば見られる現象である。

5 今後の「地域づくり」に求められる視点

 それではこの違いの要因となったものは何か、今後の取組の方向を考えるうえで、最も重要な箇所はまさにこの点に尽きよう。これについては、以下に述べるように、「事業」と「産業」の視点でポイントを捉えることができるように思われる。
 例えば「事業」は、それに係る団体や人々、或いは特定の商品だけで進められることが多いことから、その成功の恩恵もその範囲内で享受されるに止まる。一方、「産業」は「事業」が重層化されたものであるため、それを機軸とする地域づくりは、幾つもの事業が連携した取組となる。従って、後者では個別事業の成功が様々な取引を通じて恩恵が他の事業にも分配され、それが互いに積み重なり最終的に地域全体が潤う結果となる。改めて言うまでもないことながら、全国の「地域づくり」は経済活動が一定の範囲で完結しているケースが多く、ややもすると、全体でこの「産業」化を進めるという視点を欠きがちになっている。
 なお、これを先の上勝町と小布施町の例に投影すると、上勝町が「葉っぱ」という個別商品の事業推進で周辺への経済波及効果も限定的であったことに対し、小布施町は観光立町という方針の下、町の景観作りや歴史遺跡の整備、また喫茶店・ホテルなどの飲食・宿泊施設の整備、さらには特産品のお土産やパンフレット作りまで「全業種協働」の取組としており、この点が決定的な違いとなっている。小布施町は、こうした各業種の連携により成功の成果が増幅されて地域全体に行き渡り、さらに、それを背景に他の地域からの事業者の進出なども増え、結果的に人口の維持・増加も可能になったものと考えられる。
 因みに、先に並べた全国の有名な取組事例の中では、湯布院町がほぼ同様のパターンで成功している。こうした一連の事例を踏まえると、今後、地域全体の発展を新たな地域づくりの面から展望するうえでは、産業開拓の視点、即ち個別事業同士が互いに経済波及効果を及ぼし合うことで成果の増幅を図り、さらに、それを地域に広く浸透させ得る仕組みを計画に組み込む工夫等が、一層重要になってくるものと思われる。

6 最後に

 以上みてきたように、「地域づくり」や「地域おこし」が叫ばれて久しく、しかも、実際に幾つもの有名な取組事例も既に多数存在する。しかし、その有名なものでさえ結果的に地域の人口減少に歯止めをかけ得た取組は必ずしも多くはなく、そうした事例は、地域振興という観点ではむしろ成功例と見做せないもの、と言わざるを得ない現状もある。
 単一の商品、単一の事業による目標を限った取組や、イベントのように効果が一時的なものに止まる事業類は、「それはそれで十分に取り組む意義がある」ことは当然ながら、やはり地域全体への効果の広がりに乏しい点は隘路となる。「地域づくり」の成功の鍵は、小布施町の例が示すように、「経済波及効果」の伴う事業を如何に立ち上げ、しかもその効果を最大限増幅する仕組みをどのようにデザインするか、という極めてオーソドックスな所にあるように思われる。

(高橋 正毅)

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