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「国の農政改革」と変革を迫られる秋田県農業
 複合化の推進など米偏重からの脱却が言われて久しい本県農業にあって、TPP交渉の進展や国の農政改革など、ますます厳しさを増す経営環境を乗り切るには、抜本的な構造改革を急ぐことが必須である。本稿では、米政策の見直しを中心に国の農政改革の内容を概観するとともに、それに対する本県農業者の意識等を県の調査をもとに探った。

1 はじめに

 農業県を標榜し、農業を基幹産業の一つとしている本県ではあるが、農業産出額では東北の下位に低迷し、全国でも中位にすぎない。産出額で全国の上位5位以内に入っているのは米のみであり、本県は「農業県」というよりは「稲作県」であり、それも「あきたこまち」に作付けが偏重した県ともいえる。折しも、国は長年にわたって続けてきた主食用米の生産数量目標配分の廃止を含む米政策の見直しを決定しており、本県農業に与える影響は甚大なものがあると予想される。こうしたなかで、県は農業者3,000戸を対象とする大規模な意向調査を行い、その結果の概要を4月に公表している。本稿では、本県農業の特徴を農業産出額等から改めて確認するとともに、国の農業政策の変更内容を踏まえて、本県農家がどのように対応しようとしているのかを県の調査結果をもとに概観した。

2 農業産出額等からみる本県農業

 本県の農業産出額の推移をみると、ピークの昭和60年(3,175億円)まではほぼ右肩上がりで増加していたが、その後は長期的な減少傾向にある。最近の23年、24年は増加しているが、これは23年3月の東日本大震災による米の供給不足から一時的に米価が上昇したもので、それでもピークに比べると6割に満たない。また、本県の特徴としては、米の産出額と農業産出額の動きが見事に連動していることと、米とその他の畜産、野菜、果実等の差が極めて大きいことである。
 さらに、農業産出額を東北各県と比較すると、本県の米への偏りぶりが、より鮮明になる。産出額全体では青森県が2,759億円でトップとなっており、岩手県が次いで、本県(1,877億円)は5位である。ただ、これは、太平洋側の県が大震災の影響を大きく受けた結果によるもので、大震災前は最下位が定位置だったことも忘れてはならない。品目別でも、本県は米の占める割合が昭和30年代の80%以上からは低下したものの、それでもなお65%程度を占めているのに対し、例えば、青森県ではリンゴをはじめとする果実が25.1%でトップなほか、岩手県でも米(26.5%)と鶏(24.9%)が拮抗しており、畜産全体(53.9%)では米や野菜等の耕種類を上回るなど、本県の米の突出ぶりが際立つ。特に、岩手県では畜産の主要部門全てと工芸農産物で東北一の産出額となっているなど複合化の進展がみられるのに対し、本県は米が断トツの1位(全国でも3位)である以外は、殆どが最下位ないし5位程度と下位に甘んじている。

 以上のように、本県農業を農業産出額からみると、東北では下位、全国でも中位(19位)であり、決して農業県とはいえない。本県は全国的には「農業県」として位置づけられ、われわれ県民もそれを標榜しているが、実態は「稲作県」といえる。
 また、県の推計によると、24年産の作付け割合は「あきたこまち」が75.2%と「ひとめぼれ(8.7%)」や近年作付けが増えている「ゆめおばこ(4.6%)」などを圧倒している。(秋田県「農林水産業及び農山漁村に関する年次報告」)
 このため、本県では「あきたこまち」を中心とする稲作偏重から脱却し、複合経営を目指すとともに、冬期の農業収益確保に向けた通年農業を実現するために、行政、農業団体、農業者挙げた取り組みを長年にわたって続けてきている。しかしながら、残念なことに目に見えた成果を得るには至っていないという現実にある。

3 国の農業政策の大転換

 こうしたなか、政府は昨年11月、従来の米政策を抜本的に見直す「農業基本政策の抜本改革」を決定した。主な内容は、概略は以下のとおりである。
(1)主食用米の生産数量目標配分の廃止
 米価を維持するために主食用米の生産量を都道府県ごとに配分していた生産調整(減反)については、5年後(30年産)を目途に行政による数量配分の廃止を判断する。廃止される場合は、国が示す需給見通しを参考に農家が自主的に生産量を決定する方式に変更する。
(2)経営所得安定対策(旧戸別所得補償制度)見直し
 減反政策に参加する農家に一律に支払っていた「米の直接支払交付金(減反補助金)」は25年産米への10a当たり1万5千円を26年産米からは7,500円に半減させ、30年産から廃止する。また、米の販売価格が標準的な価格を下回った場合に差額を補てんする「米価変動補填交付金(変動補助金)」は26年産から廃止する。
(3)水田活用直接支払交付金(転作補助金)拡充
 一方で、食料自給率・自給力の向上を図るため、転作補助金の交付により飼料用米、麦、大豆など、戦略作物への転換を進め、水田のフル活用を図る。特に、飼料用米と米粉用米については従来の作付け面積払いから数量払いに変更し、これまでの10a当たり一律8万円から、収穫量に応じて下限5万5千円、上限10万5千円の間で幅を持たせる。
(4)日本型直接支払制度(多面的機能支払)創設
 減反廃止とともに、政策変更の柱の一つとして、農業の多面的機能に着目した日本型直接支払制度を創設した。単価は地域別(北海道、都府県)、地目別(田、畑、草地)に設定したほか、農地を守る取り組みを後押しする「農地維持支払」と、農村の環境を良くする「資源向上支払」で構成し、地域内の農業者が共同で取り組む地域活動を支援する。
(5)農地中間管理機構設立
 以上の政策は、農地の集約化や農業経営の大規模化を通じた生産性の向上を目指すことが大前提になっており、その意味でも、分散した農地を担い手へ集積することで、耕作放棄地の発生防止や解消を目的に、本年4月に全国に設立された農地中間管理機構との連携が政策の成否を決めるカギとなる。本県でも、県農業公社が業務を担って活動を開始している。

4 農家意向調査の結果

 米作に偏重し、それゆえに米価の動きや作況に大きく影響される本県農業にとっては、今回の国が打ち出した米政策の見直しは、大きな影響を与えることになる。
 そこで、県では本年1月から2月にかけて県内全域の農家(農業法人含む)3,000戸を対象に「米政策の見直し等に伴う農家意向調査」(以下、「意向調査」)を実施した。回答は2,190戸、対象の73%から得るなど、今後の農業経営に対する本県農家の「高い関心」を示すものとなった。県では調査結果について、多方面からの分析を加えているが、以下では、4月に県が公表した調査結果の概要をもとに、本県農家の意識について抽出して考えてみる。
(1)国の米政策見直しへの考え
a米の生産調整(生産数量目標配分)廃止
 「賛成」または「どちらかといえば賛成」の賛成等は2割に満たず、反対等の農業者が半数を超え圧倒的に多い。平地地域や中山間地域などの地域類型ごとの差異は殆どなかったが、経営規模別でみると、1ha未満で4割以下、10ha以上で6割近くが反対するなど、規模が大きいほど反対等が増える傾向にある。生産調整廃止による米価の下落や、次の「米の直接支払交付金の減額・廃止」と同様、補助金減少に対する不安の影響が大きいとみられる。

b米の直接支払交付金の減額・廃止
 反対等が4分の3と大多数を占めている。地域類型別では大きな回答の差異はみられなかったが、経営規模別では、1ha未満の層の反対が最も少なく、それ以上の耕作規模では8割近くが反対との結果となっている。小規模農家は兼業等で農外収入の割合が高く、規模が大きな農家ほど農業収入に占める補助金の割合が高いことの表れと思われる。

c飼料用米・加工用米等転作作物への助成
 飼料用米と米粉用米で補助金が拡充されることについては、賛成等が半数近くで反対等が2割弱と、政策見直しに関する質問のなかでは唯一賛成等が多くなっている。地域類型別では平地地域が山間地域より賛成の割合が高くなっているが、一方で山間地域では「どちらともいえない」の割合が高く、態度を決めかねている様子もみえる。経営規模別では、規模が大きくなるほど賛成等の割合が高い傾向にある。
(2)農業経営における課題
 調査では19の項目を挙げたうえで考え方を聞いている。農業後継者や担い手の不足が地域全体の大きな課題と考えられていることが上位に並んだ項目から伺える。同時に「農産物の販売価格が安い」や「冬期間を含めた、年間を通じた収益の確保が必要」といった収益性の確保も大きな課題と考えられている。一方で、「農産物の品質が悪い」については、「そう思わない」という割合が高く、自分たちの作る農産物への自負が感じられる結果となった。「冬期間を含めた、年間を通じた収益の確保」が必要と考えている農業者は8割近くと、通年営農等による収益安定の必要性が強く意識されている。「地域の農業労働力が不足している」と回答した割合は、特に山間地域になるほど高く、労働力不足の深刻化が伺える結果となっている。
(3)今後の経営方針
 生産数量目標配分が廃止される5年後には、家族経営(個別経営)が減少し、法人経営もしくは集落営農に移行しているとする割合が高い。農業経営を維持していくためには、大規模化、集約化が避けられないという意識の表れと思われる。このことは、経営規模の大きな経営体、農業法人ほど「経営規模を拡大する」と回答していることと符合する。ただ、小規模な農業者は「わからない」との回答が多い傾向にあり、今後の方針に悩んでいる様子も汲み取れる。
(4)今後の主食用米生産の方向性
 5年後の意向を質問しているが、品質に関する項目が上位を占めている。特に、「『あきたこまち』に代わる新たな良食味米の品種開発を急ぐべき」と「『あきたこまち』の食味・品質をより向上させ、秋田米の評価を高めるべき」との回答が上位を占め、食味・品質へのこだわりを強く感じる回答傾向となっている。これについては、県で開発を進めている「コシヒカリを超える良食味米」への期待を感じると同時に、「こまち」に対するこだわりも垣間見えるなど、農業者の複雑な気持ちが表れている。米価がどれくらいまで下落しても耐えられるかの質問では、25年産「あきたこまち」の概算金(JA)11,500円/60㎏を基準として、現状水準の価格帯が最も多かった。大規模法人が価格下落に比較的耐えられると回答しているのに対し、小規模・山間地ほど現状水準でも難しいと回答している点に特徴があるものの、全体としては、現状水準を下限ととらえている傾向がみられる。現在行っている転作を5年後にどうするかの問いに対しては、「転作を継続する」割合が最も多いものの、小規模・山間地の農業者ほど継続する割合が低くなり、逆に「耕作を放棄する」と回答した割合が2割近くに上るなど厳しい結果が出ている。今後山間地域を中心に耕作放棄が増加する懸念があり、早急に対策を講じる必要がある。
(5)今後の経営における新たな取り組みや考え方
 「消費者への直接販売」や「外食産業等の実需者との契約取引」といった販売の面で新たな取り組みが必要と考える農業者が多かった。6次産業化に関しては、「食品製造業者等と連携した農産物の加工」が必要と考える農業者が多い。一方で、「自身で農産物を加工する」あるいは「農産物を輸出する」ことについては、必要の有無がほぼ拮抗する結果となっている。また、「農家レストラン、農家民宿などのグリーンツーリズム」に対しては消極的な農業者が多い。これらのうち、「消費者への直接販売」は50代で7割近くが必要とするなど、60代以下で必要性を回答する割合が高かったが、70代以上では4割程度にとどまるなど、高齢が新事業へのハードルを高くしていることが伺える。経営形態別では8割近くの農業法人で直接販売が必要と答えていた。「食品製造業者等と連携した農産物の加工」が必要と考えるのは個別経営と集落営農組織で3割程度なのに対し、農業法人では5割を超え、6次産業化への志向の強いことが伺える。
(6)農業経営支援のための施策・制度
 平地地域から山間地域まで全ての地域で「米価の急落等に対する緊急緩和措置の充実」の必要性が高かった。「飼料用米等の転作作物に対する支援の充実」は平地地域ほど必要性が高いと感じ、「後継者・担い手の育成対策の強化」と「高齢者の生きがい対策や活動支援の充実」は山間地域ほど必要性が認識されるなど、地域性の分かれる結果が出ている。このほか、全ての経営形態で「米価の急落への対応」が必要としているほかは、農業法人で「転作作物への支援の充実」や「生産・加工機械等の整備支援の実施」に対して必要性が高かったのに対し、個別経営と集落営農組織では「農業以外での雇用の場の確保」や「高齢者の生きがい対策や活動支援の充実」に必要性を強く認めているなど、経営形態により必要性が割れる項目もあった。

5 県の取り組み

 県では県政の運営指針となる「第2期ふるさと秋田元気創造プラン」を策定し、強力な推進策を取っているが、農林水産分野の重点戦略としては「国内外に打って出る攻めの農林水産戦略」を打ち出し、「“オール秋田”でブランド戦略を拡大し国内外の競争に打ち勝つ」とともに、複合型農業構造への転換に向け園芸作物の販売額を伸ばすなどして米依存からの脱却を目指し、構造改革を加速するとしている。(「あきた経済」26年4月号参照)
 26年度当初予算でも、国の農政改革への対応も含め、「日本型直接支払交付金事業」、「農地中間管理総合対策事業」、「園芸メガ団地育成事業」、「野菜ナショナルブランド化総合対策事業」、「未来にアタック農業夢プラン応援事業」、「6次産業化総合支援事業」等々の積極的な事業を行うとしており、県の注力ぶりが伺える。(同上参照)
 さらに、昨年からは、国の農政改革への対応を協議する「農業・農村元気創造県民会議」を発足させ、大規模化による経営基盤強化や複合経営推進による収益力強化に取り組んでいる。
 今回の「意向調査」に関しても、農業者の視点で現状を再認識するとともに、農業者の切実な意向を汲み取って、今後の政策に生かそうという、県の本気度が伺える取り組みであり、高く評価したい。ただ、当然ではあるが、調査して終わりということではなく、如何に実効性のある政策に反映させ、結果として、「農業県あきた」の復権につなげられるかが、調査に協力した個々の農業者への回答となるのであり、県に対する期待はより大きくなったともいえる。是非とも、現場に寄り添った施策を打ち出していただきたいものである。

6 まとめ

 本県の実態は「稲作県」であることを強調してきた。しかし、その一方で、食味ランキング(25年産米)で最高の特A米が全国的に増加するなか、本県産米では「県南産あきたこまち」1銘柄しか選ばれていないことには、強い反省と早急な対策が必要である。「意向調査」でも食味・品質へのこだわりが強く出ており、農業者自身も同様に考えていると思われる。同時に、コスト構造の改革に早急に取り組み、中・低価格帯米を望む外食・中食業界のニーズにも応えうる品揃えも求められるなど、農業者は作付けへの難しい選択を迫られている。
 また、「意向調査」では、経営形態や、地域類型、経営規模、年代など置かれた立場で回答の分かれる項目が多くみられている。行政や農業団体は、これまでのような総花的で全ての人が満足できるような施策を追うのではなく、本県農業の将来を考えたとき、ターゲットごとにどういう施策を打つのが有効かを徹底する必要があるのではないだろうか。そのうえで、アンケートにもあった「農業以外での雇用の場の確保」など離農しやすい環境を整えることも、大規模・集約化を推進し、競争力の高い農業を実現するうえで不可欠と考える。
 いずれにしても、長年にわたり言われ続けてきた本県農業復活のための構造改革は、今こそ「待ったなし」の状況にあることだけは確かである。

(佐々木 正)

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