トップ機関誌「あきた経済」トップ秋田県内の住宅リフォーム動向について

機関誌「あきた経済」

秋田県内の住宅リフォーム動向について

 新築需要の低迷や住宅ストックの増加を背景に、住宅リフォーム業界の競争が激しくなっている。政府も「フローからストック重視の住宅政策への転換」をスローガンに掲げ、住宅を作っては壊す社会から、良いものを作って手入れをしながら長く大切に使う、いわゆるストック活用型の住宅政策への転換を図っている。こうした動きを受け国土交通省では、平成24年3月に「中古住宅・リフォームトータルプラン」を策定し、32年までに中古住宅流通・リフォーム市場の規模を20兆円まで倍増することを目指して、長期優良住宅化リフォームへの支援、住宅ストック活用のための市場環境の整備等を進めている。本稿では、当研究所が県内の工務店や業者に行ったアンケート調査結果に基づき、本県の住宅リフォーム動向についてまとめてみた。

1 競争が激化する住宅リフォーム業界

 近年、住宅リフォーム業界は住宅メーカーや工務店などの建設業だけでなく、家電量販店、ホームセンター、総合スーパーなどの異業種からの参入も相次ぎ、競争が激しくなっている。大手住宅メーカー各社は過去に販売した住宅のリフォーム需要を取り込むため、リフォーム向けの人員を増員し営業力の強化を図っている。また、大手家電量販店のヤマダ電機では店舗敷地内の駐車場に住宅展示場を建設し、家電販売だけでなく水回り商品や内外装などのリフォーム提案を含めた住宅関連事業を強化している。
 このように様々な業種・業態が住宅リフォーム業界に参入しリフォーム需要の囲い込みを強化している背景には、人口減少や少子高齢化に伴い新設住宅着工戸数の増加が見込み難く、住宅ストックが増加してリフォーム発生率の高い住宅が増えていること、また東日本大震災の影響により耐震・省エネリフォーム工事への関心が高まっていることなどがある。このため、住宅リフォームは成長が期待される有望な市場のひとつとして注目が集まっている。

2 住宅ストックの現状

(1)低迷する新築需要
 平成25年の全国の新設住宅着工戸数は、消費税増税前の駆け込み需要の影響もあり、前年比11.0%増の980,025戸と4年連続の増加となった。ただ、総戸数はリーマン・ショックが発生した20年の109万戸を最後に翌年以降は100万戸を下回って推移しており、新築需要の低迷が続いている。本県においてもほぼ同様の傾向で推移し、昨年は前年比20.5%増の4,421戸と7年ぶりに前年を大幅に上回ったものの、平成以降でピークを記録した平成8年(12,227戸)の3割程度の水準まで落ち込んでいる。
 来年10月には消費税率10%への再引き上げが予定されており、今年の秋頃から再び駆け込み需要が発生して着工戸数の増加が続くことも考えられるが、長期的には人口減少や少子高齢化が進むため、かつての水準まで回復することは見込み難い状況にある。
(2)住宅ストックの増加と建物の高齢化
 一方、住宅ストックは、総住宅数が総世帯数を上回り量的に充足している状況にある。総務省統計局が5年毎に発表している「住宅・土地統計調査」によると、平成20年10月1日現在、全国の総住宅数は5,759万戸となり、総世帯数(4,997万世帯)を15%上回っている。本県においても、昭和48年に総住宅数が総世帯数を上回るようになり、1世帯当たり住宅数も拡大しながら推移している。20年の総住宅数は437,400戸となり、総世帯数(383,300世帯)に対して54,100戸上回っている。  また、住宅ストックの増加とともに建物の高齢化も進んでいる。リフォーム発生率の高い築後18年以上を経過した平成2年以前に建設された持家が全体の6割以上を占め、5年前の15年と比較すると3.4ポイント上昇している。新築需要が低迷する一方、リフォーム適齢期を迎えた物件は増加傾向にあり、今後リフォーム需要は確実に増えていくと思われる。

3 「中古住宅・リフォームトータルプラン」の策定

 こうした中、政府は新成長戦略において「フローからストック重視への住宅政策」をスローガンに掲げ、これまでの新築重視の住宅政策から、良いものを作って手入れをしながら長く大切に使う、ストック活用型の住宅政策への転換を図っている。国交省では平成24年3月に「中古住宅・リフォームトータルプラン」を策定し、32年までに中古住宅流通・リフォーム市場の規模を20兆円まで倍増することを目指して、長期優良住宅化リフォームへの支援、住宅ストック活用のための市場環境整備等を進めている。

4 住宅リフォーム市場の規模

 住宅リフォーム市場規模の推計を発表している(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターによると、平成24年の全国の住宅リフォーム市場の規模は、6兆7,300億円となっている。平成8年の9兆600億円をピークに減少基調が続いていたが、21年を底に回復しつつある。また、本県の市場規模についても、平成18~22年までは600億円台とほぼ横ばいで推移していたが、23年は757億円、24年には929億円へと着実に規模が拡大している。

5 県内のリフォーム工事実施状況

 県内のリフォーム工事の実施状況について、「平成20年住宅・土地統計調査」からみると、本県の居住世帯のある持家298,100戸のうち、16~20年の間にリフォーム工事を行った持家は約3割に当たる87,700戸である。この中には居住者自らが行った小規模な工事も含まれていると思われるが、これを1年間当たりの戸数に換算すると17,540戸となり、本県の年間新設住宅着工戸数の約4倍の規模に匹敵する。
 一方、この間にリフォーム工事を行っていない持家は210,500戸あり、このうちリフォーム適齢期とされる平成2年以前に建築された持家は131,500戸に上る。この中には既にリフォームを終えていたり、今後取り壊されたりする住宅もあると考えられるが、県内にはリフォーム工事の対象となる物件が豊富に残っており、県内のリフォーム市場は規模拡大の余地が大きい。

6 県内住宅リフォーム動向アンケート調査

 当研究所では、県内の住宅リフォーム動向を調査するため、次の調査要領にて県内の工務店や業者を対象にアンケートを実施した。

(調査要領)
1 調査方法:郵送によるアンケート方式
2 調査時期:平成26年5月16日~26日
3 調査対象:県内の工務店、業者等268社
4 回答企業:89社
5 回答率 :33.2%
6 業種・業態内訳:総合建設業25社、住宅メーカー6社、大工・工務店23社、
             リフォーム専門店10社、専門工事業者16社、設計事務所2社、その他7社
(1)住宅リフォームの売上高について
 アンケートに協力いただいた企業は、総合建設業をはじめ住宅メーカー、リフォーム専門店など様々であるが、各企業の総売上に占めるリフォーム部門の売上割合について尋ねたところ、「50~100%未満」と回答した企業が29.2%と最も多く、次いで「30~50%未満」が24.7%となった。「100%」と回答した企業も7.9%あり、リフォーム部門の売上割合は比較的高い結果となった。これは先にみた新築需要の低迷が影響し、リフォーム部門のウェイトを高めている企業が増えているものと推察される。
 5年前と比べたリフォーム部門の売上高変化については、「増加した」と回答した企業が6割弱を占めた。ヒアリングによると、この間、東日本大震災の発生や豪雪、住宅エコポイント制度(※1)や自治体による各種リフォーム支援事業の実施、消費税増税などがあり、こうしたことも売上高増加の要因となっている。一方、「減少した」と回答した企業は9.0%に止まった。(※1)平成23年7月31日で終了
 今後5年間の売上高推移予想については、「横ばいで推移する」と回答した企業が39.3%と最も多い結果となった。消費増税後に実施したアンケートということもあり、反動減等により「次第に減少する」と慎重にみる企業が19.1%あったが、「次第に増加する」は34.8%となり、概ね堅調に推移するものと考えられる。
 なお、各企業の年間リフォーム施工件数については、「10~30戸未満」と回答した企業が最も多く、次いで「1~10戸未満」「50~100戸未満」の順となっている。
(2)リフォーム工事1件当たりの受注金額とリフォーム工事を実施する世代について
 リフォームには、規模の面からするとテレビ・雑誌等で紹介されているような、まるで建て替えたかのような大規模なリフォームから、「カーテンの取り替え」や「水道蛇口の修理」など小規模なものまで多岐にわたる。従って工事の内容次第で金額に大きな開きが出てくる。
 そこでリフォーム工事1件当たりの受注金額として多い価格帯について上位3位まで挙げてもらったところ、「100~300万円未満」「50~100万円未満」「50万円未満」の順で上位に入り、300万円未満のリフォーム工事がボリュームゾーンとなっている。
 リフォーム工事を実施する世代については、50歳代、60歳代が圧倒的に多い結果となった。ヒアリングによれば、この世代の資金調達について、ほとんどが貯蓄で賄われており、リフォームローンを利用する人は少ないという。また、住宅金融支援機構や一部金融機関などで取り扱っている「リバースモーゲージ」(※2)を利用したケースも今のところ実績がないとのことであった。ただ、子や孫に持家を相続する予定がない高齢者にとっては、生涯住み慣れた家に住み続けることができ、かつ融資も受けられるため、潜在的なニーズは高いと思われる。本県の高齢化が進むにつれて、今後利用者が増えてくる可能性も十分考えられる。(※2)自宅を担保に入れて年金または一時金で融資金を受け取る。返済は毎月行わず本人が死亡した時点で担保となっている自宅を売却し返済する仕組み。欧米などでは一般的に普及している金融商品。
(3)リフォーム工事を実施する要因・目的および工事内容について
 リフォーム工事を実施する要因・目的としては、9割以上の企業が「住宅・設備の老朽化」を挙げている。その他、上位に挙がるのが「高齢化対応」「生活利便性向上」「省エネ・冷暖房効率向上」などである。リフォーム工事を実施する世代は50歳代以上が中心となっていることから「老朽化」や「高齢化」への対応が上位となるのは当然として、子供の成長期に該当する40歳代では「世帯人員の変更」への対応が多いとみられ、増改築等を行う大きな要因となっているようである。
 請け負ったリフォーム工事の内容については、「風呂・洗面所」「トイレ」「キッチン」などの水回りや定期的にメンテナンスが必要な「外壁」「屋根」のリフォームが上位に挙がっている。また、東日本大震災以降、関心が高まっている「太陽光発電」については、本県はそれほど普及が進んでいないように思われるが、国では一般的な新築住宅のゼロ・エネルギー化(※3)を推進しており、今後、太陽光発電などの創エネ設備を設置した住宅がスタンダードとなるにつれて、徐々に増えてくる可能性がある。(※3)建築物・設備の省エネ性能の向上、再生可能エネルギーの活用等によって、年間での一次エネルギー消費量がネットで概ねゼロとなる建築物。
(4)リフォーム市場活性化に必要とされる施策等について
 今後のリフォーム市場を活性化させるために必要とされる施策等について尋ねたところ、「補助金やポイント制度などによる支援」を挙げる企業が9割近くに上った。次いで、「リフォームに関する融資制度の充実」「税制優遇措置の拡充・延長」となり、金融面での支援を必要とする内容が上位に挙がった。また、「信頼できるリフォーム業者の認定制度の確立」を挙げる企業も4割弱あった。リフォーム工事は受注金額500万円未満の工事であれば建設業許可が不要なため、中には資格を持たない業者による雑な工事によりトラブルに巻き込まれるケースがある。アンケートでは、消費者保護の観点からもこうした認定制度の確立や許可、資格等の縛りが必要であるとの意見も多数あった。
(5)リフォーム業界における課題・問題点について
 リフォーム業界における課題・問題点については、「消費者保護」や「補助金制度」に関する回答が多くみられた。消費者保護については、前項にも記載したとおり、悪質な業者から消費者を守るための制度の確立等が必要であるとした内容が多い。また、補助金制度については、制度基準により一部の消費者や業者では利用できないケースがあるため、利用範囲の拡大を求める内容が多く挙げられた。

6 まとめ

 県内では秋田県のほか殆どの市町村でリフォーム工事の補助金制度が実施されており、制度による支援は市場を活性化させるための有効な手段と言える。ただ、こうした制度はいつまでも続く保証はなく、やはり重要となるのは業界の課題にも挙げられているとおり、各企業の技術力や営業力の向上により、消費者からの信頼を高めていくことではないだろうか。ヒアリングでは、リフォーム業はサービス業でもあるという声も聞かれた。例えば、見積書の作成時には、起こり得る不具合や追加工事の有無について事前にきちんと説明し、お客様に喜んでもらえるサービスに努めることが大事であるとのことであった。こうしたことの積み重ねが、消費者からの信頼を得、市場の活性化にも繋がると思われる。県内企業の技術力、営業力、サービス力の向上により、県内住宅リフォーム市場が活性化することに期待したい。

(山崎 要)

あきた経済

刊行物

お問い合わせ先
〒010-8655
 秋田市山王3丁目2番1号
 秋田銀行本店内
 TEL:018-863-5561
 FAX:018-863-5580
 MAIL:info@akitakeizai.or.jp