機関誌「あきた経済」
本県における医工連携の動向
医療分野におけるニーズ(課題)と工学分野におけるシーズ(技術)を結び付け、医療機器関連産業の育成・振興をはかる「医工連携」の取り組みが国および地域でなされている。本県でも「第2期ふるさと秋田元気創造プラン」において、産業・エネルギー戦略における方向性の一つとして医工連携が掲げられている。本県における医工連携の取り組みの状況や、最近の成果について紹介する。
1 医工連携に関する国、本県の動き
(1)医工連携とは
「医工連携」とは、医療分野のニーズと工学分野のシーズを結び付け、工学技術を活用し医療現場での課題を解決する製品を開発することにより医療機器関連産業の振興をはかるという考え方である。背景には、高齢化の進展等で我が国の医療機器市場の安定的成長が見込まれる一方、医療機器に関しては輸入超過となっており、産業分野として発展の余地が大きいことがある。薬事法改正による規制緩和で新規参入のハードルが下がったこともあり、様々な企業の医療機器産業への参入が活発化している。
(2)国による取り組み
経済政策・アベノミクスの三本目の矢「成長戦略」において、戦略市場創造プランの4つのテーマのうちの1つが「国民の『健康寿命』の延伸」であり、このテーマの下、文部科学省、厚生労働省、経済産業省が連携した「オールジャパン体制」により、世界最先端で医療ニーズに応える医療機器開発とその支援体制の整備が行われている。具体的な施策としては、ものづくり中小企業と医療機関等との医工連携により、医療現場の課題に応える医療機器の開発・実用化を推進する「医工連携事業化推進事業」などが実施されている。
(3)秋田元気創造プランでの位置づけ
本県でも「第2期ふるさと秋田元気創造プラン」において、産業・エネルギー戦略における方向性の一つとして「医工連携による医療機器関連産業の育成」が掲げられている。
本県での医工連携の取り組みは、秋田県地域産業振興課、秋田メディカルインダストリ・ネットワーク(以下、「AMI」)、北東北ナノ・メディカルクラスター研究会(以下、「ナノ・メディカル研究会」)等が中心となって進められている。以下で、この3つの活動を紹介する。
本県での医工連携の取り組みは、秋田県地域産業振興課、秋田メディカルインダストリ・ネットワーク(以下、「AMI」)、北東北ナノ・メディカルクラスター研究会(以下、「ナノ・メディカル研究会」)等が中心となって進められている。以下で、この3つの活動を紹介する。
2 秋田県による医工連携の推進
(1)背景
医療機器関連産業は、国外市場、国内市場とも拡大基調で推移している。平成24年の我が国の医療機器生産金額は1兆8,952億円(前年比4.8%増)、このうち秋田県の生産額は359億円で、シェア(1.9%)は低いものの全国順位は15位と比較的上位にある(※1)。
(※1) 厚生労働省・薬事工業生産動態統計調査
秋田県が医工連携を推進する背景には、従来は受託製造型が多かった県内製造業企業を研究開発型にシフトさせようとする狙いがある。
本県には、医工連携の基盤となるインフラも存在する。工学系研究機関としては、秋田大学、秋田県立大学などの高等教育機関や産業技術センターなどの公設試験研究機関があり、医学・医療機関としては、秋田大学医学部、秋田県立脳血管研究センター等がある。また、県内の製造業には、電子部品、金属加工、機械組立などの分野の技術を持つものづくり企業がある。
これら工学系研究機関、医学・医療機関、ものづくり企業の3者が有機的に連携できれば、本県における医療機器関連産業の振興の可能性は大きいと考えられる。
(※1) 厚生労働省・薬事工業生産動態統計調査
秋田県が医工連携を推進する背景には、従来は受託製造型が多かった県内製造業企業を研究開発型にシフトさせようとする狙いがある。
本県には、医工連携の基盤となるインフラも存在する。工学系研究機関としては、秋田大学、秋田県立大学などの高等教育機関や産業技術センターなどの公設試験研究機関があり、医学・医療機関としては、秋田大学医学部、秋田県立脳血管研究センター等がある。また、県内の製造業には、電子部品、金属加工、機械組立などの分野の技術を持つものづくり企業がある。
これら工学系研究機関、医学・医療機関、ものづくり企業の3者が有機的に連携できれば、本県における医療機器関連産業の振興の可能性は大きいと考えられる。
(2)地域産業振興課による取り組み
秋田県では、医工連携について、平成25年度まで「産学官連携による研究開発の推進」という観点から学術振興課が担当していたが、平成26年度からは「産業としての育成」を重視し地域産業振興課が担当している。
地域産業振興課では、平成26年度に「医療機器関連産業強化支援事業」として以下の取り組みを行う計画である。
(平成26年度・医療機器関連産業強化支援事業)
地域産業振興課では、平成26年度に「医療機器関連産業強化支援事業」として以下の取り組みを行う計画である。
(平成26年度・医療機器関連産業強化支援事業)
a AMIの運営:「3 AMI」で記載
b コーディネート活動:コーディネーターが、医工連携のシーズ調査、展示会出展勧誘、各種補助金申請支援などのコーディネート活動を行う。
c セミナー開催:先進事例を紹介する研究開発セミナー、医療ニーズの発表会などのセミナーを開催する。
d 製品開発支援:県内企業が新たに開発する医療機器の開発案件を支援する「新規医療機器開発支援プログラム」など上限100万円×4件の支援資金を提供する。
e 販路拡大支援:各地の展示会や交流会等への出展を支援し、出展費用の一部を補助する。
f 東北地域医療機器産業支援ボード事業:同ボードは、東北経済産業局、東北6県の行政機関等が参加する医療機器産業振興を目的とする組織であり、その事業であるビジネスマッチングや医療機器産業参入支援に参加、協力する。
g アドバイザー支援:医療機器メーカー等での職務経験を有するアドバイザーが事業者からの相談に応じる。
資料:秋田県地域産業振興課
資料:秋田県地域産業振興課
3 AMI
(1)設立の目的等
AMIは、秋田県内における医療機器等の研究開発を促進し、医療機器産業の振興と医療福祉の高度化に寄与することを目的として、平成21年2月に設立された。会長は秋田大学大学院医学系研究科・島田洋一教授が務め、事務局機能は秋田県地域産業振興課が担っている。 AMIには、大きく分けて「医学医療関係者」、「研究機関」、「製造業企業」の3つのグループの会員が参加している。主な会員は次のとおりである。「医学医療関係者グループ」では、秋田大学医学部、秋田県立脳血管研究センター、秋田県立リハビリテーション・精神医療センター、 国立病院機構あきた病院。「研究機関グループ」では、秋田大学、秋田県立大学、秋田工業高等専門学校、秋田県産業技術センター。「製造業企業グループ」としては、秋田県内の企業約80社が参加している。
(2)活動内容
AMIの活動は、医工連携にかかる人的な交流や工学シーズ、医学・医療ニーズの掘り起し等が中心となっている。具体的な活動は、前述の秋田県地域産業振興課の事業と重なる部分も多いが、主な内容は以下のとおりである。
(AMIの主な活動内容)
(AMIの主な活動内容)
a 医工連携シーズ・ニーズの調査・提供:会員の研究機関、企業等を対象に工学シーズを調査し、「美の国あきたネット」で「秋田県医工連携シーズ集」として公開している。また医学・医療ニーズを調査し「秋田県医工連携ニーズ集」として、AMIネットワークの会員専用ページに掲載している。
b コーディネーター、アドバイザーの活用:秋田県地域産業振興課の事業であるコーディネーターやアドバイザーの活用を促進する。
c セミナーの開催:秋田県が開催するセミナーへの協力、参加。
d 広域の連携推進:東北経済産業局、あきた企業活性化センター等と連携し、広域的な展示会、交流会への出展、参加を支援する。
資料:AMIネットワークのホームページ
資料:AMIネットワークのホームページ
4 ナノ・メディカル研究会
(1)設立の経緯・目的
ナノ・メディカル研究会は、精密加工技術・界面制御技術・医療技術を融合させた次世代医療システムづくりとその進展を目指し、競争的資金(※2)の獲得と北東北の産業創出に寄与することを目的として、平成15年に設立された。代表者を岩手大学大学院・岩渕明教授が務め、秋田県産業労働部・赤上陽一次長が事務局を担当している。構成メンバーは岩手大学、秋田大学、秋田県立大学などの医学系・工学系の研究者、公設試験研究機関である秋田県産業技術総合研究センター、秋田県内を中心とする製造業企業が主となっている。
ナノ・メディカル研究会は、前述の「AMI」に機関会員として参加しており、同ネットワークとは医工連携に関して協力関係にある。
ナノ・メディカル研究会は、前述の「AMI」に機関会員として参加しており、同ネットワークとは医工連携に関して協力関係にある。
(※2) 国等が広く研究開発課題を募り、その中から科学的・技術的な観点を中心とする評価により採択して、研究者等に配分する研究開発資金
(2)活動内容
ナノ・メディカル研究会の活動は、年3回の「研究会」が中心となっている。「研究会」では、医学系研究者等による基調講演、研究機関や企業の工学系研究者による研究発表、会員企業による取り組みの紹介などを行っている。
ナノ・メディカル研究会の活動の特徴は、「研究会」による人的な交流等を基に、産業技術センターが中心となって「具体的な医療機器の開発」へと踏み込んだ取り組みを行っている点であり、迅速免疫染色装置(後述)等の製品開発という成果につながっている。
ナノ・メディカル研究会の活動の特徴は、「研究会」による人的な交流等を基に、産業技術センターが中心となって「具体的な医療機器の開発」へと踏み込んだ取り組みを行っている点であり、迅速免疫染色装置(後述)等の製品開発という成果につながっている。
5 本県における最近の医工連携の成果
これまで紹介してきた、秋田県地域産業振興課、AMI、ナノ・メディカル研究会等による医工連携の取り組みにより、県内のものづくり企業による医療関連製品の開発・販売という成果が生まれている。その中から最近の事例を紹介する。
(1)手術用針探知機「ニードルハンター」
(1)手術用針探知機「ニードルハンター」
エーピーアイ㈱(大仙市)は、平成22年に従来の大量生産型の製造業から産学連携をベースとした開発型企業へのシフトを決断した。AMIに参加する中で、医療現場における「床に落ちた手術針を探す」というニーズを知り、自社技術を発展させこの課題にチャレンジした。県立脳血管研究センターと共同開発を行い、独自のアルゴリズムにより床に落ちた手術針を検知、回収する探知機「ニードルハンター」として商品化に成功、平成25年9月に医療機器販売会社を通して販売を開始した。秋田県の「医療機器展示交流会出展支援(補助金)」を活用し、同商品をメディカルショージャパン&ビジネスエキスポ2014等の展示会へ出展したところ、医療関係者からの反応はすこぶる良好という。
(2)迅速免疫染色装置「ヒスト・テックR-IHC」
本製品はナノ・メディカル研究会を舞台にした人的交流から誕生した。秋田県産業技術センターの赤上陽一副所長が秋田大学の南谷佳弘教授と出会った際に、産業技術センターが開発した「電界撹拌法」という技術を医学分野の免疫染色に応用するというアイデアが生まれ、国の研究資金を活用しながら、ナノ・メディカル研究会参加企業の連携により開発が進められた。
秋田エプソン㈱(湯沢市)が装置本体、㈱アクトラス(横手市)が電圧の発生装置、㈱セーコン(工場:大仙市)が消耗部品(はっ水リング)を担当し、製品化されたのが迅速免疫染色装置「ヒスト・テックR-IHC」、(愛称「ラピート」)である。この装置により従来は2時間程度かかっていたがん診断にかかる免疫染色法の時間を20分程度まで大幅に短縮し、手術中に正確にがん診断を行うことが可能となった。
同装置は、平成26年5月、医療機器販売のサクラファインテックジャパン㈱(東京都)が販売を開始した。全国に販路を持つ会社が販売を担当することで、医療ニーズの収集など今後の製品開発にとって有益な情報が得られている。
秋田エプソン㈱(湯沢市)が装置本体、㈱アクトラス(横手市)が電圧の発生装置、㈱セーコン(工場:大仙市)が消耗部品(はっ水リング)を担当し、製品化されたのが迅速免疫染色装置「ヒスト・テックR-IHC」、(愛称「ラピート」)である。この装置により従来は2時間程度かかっていたがん診断にかかる免疫染色法の時間を20分程度まで大幅に短縮し、手術中に正確にがん診断を行うことが可能となった。
同装置は、平成26年5月、医療機器販売のサクラファインテックジャパン㈱(東京都)が販売を開始した。全国に販路を持つ会社が販売を担当することで、医療ニーズの収集など今後の製品開発にとって有益な情報が得られている。
(3)点滴センサ「IDC-1301」
本製品は、秋田大学医学部、産業技術センター、㈱アクトラスなどの企業が参画した「音声主導型看護医療システム」の開発をきっかけに誕生した。あきた企業活性化センターの「あきた企業応援ファンド事業」を活用し、産業技術センターと㈱アクトラスが共同で開発を進め点滴センサ「IDC-1301」として製品化、平成26年6月に販売を開始した。この製品により高精度かつ短時間で点滴滴下調整が可能となった。
6 本県の医工連携の課題
以上のように、本県の医工連携の取り組みは一定の成果を上げている。ただし、医工連携は各県とも力を入れている分野であり、地域間の競争が激化している。本県が今後さらに成果を上げていくためには、医療現場とのつながりを深め医療ニーズの掘り起しを強化すること、そのニーズに対して公設試験研究機関等の技術を活用し、販売網の確立と併せて、果敢にチャレンジする企業を増やしていくことが重要である。
(荒牧 敦郎)