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本県における食料品輸出の取り組み

 海外における「日本食ブーム」や「日本食文化のユネスコ無形文化遺産登録」を背景に、近年、日本からの食料品輸出が増加している。農林水産省も2020年(平成32年)までに農林水産物・食品の輸出額を1兆円規模に拡大する戦略を公表した。人口減少等で縮小する国内市場とは対照的に成長が見込まれる海外市場の取り込みは本県経済にとっても有効な方策と考えられる。本稿では本県の食料品輸出の現状と、輸出推進に向けての取り組みについて紹介する。

1 増加する食料品の輸出

(1)「和食」のユネスコ無形文化遺産登録
 ユネスコ(国連教育科学文化機関)は2013年12月の政府間委員会で「和食(日本食文化)」をユネスコ無形文化遺産に登録することを決定した。その理由としては、「和食」の食文化が自然を尊重する日本人の心を表現したものであり、伝統的な社会習慣として世代を超えて受け継がれているということが評価された。

(2)日本食ブーム
 このように日本の食文化が世界的にも評価される中で、海外における「日本食ブーム」は欧米などの先進国のみならず、アジア諸国などにも広がりを見せている。
 ジェトロ(日本貿易振興機構)が、米国、フランス、中国、ロシアなど13か国・地域の消費者を対象に行ったアンケート調査(2012、2013年)によると、13か国・地域のうち10か国・地域で「好きな外国料理」として「日本料理」がトップとなった。
 日本食が注目されている理由としては、低カロリー、低脂肪なことによる「健康に良い」という点だけでなく、「高品質で美味しい」、「見た目にも美しい」という点も理解されてきたことが挙げられる。

(3)食料品輸出の増加
 日本食ブームの高まりと軌を一にするように、食料品輸出も増加傾向をたどっている。
 農水産物の輸出額は、年による増減はあるものの増加傾向にあり、平成25年の輸出額は過去最高の5,352億円を記録した。また、日本食文化への関心とつながりが強いとみられる日本酒や醤油の輸出量も増加傾向にあり、特に日本酒の輸出量増加が顕著である。

(4)農林水産省の輸出戦略
 平成25年8月、農林水産省は「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略」を公表した。
 この「輸出戦略」は、日本の食文化の普及に取り組みつつ、日本の食産業の海外展開と日本の農林水産物・食品の輸出促進を一体的に展開することにより、グローバルな「食市場」を獲得すること、このため、世界の料理界で日本食材の活用推進、日本の「食文化・食産業」の海外展開、日本の農林水産物・食品の輸出、の取組を一体的に推進することを打ち出している。
 金額ベースの目標としては、上記の取組により2012年(平成24年)に約4,500億円であった農林水産物・食品の輸出額を2020年(平成32年)までに1兆円規模へ拡大することを掲げている。その内訳では水産物(1,700億円→3,500億円)、加工食品(1,300億円→5,000億円)などが高い増加目標となっている。
 このように農林水産省が8年間で農林水産物・食品の輸出額を2倍以上に増加させるという意欲的な目標を設定した背景には次のような要因があると推測される。
 すなわち、世界的な日本料理、日本食への関心の高まりという輸出にとってのチャンスばかりではなく、食料品市場としての日本が人口減少・高齢化で規模を縮小させる一方で、アジア諸国などの経済発展等により海外でのニーズが増加しマーケットが拡大しているという要因が考慮された結果と考えられる。

2 本県における食料品輸出の状況

(1)本県にとっての食料品輸出の意義
 本県を食料品の市場としてみた場合、人口減少や高齢化により全国を上回るスピードで市場縮小が進んでいく。また、本県は農産物としては米、食料品としては日本酒という競争力のある産品を有しており、加工食品にも稲庭うどんなどの特色ある産品がある。したがって、本県の経済・産業を発展させるためには、成長する海外市場を開拓して食料品の販売増加をはかることが有効な方策となる。

(2)米と日本酒を中心とする食料品輸出
 秋田県秋田うまいもの販売課調べによる本県食料品に関する主要品目の輸出実績をみると、米が圧倒的に大きな割合を占めており、それに続くのがりんご、もも等の果物となっている。
 米について輸出先の国・地域をみると、国内の卸売業者を経由するため輸出先が把握できない割合が平成25年度で約66%と大きいが、それ以外では、香港、シンガポール、ロシア、イギリスの割合が大きく、それらの国・地域については、輸出量は増加傾向にある。
 また、日本酒の輸出量推移をみると、ほぼ一貫して増加しており、平成25年度の輸出量は平成13年度の6.6倍に拡大している。
 その他の加工食品の輸出に関しては、海外での物産フェア等の際の販売にとどまるものが多く、輸出量としては大きなものとなっていない模様である。

3 行政機関等による輸出の支援

(1)ジェトロ秋田による支援
 ジェトロは、農林水産・食品分野における輸出に関し様々な支援事業を行っている。例えば、自治体等と連携し、成功事例の創出に取り組む「一県一支援プログラム」を各都道府県で推進しており、本県に関しては「日本酒」を対象にセミナーや商談会を実施している。その一環で、本年10月にはオーストラリアなど6か国6社のバイヤーを招聘し秋田市内のホテルで日本酒・酒類輸出商談会を開催する予定である。
 また、ユネスコ無形文化遺産「和食」を海外普及させる取り組みとして、稲庭うどんの佐藤養助商店が台湾へ直営店を出店するにあたり、台湾のパートナーとの合弁会社設立に向けてアドバイスや弁護士の紹介等を行った。

(2)県・秋田うまいもの販売課による支援
 秋田県秋田うまいもの販売課でも、本県産食料品の輸出促進のため様々な支援事業を行っている。
 本年6月25日~28日には、台湾最大級の国際総合食品見本市「フード台北」において、台湾のTECO(東元)グループの出展ブース内に本県ブースを出展し、本県の食材・食文化や観光等のPRを行った。同ブースでは、曲げわっぱや川連漆器、樺細工などの伝統工芸品を用いて秋田の「酒」、「食」、「菓子」の文化を紹介し、来場者から好評を博した。
 本年8月4日、6日にはジェトロ秋田と連携し、オーストラリア・メルボルン、シドニーにおいて秋田から三つの蔵元が参加し本県産日本酒の商談会・試飲会を実施した。オーストラリアはアメリカ等に比べて日本酒の浸透度合いが低いものの、徐々に日本酒の認知度が上がってきている。同商談会・試飲会には2日間の合計でオーストラリアの卸売業者や外食産業の関係者など延べ180人が参加し、秋田産日本酒のおいしさをPRするという成果があった。

4 主要品目ごとの輸出への取り組み

 以下で、本県における食料品輸出について主要品目ごとに特徴的な取り組みを紹介する。

(1)JA秋田おばこによる米輸出
 本県食料品輸出の一つの柱である米に関しては、大仙市、仙北市、美郷町を管内とする「秋田おばこ農業協同組合」(以下、「JA秋田おばこ」)が、全国の単位農協の中でも米の輸出でトップクラスとなる実績を挙げている。
 JA秋田おばこは平成10年4月に20農協の広域合併によりスタートし、米の集荷が10万トンと日本一の取扱量となった。しかし、転作強化もあり「調整水田」など作付されない休耕田が全体の30%近くまで増加、土地の有効利用がはかられず農業所得を低下させている状況であった。これに対し同JAは海外需要に目を向け平成20年度より輸出用米生産に取り組んだ。
 輸出用米は新規需要米として加工用米と同様に転作にカウントされる。ただし加工用米に対して交付される助成金がないため、その分農家の所得が少なくなる問題があった。JA秋田おばこは、輸出用米と加工用米、備蓄米を共同計算し、農家の手取りが同額になるように調整を行った。
 米輸出は、国内大手米卸売業者とタイアップして行っている。輸出用米の集荷数量の推移をみると、平成20年度の45tからスタートし23年度には703tまで増加した。24、25年度は備蓄米の価格上昇との兼ね合いで集荷数量が減少したが、26年度は過去最高の1,156tとなる見込みである。
 海外では「コシヒカリ」のシェアが高く、「あきたこまち」の市場性があるか心配されたが、日本米の「安全・安心・良食味米」のレベルが高いことから予想以上に競争力があり販路拡大につながった。現在の輸出先は香港、シンガポールなどアジア諸国、オーストラリア、ロシア、アメリカ、ヨーロッパ諸国に拡大している。
 輸出用米生産の取り組みは、水田の有効利用の役割が大きいが、秋田県産「あきたこまち」の評価向上にも寄与している。また、農家の意識改革にもつながった。自分たちの作った米が海外でも消費されているという自信や、「日本からの輸出による事故を出さない」という生産者責任の自覚をもたらしている。

(2)ASPECによる清酒輸出の取り組み
 食料品輸出のもう一つの柱、日本酒に関しては、いくつかの県内蔵元による輸出への積極的な取り組みがみられる。このうち、複数の蔵元が共同しての取り組みとして秋田県清酒輸出促進協議会・ASPEC(以下、「ASPEC」)によるアメリカ市場開拓が特徴的である。
 秋田県は平成17年、18年の二回に渡り、日本酒の市場調査を兼ねた訪米団を派遣した。これが県内酒造業者が海外市場に目を向けるきっかけとなり、平成18年に蔵元6社(現在は5社が参加)によりASPECが設立された。
 アメリカへの日本酒輸出に関しては日系商社3社による寡占体制の状況であった。アメリカでは日本酒に対する理解が不足しており、商品が何年も常温で店ざらしにされるなど適切な管理がされていなかった。ASPECは、日本酒文化をアメリカ市場に理解してもらうこと、日本酒の産地としての「秋田」をブランド化することを目的としており、既存ルートではない独自のルートを開拓した。評判を探りながら目的に合った取扱業者を探し、約3年をかけ高級ワイン商「ワインボー社」を発見し平成20年に契約を締結、同年7月に秋田県産酒のアメリカ陸揚げを果たした。
 ワインボー社にとって日本酒の取扱いはASPEC銘柄が初めてとなる。自社セールスマン等に対する商品教育に力を入れている点、温度調節などの品質管理に万全を期している点がASPECの目的に合致した。ワインボー社を経由した日本酒が現地で消費される状況は、高級レストランとワイン専門ショップが6:4の割合となっている。ワイン専門ショップでは、商品を冷蔵庫に入れて管理し、商品知識を持ったワインアドバイザーが消費者に説明しながら販売を行っていることでワイン流通の中に参入できた。輸出数量に関しては、当初は20フィートコンテナ換算で年間1本だったものが年間6~7本まで増加しており、今年は8本程度の輸出を見込んでいる。
 日本酒輸出の取り組みは参加している蔵元に対しても、マスコミに取り上げられることによる宣伝効果等のメリットをもたらしている。参加蔵元の一つ、天寿酒造は国際的コンテストに積極的に参加しており、2014年度インターナショナル・サケ・チャレンジ(ISC)では大吟醸・吟醸部門の部門トップとなる「トロフィー」を受賞した。このような国際コンテストでの受賞は海外市場へのアピールとなると同時に国内市場においても大きな宣伝効果を持つ。

(3)大沢葡萄ジュースによる海外市場開拓
 本県の加工食品の輸出は、前述のとおり量的には多くないが、その中でも意欲的な取り組みにより成果を上げている事例がある。
 横手市観光協会が販売している「大沢葡萄ジュース」は、商品開発の段階から海外への販売を目的としていた。平成17年1月、横手市は香港の「シティスーパー」を会場に「横手フェア」を開催、農産物等を紹介した。その際、バイヤーから「横手のブドウでジュースを作ってはどうか」という提案があった。香港のジェトロでジュースの人気を調べたところ、1番がオレンジジュース、2番目がブドウジュースであり、ブドウジュースは主にアメリカ産コンコード種を原料としていることが分かった。横手にはコンコード種に匹敵するブドウがあることから、これを原料としたジュース作りに取り組んだ。
 原料のブドウは、横手市大沢地区で栽培される「スチューベン」を、樹上で糖度23度まで完熟させたものだけを使用した。製造に関しては盛岡市の工場に依頼し、搾汁率60%で無添加のジュースを開発した。2,200本のジュースを製造し、うち600本を平成18年1月に香港・シティスーパーでの「秋田フェア」に持ち込んだところ1日半で完売、市場性のあることが証明された。ラベルは香港のバイヤーの意見を受けて、当初のものから高級感のあるものに変更した。
 大沢葡萄ジュースは順調に生産量を拡大し平成22年からは年間4万本程度を生産、うち1万5千本をシティスーパーで販売している。香港での実績が評価され、国内でも高級スーパー・成城石井との取引が成立、現在は年間1万5千本程度を成城石井ルートで販売している。製造に関しては、大沢地区の農家が農事組合法人「大沢ファーム」を設立、平成25年10月に稼働した横手市大雄のジュース工場での製造を開始した。当初開発したブドウジュースに加え、現在は洋梨ジュースも製造・販売している。
 大沢葡萄ジュースは原料を供給する農家にもメリットをもたらしている。大沢ファームによるジュース製造は7、8人の雇用を創り出し、ブドウジュースの販売実績をみて農家の後継者になった若手が10人程現れている。

5 まとめ

(1)海外での競争力を有する本県食料品
 輸出への取り組み事例からは、貴重な示唆が得られる。第1にあげられるのは、本県の食料品が海外市場においても競争力を有するという点である。輸出実績から「あきたこまち」、秋田県産の日本酒、横手市大沢地区のブドウを原料とするジュースは海外市場において競争力を有することが分かる。
 従来、輸出の障害となっていた制度や手続き面に関してはジェトロ等の支援が得られる。また、海外での物産フェアでの販売にとどまっていた輸出を継続的な取り組みとする際には、本稿で紹介した事例が参考になると考えられる。現在輸出を行っていない本県産食料品に関しても積極的に輸出を検討すべきと考える。

(2)高付加価値化の手段としての輸出
 次に、食料品のマーケティング戦略に関しても示唆が得られる。本県食料品に関して「品質は高いがまとまったロットを確保できない」、「農産物の加工による高付加価値化がなされていない」という点がしばしば指摘される。この点では、「大沢葡萄ジュース」が参考となる。大沢地区のブドウは量的に多くはないがジュースへの加工により高付加価値化、安定した販売を実現し農家の所得確保に寄与している。ASPECの取り組みでは、独自ルートを開発した効果で秋田県産酒のブランド化の可能性が開かれたという点が注目される。また、海外市場での評価が国内市場にはね返り本県産品のブランド価値を高めていることも印象的である。高い品質が評価される本県農産物や食料品の販売には、加工による高付加価値化や、ブランド化を念頭に置いたマーケティング戦略が有効である。
 米の輸出に取り組んでいる樽見内営農組合(横手市)は「コメを買ってくれる人を探したら海外にみつけただけ」と述べている。今後は、国内市場と区別せず海外市場も視野に入れた販売戦略がますます重要となる。紹介した輸出への取り組み事例を活かして、本県産食料品の輸出への取り組み拡大が続くことを期待したい。

(荒牧 敦郎)

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