経営随想
人が企業を創る
(秋田ファイブワン工業株式会社 代表取締役社長)
弊社の歴史
秋田県の誘致企業として、昭和48年4月、ファイブワン工業(株)の秋田工場が創業いたしました。その後、昭和50年2月に、分離独立の形で秋田ファイブワン工業(株)が設立され、おかげさまで、今年で創業41年となりました。社名にある「ファイブワン」とは、洋服製造の先駆けであった大阪谷町の既成服団地に、小さな工場5つを1つにまとめてファイブワン工業(株)が設立されたことに由来します。
創業当時は、紳士服のスーツの加工を主に行っておりましたが、現在では、3つの生産ラインを設け、紳士服・婦人服のスーツ、ジャケット、コート、ワンピース、スカート、パンツなど、様々な製品を年間約8万着製造しています。
私は大学卒業後、東京で働いておりましたが、長男ということで秋田に帰り、創業時から入社し、その後、会社の経営に携わるようになったのは、今から約20年前のことです。
昨今は、市場のグローバル化に伴い、あらゆる製造業がコスト削減のため、海外生産に移行しつつあります。特に、私たち縫製業界は、労働集約型の業種で、中国・ベトナム・ミャンマー等に生産をシフトしており、国内の縫製工場は激減し、生き残りが厳しい状況にあります。
弊社はそのような厳しい環境の中でも、小ロット、多品種の高品質ブランド品を主に製造しており、取引先もメーカーからSPA型(※)の小売店まで多岐に及びます。現在では、多くの百貨店やデザイナーズブランドともお取引させて頂くようになりましたが、取引先の“なくてはならない存在”であり続けるため、現在も様々な努力を続けているところです。
(※)SPA型:商品の企画から製造、物流、プロモーション、販売までを一貫して行う小売業態。
ヒューマンファクトリー
創業間もない昭和50年頃、弊社は、縫製不良が原因で会社が危機的状況に陥り、多くの社員に希望退職で辞めてもらわなければならなくなったことがありました。こうした苦い経験から、私は、高い技術とクオリティーを守るために、多能工育成を徹底して進めてきました。
そこで弊社が長年取り組み、現在も続けている活動が『プロジェクト5』と『5S改善活動』です。“人が企業を創る”との考えから、「ヒューマンファクトリー」を経営理念に掲げ、「働きやすい自己啓発型工場」を目指して人材育成に取り組んでいます。
プロジェクト5
1 年110%生産性向上目標
常に時代の変化に創意工夫をもって対応し、毎年110%の生産効率達成を目指す。
2 不良率の低減
事前打ち合わせの徹底と品質安定への作業指導等による不良率0%への取り組み。
3 管理者の育成とその活性化
スタッフ、リーダーはコミュニケーションの活性化を図り、計画達成に導く。
4 多能工の育成
前後工程習得と着縫い講習等による多能工化を図り、お互いの協力体制を確立。
5 5S改善活動
整理、整頓、清掃、清潔、躾の5Sの維持に努め、改善提案の活性化により、楽しい職場にしよう。
1S 整理
今、必要なもの以外は前に置かない
2S 整頓
誰でもわかるように置き場所を決める
3S 清掃
ゴミを出さない、汚さない工夫をする
4S 清潔
身の回りを清潔、安全に気を使う
5S 躾
上の4つの自分たちで決めたことを守り、習慣化する
文字にすると、基本中の基本のように思えるかもしれませんが、これらを徹底し、実践し続けるには、相当の覚悟と根気が必要です。このプロジェクトを始めた当初は、社員にとっては「やらされている」感があり、「しつけからおしつけ」になっていたかもしれません。しかし、今では、社員も理解してくれるようになりつつあります。結果として、作業面積や作業コストの削減、製造コストの削減、作業効率アップ、そして納期の短縮にもつながりました。
社員教育の重要性
縫製技術のレベルアップを図り、多能工を育成するため、弊社では毎年5月「着縫い勉強会」を開催しています。これは、その名の通り、一人で一着を仕上げるという勉強会です。
この勉強会に参加し、全ての作業工程を経験することで、自らの部門の作業全体の意味が理解できるようになります。前後の作業を含めた作業工程の改善や効率アップにもつながるほか、自分の担当する部門を他の社員に説明・指導することでボトムアップをはかることができます。熟練の技術者から若い世代への技術継承も進み、最終的には、多能工の育成に結び付く、弊社の伝統ともいえる重要な勉強会です。勉強会には、毎年たくさんの応募があり、社員のやる気と向上心はとてもうれしく、また誇りに思っています。
私は常々、社員には「プロのものづくりの集団」であってほしいと思っています。技術者としてのプライドを持ち、自分の仕事に誇りを持ってほしいと考えています。そのために、社員が働きやすい職場づくりに注力し、環境を整えるのが私の役目です。
平成12年には新しい社屋を建てました。社員自らが現場の無駄に気付き、『待ちの姿勢』ではなく、『自ら責任ある行動をとっていく』これらの取り組みを徹底することにより、次世代に引き継いで行ける体制を作りたいと考えてのことでした。こうした努力の積み重ねにより、小さくても「日本でキラリと光る企業」であり、「永遠に残る工場」でありたいというのが私の願いです。
東北アパレル産業機器展の開催
多能工育成や技術継承など、弊社が抱える課題は、県内外の縫製工場においても共通しているのではないでしょうか。
秋田県アパレル産業振興協議会では技術力の向上や対応力強化に関する課題などを業界内で共有し、連携を強化する取り組みも活発化しています。また、その上部団体である東北六県縫製団体連合会では、お互いの工場の見学会や、トレンド・新素材の勉強会を開催しています。また、東北アパレル産業機器展(東北ミシンショー)を主催しています。このミシンショーは、最新の機器やシステム、関連商品などの情報収集、交流などを目的に開催されるもので、現場のオペレーターが多数訪れる、全国でも珍しい展示会です。東北六県の持ち回りで開催されていますが、本年は6月に横手市の秋田ふるさと村に会場を移して開催しました。東北各県から二日間で延べ5,325人の来場者があり、秋田県および横手市の活性化の一助になったのではないかと自負しております。
今後の課題
弊社の今後の課題は、現在の5S改善活動の徹底とプロジェクト5の更なる推進です。特に、多能工の育成に力を注ぎたいと考えています。日本のものづくりは世界一です。弊社は世界一の技術集団を目指しています。
また、縫製業の多くの工場がそうであるように、弊社の社員の大半は女性です。女性は、結婚や出産、介護など、人生の転機がいくつもありますが、結婚し、子供を産んでも働き続けてほしいと思っています。また定年を迎えても、働く意欲のある人には続けられるよう、手助けしたいと思っております。社員あっての会社であり、財産であると考えるからです。
最近では、間違いなく、女性のリーダーが育ってきています。毎年新卒者を採用していますが、新入社員が、リーダーの仕事ぶりを見て、大きく成長してくれることを期待しております。
その技術と精神を次世代に継承していかなければなりません。弊社は「ヒューマンファクトリー」を継承し、縫製業界の、そして秋田の発展に努めてまいりたいと思います。
会 社 概 要
1 会社名 | 秋田ファイブワン工業株式会社 |
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2 代表者名 | 代表取締役社長 佐賀 善美 |
3 所 在 地 | 〒010-0975 秋田県秋田市八橋字下八橋191-29 |
4 T E L | 018-862-5141 |
5 F A X | 018-862-5288 |
6 U R L | https://www.a-fiveone.co.jp/ |
7 創 業 | 昭和48年4月 |
8 資 本 金 | 8,000万円 |
9 従業員数 | 102名(平均年齢39.4歳) |
10 事業内容 | 紳士服、婦人服の製造加工 |
11 企業理念 | 「ヒューマンファクトリー」(働きやすい自己啓発型工場) |