トップ機関誌「あきた経済」トップ増え続ける空き家の現状と課題

機関誌「あきた経済」

増え続ける空き家の現状と課題

 先ごろ総務省統計局が発表した「住宅・土地統計調査」によると、平成25年10月1日現在、全国の空き家数は820万戸、住宅総数に占める空き家の割合は13.5%となり、ともに過去最高を更新した。人口減少が進む中で、総住宅数が総世帯数を上回り、空き家の増加が続いている。本県においても空き家の増加が一貫して続いており、大仙市では平成24年3月に全国で初めて行政代執行による空き家の解体に踏み切るなど、問題が深刻化している。本稿では増え続ける空き家の現状と対策について調査し、今後の課題について考えてみた。

1 増え続ける空き家の現状とその背景

 総務省統計局が5年毎に発表している「住宅・土地統計調査」によると、平成25年10月1日現在、全国の空き家数は820万戸、住宅総数に占める空き家の割合(空き家率)は13.5%となった。平成5年の空き家数と比較すると、この20年間でほぼ倍増し、空き家の増加に歯止めがかからない状況が続いている。空き家が増え続けると、資産として有効活用されないだけでなく、家屋の倒壊、防災や防犯の機能低下、生活環境の悪化など様々な問題が発生し、近年は社会問題にまで発展してきている。
 空き家が増え続ける背景には、新築住宅の供給に重点を置いてきた戦後の住宅政策がある。戦後の住宅不足、その後の高度成長期の人口増加に対応するため、昭和25年に住宅金融公庫、26年に公営住宅、30年に日本住宅公団といった主要政策手段が相次いで整備された。また、昭和41年には「住宅建設計画法」が制定され、5年ごとに公営住宅や民間住宅の建設計画を立て、平成17年まで八次に亘って計画が策定されてきた。この間、昭和48年にはすべての都道府県で住宅数が世帯数を上回るようになったものの、戦後に建てられた住宅は質の低い物件が多く、昭和50年以降は「量から質へ」と政策を転換させ、その後も新築住宅重視の政策が続いた。さらにバブル崩壊後は住宅建設が景気対策のひとつとして位置づけられ、住宅ローン減税など住宅取得支援策を拡充し、持家の取得が奨励されていった。
 こうして平成25年には全国の総住宅数は6,063万戸となり、総世帯数(5,245万世帯)を15.6%上回り、空き家が増え続ける要因となっている。現在の日本は人口減少局面に入っているが、空き家が増え続ける中でも年間80~100万戸の住宅が新築されており、空き家が増加する一方で、新築住宅が造り続けられている特異な状況にある。
 また、空き家であっても住宅が建っていた場合に適用される「住宅用地に対する固定資産税の特例措置」も、空き家の解体が進まず、空き家が増加する一因となっている。この制度は住宅取得を支援する目的の特例措置であるが、空き家を取り壊して更地にしてしまうと、固定資産税の軽減が適用されなくなる。このため、税の負担増を避けるために、空き家を解体せずに放置しておくという問題が生じている。

2 県内の空き家の現状

(1)種類別の空き家状況
 県内の住宅ストック等の状況についてみると、平成25年の県内の総住宅数は446,900戸、総世帯数は390,900世帯となり、全国と同様に総住宅数が総世帯数を上回っている状況にある。また、空き家数については56,600戸と前回調査(平成20年)に比べて1,300戸増加し、空き家率は12.7%と僅かに上昇した。
 住宅・土地統計調査では空き家を「二次的住宅」(別荘など)、「賃貸用の住宅」、「売却用の住宅」、「その他の住宅」(例えば転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅など)の4種類に区分している。空き家総数に占める構成比は、二次的住宅が2.3%、賃貸用が36.2%、売却用が2.3%、その他が59.2%となっており、賃貸用とその他の2種類で全体の9割超を占めている。
 このうち「賃貸用の空き家」についてみると、平成25年の調査では20,500戸と前回調査に比べて4,700戸減と大幅な減少に転じている。賃貸用住宅では県内への転入や県外への転出による社会動態があるため、常に一定割合の空き家が必要であり、賃貸用空き家率の目安としては10%程度が適当といわれている。しかし、本県の賃貸用空き家率は20.1%と前回調査に比べて3.9ポイント低下したものの、依然ストック過剰な状態にあることが窺われる。このため、最近の貸家の着工には、ストック過剰による着工抑制の傾向がみられている。平成10~19年までは年間2,000戸台の着工で推移していたが、20~22年は1,000戸台となり、25年は876戸と1,000戸を割り込んでいる。今後も県内の貸家着工は抑制傾向が続くとみられ、賃貸用空き家率は改善が進むと予想される。
 これに対して、より問題視されているのが、居住者不在で当面の用途もない持家が大部分を占める「その他の空き家」である。「その他の空き家」は平成25年で33,500戸(前回調査比 6,800戸増)に上り、「その他の空き家」を持家とみなして算出した持家空き家率は9.9%(同+1.7ポイント)と、一貫して増加傾向にある。こうした空き家が手入れされずに放置されることによって、景観の悪化や老朽化による倒壊など周辺地域に外部不経済をもたらすことになる。

(2)市町村別の空き家状況
 また、秋田県が実施した空き家に関する調査によると、県内の空き家数は15,584棟(※)に上る。空き家数が最も多かったのは秋田市で2,745棟、次いで横手市1,720棟、能代市1,513棟と続いている。県内では唯一、大潟村で空き家がゼロとなっている。大潟村は農業という基幹産業があり、家を引き継ぐ後継者もしっかりいるため、空き家が発生していない。先に民間有識者でつくる日本創成会議が発表した「消滅可能性自治体」でも、大潟村は唯一、2040年まで女性人口(20~39歳)が15%増えるという試算も出ており、こうした人口の増加が予測される地域では、空き家の発生は最小限に抑えられることが予想される。一方、大潟村を除く24市町村は人口減少が進み、自治体が消滅する可能性があると予測されており、さらに空き家が増加する可能性がある。(※)総務省調査は集合住宅の各世帯(アパートの部屋など)を1戸として調査しているため、県が市町村から聞き取りした空き家数とは異なる。

3 空き家がもたらす問題

 空き家の増加が問題視されるのは、周辺地域に外部不経済をもたらすためであるが、具体的にどのような問題が起きているのか。国土交通省が平成21年に実施した「地域に著しい迷惑(外部不経済)をもたらす土地利用の実態把握アンケート」では、「管理水準が低下した空き家や空き店舗が周辺地域に与える影響」について全国1,217市区町村に質問している。
 アンケート結果をみると、「風景・景観の悪化」が最も多く、次いで「防災や防犯機能の低下」や「火災の発生を誘発」といった防災・防犯面の悪影響、「ゴミなど不法投棄等を誘発」という生活環境面の悪影響を挙げる市区町村が多い。
 また、その他の意見では、「積雪による倒壊の危険」、「冬期間堆積した雪で空き家がつぶれたり、落ちてきた雪で周囲に被害を及ぼす」などが挙げられており、積雪地域では除排雪が行われていない空き家の倒壊や落雪によって周辺住民に被害を及ぼすことが問題となっている。

4 空き家対策実施状況

 県内各市町村では、こうした問題のある空き家への対策や移住・定住を促す空き家の情報提供などに取り組んでいる。

(1)空き家条例
 平成22年7月、埼玉県所沢市で全国初となる空き家問題に特化した条例が制定されたのを皮切りに、全国で同じような条例を制定する動きが広まった。県内では平成22、23年度の豪雪により各地で空き家等の除排雪問題が発生したため、23年12月以降、空き家条例の制定が相次ぎ、これまで23市町村で制定されている。大館市では空き家条例は制定されていないものの、「環境保全条例」で実質的に空き家の管理を定めており、空き家のない大潟村を除いたすべての市町村で条例を制定していることになる。条例の内容については市町村ごとに異なるが、空き家等の所有者に対して、適切な管理を指導、勧告するものから、行政の勧告、命令に従わない場合は代執行により、強制的に空き家を解体することができるものまである。この条例を適用して大仙市が平成24年3月に全国で初めて行政代執行による空き家の解体を行い、全国の注目を浴びたことは記憶に新しい。

(2)解体費補助制度
 また、県内15市町村では、危険な空き家の解体を促す「解体費補助制度」を設けている。この制度は、戸建て住宅を解体するには100~150万円の費用が掛かるため、空き家の持ち主に30~100万円の補助金を交付し、空き家の解体を促すものである。ただ、それでも一部自己負担が発生してしまうため、秋田銀行では今年6月、解体資金を低利で融資する全国初の「空き家解体ローン」の取り扱いを始め、官民一体となって空き家対策に取り組んでいる。空き家の持ち主が市町村の補助金制度を利用した場合に金利を引き下げる仕組みとなっており、10月20日現在、13市町村と提携している。

(3)空き家バンク
 一方、県内14市町村では、空き家情報を居住希望者に提供する「空き家バンク」を開設している。空き家バンクは、市町村等が空き家物件情報を収集し、ホームページ上で物件情報を公開するなどして、空き家所有者と入居希望者のマッチングを支援する仕組みであるが、県によると、8月15日現在、登録件数は全体で125件、制度を利用したこれまでの成約件数は104件となっている。市町村別では、仙北市26件、鹿角市24件、大館市17件、横手市14件と大きな成約実績を上げている一方、登録・成約件数が少ない自治体もあるなど、運営実績には差がみられる。

5 空き家対策取り組み事例

 前項でみたように空き家対策には、問題のある空き家の解体と、まだ活用し得る空き家の有効活用という二つの方向性がある。県内で空き家対策に取り組んでいる特徴的な事例について紹介する。

(1)行政代執行による空き家の解体(大仙市)
 大仙市では、平成23年12月に空き家条例を制定し、危険な空き家の解体に取り組んでいる。
 大仙市は例年積雪の多い地域であるが、特に平成18年の豪雪の際には市内全域に大きな雪害をもたらし、同時に市民から空き家の除排雪に関する苦情や相談が多く寄せられ、空き家問題が浮上した。このため市では雪害対策実施要領を作成して、雪害の予防および雪害時の応急対策に努めた。その後平成23年に再び大雪に見舞われ、空き家に関する苦情が相次いだことから、市内全域の自治会長に対して空き家に関するアンケート調査を実施して1,415件の空き家を特定した。さらに現地調査して危険度に応じて空き家を「大」「中」「小」の3種類に分け、空き家マップを作成のうえ自治会長らと情報を共有し、被害防止に繋げている。同年12月には空き家条例を制定し、翌年3月に全国で初めて行政代執行による空き家の解体を行った。
 行政代執行による空き家の解体数は、これまで3件(13棟)、費用は約620万円に上るが、市による積極的な関与が市民に広まり、自主解体などを含めた空き家の解体数は、26年3月末までに223件となるなど、条例制定による大きな効果がみられている。

(2)地域資源(空き家等)を利活用したアーチストの誘致活動(河辺雄和商工会)
 河辺雄和商工会では、平成25年度より芸術を核に観光客や移住者を呼び込む「芸術の里かわべゆうわ」プロジェクトを展開している。
 河辺雄和地域は、平成17年に市町村合併によって秋田市となったが、旧町の頃から人口減少に伴って空き家・空き店舗が増加し、観光客も減少するなど諸課題を抱えていた。ただ一方で、同地域には予てから和紙創作家、陶芸家、画家、彫刻家等のアーチストたちが移住して活動していたことから、商工会ではアーチストたちのネットワークを構築するとともに、都会にはない自然や好立地環境にある空き家・空き店舗を利活用したアーチスト誘致活動に取り組んでいる。加えてご当地グルメである「バリコロ焼き」をも連動させ、「人」「技」「食」三位一体となったまちづくりに取り組んだ結果、26年3月までに2家族、計7名の移住に結びついた。
 同地域で画家として活動している「アトリエソウマ」の相馬代表は、「アーチストたちは自然が豊かな郊外に物件を求めることが多いが、そうした物件の情報を一般の不動産屋から得ることは難しい」という。同商工会のホームページ上ではアトリエに適した物件の紹介も行っており、地域資源を利活用した好事例といえる。

6 今後の課題

 今後も空き家は増加傾向で推移することが予想されるが、いかに活用していくかが今後の課題である。そのためには、まずは中古住宅の市場整備が欠かせない。築年数や間取りの情報だけではなく、リフォーム歴なども一元化し、物件情報を充実させる必要がある。また、手入れを行っている中古住宅の価値を正当に評価し、新築よりも中古住宅を購入した方が有利になる仕組みも必要である。高齢者の住み替え用に空き家を活用することなども考えられる。地域によって空き家が発生する経緯や解決すべき課題、対応策はそれぞれ異なるが、官民一体となって空き家対策に取り組んでいかなければならない。

(山崎 要)

あきた経済

刊行物

お問い合わせ先
〒010-8655
 秋田市山王3丁目2番1号
 秋田銀行本店内
 TEL:018-863-5561
 FAX:018-863-5580
 MAIL:info@akitakeizai.or.jp