トップ機関誌「あきた経済」トップ秋田県の食品産業の振興を支援する公設試験研究機関として

経営随想

秋田県の食品産業の振興を支援する公設試験研究機関として

田口 博
(秋田県総合食品研究センター 所長)

 秋田県総合食品研究センターは、昭和2年に設立された秋田県醸造試験場を前身としています。その後、醸造試験場の機能強化や、県内の幅広い食品産業分野に貢献できる機能の整備に対する要請に応えるため、平成7年 に秋田県総合食品研究所として、秋田テクノリサーチゾーン(秋田市新屋町)に開設されました。さらに、試験研究機関の一元化やセンター化等を経て、平成22年に秋田県総合食品研究センター(以下、当センターと略す)となり、現在に至っています。現在は、観光文化スポーツ部に所属しており、食品加工研究所・醸造試験場・企画管理室という3つの内部組織を持つ所員約30名の公設試験研究機関です。醸造試験場開設からは87年、総合食品研究所からでも19年という歴史のある研究機関です。
 当センターは開設以来、「秋田県の食品産業の振興を技術面から支え、推進する」ことを使命としています。このため、本県食品事業者が利用可能な新規技術の開発あるいは導入等で技術シーズを蓄える“技術開発業務”と、本県食品事業者のニーズを勘案しながら、技術支援や研修等を通じて技術的・人的両面で本県食品産業を後押しする“業界支援業務”を両輪として活動しています。平成23年に策定した中長期計画では、食品産業の県外や国外への販売拡大に向けた商品生産を見据え、地域の特性や独自性を活用した「売れる商品作りの開発支援」と「秋田らしい新技術の開発」を基本方針に掲げ、マーケットインの視点を重視し、消費者価値の高い商品に繋がる技術開発活動に取り組んでいます。
 秋田県は、平成24年度、カロリーベースの食糧自給率では全国2位に位置しており、豊かな県の一つです。農業・畜産・水産・林業生産を金額ベースでみれば2,042億円を上回っています。そのうち米の生産額が1,204億円(農林水産省「農林水産統計」)ですから、秋田県の生産額の59%はお米によるものです。つまり、秋田の豊かさは米に依存していることになります。一方で、量は多くはありませんが、他にも優れた農林水産物があります。また、これらを活用し、伝統と技術に裏打ちされた加工食品も数多くあります。
 「米の秋田は酒の国」であり、秋田の食品産業の中で、日本酒は群を抜いています。現在39蔵が良質なお酒を造っています。平成25酒造年度全国新酒鑑評会では、秋田県から33酒造場がエントリーしましたが、17酒造場で入賞、その中で10酒造場では金賞という優れた成績を収めることができました。さらに、世界最大規模で行われているInternational Wine Challengeの日本酒部門(2007年度に創設)においても、全国の蔵元から出品される数多くの優れたお酒の中で、秋田のお酒が特に優秀なお酒(トロフィー受賞酒)として受賞しています。2009年と2012年度は、このトロフィー受賞酒の中でも最も優れたお酒(チャンピオン酒)として選ばれる名誉も得ています。素晴らしいことだと思います。日本酒以外でも、米麹や各種の微生物を活用した伝統的な発酵食品(味噌・醤油・がっこ・甘酒・ハタハタ飯寿司やしょっつる等)や、きりたんぽ・稲庭うどん・ジュンサイ等は全国でも知れ渡っている食品です。
 食料品出荷額では、残念ながら、全国下位に低迷しています。食料品出荷額を県際収支の視点で見ると、秋田県はマイナスであり、農産物・加工食品を製造量よりも多く消費している輸移入超過の県と言えます。これは、秋田県では米以外の一次産品の生産量が少なく、農産品は県内消費がメインであったことや、食品加工事業者としては小規模な事業者が多いため、県外へ販売するために必要な長期保存に耐えられる食品加工等、付加価値をつける活動に弱いことが原因として挙げられます。

 そこで当センターでは、設置目的である「秋田県の食品産業の振興」を推進するため、本県食品事業者からのニーズ、食品産業の動向、県の施策等を踏まえ、食品の加工及び酒類の製造に関する技術開発に取り組むとともに、年間600件を越える技術相談・支援に取り組んでいます。その領域は、県産農林水産物に含まれる健康の維持・増進に寄与する機能性成分の解明や、新たな有用な微生物の収集と選抜・改良、さらに、味・香り等風味の向上や鮮度を保持する高度な加工技術の開発等、多岐にわたります。具体例としては、県農業試験場や県酒造組合と共同で開発した酒造好適米「秋田酒こまち」で醸す良質な日本酒、県内の蔵元と共同で商品化をすすめてきた「蔵付き分離酵母による蔵の特色を生かした純米酒」や、吟醸酒用の麹から辿り着いた良質な甘みを作り出すことができる秋田県オリジナルな麹「あめこうじ」、また、世界自然遺産登録20周年を迎えた白神山地の恵みである「白神こだま酵母」と、この微生物を活用した発酵食品群として、本県食品事業者への技術移転・普及促進を行っており、多くの「秋田ブランド商品」開発を支援しています。具体的な商品として皆様に手にとっていただける事例も増えてきました。
 当センターは、今後とも、素材のよい秋田の特徴を活用するための「あるもの探し」と「あるもの磨き」を続け、消費者視点で実感品質の高い商品に繋がる技術開発と支援を通して、秋田ブランドのヒット商品を一つでも多く生みだし、地域経済の振興に貢献すべく、業務を推進し続けます。一方で、当センターの活動だけで秋田県の食品産業の厳しい現状を打破することは容易ではありません。本記事を御覧の皆様には、是非、日常から様々な場面まで、素晴らしい秋田の食品を積極的にご活用いただき、秋田県の食品産業の振興に繋がりますよう、ご支援をお願いします。

セ ン タ ー 概 要

1 センター名 秋田県総合食品研究センター
2 代表者名 所長 田口 博
3 所 在 地 〒010-1623 秋田県秋田市新屋町砂奴寄4-26
4 T E L 018-888-2000
5 F A X 018-888-2008
6 U R L https://www.arif.pref.akita.jp/
7 設立年月等 秋田県醸造試験場 昭和2年10月
秋田県総合食品研究所 平成7年4月
秋田県総合食品研究センター 平成22年4月
8 事業内容 「秋田県の食品産業の振興を技術面から支え推進する」ための、技術開発業務及び、業界支援業務
9 職員数 31名(平成26年4月1日現在)内訳:研究職25名・行政職4名・任期付職員2名
あきた経済

刊行物

お問い合わせ先
〒010-8655
 秋田市山王3丁目2番1号
 秋田銀行本店内
 TEL:018-863-5561
 FAX:018-863-5580
 MAIL:info@akitakeizai.or.jp