トップ機関誌「あきた経済」トップ「地方創生」と秋田県

機関誌「あきた経済」

「地方創生」と秋田県

 人口減少対策と地方経済振興を柱に据えた「地方創生」事業がスタートし、目下、地方版戦略が全国各地域で練られている。本県でも各自治体が中心となり地元版戦略の作成を進めているが、地域振興を巡ってはこれまでも様々な施策を講じてきている折から、重ねての戦略創出には難しい面も伴う。しかし、一方で秋田県は人口減少率が高くかつ地場産業の衰退も顕著であり、それだけ今般の「地方創生」事業を活かす余地も大きい。この機会を利用し、従来からの施策を再吟味するとともに地域特性に沿う斬新なプラン捻出に努める等、改めて本県の「創生」に総力を投じていくべきであろう。

1 「地方創生」の背景

 昨年末、政府は人口減少と地方経済振興対策の5か年計画「まち、ひと、しごと創生総合戦略」を閣議決定した。本計画をグランドデザインに、現在は都道府県や市町村が、各々の地域環境や経済事情を踏まえた地方版総合戦略案の作成作業を進めている。これらの計画は、この後2015年度から5年間で実施する雇用創出のための産業振興や出産・子育て支援等の施策と、20年時点の移住者数、新規就業者数などの数値目標とともに明年3月末までにそれぞれ策定され、都道府県毎に設置される「地域総合戦略本部」を中心に実行に移されることになる。
 そもそも「地方創生」が強く叫ばれ出した背景には、有識者らによる政策発信組織「日本創成会議」が昨年5月に公表した試算値がある。同会議は国立社会保障・人口問題研究所が2013年に発表した将来推計人口を基に試算を行い、「地方から都市への人口流出が現在のペースで続けば、2040年に20~30代の若年女性が半数以下に減少する自治体が全国で約半数の896に上る」と指摘するとともに、これらを「消滅可能性都市」と位置付けた。この結果に危機感を募らせた政府が、いわゆる「アベノミクス」の一連の経済政策に人口減少と地方振興の対策を大きく取り入れ、今後の看板施策に据えたという経緯にある。
 政府の「地方創生戦略」は、5年間で地方の若者雇用を30万人分創出し、地方への人材回帰の流れを生み出そうという意欲的な計画である。2060年時点で1億人程度の人口を維持するという最終目標を掲げる傍ら、初年度となる2015年度の関連事業予算(案)に1.4兆円を計上(*1)、今後、地方での雇用創出と都市住民の移住を進め、さらに企業の地方移転等を通じて東京圏への転入超過をゼロとし、東京一極集中を是正するとしている。
 もとより、地方経済の振興に焦点が当てられたのは今回ばかりでなく、過去にも同様の施策が度々試みられている(*2)。また、地方への企業の移転や住民の移住が、今回措置される税制や補助金だけで容易に進むものではないことも明らかであろう。これまで数次の取組にも拘わらず地域衰退の流れを阻止できなかったのは、あながちバラ撒きと非難を浴びることの多かった政府の対症療法的政策や縦割り行政等のせいばかりでなく、その責任の半分は、「姿勢が受け身に終始しがちで自助努力が必ずしも十分ではなかった」という部分で、地域にも存在する。従って、地方経済活性化のためには何より地域自身が今後は主体的に取り組むことが求められ、人や企業の移住、移転等も、それらを引き寄せる魅力をまず地方自らが備える努力を尽くすことが前提となろう。多くが指摘するように、「地方創生」はまず地方自身が再生へ力を傾け、さらに、自らの力でその扉を開くべきものであると思われる。
(*1)内訳では、農林水産業や中小企業支援による雇用創出が1,744億円、地方大学活性化など移住・定住促進が644億円、コンパクトシティーの推進などまちづくりが3,741億円。少子化対策は1,096億円で、他に「子ども・子育て支援新制度」など社会保障の充実に6,766億円を充てた。また、地方財政計画に、自治体が雇用や人口減対策に自由に使える資金として1兆円を予算計上した。
(*2)竹下内閣「ふるさと創生事業」、小渕内閣「地域振興券」発行、第1次安倍内閣「頑張る地方応援プログラム」、菅内閣「一括交付金」等々、これまでも様々な地方振興政策が実施されてきた。

2 秋田県の現況

 日本創成会議により、「県内25市町村のうち大潟村を除く24市町村に消滅の可能性がある(*3)」とされた秋田県の場合、人口減少問題は他地域以上に深刻で、それを喰い止めるための早急な対策の実施が求められている。このため「地方創生」に向き合う県内各自治体は、急な作業に戸惑いつつも、地域の存亡に係る重大事業として、地元版戦略の構想・立案に懸命となっている。
 折しも、県も昨年人口問題のプロジェクトチームを設置し、これまで要因の分析や中長期での施策の検討・立案等に鋭意取り組んできた経緯にある。その結果を踏まえ、県は人口減少対策として「人口問題レポート」、「人口問題対策2015」をとりまとめ、近く県議会に報告する。また、その後はこれらを基に地方版総合戦略の素案作成を進め、「転出者数が転入者数を上回る社会減の歯止め」、「きめ細かな少子化対策」、「持続可能な地域づくり」の3つの観点から、若者の就業や定住促進に係る様々な施策を盛り込んだうえで、10月頃に成案化を図る予定としている。
 因みに、本県の人口は昨年10月時点で103万6,861人、前年に比べ1.26%のマイナスとなった(県の人口流動調査)。減少率は4年連続で拡大し、少子高齢化の進行とともに人口の減少ペースも上昇する傾向にある。将来人口の見通しは、県の試算によると2040年に70万人を割り、69万9,814人となる。また、生産年齢人口(15~64歳)と老年人口(65歳以上)はほぼ同数で超高齢化社会が到来するとされ、手を拱いていた場合には、県全体が「限界集落」化することにもなりかねない状況となっている。(*3)国立社会保障・人口問題研究所が2013年に発表した将来推計人口を基に、日本創成会議が自治体ごとに試算した30年後の若年女性数が、本県では24市町村で半分以下になるとされた。減少率は男鹿市(74.6%)が最も高く、五城目町(75.4%)、三種町(73.0%)が続いている。

3 秋田県と「地方創生」

(1)「地方創生」事業への取組状況
 「地方創生」を巡る全国の動向では、21の市町村が申請した地域再生計画を、本年1月、政府が改正地域再生法(*4)に基づく第1陣として認定した。このうち東北地方のものでは、宮城県石巻市の「生鮮市場を核とした市街地の観光拠点化」、福島県会津若松市の「ビッグデータ加工産業の集積」計画の2つを認定している。政府はこれら21事業を地方創生のモデルと位置付け、今後、地域振興に係る人材育成の面や税優遇・低利融資、補助金支給(*5)等により支援する予定である。
 一方、県内については、人口減少率の最も高い藤里町はもとより多くが人口問題を巡る検討組織を立ち上げ済みであるほか、横手市など8市町村が全国組織の「人口減少に立ち向かう自治体連合」に参加する等、殆んどの自治体が何らかの形で人口減少対策に既に取り組んでいる。しかし、今般の「地方創生戦略」のスキーム下では論議を始めて間もない段階にあり、人口減少と経済振興の対策を絡めた創生計画を、何れも具体的に定めるまでには至っていない(*6)。目下、現状分析と施策の案出等に専念している状況だが、何れ、抱える課題の大部分は各地域に共通するものであり、多くは地場産業の振興や子育て支援等を視野の中心に、今後検討が進められるものと推測される。
(*4)地方自治体がまとめた「地域再生計画」に対する国の支援(税優遇や低利融資等)を定めている。また、省庁ごとに分かれていた地域支援策の申請と認定の手続きを内閣府に一本化し、自治体が迅速に計画の申請と実行に移れるようにした。
(*5)地方再生戦略交付金:16年度は120億円の見込み。
(*6)市町村レベルでの「総合戦略」作成は必須ではないが、交付金支給の条件が本戦略の策定であるため、すべての地域が作成するものと推測される。

(2)「地方創生」事業の方向
 改めて言うまでもなく、本県を含む地方での人口減少対策では「雇用創出」が第1要件であり、「結婚支援」や「子育て支援」等の諸施策は、この生業手段を巡る土台がセットされた上で本来の機能を発揮する。このため人口対策面も含め、さしあたっては企業の地方移転を促す政府方針を当てに全国各地間で企業誘致合戦が激しさを増すと予想され、本県も急ぎその方面での戦術練り直しを迫られよう。
 また、当然のことながら、それと並行して地場企業の再生と競争力の強化についても、着実に進めていく必要がある。これについては「ものづくり中核企業育成集中支援事業」や「中小企業振興条例」の制定等、従前から本県では力を注いできた分野であり、引き続き地場産業振興計画の一環として取組を強化していかなければならない。
 なお、その際には成長の可能性が高く、かつ本県産業の地域特性を活かせる分野が適当との観点から、主な対象分野として「食・農・観光」や「資源・エネルギー」、「医療関連機器」等が挙げられているのは周知のとおりである。さらに、高齢化先進県である本県では、高齢者を対象とした事業も有望となろう。ただし、日銀秋田支店の直近レポート(*7)によると、「65歳以上の県内高齢者の人口は20年頃から減少に転じ、シニア市場も全体では縮小に向かう」と推計されていることもあり、この方面ではシニア・ビジネスの中でも特に高齢者のニーズの強い生活や医療・介護等の分野に重点を絞り、それらをトータルでサポートし得る「秋田モデル」を工夫・創出していくことが、事業拡大のポイントになると思われる。

(3)「地方創生」事業へのスタンス
 因みに、以上のうち多くは現在も推進中の施策である。もとよりこれらの基本方向は踏襲すべきにしても、せっかくの「地方創生」に従来の延長線上から臨むだけでは、国の政策支援を得る好機を逸することにもなりかねない。
 折しも、国が人口減少対策に力点を置くのは初めてのことで、その方向から地域の経済振興が図られるのは、とりわけ人口減少に悩む本県にはプラス面も大きい。また、従来各省庁や県・市町村、商工会等の各組織によりバラバラに実施されてきた地域振興事業が、今後は調整された形で進められること、また、計画実施状況が随時モニタリングされるとともにその結果も評価されること等、今回は過去のレベルと比べて相当に踏み込んだスキームとなっている。従って、これをチャンスと捉え、改めて再生に活かしていけるか否か、まさに全国各地方の才覚が問われている。本県でも、従前からの地域振興の方向を踏まえつつもこれを機に異なる座標軸で施策を再吟味し、さらに、地域の特性に応じた特色あるプラン、地に根をはった持続性のある計画等を改めて工夫・創案し、従来方針をレベルアップしていく必要があろう。
 もとより地域振興策を巡っては、これまでも各地元が再三検討を重ねてきたところであり、斬新なプランの案出は実際容易なことではないと思われる。しかし、それでもここは地域の浮沈が賭かるだけに、再度開拓可能な方向を探り、重ねて再生への智恵を絞るなど、秋田県の「創生」に向って総力を投ずるべき局面であると考えられる。
(*7)日本銀行秋田支店レポート「高齢化の進行を受けた県内企業等の取組」(2015年1月22日)

4 最後に

 以上のとおり、本県は高齢化率や人口減少率が全国トップであり、それだけ「地方創生」事業を自らの計画に取り込む余地も大きい。そのため各自治体は戦略策定に目下余念のない状況だが、ただし特効薬の捻出も難しいと思われることから、場合によっては類似事業が一様に並ぶ結果をみる懸念も残る。計画策定に当たっては、地域総体として一定の体系が必要であり、県の適切な指導や助言が求められる。
 また、産業振興に際しては、本県中小企業の潜在力を引き出す方策を講じることがポイントになると考えられる。産学官連携の取組や県産業技術総合研究センター等との連携など、組織間の協力が増々不可欠となって来よう。これを機に、県をあげて長い雌伏から脱するための取組を再開しなければならない。

(高橋 正毅)

あきた経済

刊行物

お問い合わせ先
〒010-8655
 秋田市山王3丁目2番1号
 秋田銀行本店内
 TEL:018-863-5561
 FAX:018-863-5580
 MAIL:info@akitakeizai.or.jp