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経営随想

少子高齢化と秋田の経済発展

小田 信之
(日本銀行秋田支店長<現・総務人事局>)

1.はじめに

 秋田経済の将来について議論すると、必ずといってよいほど話題にのぼるのが少子高齢化の問題だ。秋田県は、全都道府県の中で少子高齢化が最も先行しているため、県民の間で「この先、秋田経済は縮小の一途をたどるのではないか」といった危機感が強いからだろう。
 少子高齢化という現象は、すぐ間近に大変な事態が迫っているというよりも、ボディブローのようにじわじわと経済にダメージを与える性質がある。だから、やっかいな問題だ。危機を目前にすれば、誰しもそれを克服しようと必死になるが、心のどこかに「まだ大丈夫」という言い訳があると、対応が後手になりやすい。気が付いたら手遅れということのないように、官民がそれぞれ、本格的に対応すべき時期が来ていると感じる。
 以下では、経済への影響という視点から少子高齢化の問題をあらためて整理したうえで、秋田経済がこの先も発展し続けるためにどのような取り組みが望まれるかについて、私見を申し述べたい。

2.少子高齢化が秋田経済に与える影響

 少子高齢化は、2つの問題に分解できるように思う。一つは、少子化に伴う総人口の減少、もう一つは、高齢化に伴う労働人口の減少だ。
 まず、総人口の減少の影響について考えよう。論者によっては、人口減少そのものは大きな問題ではないと言う。人口が減ればGDPも減るが、生活の豊かさを表すのは「一人当たりGDP」であり、一人ひとりがしっかりと経済活動をしていれば大丈夫だという考え方だ。しかし、経済活動は、一人ひとりが単独で行うものでなく、多くの人間の輪の中で互いに影響を及ぼし合いながら価値を創造していくものだ。人口減少が続くと、そういったプラスの相互作用が減殺されてしまうため、望ましくない。したがって、秋田にもっと人を引き付けるにはどうすべきかが課題となる。この点は、後ほど言及したい。
 他方、労働人口の減少に対しては、総人口の中で労働に携わる人の割合を増やすことで、ある程度の対応が可能である。具体的には、高齢者の労働参加や女性の社会進出をもっと進めるという処方箋が有効だろう。統計上は、65歳以上の方を「高齢者」と分類する慣行があるが、今の時代の65歳の方は、昔に比べ、まだまだ元気に社会で活躍できる健康と能力を持っておられる方が多い。また、女性が社会で活躍する環境はかなり整備されてきているが、秋田では、組織の中核で女性が活躍しているケースが多いとまでは言えない。高齢者の経験やスキル、女性の能力やアイデアをさらに活用することが、秋田経済の活力を高めることにつながるだろう。

3.秋田に人を引き付けるには

 さて、秋田に人をもっと引き付けるにはどうしたら良いかをあらためて考えたい。
 私自身が秋田で暮らしてきた実感として、生活の地としてこれほど魅力の大きい地域は他になかなか無いのではないかと思う。豊かな食材、風光明媚な自然、安心・安全に暮らせる環境、高度な教育水準、そして何よりも人の心の温かさ。これほどの魅力があるにもかかわらず、人口減少が止まらないならば、やるべきことは2つだ。
 第一は、この魅力を知らない県外の方に、もっと秋田を知ってもらうこと。私もそうだったが、秋田に来て、暮らして、初めて気付いた「良さ」が少なくない。短期の観光だけでは十分に伝え切れないかもしれない「良さ」をどう伝えるか、工夫が必要だろう。また、県内で生まれ育つ若者に対して、学校や家庭などで、地元の魅力を再認識させるような働きかけも望まれる。
 第二は、秋田の魅力そのものをさらに引き上げること。いろいろな方向性があり得るが、特に、若者が満足して就業できる場を増やしていくことは、間違いなく効果的だろう。「地元が大好きだが、やりたい仕事が県外にしかないから、仕方なく出ていく」という若者の声は少なくないからだ。
 就業の機会を増やすには、行政等の支援も重要だが、民間の事業所や企業が経営基盤を強化し、将来性ある事業にこれまで以上に積極的に取り組んでいくことも期待される。その際、特に重要だと思うのは、新領域への挑戦とブランドの構築、そして、グローバル化やIT化といった経営環境の変化を的確にとらえた事業展開である。以下、順に取り上げたい。

4.秋田経済の成長に向けて

(1)新領域への挑戦とブランドの構築
 経営体にはそれぞれに「強み」がある。私は、秋田で多くの経営者とお話をさせて頂いてきたが、製造業であれば、固有の技術力や製造ノウハウを蓄積されている企業が実に多い。農林水産業であれば、秋田という地域ならではの恵まれた資源をフルに活用して事業が行われている。サービス業であれば、独自の工夫でブランドを確立している企業も多い。
 新しい事業に挑戦する場合、全く白紙の状態から絵を描くのは容易ではなかろう。まずは、「顧客にもっと喜んでもらうには、どのような新製品・新サービスを開拓すれば良いか」と、想像力をもって粘り強く思案することが基本だが、その際、既存の「強み」を念頭に置いて考えれば、独自のアイデアにつながる可能性がある。
 独自性は、極めて大切なキーワードだ。一般に、差別化されていない事業では競争が厳しく、収益性を伸ばすのが容易でない。一方、オンリーワンの製品や特徴あるサービスを提供し、信頼されるブランドを構築すれば、そこには高い価値が生まれる。例えば、県内企業でも、長年にわたり大手メーカーの下請け事業などで蓄積した技術を活用して、独自ブランドの完成品を作り上げ、全国展開に乗り出している事例がある。こうした新事業への取り組みは、コストとリスクを伴うのは事実だが、成功した場合には高い収益性を展望できる。新領域に挑戦する行動力と、ここぞというチャンスを逃さない経営手腕が期待されるわけで、秋田には、そのようなチャンスがこれからもたくさんあるように感じる。無論、これらを実現していくうえでは、金融面からのサポートも欠かすことのできないピースの一つであり、この点、地域の金融機関に寄せる期待が大きい。

(2)経済環境の変化をとらえた事業展開
 近年の経営環境の変化に関しては、グローバル化とIT化が特に重要だ。
 まずグローバル化であるが、貿易コストの低下に伴い、製品やサービスが国境を越えて「流通」しやすくなっている。こうした潮流は、消費者に対しては、消費の選択肢の多様化と物価の低下をもたらす一方、企業に対しては、競争の激化と潜在的な市場の拡大をもたらす。
 企業にとっての競争の激化について考えると、安価な労働力などを武器にする新興国の商品は、確かに価格面だけに注目すれば競争力が高いが、秋田では秋田でしか作れない高品質の商品を作ることで対抗できるはずだ。もちろん、グローバル化に伴って、以前は成り立っていた分野でビジネスが成り立たなくなるケースもあろうが、新興国には出来ない商品を作り上げて提供していくことこそが仕事だという意識が大切だろう。
 また、グローバル化は、企業に対して潜在的な市場の拡大をもたらす。海外から日本に商品が流入してくるだけでなく、日本からも商品を海外に輸出しやすくなっているからだ。今や、経済圏は無限に広がっている。
 次にIT化の影響であるが、インターネット販売を思い浮かべれば分かるように、生産者、販売者、消費者の間の距離が著しく近くなってきている。秋田は、国内最大の消費地である首都圏から地理的に距離が遠いため、最終消費者へのアクセスという点でこれまでハンディを負ってきた面は否定できないが、IT化の進行を活用して事業展開を行えば、そうした負担をかなり軽減可能ではなかろうか。実際、県内にも、インターネット販売によって食品や農産物などさまざまな商品を国内に広く直販している事業者が既にたくさんある。
 また、グローバル化とIT化を重ね合わせて考えれば、秋田から海外の顧客に直接販売を行うこともかつてより格段に容易になっていることが分かる。私自身の経験を申せば、20年近く前のことであるが、書籍通販のアマゾンがまだ日本法人を有していなかった頃、手に入れたい洋書を米国のアマゾンのサイトから取り寄せたことが何度かある。当時、都内の大手書店で取り寄せるより、ずっと迅速かつ廉価に手に入ることが分かり重宝した。この逆のことが秋田でも可能ではないか。海外でそれほど流通していない秋田の魅力的な商品を海外の顧客にインターネットなどを活用して販売できるチャンスは広がっている。英語教育で定評のある本県では、そのようなビジネスを実現させる能力のある人材にも困らないと思う。

5.結びに代えて

 秋田経済が少子高齢化の問題を乗り越えて今後も発展を続けるためには、どのような取り組みが望まれるか。何か一つの決定打があるわけではないし、望ましい方向性は認識できていても、実行するのが容易ではない点もあるだろう。それを承知のうえで、本稿では、この2年間、私なりに秋田で考えてきたことを整理してみた。
 県民一人ひとりが考えて、果敢に行動する中で、秋田経済が進むべき道は自ずと開けてくると確信している。

(日本銀行秋田支店の概要)

1 代表者名 支店長 野見山 浩平
2 所 在 地 秋田市大町2丁目3番35号
3 電話番号 018-824-7800(代表)
018-824-7815(お札や硬貨に関する照会)
018-824-7819(国庫金に関する照会)
018-824-7802(各種公表資料や金融経済に関する照会)
4 FAX番号 018-888-1070
5 U R L https://www3.boj.or.jp/akita/
6 設立年月日 1917年8月1日
7 職 員 数 43名
8 事業内容 総務課: 地域の金融経済情勢の把握(情報収集・分析)、広報、内部管理
発券課: 銀行券・貨幣の受払、損傷通貨の引換
業務課: 金融機関との当座預金の受払・貸出等の取引、国庫金の受払
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