機関誌「あきた経済」
秋田県の警備業の現状と課題について
総務省の「経済センサス」によると、平成24年の県内の警備業は、事業所数が85事業所、従業者数が2,619人となっている。警備業界は社会のセキュリティに対するニーズ拡大を背景に、昭和50年代から近年まで順調に成長を続けてきた。しかし、リーマン・ショック以降の平成20年代は、一転、停滞色が強くなり、県内においても、契約額の落ち込みや競争激化などから、従業者数が大きく減少する結果となっている。また、業界では従来からの下請け構造や最近の人手不足など抱える課題も多いものの、新規サービスの開発など新たな展望の開拓にも努めている。本稿では、県内警備業の現状と課題をまとめた。
1 はじめに
警備業の定義は、日本標準産業分類によると、「事務所,住宅,興行場,駐車場,遊園地等における盗難等の事故の発生の警戒及び防止並びに人身の安全の確保若しくは,貴重品等の運搬の際の盗難等の事故の発生の警戒及び防止の業務を請負う事業所」となっている。実際に警備業の業務内容は非常に幅広く、例えば、オフィスビル、学校、病院の警備や現金輸送車の護衛、交通誘導、個人のボディーガードなど多岐に渡る。そのため、警備業法においては、業務を図表1の4つに分類し、公安委員会および各都道府県警察が監督している。
2 全国の概況
全国の概況をみると、平成24年の警備業は11年前の13年(※1)と比較し、事業所数が1,144事業所(16.5%)増加の8,073事業所、従業者数が103,508人(33.6%)増加の411,392人となっている。警備業は昭和50年代から順調に成長を続けてきた。平成24年の売上高は3兆1,987億円(全国警備業協会調べ)と、13年の2兆5,693億円に比べて、24.5%増となっている。ただ、リーマン・ショック以降の平成20年代は、それまでと一転、停滞色が強い。
なお、警察庁の「警備業の概況」によると、施設警備などの1号警備が7,022事業所(構成比76.9%)、交通誘導などの2号警備が6,715事業所(同73.5%)、貴重品運搬などの3号警備が717事業所(同7.9%)、身辺警備などの4号警備が619事業所(同6.8%)となっており(※2)、業界内では施設警備と交通誘導警備が圧倒的多数の業務を占めていることが分かる。
なお、警察庁の「警備業の概況」によると、施設警備などの1号警備が7,022事業所(構成比76.9%)、交通誘導などの2号警備が6,715事業所(同73.5%)、貴重品運搬などの3号警備が717事業所(同7.9%)、身辺警備などの4号警備が619事業所(同6.8%)となっており(※2)、業界内では施設警備と交通誘導警備が圧倒的多数の業務を占めていることが分かる。
(※1)「経済センサス」は、統計の統合という特殊要因があったことから、10年前となる平成14年の計数がなく、それに近い13年と比較する。
(※2)1つの警備業者が2以上の区分の警備業務を実施するケースもあり、構成比合計は100%とならない。
3 県内の概況
(1)事業所数と従業者数の推移
(2)県内業界の特徴と課題
県内業界の概況をみると、平成24年は13年と比較して、事業所数が13事業所(18.1%)増加の85事業所。一方、従業者数が285人(9.8%)減少の2,619人となっている。
大宗を占める施設警備や交通誘導警備などの警備業は初期投資も少なく、比較的参入が容易なことから、本県でも小規模先での新規開業が多い。しかし、一方で、公共工事の減少や顧客となる誘致企業の撤退などにより大手を中心に人員削減が進み、従業者数は減少している。
なお、県内の事業所数と従業者数を規模別にみると、事業所数で最も多いのが「10~19人」で、比較的小規模の事業所が多い。一方、従業者数では「50~99人」および「100人以上」が全体の約45%を雇用しており、大規模事業所へ労働力が集中している様子が見て取れる。
大宗を占める施設警備や交通誘導警備などの警備業は初期投資も少なく、比較的参入が容易なことから、本県でも小規模先での新規開業が多い。しかし、一方で、公共工事の減少や顧客となる誘致企業の撤退などにより大手を中心に人員削減が進み、従業者数は減少している。
なお、県内の事業所数と従業者数を規模別にみると、事業所数で最も多いのが「10~19人」で、比較的小規模の事業所が多い。一方、従業者数では「50~99人」および「100人以上」が全体の約45%を雇用しており、大規模事業所へ労働力が集中している様子が見て取れる。
(2)県内業界の特徴と課題
県内業界の特徴は、まず大手と中小零細事業所の業務内容の違いが大きいことである。全国もほぼ同様の傾向にあるが、一般に大手はセンサーや特殊装置を用いた機械警備により大規模施設の常駐・巡回等を請負い、比較的高い収益性を確保している。これに対し、中小零細の事業所は、雑踏警備(イベント等での警備)や交通誘導警備が主体となっている。これらは業務量が不安定であるうえ、建設業者など他の事業者の下請けになる場合も多く、業界の低収益構造を生み出す一因となっている。また、近年は厳しい経済環境で業務量自体が伸び悩み、過当競争から発注先の値下げ要請も受け入れざるを得ないなど、採算は一段と厳しさを増している。
また、地元企業に多い小規模施設の常駐警備や交通誘導警備は、労働集約的な色彩が濃く、かつ比較的低賃金であるうえ、深夜勤務や宿直のほか、夏場の高温・冬場の寒冷といった厳しい就労環境に一部、取り巻かれている。このため、青壮年代の従業員を安定的に確保することが難しく、従業者の多くが高齢の男性で占められるなど、就労構造にも偏りがみられる。こうしたことから、業界では受注量の拡大のほか、業務内容の多様化による付加価値の向上により採算性の向上を図ること、および就労環境の改善により若手も含めて労働力を安定的に確保できるようにすること等が、長年にわたる課題となっている。
また、地元企業に多い小規模施設の常駐警備や交通誘導警備は、労働集約的な色彩が濃く、かつ比較的低賃金であるうえ、深夜勤務や宿直のほか、夏場の高温・冬場の寒冷といった厳しい就労環境に一部、取り巻かれている。このため、青壮年代の従業員を安定的に確保することが難しく、従業者の多くが高齢の男性で占められるなど、就労構造にも偏りがみられる。こうしたことから、業界では受注量の拡大のほか、業務内容の多様化による付加価値の向上により採算性の向上を図ること、および就労環境の改善により若手も含めて労働力を安定的に確保できるようにすること等が、長年にわたる課題となっている。
4 今後の方向性
(1)新分野の開拓
(2)現行業務の採算改善
(3)人材の育成
今後も技術の進展とともに機械警備は発展し、技術力や資金力のある大手優位の傾向は続くと予想される。従って、地元の中小零細事業先は、ある程度、こうした状況を前提に、付加価値向上が期待できる独自の進路を探さざるを得ないと思われる。
まず、大手の機械警備と異なる分野としては、地元に密着したきめ細かなサービスを行う方向が1つ考えられる。全国的に進んでいるホームセキュリティサービスのほかに、とりわけ高齢化率の高い本県では、老人世帯を対象に家事支援等を織り交ぜたサービス、また、地域の空き家警備をめぐるビジネス等も有望と思われる。このほか、家屋の散在する郡部では、情報通信ネットワークを利用したサービス、例えば、安否確認や健康相談、ネット宅配などとセキュリティ業務を連携させた多様な事業も考えられ、もとより業界としてもこれらを含めた様々な方向を模索している。
まず、大手の機械警備と異なる分野としては、地元に密着したきめ細かなサービスを行う方向が1つ考えられる。全国的に進んでいるホームセキュリティサービスのほかに、とりわけ高齢化率の高い本県では、老人世帯を対象に家事支援等を織り交ぜたサービス、また、地域の空き家警備をめぐるビジネス等も有望と思われる。このほか、家屋の散在する郡部では、情報通信ネットワークを利用したサービス、例えば、安否確認や健康相談、ネット宅配などとセキュリティ業務を連携させた多様な事業も考えられ、もとより業界としてもこれらを含めた様々な方向を模索している。
(2)現行業務の採算改善
次に、現行の業務について一層の改善が必要であろう。機械化の推進や要員配備等に係る社内連絡システムの整備、作業内容・手順の均一化など、業務の効率化および採算性向上の面で取り組むべき点も多く残っている。また、公共工事などの際の交通誘導警備等は建設業者の下請けに入ることが多く、低採算の一因となっている。このため、業界は警備業務の賃金について行政機関に配慮を求めるなど、採算改善への取り組みも各分野で進めている。
(3)人材の育成
業界は若手を中心に労働力が慢性的に不足していることから、人材確保と育成への取組みも重要である。今後、警備業の質的向上を進めるに当たっては、多くの熟練従業者の存在が欠かせないことは明らかで、そのため県内の各事業所は、就労環境や労働条件の改善に努める傍ら、新規高卒者および若年求職者を含む優秀な人材の確保に積極的に乗り出している。また、警備業務には自ずと様々な規制措置等が伴うことから、各分野で資格保有者などの人材の養成もますます求められる。
5 まとめ
警備業は全国と本県のいずれにおいても、社会のセキュリティに対する需要を取り込み、昭和50年代から順調に成長を続けてきたが、リーマン・ショック以降の20年代は停滞色が強くなっている。また、業界はこれまでも、新たな事業分野を積極的に開拓してきたが、一方では、大手と中小との競争力格差や過当競争による契約額の落ち込み、従業者の賃金水準、人手不足などの課題も存在している。
しかし、安全への関心の高まりとともに、今後ともセキュリティ業務に関する社会のニーズは拡大し、サービスの種類もますます多様化すると見込まれる。これは大手のみならず、地域に根差した営業を行っている中小の事業所にとっても、新しい需要を開拓するビジネスチャンスである。特に県内業界は警備員の業務遂行に関する意識が高く、従業員の質に関しても従来から評価されている。これらを背景に家庭や老人世帯など新たな需要を積極的に取り込むこと等により、地元警備業界がますます発展することを期待する。
しかし、安全への関心の高まりとともに、今後ともセキュリティ業務に関する社会のニーズは拡大し、サービスの種類もますます多様化すると見込まれる。これは大手のみならず、地域に根差した営業を行っている中小の事業所にとっても、新しい需要を開拓するビジネスチャンスである。特に県内業界は警備員の業務遂行に関する意識が高く、従業員の質に関しても従来から評価されている。これらを背景に家庭や老人世帯など新たな需要を積極的に取り込むこと等により、地元警備業界がますます発展することを期待する。
(片野 顕俊)