総務省の「経済センサス」によると、平成24年の県内の建築設計業は8年前の16年に比べて、事業所数が18.4%減の297事業所、従業者数が45.2%減の948人となっている。建築設計業は建築需要の拡大等を背景に、平成9年頃まで順調に成長を続けてきた。しかし、その後は、建築物に対する公共投資の減少および民間部門での需要縮小が鮮明になり、業界は一転、苦戦を余儀なくされる状況に至り、契約額の下落や競争激化などから、事業所数、従業者数とも大きく減少する状況となった。
さらに、このような中で、自社内で設計部門を抱える大手の建築・建設業者が市場において大きなシェアを占めるため、設計専業の中小規模の建築設計業者は大手に対抗していくことが容易ではないという構造的な課題がある。本稿では、県内の建築設計業の現状と課題をまとめた。
機関誌「あきた経済」
秋田県の建築設計業の現状と課題について
1 建築設計業とは
建築設計業の定義は、日本標準産業分類によると、「建築設計、設計監理などの建築に関する専門的なサービスを提供する事業所をいう。国、地方公共団体などの各種建設工事の設計・監理を行う現業機関も本分類に含まれる。」となっている。一般的には、設計事務所のことで、建築主とともに、建築物のデザイン設計や構造設計、電気・給排水などの設備設計、建築工事の見積り、工事監理などを行う。建築物に関して、非常に専門性の高い分野であることから、建築士法において、業務を免許制にするとともに、建築物の面積に応じて、設計・監理できる業務が細かく規定されている。
2 全国の概況
全国の概況をみると、平成24年の建築設計業は8年前の16年(※)と比べて、事業所数が2,324事業所(5.7%)減少の38,800事業所、従業者数が52,091人(20.6%)減少の200,608人となっている。建築設計業は、社会の建築需要の拡大を背景に平成9年頃まで、概ね順調に成長を続けてきた。ただし、平成10年以降は、建築物の工事費が大幅に減少し、それらの設計を行っている本業界も縮小を余儀なくされている。
(※)「経済センサス」は、統計の統合という特殊要因があったことから、10年前となる平成14年の計数がなく、それに近い16年と比較する。
3 県内の概況
(1)事業所数と従業者数の推移
県内業界の概況をみると、平成24年は16年と比較して、事業所数が67事業所(18.4%)減少の297事業所。従業者数も782人(45.2%)減少の948人となっている。県内においても、全国的な傾向と同様に業界としての縮小が続いているが、公共事業のウエイトが非常に大きかったことから、その分だけ落ち込みが激しい状況となっている。また、従業者数も設計専業から施工など建築業へと業種そのものを変えた先があったことから、大きく減少している。
県内全体での建築物の工事費予定額の推移をみると、平成26年は約1,417億円となっており、ピークであった平成8年の3,997億円の約3分の1の水準にまで落ち込んでいる。これら工事発注額の激減のため、業界は苦戦を余儀なくされていると言える。
(2)県内業界の特徴と課題
県内業界の特徴としては、市場の半分以上を占める住宅建築を例にとると、大きなシェアを占める大手ハウスメーカーと地元建築業者から設計の依頼等を受ける中小規模の設計事務所との間に受注力の面で格差が大きいことが挙げられる。これは、全国も同様の傾向にあり、一般に大手は自ら設計と施工、資材調達等を行い、相対的に低い価格の住宅を販売することによって、相応の受注を確保している。
これに対し、中小規模の設計事務所は、地元工務店等が個別に施工する建築物の設計図面を作成し、その図面作成収入が主である業務形態から、結果として価格が割高にならざるを得ない。加えて、設計業者は構造的に、建築業者の下請けとならざるを得ないこと、ならびに受注前のプロポーザルにおいて常にコストが前面に出ることなどが相まって、低収益を余儀なくされる状況となっている。また、近年は、工事量自体が伸び悩むなかで、建築主あるいは発注元の値下げ要請にも応じなければならないなど、採算面で非常に厳しい状況に置かれている。
県内業界の概況をみると、平成24年は16年と比較して、事業所数が67事業所(18.4%)減少の297事業所。従業者数も782人(45.2%)減少の948人となっている。県内においても、全国的な傾向と同様に業界としての縮小が続いているが、公共事業のウエイトが非常に大きかったことから、その分だけ落ち込みが激しい状況となっている。また、従業者数も設計専業から施工など建築業へと業種そのものを変えた先があったことから、大きく減少している。
県内全体での建築物の工事費予定額の推移をみると、平成26年は約1,417億円となっており、ピークであった平成8年の3,997億円の約3分の1の水準にまで落ち込んでいる。これら工事発注額の激減のため、業界は苦戦を余儀なくされていると言える。
(2)県内業界の特徴と課題
県内業界の特徴としては、市場の半分以上を占める住宅建築を例にとると、大きなシェアを占める大手ハウスメーカーと地元建築業者から設計の依頼等を受ける中小規模の設計事務所との間に受注力の面で格差が大きいことが挙げられる。これは、全国も同様の傾向にあり、一般に大手は自ら設計と施工、資材調達等を行い、相対的に低い価格の住宅を販売することによって、相応の受注を確保している。
これに対し、中小規模の設計事務所は、地元工務店等が個別に施工する建築物の設計図面を作成し、その図面作成収入が主である業務形態から、結果として価格が割高にならざるを得ない。加えて、設計業者は構造的に、建築業者の下請けとならざるを得ないこと、ならびに受注前のプロポーザルにおいて常にコストが前面に出ることなどが相まって、低収益を余儀なくされる状況となっている。また、近年は、工事量自体が伸び悩むなかで、建築主あるいは発注元の値下げ要請にも応じなければならないなど、採算面で非常に厳しい状況に置かれている。
4 今後の方向性
(1)リフォーム・メンテナンス分野の開拓
今後も県内においては、建築物の工事量が伸び悩むと予想される。従って、地元の建築設計業者は、この状況を前提に、業務量が確保できる路を探さざるを得ないと思われる。
まず、地元の設計事務所は大手の住宅メーカーと異なり、建築主の要望にきめ細かく応じたサービスが提供できる。大手メーカーでは構造や設備が共通規格化された取扱が主となることから、在来工法による建築物の修繕等に対する対応力には限界がある。そこで、地元の工務店・建築設計事務所としては熟練した技術および建築主との信頼関係をもとに、幅広い建築物でのリフォーム・メンテナンス案件を受注していくことに、一つの活路があると言える。現在、家計の所得が伸び悩むなかで、省資源・省エネルギー化の流れから、住宅も長寿命化が求められており、これまでになくメンテナンスの需要が高まっている。今後は、これらの需要を着実かつ積極的に取り込んでいくことが必要になると言える。
(2)付加価値の向上
建築設計事務所の業務内容は一般的に、設計・監理から構造設計、設備設計、積算など多岐にわたるうえ、建築物が大規模化するほどに、構造・設備等が複雑になる。そこで、小規模な設計事務所は人員の面で、大規模な設計に対応できないといった懸念がある。したがって、将来的には、地域の設計士同士が綿密なネットワークを構築し、各々の得意分野を集積することにより、設計専業から、デザインから構造・設備の面でより付加価値の高いトータルプランナーとなっていく必要があると思われる。
今後も県内においては、建築物の工事量が伸び悩むと予想される。従って、地元の建築設計業者は、この状況を前提に、業務量が確保できる路を探さざるを得ないと思われる。
まず、地元の設計事務所は大手の住宅メーカーと異なり、建築主の要望にきめ細かく応じたサービスが提供できる。大手メーカーでは構造や設備が共通規格化された取扱が主となることから、在来工法による建築物の修繕等に対する対応力には限界がある。そこで、地元の工務店・建築設計事務所としては熟練した技術および建築主との信頼関係をもとに、幅広い建築物でのリフォーム・メンテナンス案件を受注していくことに、一つの活路があると言える。現在、家計の所得が伸び悩むなかで、省資源・省エネルギー化の流れから、住宅も長寿命化が求められており、これまでになくメンテナンスの需要が高まっている。今後は、これらの需要を着実かつ積極的に取り込んでいくことが必要になると言える。
(2)付加価値の向上
建築設計事務所の業務内容は一般的に、設計・監理から構造設計、設備設計、積算など多岐にわたるうえ、建築物が大規模化するほどに、構造・設備等が複雑になる。そこで、小規模な設計事務所は人員の面で、大規模な設計に対応できないといった懸念がある。したがって、将来的には、地域の設計士同士が綿密なネットワークを構築し、各々の得意分野を集積することにより、設計専業から、デザインから構造・設備の面でより付加価値の高いトータルプランナーとなっていく必要があると思われる。
5 改正建築士法への対応
平成27年6月25日から、改正建築士法が施行されている。主な内容としては、延べ面積300㎡を超える建築物についての書面による契約締結の義務化および国土交通大臣の定める報酬の基準に準拠した契約締結の努力義務化などが挙げられる。
従来より、建築物の設計や工事の監理に関しては、書面での契約がなされることが少なく、建築事務所の責任が不明確であったために、建築紛争の増大・長期化等につながっていたほか、建築士なりすまし事案なども生じるケースがあり、それらの問題への解決策が求められていた。
加えて、業界では、これまでの慣習ということもあり、業務報酬に関しては明確な基準がなく、概算での料率算定の世界であった。それが努力義務ではあるものの、行政機関より報酬の基準が示されることとなった。このため、今回の法改正以降、設計士側にも報酬の根拠を明示し、建築主の納得を得ることに注力することが必要となってくる。
従来より、建築物の設計や工事の監理に関しては、書面での契約がなされることが少なく、建築事務所の責任が不明確であったために、建築紛争の増大・長期化等につながっていたほか、建築士なりすまし事案なども生じるケースがあり、それらの問題への解決策が求められていた。
加えて、業界では、これまでの慣習ということもあり、業務報酬に関しては明確な基準がなく、概算での料率算定の世界であった。それが努力義務ではあるものの、行政機関より報酬の基準が示されることとなった。このため、今回の法改正以降、設計士側にも報酬の根拠を明示し、建築主の納得を得ることに注力することが必要となってくる。
6 まとめ
建築設計業は、全国と秋田県のいずれにおいても、建築需要の拡大を背景に、平成9年頃までは順調に成長を続けてきた。しかし、その後は、公共事業の減少や民間部門の建築需要の縮小などから、業界は一転、苦戦を余儀なくされており、大手と中小との競争力格差や競争激化による設計料の落ち込みなどの課題も出ている。
ひとつの建築物を長く使用したいといった消費者側の意識の変化などもあって、今後はリフォームやメンテナンス等に需要が切り替わってくる。この分野は競争力の点で、大手の住宅メーカー等との差があまりつかず、中小の事業所にとっては、自身の設計力などを発揮できる絶好の場面である。今後、これらの建築物に関する幅広い需要を取り込むことで、県内の建築設計業がいっそう発展していくことが期待される。
(片野 顕俊)
ひとつの建築物を長く使用したいといった消費者側の意識の変化などもあって、今後はリフォームやメンテナンス等に需要が切り替わってくる。この分野は競争力の点で、大手の住宅メーカー等との差があまりつかず、中小の事業所にとっては、自身の設計力などを発揮できる絶好の場面である。今後、これらの建築物に関する幅広い需要を取り込むことで、県内の建築設計業がいっそう発展していくことが期待される。