機関誌「あきた経済」
本県のインバウンド振興への取り組みについて
国内では、人口減少や少子高齢化が進み日本人による旅行市場が縮小するなか、インバウンド(訪日外国人旅行)への期待が高まっており、各地域が外国人旅行者の誘致に取り組んでいる。本県も、自然や体験型プログラムを提供し、ターゲットを定めた誘客活動を展開しており、その結果、外国人旅行者は緩やかに増加しているが、震災前の水準には届いていない。誘客活動と同時に受け入れ態勢の整備を進めること、本県を訪れた旅行者を活用し情報発信に取り組むことで、旅行者数の持ち直しを後押しするものと考えられる。
1 国内の訪日外国人旅行者について
国内の訪日外国人旅行者(以下、「旅行者」)数は、ビザ要件の緩和や円安などの影響から増加傾向にある。日本政府観光局によると、平成26年は1,341万人(前年比29.4%増)と、過去最高となった。旅行消費額は2兆円を超え(同43.3%増)、地域への経済効果が高まっている。また、本年上半期の旅行者数は、前年同期を46.0%上回る914万人と過去最高となり、今後も引き続き増大が見込まれる。
旅行者は、主に、成田空港と関西空港間に位置する東京、京都、大阪、富士山などを巡る「ゴールデンルート」を訪問しており、地方へ足を延ばす割合が低い。なかでも、東北は、観光地としての知名度が低いこと、冬季は雪や寒さがネックとなり需要が縮小することなどから、旅行者が少ない。さらに、東日本大震災(以下、「震災」)や原発事故発生により落ち込み、未だ回復が遅れている。観光庁「宿泊旅行統計調査」では、外国人宿泊者の地域別割合(26年)は、東北が0.8%となり、四国(0.6%)に次いで全国で2番目に低くなった。
なお、政府は、本年6月、旅行者の地方への誘導を図るため、全国に7つの広域観光周遊ルートを選定した。このうち、東北の「日本の奥の院・東北探訪ルート」は、自然と歴史、食を探訪する内容で、本県の角館・田沢湖地区が拠点の一つに選定された。このような国の取り組みは、本県の旅行者数増加に繋がるものと期待される。
旅行者は、主に、成田空港と関西空港間に位置する東京、京都、大阪、富士山などを巡る「ゴールデンルート」を訪問しており、地方へ足を延ばす割合が低い。なかでも、東北は、観光地としての知名度が低いこと、冬季は雪や寒さがネックとなり需要が縮小することなどから、旅行者が少ない。さらに、東日本大震災(以下、「震災」)や原発事故発生により落ち込み、未だ回復が遅れている。観光庁「宿泊旅行統計調査」では、外国人宿泊者の地域別割合(26年)は、東北が0.8%となり、四国(0.6%)に次いで全国で2番目に低くなった。
なお、政府は、本年6月、旅行者の地方への誘導を図るため、全国に7つの広域観光周遊ルートを選定した。このうち、東北の「日本の奥の院・東北探訪ルート」は、自然と歴史、食を探訪する内容で、本県の角館・田沢湖地区が拠点の一つに選定された。このような国の取り組みは、本県の旅行者数増加に繋がるものと期待される。
2 本県の外国人宿泊者動向
(1) 外国人宿泊者数は伸び悩み
観光庁「訪日外国人消費動向調査」によると、平成26年の外国人訪問率(※)で、本県は0.3%となった。全国順位では、同じ東北の岩手県と山形県、茨城県、宮崎県と並び36位となり、下位グループに位置している。
「宿泊旅行統計調査」から同年の外国人宿泊者数をみると、本県は33,810人と、前年を7.2%上回った。震災の発生した23年を底に緩やかに持ち直しているが、震災前の水準には届いていない。22年と比べて、△46.8%と減少しており、東北では福島県(△57.4%)に次ぐ2番目に大きな減少率となっている。
本県を含む東北各県で厳しい状況が続くなか、青森県が唯一、震災前の水準を上回っている。これは、台湾との直行便が毎日運航している函館空港に近いこと、22年12月に東北新幹線が八戸―新青森間の開業により全線開業しアクセスが改善したこと、などが奏功している。
(※)訪日外国人のうち、当該地域を訪れた割合。宿泊者とは異なる。
(2)アジアからの宿泊者が約7割
平成26年の県内外国人宿泊者のうち、アジアの割合が全体の69.4%を占め、本県はアジアからの旅行者が多い。特に、台湾(28.9%)と韓国(20.2%)の割合が高い。
台湾は、24年から増加が続き、26年は9,760人(前年比20.0%増)となった。季節別では、紅葉の見ごろを迎える秋季に来県する割合が高い。なお、26年度の秋田空港―台湾チャーター便全38便のうち、紅葉シーズンである10月に運航した便は20便と、最も便数が多くなっている。
韓国からの宿泊者は、22年には韓国で放映されたテレビドラマ「アイリス」の放映効果などから急増した。その後は、震災の発生、日韓関係の冷え込みなどから落ち込んだが、26年夏以降は、円安ウォン高の影響もあり大幅に伸びた(図表4)。ただし、現在、中東呼吸器症候群
(MERS)コロナウイルスの感染拡大の影響により、秋田―ソウル定期便は6月29日から8月31日まで一時運休となっているため、旅行者の減少に繋がることが懸念される。
(3)外国人旅行者の買い物動向
外国人が訪日する目的の一つに「ショッピング」があり、この2月には春節を利用して首都圏を訪れた中国人観光客が「爆買い」する様子が大きな話題となった。訪日外国人旅行消費額のうち、買い物に費やす金額は約3分の1を占めており、各地域では、旅行者がもたらす経済効果に期待が高まっている。
県内の状況をみると、旅行者自体が少ないほか、主な購入品目も、家電量販店では電気シェーバー・ドライヤーなどの小型家電、百貨店や大型スーパーでは弁当・サンドイッチなどの食品と消費単価が小さく、未だ盛り上がりに欠けている。しかしながら、平成26年10月の税制改正にともない全品目が免税対象となったこともあり、免税店数は27年4月現在23店と、26年10月(7店)と比べて16店増加した。今後の消費拡大が期待される。
観光庁「訪日外国人消費動向調査」によると、平成26年の外国人訪問率(※)で、本県は0.3%となった。全国順位では、同じ東北の岩手県と山形県、茨城県、宮崎県と並び36位となり、下位グループに位置している。
「宿泊旅行統計調査」から同年の外国人宿泊者数をみると、本県は33,810人と、前年を7.2%上回った。震災の発生した23年を底に緩やかに持ち直しているが、震災前の水準には届いていない。22年と比べて、△46.8%と減少しており、東北では福島県(△57.4%)に次ぐ2番目に大きな減少率となっている。
本県を含む東北各県で厳しい状況が続くなか、青森県が唯一、震災前の水準を上回っている。これは、台湾との直行便が毎日運航している函館空港に近いこと、22年12月に東北新幹線が八戸―新青森間の開業により全線開業しアクセスが改善したこと、などが奏功している。
(※)訪日外国人のうち、当該地域を訪れた割合。宿泊者とは異なる。
(2)アジアからの宿泊者が約7割
平成26年の県内外国人宿泊者のうち、アジアの割合が全体の69.4%を占め、本県はアジアからの旅行者が多い。特に、台湾(28.9%)と韓国(20.2%)の割合が高い。
台湾は、24年から増加が続き、26年は9,760人(前年比20.0%増)となった。季節別では、紅葉の見ごろを迎える秋季に来県する割合が高い。なお、26年度の秋田空港―台湾チャーター便全38便のうち、紅葉シーズンである10月に運航した便は20便と、最も便数が多くなっている。
韓国からの宿泊者は、22年には韓国で放映されたテレビドラマ「アイリス」の放映効果などから急増した。その後は、震災の発生、日韓関係の冷え込みなどから落ち込んだが、26年夏以降は、円安ウォン高の影響もあり大幅に伸びた(図表4)。ただし、現在、中東呼吸器症候群
(MERS)コロナウイルスの感染拡大の影響により、秋田―ソウル定期便は6月29日から8月31日まで一時運休となっているため、旅行者の減少に繋がることが懸念される。
(3)外国人旅行者の買い物動向
外国人が訪日する目的の一つに「ショッピング」があり、この2月には春節を利用して首都圏を訪れた中国人観光客が「爆買い」する様子が大きな話題となった。訪日外国人旅行消費額のうち、買い物に費やす金額は約3分の1を占めており、各地域では、旅行者がもたらす経済効果に期待が高まっている。
県内の状況をみると、旅行者自体が少ないほか、主な購入品目も、家電量販店では電気シェーバー・ドライヤーなどの小型家電、百貨店や大型スーパーでは弁当・サンドイッチなどの食品と消費単価が小さく、未だ盛り上がりに欠けている。しかしながら、平成26年10月の税制改正にともない全品目が免税対象となったこともあり、免税店数は27年4月現在23店と、26年10月(7店)と比べて16店増加した。今後の消費拡大が期待される。
3 県内のインバウンド振興に向けた取り組み
県内では、行政と民間団体などが連携し、旅行者の増加に向けた誘客活動を展開している。
(1)県によるアジア向け誘客活動
県観光文化スポーツ部は、以前から韓国と台湾を重点市場として、誘客活動に取り組んでおり、「アイリス」のロケ地誘致も成果の一つである。平成26年度には活動を強化し、経済発展の著しい東南アジアを重点市場に加え、東南アジアの拠点をタイに設置した。
現状では、「アイリス」の放映された韓国を除き、アジアにおける本県の知名度は決して高くない。そのため、まずは、「秋田」の認知度向上が喫緊の課題である。県は、トップセールス、現地の人気ブロガーの本県への招聘、SNSによる情報発信などを行い、本県のアピールに取り組んでいる。また、現地に配置したコーディネーターを通じて、旅行会社や航空会社への働きかけを行い、本県を組み込んだ旅行商品の造成・販売促進に取り組んでいる。
このほか、海外では、震災や原発事故発生以降、本県を含む東北に対する安全面への不安が生じていることから、東北6県が連携して現地プロモーションを行い、正確な情報を発信して、風評の払しょくを図っている。
(2)大型クルーズ船の誘致開始
世界的なクルーズ人口の増加を本県に取り込むため、県港湾空港課は、平成25年に、小樽港や伏木富山港、京都舞鶴港など日本海側にある港と連携し、情報交換や海外に向けた情報発信などへの取り組みを始めた。その結果、26年8月、英国籍の「ダイヤモンド・プリンセス号」(乗客定員2,670人)が、外国籍大型クルーズ船としては初めて本県に寄港した。
秋田港は、本年度も、5回の寄港を予定しており、これは、東北では唯一旅客船専用埠頭を持つ青森港の12回に次いで多い。外国籍船は、日本籍船と比べて、乗客に占める外国人割合が高く、この5月に寄港した「ダイヤモンド・プリンセス号」では、乗客2,500人のうち約6割が外国人であった。出港地やクルーズ内容により外国人割合にバラつきがあるが、大型クルーズ船の寄港が県内の旅行者数増加に結びつくと見込まれる。
(3)教育旅行の誘致
仙北市は、40年以上前から農業体験をともなう学習旅行を受け入れてきたが、最近は、少子化で需要が縮小傾向にあった。そのため、市農山村体験デザイン室は、平成23年度に台湾をターゲットに教育旅行の誘致活動を始めた。その結果、台湾の高校から市内の農家民宿が受け入れた生徒数は、24年度171人、25年度83人となった。そのことがきっかけとなり、26年度は、インドネシア、マレーシア、東ティモールなど東南アジアから大学生の受け入れも開始したため、生徒・学生数は317人と急増した。
イスラム教徒を迎えるにあたり、市内の農家民宿のほか関係団体で構成される仙北市農山村体験推進協議会はセミナーを実施し、食事や礼拝など宗教上の戒律に配慮した受け入れ態勢を学んだ。このような農家の熱心な取り組みが奏功し、これまでの受け入れでトラブルは生じていない。生徒・学生たちは、農家民宿で「日本の農村の伝統的な暮らし」を体験し、農作業、郷土料理作り、習字や茶道といった日本文化を体験しつつウインタースポーツなどを楽しんでいる。
同デザイン室は、「農家民宿の人たちが異文化を理解し尊重する姿勢を徹底していることが、相互理解が進み、ひいては旅行者の受け入れ増加に繋がっている。今後は、農家民宿のような体験型プログラムを更に充実させ、インバウンド観光の拡大に繋げていきたい。」と、意気込みを語る。
(1)県によるアジア向け誘客活動
県観光文化スポーツ部は、以前から韓国と台湾を重点市場として、誘客活動に取り組んでおり、「アイリス」のロケ地誘致も成果の一つである。平成26年度には活動を強化し、経済発展の著しい東南アジアを重点市場に加え、東南アジアの拠点をタイに設置した。
現状では、「アイリス」の放映された韓国を除き、アジアにおける本県の知名度は決して高くない。そのため、まずは、「秋田」の認知度向上が喫緊の課題である。県は、トップセールス、現地の人気ブロガーの本県への招聘、SNSによる情報発信などを行い、本県のアピールに取り組んでいる。また、現地に配置したコーディネーターを通じて、旅行会社や航空会社への働きかけを行い、本県を組み込んだ旅行商品の造成・販売促進に取り組んでいる。
このほか、海外では、震災や原発事故発生以降、本県を含む東北に対する安全面への不安が生じていることから、東北6県が連携して現地プロモーションを行い、正確な情報を発信して、風評の払しょくを図っている。
(2)大型クルーズ船の誘致開始
世界的なクルーズ人口の増加を本県に取り込むため、県港湾空港課は、平成25年に、小樽港や伏木富山港、京都舞鶴港など日本海側にある港と連携し、情報交換や海外に向けた情報発信などへの取り組みを始めた。その結果、26年8月、英国籍の「ダイヤモンド・プリンセス号」(乗客定員2,670人)が、外国籍大型クルーズ船としては初めて本県に寄港した。
秋田港は、本年度も、5回の寄港を予定しており、これは、東北では唯一旅客船専用埠頭を持つ青森港の12回に次いで多い。外国籍船は、日本籍船と比べて、乗客に占める外国人割合が高く、この5月に寄港した「ダイヤモンド・プリンセス号」では、乗客2,500人のうち約6割が外国人であった。出港地やクルーズ内容により外国人割合にバラつきがあるが、大型クルーズ船の寄港が県内の旅行者数増加に結びつくと見込まれる。
(3)教育旅行の誘致
仙北市は、40年以上前から農業体験をともなう学習旅行を受け入れてきたが、最近は、少子化で需要が縮小傾向にあった。そのため、市農山村体験デザイン室は、平成23年度に台湾をターゲットに教育旅行の誘致活動を始めた。その結果、台湾の高校から市内の農家民宿が受け入れた生徒数は、24年度171人、25年度83人となった。そのことがきっかけとなり、26年度は、インドネシア、マレーシア、東ティモールなど東南アジアから大学生の受け入れも開始したため、生徒・学生数は317人と急増した。
イスラム教徒を迎えるにあたり、市内の農家民宿のほか関係団体で構成される仙北市農山村体験推進協議会はセミナーを実施し、食事や礼拝など宗教上の戒律に配慮した受け入れ態勢を学んだ。このような農家の熱心な取り組みが奏功し、これまでの受け入れでトラブルは生じていない。生徒・学生たちは、農家民宿で「日本の農村の伝統的な暮らし」を体験し、農作業、郷土料理作り、習字や茶道といった日本文化を体験しつつウインタースポーツなどを楽しんでいる。
同デザイン室は、「農家民宿の人たちが異文化を理解し尊重する姿勢を徹底していることが、相互理解が進み、ひいては旅行者の受け入れ増加に繋がっている。今後は、農家民宿のような体験型プログラムを更に充実させ、インバウンド観光の拡大に繋げていきたい。」と、意気込みを語る。
4 県内の受け入れ態勢について
本県など地方を訪れる旅行者は、訪日経験が豊富なリピーターである割合が高く、観光地に望む水準も厳しいものと推測される。加えて、さまざまな国や地域から訪れる傾向が高まっており、旅行者の希望も複雑化している。そのため、観光に携わる人たちと住民が一丸となり、地域資源の魅力、相手の立場に立ったおもてなしの心など、旅行者が安心して旅を楽しむことのできる要素を磨き上げ、これまで以上にきめ細かい受け入れ態勢を整える必要がある。
まず、地域資源について、仙北市の農家民宿の例のように、本県ならではの非日常体験が、旅行者の満足度向上、他都道府県との差別化に繋がると考えられる。そのため、農産物の収穫や酒造り、伝統的工芸品の製作、祭りへの参加など、各地域の個性を盛り込んだ体験型プログラムの拡充が求められる。食や農なども加え、あらゆる地域資源を活用した、本県独自の個性が感じられる複合化プログラムとしたい。また、地域資源のアピール方法では、県内を訪れた旅行者の多くが自然・景勝地を観光していること、大型クルーズ船で寄航した乗客の約6割が港近くの都市部で街歩きを楽しんでいることを踏まえ、桜や紅葉、降雪などの見せ方の工夫に加え、街並みの整備も求められる。
次に、受け入れの際にハードルとなりやすい外国語対応については、各観光協会のホームページやガイドブックは、英語や韓国語など複数の言語による表記が進んでいる。一方で、観光施設・宿泊施設などの館内表示、従業員の会話力は、対応の強化・改善が図られているものの十分とは言えず、特に、中小規模の宿泊施設や小売店で遅れがみられる。この場合は、パソコンやスマートフォンの翻訳ソフトウエアを使用することが、円滑なコミュニケーションの一助となる。
また、最近は、通信環境の重要性が高まっている。世界各国と比較して、日本は通信環境の整備が進んでおらず、旅行者の満足度が低い。県内では、秋田市など都市部にある宿泊施設を中心に「無料Wi-Fiサービス」の導入を始めているが、全県域における宿泊施設や観光施設での本サービスの導入が急がれる。
併せて、観光および宿泊施設では、アジアからの旅行者は団体客である場合が多いため、既存の日本人旅行者への配慮が必要となる場合がある。食事や入浴などの時間帯を調整するなど、細やかな配慮を講じることで、あらゆる旅行者が快適に過ごすことが可能と考えられる。
まず、地域資源について、仙北市の農家民宿の例のように、本県ならではの非日常体験が、旅行者の満足度向上、他都道府県との差別化に繋がると考えられる。そのため、農産物の収穫や酒造り、伝統的工芸品の製作、祭りへの参加など、各地域の個性を盛り込んだ体験型プログラムの拡充が求められる。食や農なども加え、あらゆる地域資源を活用した、本県独自の個性が感じられる複合化プログラムとしたい。また、地域資源のアピール方法では、県内を訪れた旅行者の多くが自然・景勝地を観光していること、大型クルーズ船で寄航した乗客の約6割が港近くの都市部で街歩きを楽しんでいることを踏まえ、桜や紅葉、降雪などの見せ方の工夫に加え、街並みの整備も求められる。
次に、受け入れの際にハードルとなりやすい外国語対応については、各観光協会のホームページやガイドブックは、英語や韓国語など複数の言語による表記が進んでいる。一方で、観光施設・宿泊施設などの館内表示、従業員の会話力は、対応の強化・改善が図られているものの十分とは言えず、特に、中小規模の宿泊施設や小売店で遅れがみられる。この場合は、パソコンやスマートフォンの翻訳ソフトウエアを使用することが、円滑なコミュニケーションの一助となる。
また、最近は、通信環境の重要性が高まっている。世界各国と比較して、日本は通信環境の整備が進んでおらず、旅行者の満足度が低い。県内では、秋田市など都市部にある宿泊施設を中心に「無料Wi-Fiサービス」の導入を始めているが、全県域における宿泊施設や観光施設での本サービスの導入が急がれる。
併せて、観光および宿泊施設では、アジアからの旅行者は団体客である場合が多いため、既存の日本人旅行者への配慮が必要となる場合がある。食事や入浴などの時間帯を調整するなど、細やかな配慮を講じることで、あらゆる旅行者が快適に過ごすことが可能と考えられる。
5 まとめ
現在、本県と海外とを直接結ぶ交通手段はソウル定期便のみで、そのソウル便も震災発生以降、今回を含め過去に3回の運休を余儀なくされている。残念ながら、本県は、インバウンド振興を推進しやすい状況とは言えないため、まずは、アクセスの不便さを上回る魅力を広く伝えるよう、より一層、積極的な情報発信を行う必要がある。テレビやラジオ広告、SNSなど、各国の事情に即した効果の高い方法で、アピールの強化が望まれる。また、本県を訪れた旅行者の情報発信力、すなわち「口コミ」を利用することも効果的である。この場合、いかに旅行者に感動、興奮、高い満足度を与えられるかが重要となる。画一的なサービスの押し付けではない、個人客が主体である欧米や団体客中心のアジアなど、文化や風習の異なる各地域の旅行者のし好に合わせた、真の「おもてなし」が求められる。
(相沢 陽子)