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農業白書にみる「田園回帰」の動き

 「平成26年度食料・農業・農村白書(農業白書)」が5月に農林水産省から公表されている。今回の白書の特徴としては、冒頭の特集で、政府が掲げる地方創生を踏まえて、農村の人口減少・高齢化が課題となる一方で、都市在住の若者を中心に都市と農村を人々が行き交う「田園回帰」の動きがあることを指摘するとともに、農村活性化への全国のユニークな取り組みを紹介し、新規就農者の育成や移住・定住を政府一体で推進することを明記したことである。本稿では、白書の内容を概観するとともに、この「田園回帰」の動きに焦点を当てて考える。

1 はじめに―農業白書とは―

 農業白書(以下、「白書」)は正式名称を「食料・農業・農村の動向」といい、我が国農業の現状や課題、日本と世界の食料需給、今後講ずる施策などをさまざまなデータや写真を使ってまとめたもので「食料・農業・農村基本法」に基づいて、毎年閣議決定のうえ国会に報告される。巻頭には、その時々の特徴的な動きが特集として組まれており、26年度版は若者を中心に都市住民が都市と農村を行き交う「田園回帰」の動きが取りあげられている。
 白書は、いわゆる白書に当たる「食料・農業・農村の動向」と、「政府が農業等に関して講ずる施策」の2部立てとなっており、今回の構成は、次ページに概要を示したとおりである。
 白書の記述分野は多岐にわたるが、統計データの分析や解説だけでなく、全国各地で行われている農業の成長産業化に向けた取り組み事例等を多数紹介し、理解し易い内容となっている。
 本県からは、「農業を通して地域おこしを目指す若き女性農業者の取組」として、横手市の佐藤愛生さんが紹介されている。

2 人口減少社会における農村の活性化 ―「田園回帰」への動き―

 白書では、「我が国は、現在、人口減少の局面にあり、とくに農村地域における人口減少や高齢化は深刻な問題となっている。一方で、我が国の農業・農村には、成長の糧となる潜在力がある。このようななかで、農村地域においては、豊かな地域資源を活用した活性化の取り組みが行われ、『田園回帰』の流れも着実に生まれつつある」としている。
 具体的には、農村における人口推移は昭和40年代以降、減少傾向にあり、今後もその傾向は変わらない見通しにあると分析している。そのうえで、これまで地域活動を担っていた農村の高齢者人口も平成37年から減少に転じるとして農地等の資源やコミュニティの維持が困難になると懸念を示した。
 しかし、こうした状況のなかでも、希望的な現象として、若者を中心に農村への関心が高まり、都市と農村を行き来する「田園回帰」の動きが出始めていると指摘している。26年度の内閣府調査によると、対象1,147人の都市住民のうち31.6%が農村への定住願望が「ある」や「どちらかというとある」と回答し、17年度の前回調査(20.6%)に比べ11ポイント上昇し、特に20代男性では割合が半数近くに上った。
 白書では、こうした調査結果から、「地方で暮らしたいと考えている都市住民が多くなっていることがうかがえる」と分析する。
 サンプルが少なく、必ずしも都市住民全体の意向と捉えることはできないと考えられるが、それでもこうした回答が増えていることは注目すべきであり、白書でも取り上げるに至ったと思われる。
 また、白書では、定住促進や農村の活性化に向けて、特徴のある活動を行っている実例として、次のような取り組みを紹介している。
 地域間競争に打ち勝つべく、如何に独自性を打ち出した取り組みを行うかが問われるなか、こうした事例を、自分たちの活動にどう結び付けるか、それぞれの地域が必死に考えるべきであろう。

3 本県の取り組み

 本県でも、衰退が懸念される地域農業を再生・支援するために、県外からの新規就農者の受け入れには積極的に取り組んでいる。
 例えば、農林水産省の補助事業として毎年、東京・大阪・札幌で開催されている新規就農希望者向けフェア「新・農業人フェア」に出展し、延べ1万人近い来場者に、本県の魅力をアピールするとともに、就農・移住の各種相談に応じてきている。
 また、24年度からは、これも国の事業ではあるが、原則45歳未満で一定の条件を満たす就農希望者・新規就農者を対象として、就農意欲の喚起と就農後の定着を図るため、就農前の研修期間(準備型、最長2年間)および経営が不安定な就農直後(経営開始型、最長5年間)の所得を確保するための「青年就農給付金」を支給している(年間150万円、最長7年間)。
 さらに、独自の施策として「新規就農総合対策事業」に取り組み、県内での就農を希望する若者等の多様な就農ニーズに対応した農業研修の実施や、機械・施設等の整備など、総合的に就農支援を行い、将来の秋田県農業を担う新規就農者の確保・育成を図っている。
 特に、県外の就農希望者の受け入れに向けて、昨26年度から「“あきたで農業を”定着サポート事業」として、就農相談員や新規参入サポート推進員を置き、本県の新規就農相談センターである県農業公社の体制整備を支援している。
 また、本稿の主題である県外からの就農促進・定住に向けては、就農を希望する首都圏等在住者に対し、短期と中期のコースを設けて、県内農業の紹介や体験、農業法人等での実践研修などを行い、本県への移住および円滑な就農を支援している。
 こうした取り組みの結果、首都圏を中心に本県に移住した新規就農者は、県によると24年度6人、25年度8人の実績となっている。現在集計中の26年度は「“あきたで農業を”定着サポート事業」の初年度でもあり、さらなる移住者の増加が期待される。

4 まとめ

 白書では高齢化・人口減少が加速している農村社会の活性化策に繋がるとして、冒頭に特集を組み「田園回帰の動き」を大きく取り上げているが、残念ながら表面的で踏み込み不足の感は否めない。しかしながら、地方創生が喧伝され、地方生き残りのための総合政策を各自治体で必死に模索しているなかでは時宜を得た特集ともいえる。問題は、こうした動きを如何に今後の農業政策に活かしていくか、そしてまた、肝心の地方自治体―特に本県のように殆どの自治体が消滅すると予測されている自治体―で、こうした動きを他に先んじて施策に取り組んでいけるかが生き残りを分ける分岐点になるとも考える。如何に他地域と差別化した施策を取りうるか、知恵の出しどころとなる。
 「田園回帰」の動きがあるにしても、そうした移住希望者の定住を求める地域は日本全国に数多存在しており、結局は「自分たちの地域の魅力を如何に高めるか」の競争になる。地方創生で各地方自治体が策定を進めている総合戦略には、こうした地域間競争に打ち勝って生き残っていくための視点が重要となる。
 新規就農したものの理想とのギャップや農業生産の大変さ、地域へ溶け込むことの難しさなどから、離農に至るケースも多いと聞く。意欲を持って就農・移住した農業者の、定住定着に向けた行政の支援や、受け入れる地域の本気度も同時に試されることになる。
 当研究所としても、こうした点を十分に踏まえたうえで、農村社会の将来像や活性化策、若者を中心とした移住策の具体化などについて提言を続けていきたい。
(佐々木 正)
あきた経済

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