地方における人口減少対策と地域経済の活性化を目指して、昨年11月に「まち・ひと・しごと創生法」が成立し、全国的に「地方創生」事業がスタートしてから間もなく1年が経過する。
政府の大号令のもと、各都道府県・市町村は同法に基づき地方版総合戦略を策定するよう努めなければならないとされ、全国の都道府県・市町村がその策定に注力している。
秋田県内では、県がいち早く本年6月に「秋田県まち・ひと・しごと創生総合戦略」の素案を提示し、県民からの意見募集や有識者会議等での協議を経て、8月末に修正案をとりまとめた。この後、県議会での討議を踏まえて成案とし、10月末までに国へ提出する予定としている。本稿では8月末の修正案に基づきその概要を紹介する。
機関誌「あきた経済」
「秋田県まち・ひと・しごと創生総合戦略(案)」の概要
1 秋田県の人口の現状と課題
本県の人口は、昭和31年(1956年)の約135万人をピークに減少し、平成26年(2014年)には約104万人となり、前年からの人口減少率は1.26%と全国最大となっている。さらに年齢3区分別に見てみると、年少人口(0~14歳)の割合は、平成26年(2014年)時点で10.8%(全国47位)、生産年齢人口(15~64歳)は56.6%(全国44位)と低位である一方、65歳以上の老年人口割合は32.6%(全国1位)となっており、全国でも高齢化が著しく進行している状況である。(いずれも10月1日時点)
2 秋田県の人口の将来展望
国立社会保障・人口問題研究所(「社人研」)が行った「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」によれば、平成52年(2040年)の本県人口は、約70万人となっている。
これに対し、今般の総合戦略案では、各種施策・事業が効果的に人口動態に作用することにより、合計特殊出生率が平成47年(2035年)に1.83(国の希望出生率)、平成62年(2050年)には2.07(人口置換水準=人口が増加も減少もしない均衡状態となる合計特殊出生率)まで回復し、併せて平成52年(2040年)以降転入・転出の社会増減が均衡するとの前提による推計で、平成52年(2040年)には約76万人、平成72年(2060年)には約62万人となり、人口減少に一定の歯止めがかかるものと見込んでいる。
これに対し、今般の総合戦略案では、各種施策・事業が効果的に人口動態に作用することにより、合計特殊出生率が平成47年(2035年)に1.83(国の希望出生率)、平成62年(2050年)には2.07(人口置換水準=人口が増加も減少もしない均衡状態となる合計特殊出生率)まで回復し、併せて平成52年(2040年)以降転入・転出の社会増減が均衡するとの前提による推計で、平成52年(2040年)には約76万人、平成72年(2060年)には約62万人となり、人口減少に一定の歯止めがかかるものと見込んでいる。
3 「秋田県まち・ひと・しごと創生総合戦略」(案)(以下、「総合戦略」)
(1) 基本的視点
(2) 基本目標
基本的視点に沿って、4つの政策分野ごとに基本目標を定め、具体的な取組を推進する。
◆基本目標1 産業振興による仕事づくり
◆基本目標2 移住・定住対策
◆基本目標3 少子化対策
◆基本目標4 新たな地域社会の形成
また、それぞれの基本目標には、推進期間で県民にもたらされる便益(アウトカム)に関する数値目標を設定する。
○雇用創出数 5年間で12,630人
○Aターン就業者数 1,061人(H26)→1,700人(H31)
○本県への移住者数 20人(H26)→220人(H31)
○婚姻数 3,842件(H26)→4,020件(H31)
○合計特殊出生率 1.34(H26)→1.50(H31)
○「住んでいる地域が住みやすい」と思っている人の割合 H31までに80%
○社会活動・地域活動に参加 した人の割合 46.4%(H26)→68.0%(H31)
(3) 推進期間
総合戦略の推進期間は、国の総合戦略との整合性を図るため、平成27年度から平成31年度までの5年間とする。
(4) 推進体制
基本目標及び施策ごとの数値目標の達成度をもとに、外部有識者の参画を得て施策・事業の効果を検証し、改善を図る。いわゆるPDCAサイクルを機能的に動かしていく。
(5) 新たな視点で進める施策・事業
基本目標実現のため、各目標ごとに「新たな視点で進める施策・事業」として掲げた15施策とKPI(重要業績評価指標)が示されている。
内容を見ると、地域中核企業の成長分野への参入や海外展開、専門的人材の育成を特に重視していることが読み取れる。
以下、施策の概要について簡単に触れる。
a 県では、「高質な田舎」を思い描きながら、「日本に貢献する秋田、自立する秋田」を実現するため、平成26年度から総合的な人口問題対策に取り組んでおり、「人口問題対策プロジェクトチーム」を中心に、人口減少要因の分析・検証や将来の姿のシミュレーションを行い、中長期的な視点に立った取組の方向性を「秋田の人口問題レポート」としてまとめた。
レポートでは、本県の人口減少の要因を、若者を中心とした就職・進学による県外流出や未婚率の上昇、晩婚・晩産化に伴う出生数の大幅な減少によるものとし、その背景には、本県の産業規模が相対的に小さく就労人口の受け皿として十分でなかったこと、首都圏との賃金格差が大きいこと、全国比較で第3子以降の出生割合が低いことのほか、全国と同様に結婚・子育てに対する価値観の変化等があると分析した。
レポートでは、本県の人口減少の要因を、若者を中心とした就職・進学による県外流出や未婚率の上昇、晩婚・晩産化に伴う出生数の大幅な減少によるものとし、その背景には、本県の産業規模が相対的に小さく就労人口の受け皿として十分でなかったこと、首都圏との賃金格差が大きいこと、全国比較で第3子以降の出生割合が低いことのほか、全国と同様に結婚・子育てに対する価値観の変化等があると分析した。
b この分析結果と国の総合戦略における視点を勘案し、①「東京圏等への人口流出に歯止めをかける」、②「東京圏等から秋田への人の流れをつくる」、③「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」、④「時代に合った地域づくり、くらしの安全をまもる」の4つの視点に沿った取組を進めることとしている。
また、本県は、これまで蓄積してきた産業技術や人材、様々なエネルギー資源、清浄で広大な空間を持つ豊かな自然や、先人から営々と引き継がれてきた地域文化など、これからの日本の発展になくてはならないハード・ソフトの資源を有している。
こうした有形無形の豊富な資源を、時代の変化や多様化する価値観に合わせて最大限に活用し、官民一体となって、「秋田ならではの地方創生」を進めるものである。
また、本県は、これまで蓄積してきた産業技術や人材、様々なエネルギー資源、清浄で広大な空間を持つ豊かな自然や、先人から営々と引き継がれてきた地域文化など、これからの日本の発展になくてはならないハード・ソフトの資源を有している。
こうした有形無形の豊富な資源を、時代の変化や多様化する価値観に合わせて最大限に活用し、官民一体となって、「秋田ならではの地方創生」を進めるものである。
(2) 基本目標
基本的視点に沿って、4つの政策分野ごとに基本目標を定め、具体的な取組を推進する。
◆基本目標1 産業振興による仕事づくり
◆基本目標2 移住・定住対策
◆基本目標3 少子化対策
◆基本目標4 新たな地域社会の形成
また、それぞれの基本目標には、推進期間で県民にもたらされる便益(アウトカム)に関する数値目標を設定する。
○雇用創出数 5年間で12,630人
○Aターン就業者数 1,061人(H26)→1,700人(H31)
○本県への移住者数 20人(H26)→220人(H31)
○婚姻数 3,842件(H26)→4,020件(H31)
○合計特殊出生率 1.34(H26)→1.50(H31)
○「住んでいる地域が住みやすい」と思っている人の割合 H31までに80%
○社会活動・地域活動に参加 した人の割合 46.4%(H26)→68.0%(H31)
(3) 推進期間
総合戦略の推進期間は、国の総合戦略との整合性を図るため、平成27年度から平成31年度までの5年間とする。
(4) 推進体制
基本目標及び施策ごとの数値目標の達成度をもとに、外部有識者の参画を得て施策・事業の効果を検証し、改善を図る。いわゆるPDCAサイクルを機能的に動かしていく。
(5) 新たな視点で進める施策・事業
基本目標実現のため、各目標ごとに「新たな視点で進める施策・事業」として掲げた15施策とKPI(重要業績評価指標)が示されている。
内容を見ると、地域中核企業の成長分野への参入や海外展開、専門的人材の育成を特に重視していることが読み取れる。
以下、施策の概要について簡単に触れる。
a 航空機産業の振興
既に参入している県内企業のさらなる取引拡大に向け、航空機メーカーとのマッチングを支援するほか、特殊工程等の認証取得や地域共通の産業インフラ導入を促進する。また、県内のサプライチェーン構築に向けた取組を支援するとともに、県内企業の新たな参入を促進し、航空機産業の裾野拡大を図る。さらに、そのための専門的人材の育成を進める。
世界の民間航空機産業の生産高は、年間約20兆円で、今後20年間で2倍以上に増加すると言われる。うち、日本の航空機産業の生産高は現在約1兆円であるが、5年後の2020年には2兆円規模へ拡大すると見込まれている。秋田県における航空機産業の製造品出荷額は平成26年で11億円であるが、県はこれを平成31年に54億円まで増加させる目標としている。また、航空機の部品点数は、自動車の約3万点に対し300万点とも言われる。そのため産業構造の裾野が広い。一方、開発費が多額で、高い安全性と精度が求められるなどから、新規参入が難しい産業であるが、反面、開発期間・商品サイクルも長く、事業が軌道に乗れば長期間にわたり安定した事業収益が見込まれる。
既に参入している県内企業のさらなる取引拡大に向け、航空機メーカーとのマッチングを支援するほか、特殊工程等の認証取得や地域共通の産業インフラ導入を促進する。また、県内のサプライチェーン構築に向けた取組を支援するとともに、県内企業の新たな参入を促進し、航空機産業の裾野拡大を図る。さらに、そのための専門的人材の育成を進める。
世界の民間航空機産業の生産高は、年間約20兆円で、今後20年間で2倍以上に増加すると言われる。うち、日本の航空機産業の生産高は現在約1兆円であるが、5年後の2020年には2兆円規模へ拡大すると見込まれている。秋田県における航空機産業の製造品出荷額は平成26年で11億円であるが、県はこれを平成31年に54億円まで増加させる目標としている。また、航空機の部品点数は、自動車の約3万点に対し300万点とも言われる。そのため産業構造の裾野が広い。一方、開発費が多額で、高い安全性と精度が求められるなどから、新規参入が難しい産業であるが、反面、開発期間・商品サイクルも長く、事業が軌道に乗れば長期間にわたり安定した事業収益が見込まれる。
b 新エネルギー関連産業
港湾における洋上風力発電(日本一のポテンシャルがあると言われる)をはじめ、本県における再生可能エネルギーのさらなる導入拡大を図るとともに、設備技術者等の育成を掲げている。
港湾における洋上風力発電(日本一のポテンシャルがあると言われる)をはじめ、本県における再生可能エネルギーのさらなる導入拡大を図るとともに、設備技術者等の育成を掲げている。
c ICT専門人材育成と高度ICT企業の誘致
高度な技術力を持つICT企業を誘致したうえで、本県で大規模なシステム開発を行ってもらいながら、ICT人材の育成も図っていく計画としている。
高度な技術力を持つICT企業を誘致したうえで、本県で大規模なシステム開発を行ってもらいながら、ICT人材の育成も図っていく計画としている。
d クールジャパン戦略に基づく県産品の輸出促進
秋田港の有利性・拠点性を活用し、秋田港から東南アジアなどに向けて北方系の魚介類や伝統工芸品等を輸出するための拠点化を図る。
秋田港の有利性・拠点性を活用し、秋田港から東南アジアなどに向けて北方系の魚介類や伝統工芸品等を輸出するための拠点化を図る。
e 農林水産業
国の農政改革を踏まえ、強い経営体の育成、米依存から複合型生産構造への転換、6次産業化の推進、メガ団地を核とした園芸品目の大幅な拡充など米依存農業からの脱却をはかる。また、県産材の優先利用を図る「ウッドファーストあきた」の推進や、「秋田林業大学校」の活用により、林業雇用の拡大を図る。
国の農政改革を踏まえ、強い経営体の育成、米依存から複合型生産構造への転換、6次産業化の推進、メガ団地を核とした園芸品目の大幅な拡充など米依存農業からの脱却をはかる。また、県産材の優先利用を図る「ウッドファーストあきた」の推進や、「秋田林業大学校」の活用により、林業雇用の拡大を図る。
f ICTの活用と海外誘客の促進
全県の観光地や宿泊施設にWi-Fiの導入を図るとともに、外国語を含めた観光情報などのコンテンツの充実を図る。
全県の観光地や宿泊施設にWi-Fiの導入を図るとともに、外国語を含めた観光情報などのコンテンツの充実を図る。
g 秋田の将来を支える人材の育成
高等教育機関の受け皿拡充と英語や専門技術の習得など、企業が求める人材を育成し地元企業への定着を促進する。
高等教育機関の受け皿拡充と英語や専門技術の習得など、企業が求める人材を育成し地元企業への定着を促進する。
h 移住・定住
秋田ならではの魅力の情報発信と他県との差別化を軸に、官民協働によるマッチング機能の強化、空き家の利活用推進、などを盛り込んでいる。
秋田ならではの魅力の情報発信と他県との差別化を軸に、官民協働によるマッチング機能の強化、空き家の利活用推進、などを盛り込んでいる。
i 少子化対策
子育て助成制度や子育て世帯に対する住宅支援、奨学金返還額の助成制度創設などを行う。特に、第3子が生まれた場合に、第2子以降の保育料全額を助成する制度の導入は、都道府県初となる。
子育て助成制度や子育て世帯に対する住宅支援、奨学金返還額の助成制度創設などを行う。特に、第3子が生まれた場合に、第2子以降の保育料全額を助成する制度の導入は、都道府県初となる。
j 新たな地域社会の形成
高齢者が元気で活躍できる地域づくりとして、CCRC構想の実現に向けた取組を行う。
(CCRCとは、高齢者が健康時から移り住み、介護・医療が必要となる時期まで継続的なケアや生活支援サービス等を受けながら、生涯学習や社会活動などに参加する共同体)
高齢者が元気で活躍できる地域づくりとして、CCRC構想の実現に向けた取組を行う。
(CCRCとは、高齢者が健康時から移り住み、介護・医療が必要となる時期まで継続的なケアや生活支援サービス等を受けながら、生涯学習や社会活動などに参加する共同体)
4 総合戦略の位置づけ
「“高質な田舎”を思い描きながら、“日本に貢献する秋田、自立する秋田”を目指して」とのスローガンからも分かるように、今回の「総合戦略」は、基本的には既存の県政指針である「第2期ふるさと秋田元気創造プラン」をベースとしている。その中から人口問題という視点で切り分けた各施策をより充実させる方向性で「総合戦略」が策定されていると考えられる。
本県において人口減少問題は、全国的な動向よりも10年あるいは20年先んじて進んでいる。県も平成3年から人口減少に歯止めをかけるべく、子どもの保育料の助成や奨学金制度の創設、Aターンの推進など、さまざまな施策を展開し、また国に対しても総合的な少子化対策の策定と推進を訴え要請してきた。しかし、その段階では国全体としては問題の深刻さを十分認識しておらず、積極的な取組はなされてこなかった。そうした中で県独自の取組も、部分的、一時的な効果にとどまり、総体的には人口減少に歯止めがかかっていないのが実状である。
本県において人口減少問題は、全国的な動向よりも10年あるいは20年先んじて進んでいる。県も平成3年から人口減少に歯止めをかけるべく、子どもの保育料の助成や奨学金制度の創設、Aターンの推進など、さまざまな施策を展開し、また国に対しても総合的な少子化対策の策定と推進を訴え要請してきた。しかし、その段階では国全体としては問題の深刻さを十分認識しておらず、積極的な取組はなされてこなかった。そうした中で県独自の取組も、部分的、一時的な効果にとどまり、総体的には人口減少に歯止めがかかっていないのが実状である。
5 まとめ
(1) 本県を含む地方での人口減少対策では「雇用創出」が第一義であり、新しい産業の創出が喫緊の課題である。「秋田ならでは」の産業振興が望まれる。
(2) 「秋田らしさ」ということについて、佐竹知事は、「自然が豊か」など他の地域にも当てはまるものでなく、「日本で一番賦存量のある風力発電」、「日本でトップレベルの子どもの学力、教育力」、「日本海側で国指定の重要コンテナ港湾が秋田港1港」であることなどを「秋田らしさ」と述べている。「秋田」という表示がなくとも「秋田」と分かる、オンリー・ワンのブランド化が目指すべき方向性である。
(3) 当県は首都圏等から地理的・心理的な遠距離感を持たれてしまっている。これを払拭するためにも、物理的な交通網の整備に加え、物理的距離にかかわらず必要とされるオンリー・ワンが欲しい。
(4) また、地方創生は、国や行政依存でなく地域の「産官学金労言」が連携し、自ら考え行動することが求められる。ベースとなるべきは県民・市民レベルの活動であるが、その場合、実行力を有するリーダーの存在が重要となる。
昨今、各市町村で地域色豊かで特徴的なイベントや地域活性化への積極的な取組が目につく。こうした動きを大事にし、組織的に継続し定着させていくことが肝要と考える。
昨今、各市町村で地域色豊かで特徴的なイベントや地域活性化への積極的な取組が目につく。こうした動きを大事にし、組織的に継続し定着させていくことが肝要と考える。
(5) 今回の総合戦略の計画期間は5年間とされている。もとより、計画期間経過後も取組継続が求められることは言うまでもない。しかし、この5年間の成果次第で、こと人口の自然増減に関しては20年後の2040年の成人人口が確定してしまう。その意味で、時間的余裕はない。
(6) 地域の人口減少を阻止し発展の礎を築くという問題認識と使命感を集約して、他に先駆けて施策に着手したところが、いち早く負のスパイラルから脱却し、地方創生を成し遂げられるものと信じたい。