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秋田県内の「サービス付き高齢者向け住宅」の現状について

 我が国は少子高齢化が急速に進展し、高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は26.7%となった。今後も高齢者人口は増え続け、平成52年にピークを迎える。高齢化の進展に伴い、高齢者だけの世帯も増加しており、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らすことができる住まいを確保していくことが大きな課題となっている。このため、平成23年に「高齢者の居住の安定確保に関する法律」が改正され、全国各地で「サービス付き高齢者向け住宅」(以下、「サ高住」)が急速に増加している。本稿では、秋田県内のサ高住の現状についてまとめてみた。

1 はじめに

 我が国は少子高齢化が進展し、高齢化率は26.7%(総務省統計局、平成27年9月15日現在推計)となった。国立社会保障・人口問題研究所によると、65歳以上の高齢者は今後も増え続け、平成52年に3,868万人でピークを迎え、高齢化率は36.1%になると推計している。
 高齢化の進展に伴い、介護を必要とする人が増えているほか、日々の暮らしに見守りが必要な高齢者だけの世帯も増えている。介護が必要になった高齢者の住まいとして、大きな役割を果たしているのが特別養護老人ホームであるが、現在約54万人が利用している一方で、入所待機者も約52万4千人おり、急速な需要の増加に対して供給が追い付いていない状況にある。
 こうした状況の下、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らすことができる住まいを確保していくことが大きな課題となっており、高齢者向け住宅の整備が進められている。特に平成23年10月に制度が創設されたサ高住は、60歳以上の人なら誰でも利用することができ、国の優遇政策などの後押しもあって、近年施設数が急速に増加している。

2 サ高住制度創設の背景

 従来の高齢者向け住宅は、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(高齢者住まい法)によって、高齢者の受け入れを拒まない「高齢者円滑入居賃貸住宅」(高円賃)、専ら高齢者のみを受け入れる「高齢者専用賃貸住宅」(高専賃)、バリアフリーなど良好な居住環境を備えた「高齢者向け優良賃貸住宅」(高優賃)があったが、平成23年10月に「高齢者住まい法」の改正によって、高円賃、高専賃、高優賃の3制度が廃止され、新たにサ高住制度が創設された。サ高住制度は、今後増加が見込まれる高齢単身者や夫婦世帯が住み慣れた地域で安心して暮らせる住まいを安定的に供給することを目的としている。
 国土交通省は成長戦略会議(22年5月)で、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らすことができる住まいを確保するため、32年を目処に高齢者人口に対する高齢者向け住宅の割合を、欧米並みに3~5%とする計画(60万戸程度の整備が必要となる)を打ち出した。政府もサ高住の供給を加速させるために、建設費の補助、事業者への優遇税制、住宅金融支援機構による融資制度など手厚い支援を行っている。

3 サ高住の概要

 サ高住は、健常、要介護・要支援状態であるかにかかわらず、60歳以上の人なら誰でも利用することができる。一定の床面積や設備、バリアフリー構造などが整い、ケアの専門家による安否確認や生活相談サービスの提供が必須となっている。これらのサービス以外にも、食事・掃除・洗濯などの生活支援サービス、介護・医療サービスを提供できる体制となっている場合がある。
 契約形態は、一般的な賃貸物件と同様に賃貸借方式の契約が中心となるが、一部には利用権方式の施設もある。また、入居者の長期入院や心身の状況変化などを理由に事業者側から一方的に契約解除ができないことや、入居者から権利金や礼金などの金銭を受領することができないことなど、入居者保護に関する項目が定められている。

4 サ高住の普及状況

 サ高住の登録情報は、国土交通省の「サービス付き高齢者向け情報提供システム」(以下、「情報提供システム」)で公表されている。
 情報提供システムに登録されたデータによると、平成27年9月末時点のサ高住の全国登録数は185,512戸(5,734棟)となっている。サ高住制度開始初年度の登録戸数は31,094戸(889棟)であったが、わずか3年半で15万戸以上のサ高住が建設され、全国で急速に増加している。
 都道府県別の登録状況をみると、大阪府が19,507戸(485棟)と最も多く、北海道14,804戸(356棟)、埼玉県10,528戸(296棟)と続いている。こうした中、秋田県内のサ高住登録数は、1,471戸(60棟)で、全国36位となっている。また、1棟当たりの登録戸数は24.5戸で、全国(32.4戸)と比べると、小規模なサ高住が多い。
 一方、高齢者人口1万人に対するサ高住の普及割合は、全国は54.8戸(国内の65歳以上の推計人口は3,384万人)であるが、本県においては42.6戸と全国を大きく下回っている。

5 秋田県の高齢者数と世帯数の状況

(1)高齢者数と要介護認定者数の推移
 本県の65歳以上の高齢者人口は、平成16年の30万3千人から26年には33万8千人へと10年間で3万5千人増加した。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、県内の65歳以上の人口は今後も増え続け、32年には35万7千人になると推計している。
 また、65歳以上の介護保険被保険者のうち、介護が必要と判定された要介護認定者数も、16年の4万7千人から6万9千人へと1.5倍に増加した。

(2)高齢者世帯数の推移
 秋田県が毎年公表している「老人月間関係資料」によると、65歳以上の高齢者だけの世帯数は11万972世帯となり、このうち1人暮らしの高齢者世帯は6万527世帯で、総世帯数(39万3,539世帯)の15.4%に上っている。
また、要支援・要介護認定を受けている人がいる世帯は3万540世帯で、高齢者だけの世帯の27.5%を占めている。
 高齢者人口の増加に伴い、高齢者だけの世帯が増加傾向にあるほか、県内では特別養護老人ホームの入所待機者も約4,000人に上る。こうした高齢者の新たな受け皿として、サ高住に期待が高まっている。

6 秋田県のサ高住の現状

 本項では、秋田県のサ高住の現状について、情報提供システムの登録データに基づいて考察してみる。
(1)市町村別の登録状況
 市町村別に登録戸数をみると、秋田市が661戸(41.5%)と最も多く、能代市118戸(12.8%)、大仙市179戸(12.2%)と続いている。
 サ高住制度開始初年度の登録戸数は331戸(14棟)で、約6割が秋田市に集中していたが、ここ数年で県内各地にも広がってきている。

(2)運営する事業者の形態
 サ高住を運営する事業者の形態をみると、全事業者数43事業所のうち、株式会社が最も多く、22法人(51.2%)と過半数を占める。次いで有限会社が11法人(25.6%)、医療法人、社会福祉法人が4法人(9.3%)と続く。
 業種別では、介護サービス事業者や社会福祉法人などの介護系事業者が多いが、一部にハウスメーカー、不動産業者、建設業者などもみられる。サ高住は必須となるサービス提供が最小限のものに限られ、参入へのハードルが高くないこともあり、異業種からの参入も増えている。

(3)1戸当たりの床面積
 1戸当たりの床面積は、「18~20㎡未満」が 682戸(46.4%)と最も多く、次いで「20~25㎡未満」が585戸(39.8%)となっている。
 サ高住の基準では、1戸当たり原則25㎡以上(ただし、一定要件を満たせば18㎡以上でも可。図表1参照)だが、25㎡以上はわずか204戸(13.9%)にとどまり、25㎡未満が86.1%を占める。全国でも25㎡未満が75.2%を占め、本県と同様の傾向がみられるが、本県は全国より狭い部屋の割合がやや多くなっている。

(4)月額家賃
 月額の家賃は、「3~4万円未満」が343戸(23.3%)と最も多く、次いで「3万円未満」が341戸(23.2%)となっている。サ高住では家賃のほかに安否確認・生活相談サービスの利用料金と共益費が最低限必要となる。本県の平均金額をみると、安否確認・生活相談サービスの利用料金が約1万3千円、共益費が約2万1千円となっている。
 また、入居者の必要に応じて食事の提供を受けることができるが、県内では月額4万円前後で提供する事業所が多くなっている。

(5)設備の設置状況
 サ高住は「便所」「洗面」「浴室」「台所」「収納」を各戸に設置もしくは共有で備えることが条件となっている。県内のサ高住における各設備の設置状況についてみると、「便所」「洗面」の設置割合は100%であり、全戸に完備されている。次いで「収納」が97.8%、「台所」が34.4%、「浴室」が27.8%となっている。食事の提供や大浴場の設置で代用可能な「台所」と「浴室」の設置割合が低くなっている。
 また、これら5つの設備が完備されている部屋は23.5%(345戸)にとどまる。

(6)生活支援サービスの提供状況
 サ高住では、安否確認サービスと生活相談サービスを提供することが必須となっており、このほかにも食事の提供や介護サービスなどを提供している施設もある。ただし、これらのサービスは事業者自らが行うだけでなく、外部に委託して行っているケースもみられる。
 県内のサ高住における生活支援サービスの提供状況をみると、「安否確認・生活相談」に加え、「食事の提供」も県内全ての施設で行われている。このほか「健康の維持増進」が40.0%、「調理等の家事」が26.7%、「入浴等の介護」が25.0%となっており、介護サービスの提供割合が低くなっている。
 サ高住はあくまでも「住宅」であるため、医療や介護のサービスを受ける場合は自宅に居住しているのと同様に、外部からのサービスを受けることが基本となる。入浴等の介護サービスを自ら行っている施設は、介護保険サービスの「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた特定施設(※)となっているケースが多い。(※)特定施設とは、定員が30人以上の施設で都道府県から「特定施設入居者生活介護」の事業者指定を受けたもの。対象となる施設は、有料老人ホーム(サ高住で該当するものを含む)、養護老人ホーム、軽費老人ホーム。

7 新たな動き

 秋田県は10月に公表した「あきた未来総合戦略」の中で、高齢者向けケア付き共同体「秋田版CCRC」を平成31年度までに7か所整備し、入居世帯を計168世帯とする目標を掲げている。CCRCはアメリカが発祥で、高齢者が健康なうちに移り住み、介護が必要になるまで移転することなく継続的なケアや生活支援サービスを受けながら生涯学習や社会活動等に参加する共同体である。秋田版CCRCでは、首都圏の退職者などの移住を促進するほか、豪雪地域等で暮らす県内高齢者も対象とし、サ高住のコンセプトを拡充した高齢者向け住宅を核とする安全・安心なまちづくりを想定している。

8 おわりに

 今年4月に介護保険制度が改正され、特別養護老人ホームの入所基準が見直された。認知症の症状により特別養護老人ホーム以外での生活が困難といった場合等を除き、要介護3以上の人しか入所できなくなり、要介護度の軽度者は、介護保険の施設サービスの対象から外される方向になってきている。
 また、政府は「施設から在宅へ」をスローガンに掲げ、介護が必要になってもできるだけ施設に入らず、在宅を基本とすることを目指している。増え続ける医療費を抑制させるという目的が背景にあるが、在宅介護を普及させるためには、サ高住の整備を進めるとともに、高齢者が安心して生活ができるための「地域包括ケアシステム」の構築が欠かせない。医療・介護・福祉の連携強化を図りながら、高齢者一人ひとりの状況に応じたサービスの提供が必要となる。
 今後も県内各地でサ高住の建設は増えていくとみられ、競争の激化が予想される。県内のサ高住では、様々なサービスが提供されているが、施設によってそれぞれ異なる。例えば、要介護度の軽度者を受け入れている場合には、入居者の介護度の重度化にどのように対応するかなど明確にしておく必要がある。サービスの質を高め、入居者が快適な生活が送れるような環境の整備が望まれる。
(山崎 要)
あきた経済

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