トップ機関誌「あきた経済」トップ秋田の文化力はすごいなあー!

経営随想

秋田の文化力はすごいなあー!

山川 龍巳
(株式会社わらび座 取締役社長)

ナポレオンよりモーツァルト?

 わらび座や坊っちゃん劇場の舞台脚本を多く手掛けたジェームス三木さんが、「ナポレオンとモーツァルトはどちらが偉いだろうか?私は文句なしにモーツァルトだと思う。ナポレオンはブランディでたまにはお世話になるが、モーツァルトの音楽を聞かない日はないし、流れない日はない。文化力の力は歴史を経てみればこれほどの実力の差です」と、言ったことがある。
 平野政吉は内館牧子さんの台本によれば、ちり紙のようにお金を使ったそうだが、それでも、その当時の秋田の中では一番大きな地主ではなかったそうだ。しかし彼の最大の功績の一つは、絵画の殿堂のパリで日本人画家として最も有名だった藤田嗣治に、横20.5メートル、縦3.65メートル余りの壁画のような「秋田の行事」を描かせ残したことである。これで彼はもっとも有名な地主の一人になった。
 初めて「秋田の行事」を観た時の驚きは忘れられない。世界から人を寄せることのできる財産が秋田にあるのだ。モダンなフジタが、その当時の秋田の生活、風習、祭り、産業まで描き込んでいる。今となれば誇るべき伝統の秋田が描かれている。有り余るお金の使い道で彼は、後世まで名を残すことになった。文化力の勝利である。
 しばらく行方知らずで、メキシコで発見された岡本太郎の「明日の神話」は愛媛県東温市で修復された。私が運営責任者をしていた、坊っちゃん劇場から歩いても15分ほどのまち工場の中で修復されたその絵は、横30メートル、縦5.5メートルのとんでもない迫力の大壁画であった。「明日の神話」は「秋田の行事」を相当意識して、描かれたのかもしれないと想像すると、また面白い。

新しい秋田県人が秋田の宣伝を!

 秋田の魅力を大宣伝するのは新しい秋田県人の仕事である。多くの人がそうであろうが、特に秋田をはじめ東北の人は、自分の魅力を自分で語るのを恥ずかしいと思っている。
 長崎のオランダ坂や眼鏡橋を新婚旅行で訪ねた仙台のある方が「行ってびっくりした。あの程度のものを、イメージ豊かに表現する長崎の語り口、CM力にはまいりました」と語っておられた。九州出身の我々からしてみれば当然のことで、相手を楽しませるために小さいことを
 大きく語るように訓練させられて、大人になっていくのである。「大げさ」と言われればその通りであるが、サービス精神がどうしてもそうさせてしまう。九州出身の私たちが言うのもなんだが、高知のはりまや橋だけは、橋に気づくまでに時間がかかり、「やられた!」とつい笑ってしまう。
 東北の素材の力はそのままで十分力はあるが、我々新しい秋田県人の新しい情熱がプラスされれば、伝わり方も違ってくるだろう。

学力に、文化力が加わればすごい!

 秋田の子どもたちは学力日本一であり、今やブランド力がある。すでに余り有るほどある自然力と、これにアートが加われば、秋田は人材(財)の宝庫になれるかもしれない。
 考える力より感じる力の大切さを豊かに語っているのが、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』である。これは考える力を否定している訳ではなく、考える土壌を創り上げるのは感じる力と言っている。自然やアートに触れることは、知識の源になるのかも知れない。「グローバルリーダーの育成」にもっとも必要なのは「国境を越えるに耐えられる人間力」と語られた国際教養大学のある先生の言葉は忘れられない。その人間力の大事な要素の一つは自然とアートとだと思う。

地域力の時代である

 今、地域力が必要である。地域の歴史伝統・文化伝統を舞台芸術で表現する力はその具体化である。「世界の首都の中で東京は一流であろうが、地方が一流になる必要がある。そのためにアートは不可欠」という、6月末にたざわこ芸術村わらび座を訪問された倉敷の大原美術館理事長大原謙一郎さんの言葉には刺激を受けた。地域の子どもたちは、地域の誇りに触れさせることが大切である。東京スタンダードだけでは、地域の豊かな誇りは身につかない。根っこの張った力を、新しいセンスで磨き上げ、クリエイティブな表現力まで高めることである。そのクリエイティブな力を日本の評価システムのある東京のショーウインドウに並べて「面白い!」と言わせる必要があると語ったのは岐阜県の可児市文化創造センター館長の衛紀生(えい きせい)さん。
 物余りの豊かな時代に、新しい価値観で迫れないものか。スポーツや地域創造で、新しい価値創造で秋田を明るく元気にする若者たちも出てきている。定住人口は確実に減るのだろうが、輝く人間を増やせば良いではないか。感動の秋田を演出したいと思う。

(会 社 概 要)

1 会 社 名 株式会社 わらび座
2 代表者名 代表取締役会長 小島克昭
取締役社長   山川龍巳
3 所 在 地 〒014-1192 秋田県仙北市田沢湖卒田字早稲田430
4 電話番号 0187-44-3311
5 FAX番号 0187-44-3314
6 U R L https://www.warabi.co.jp/
7 設立年月 1971年3月(劇団創業1951年)
8 資 本 金 4,900万円
9 年  商 19億円
10 従 業 員 300人(2015年9月現在)
11 事業内容 ●興行─わらび劇場、坊っちゃん劇場、全国学校、
 国内海外での公演を年間約1,200ステージ
●たざわこ芸術村─人間再生・出会いの場
 ・共生─地域・自然・伝統と現代
 ・交流と情報と体験研修
12 施  設 劇場、ホテル、公衆浴場、ビール醸造施設、
大中小稽古場、企業内保育所、全国3営業所
あきた経済

刊行物

お問い合わせ先
〒010-8655
 秋田市山王3丁目2番1号
 秋田銀行本店内
 TEL:018-863-5561
 FAX:018-863-5580
 MAIL:info@akitakeizai.or.jp