経営随想
海外市場開拓による秋田経済活性化~まだまだあるある秋田の魅力~
(日本貿易振興機構(JETRO)秋田貿易情報センター所長)
【はじめに】
2013年7月に秋田に着任してから2年に渡り、限られた数ではありますが、海外との取引に取り組んでいる、または新たに取り組む企業の方々と仕事をさせていただいています。小職が所属する日本貿易振興機構(JETRO)は自身が貿易・投資をするのではなく、事業者の皆様の海外展開活動をご支援する立場にあり、秋田県を始めとする自治体や商工団体・金融機関・大学等と「支援機関」として連携しています。秋田県経済の基盤を担う事業者の皆様に如何に活用していただき、如何に寄与できるかが1つの指標であり、これらを常に念頭におきつつ活動しております。
地域経済の活性化というのは長年の課題であり、人口減少、少子高齢化などの課題も、例えれば生活習慣病のようであり、「突然」発症して「特効薬で治る」ものではないと思います。各層各位ひとりひとりの継続的かつ前向きな思考と歩みによって乗り越えていくことができるものと思います。
前向きな「歩み」の1つの方法として、海外との取引きによってビジネスを拡大させる方法があります。日本の総人口は減りつつある中で、世界規模では人口が増加しています。特に、アジアの近隣国の中には人口も経済規模も成長が見込まれる国が多く存在します。アジアをはじめとする海外市場の成長力を取り込んでいく、ということが各所で言われていますが、まさにこの取り組みを秋田からも実践するということが求められていると思います。
このような「歩み」が、各事業者の皆様の利益の増加、職の安定・増加、人の定住、ひいては地域(秋田)の活性化につながるものと考えております。
【県内企業の海外展開取り組み事例】
小職の限られた経験でも県内で多くの取り組み事例が思いつきます。業種も食品、伝統工芸品、機械、デザイン、木製品、飲食サービス等多様です。以下にその一部を例示させていただきます。分類は小職が独自に決めたものであり事業者の皆様の同意を得ているものではありません。
1.「そのもの」が売れているもの、「そのもの」で勝負している事例
高茂合名会社/ヤマモ味噌醤油醸造元(湯沢市)は老舗の味噌醤油醸造元。7代目に当たる常務が積極的に海外展開に取り組んでいます。アジアへの展開から始め、食品関連では世界最大級の見本市であるSIAL(フランス)やANUGA(ドイツ)にも出展するなど欧州にも拡大しつつあります。海外のバイヤーからの意見を素早く取り入れてパッケージ(容器)の改良やラベルの新規デザイン導入等を行いつつ、味噌醤油の製造に関しては同社の伝統を保持するというポリシーで勝負しています。
丸松銘木店(能代市)は「Almajiro」というツキ板編み込み化粧板を製造。秋田空港の出発ロビーの壁や空港レストランのテーブル等にも利用されています。欧州への海外展開を目指し、パリで開催される世界最高峰のインテリア・デザイン関連見本市「メゾン・エ・オブジェ」に2年連続で参加します。当初英語対応に課題があったものの、初取引に向けて努力と工夫を重ねています。
小林工業株式会社(由利本荘市)は粉末成形金型及び粉末成形用CNCサーボプレス機を主力製品とする会社です。2010年頃から欧州への輸出に本格的に取り組み始めました。ドイツの会社と代理店契約を締結して販路開拓に取り組み、2014年12月に販売が成立、第一号機は既にドイツに到着しています。また金型部門では2015年1月にタイに子会社を設立。現地職員も採用、コストパフォーマンスの高い製品を生産し、新たな市場開拓も視野に入れています。英語教育、コンプライアンスプログラムや知的財産戦略などに全社的に積極的に取り組んでいます。
他の例では、お米、日本酒等があります。農事組合等が独自にお米の輸出を手がけたり、日本酒は多くの蔵元が世界の市場に間接・直接輸出しています。また国内の展示会に自社商品を出展した際に、偶然来場した海外の事業者の目にとまり後日問合せが来るなどの事例もあります。
2.海外需要にあわせて改良工夫している事例
菊地合板木工株式会社(五城目町)は国内では主に化粧ばり集成材を製造し、和室造作材、建具メーカーとして自社ブランド、OEMで供給しています。中国に合弁工場及び事務所を開設しています。海外販路については数年前から「障子スクリーン」を製作、ロシア向け販路開拓に取り組んできました。商品開発、営業方法などは試行錯誤を繰り返した後、自分たちの固定観念を取り払って現地の方々の言葉に耳を傾けるようにして取り組んだ結果、視界が開けたということです。一昨年から障子スクリーンの販売を行っているオーストリアの代理店から、菊地合板木工の組み立て式の和室を販売したいと提案を受け、取り組むことになりました。2015年6月からオーストリア・ウィーンの代理店ショールームには組み立て式の和室スタイルの部屋が展示されています。今後大きな反響が期待されます。
アキモク鉄工(能代市)は主に産業機械の製造、鋼製橋梁や水門などの公共工事を展開しています。他方、航空機の機体洗浄装置(マイクロバブルによる長距離洗浄)を開発し、海外の航空機MRO市場への販路拡大に取り組んでいます。パリの航空機関連見本市で出会ったマレーシア企業との商談を進め、2014年にはマレーシアに現地代理店を設立、洗浄機を持ち込んで現地でテスト洗浄を行っています。現地ユーザーからのフィードバックを受け、装置の改良、バブルの応用研究等にも迅速に対応しています。本格輸出まであと一歩です。同社も社長自らが英語での電話やEメール対応に取り組み海外ビジネスをリードしています。
3.海外事業者とのコラボで進化している事例
角館で樺細工製品の製造販売を行う藤木伝四郎商店は1915年のサンフランシスコ万博でシルバーメダルを受賞したこともある老舗です。国内市場の閉塞感を打破するため、2011年頃、6代目故藤木浩一氏は本格的に海外市場への取り組みを決意しました。海外のお客様の顔を直接見るためにそれまでの国内商社経由の取引を直接取引に切り替え、取り組みました。パリの「メゾン・エ・オブジェ」への連続出展でブランド力を定着させ、海外有名ブランドとの取引が成立しました。2015年8月にはフランスの老舗銀器メーカー、クリストフルとのコラボ製品を日本に投入するなど、角館発世界のDENSHIROブランドに進化しています。
4.サービス、観光、商社機能など
飲食のサービスとしては、稲庭うどん製造販売の老舗、佐藤養助商店(湯沢市)が2013年にレストラン「稲庭養助」を台湾に展開、2015年7月には2号店をオープンしています。元氣屋(北秋田市)も台湾にラーメン店を展開しています。
温泉などは観光スポットとしての存在価値は言うまでも無く、湯治施設としての価値も注目されています。先般、中国から視察に来たビジネスマンが真剣にその可能性の高さを訴え、秋田のPRが消極的に見えると漏らしていました。中国には、安心・安全の日本で温泉湯治し、美しい自然のなかで過ごす需要があるとのことです。秋田には温泉も自然もありますね。
貿易商社としては、クロスリンク(秋田市)が中国とのビジネスに精通し、秋田県の日本酒、稲庭うどん、ジュース等の販路を着実に構築しています。秋田県貿易(秋田市)も秋田産米などマレーシアを中心にアジアへと取り組みを拡大しています。その他には、ハラル認証を取得してイスラム圏諸国市場の開拓や、訪日・在日イスラムの市場をターゲットにした取り組み事例もあります。
【むすびに 秋田発世界へ】
繰り返しになりますがこれらは一例です。秋田県内にはまだまだ魅力ある資源が山ほどあるはずです。気づいていない場合もあろうかと思います。これら資源を商品やサービスとして国内や海外の消費者に認知してもらうためには、もちろん多くの場合、人一倍の努力や工夫が必要です。しかし海外では、私たちが当たり前と思っていることに大きな価値が認められたり、秋田で考えているのとは異なる角度で見られたりすることも多々あり、これが思わぬビジネスに発展する可能性があるのです。アンテナを高く張り自ら限界を定めずに、時には発想を転換して様々なものを受け入れる心構えで臨めば、秋田からの海外市場開拓は今後さらに大きなものとなると思います。
JETROでは新たに海外展開に取り組む事業者の皆様に積極的に活用頂きたいと思っております。海外への販路拡大、進出などに関心がある方はJETROにお声掛けください。大きな可能性があるとしても、「はじめの一歩」を踏み出さないと「歩み」になりません。もちろん、相談したら何もしなくても海外で売れる、というものではございませんが、皆様と一緒になって取り組んで行きたいと思います。
JETROが提供している海外との出会いの方法として、国内に海外バイヤーを招聘して開催する輸出商談会、海外見本市(ジャパンブース)への出展支援、商談会の開催などがあります。海外市場動向や商習慣・商談会への対策等に関する情報はセミナーやホームページで広く提供しております。JETRO以外の支援策も自治体や国の補助金などいろいろあります。これら情報は「あきた海外展開支援ネットワーク」でもご紹介しています。
秋田が活力を増して更に魅力的な地域になるよう、「秋田発世界へ」を目指しましょう。
(センター概要)
1 組 織 名 | 日本貿易振興機構(JETRO) 秋田貿易センター |
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2 代表者名 | 所長 大山 明裕 |
3 所 在 地 | 〒010-0951 秋田県秋田市山王2-1-40田口ビル1階 |
4 電話番号 | 018-865-8062 |
5 FAX番号 | 018-888-1771 |
6 U R L | https://www.jetro.go.jp/akita/ |
7 設立年月 | 1994年10月 |
8 職 員 数 | 5名(2015年12月1日) |
9 主要事業 | ・秋田県産品輸出の支援 ・秋田県中堅・中小企業の海外展開の支援 ・海外からの投資の誘致促進・支援 ・貿易投資相談、等 |