経営随想
自然・環境・産業が調和した観光とまちづくり
【町の概況】
小坂町は、青森県に接する秋田県の北東端にあり、そして北東北三県(青森県・岩手県・秋田県)のほぼ中央に位置しており、気候は山間盆地特有の内陸型で積雪寒冷地となっています。町土の約7割が森林であり、その多くが国有林で占められています。中央部には米代川の支流である小坂川が流れ、北東部には国の特別名勝・天然記念物に指定されている十和田八幡平国立公園の「十和田湖」があり、日本でも有数の自然に恵まれた地域です。明治4年の廃藩置県以来境界が決まっていなかった十和田湖の青森県十和田市との境界が平成20年12月に決定し、十和田湖湖水面の西側が正式に町域となり、現在の町の面積は201.95k㎡となっています。
東北自動車道と秋田自動車道が本町地内の小坂JCTで接続し、それぞれの高速道路に小坂ICと小坂北ICを持ち、まさに北東北の交通網の拠点となっています。
文久元年(1861)年に小坂鉱山が発見されて以来、経済や文化も鉱山産業とともに発展し、「鉱山の町」として歴史を歩んできました。現在は、古くから培われてきた鉱業技術を活用し、使われなくなったパソコンや携帯電話等から金属を取り出す、いわゆる都市鉱山による金属リサイクル産業への転換が図られ、世界的視野での資源循環型産業として注目を浴びています。
【近代化産業遺産を活用したまちづくり】
小坂鉱山の企業城下町として発展してきた小坂町には、明治期の風格を残した建造物が多く現存しており、これらを観光資源として活用したまちづくりに取り組んでいます。
日本最古の木造芝居小屋「康楽館」[明治43年(1910年)建築・国重要文化財(平成14年)]、小坂鉱山事務所[明治38年(1905年)建築、平成13年(2001年)移築復原・国重要文化財(平成14年)]、天使館[昭和7年(1932年)幼児教育施設として建築・国登録有形文化財(平成15年)]など、歴史と文化に彩られた近代化産業遺産が建ち並ぶ延長約450mの町道は「明治百年通り」と名付けられています。
町では、さらに明治百年通りの起点にある小坂駅舎を含む旧小坂鉄道の整備を進め、その活用を図っています。小坂鉄道は、明治41年(1908年)に鉱山の発展とともに増大した貨物輸送のため小坂鉱山専用鉄道として小坂・大館間(22.3km)が開通し、翌明治42年(1909年)に旅客営業が開始されました。その後、貨物輸送とともに町民の足として活躍しました。しかしながら、小坂鉄道の旅客営業は平成6年(1994年)9月末に、貨物運搬も平成21年(2009年)4月に営業が廃止されました。この廃線となった旧小坂鉄道利活用に向けての事業が動き始めたのは、「秋田県市町村未来づくり協働プログラム」の創設が契機となりました。このプログラムは、市町村の多様な課題を解決していくため、市町村提案を基に秋田県と県内市町村が協働で集中的な実施を図るものです。
このプログラムを活用して小坂町では「明治百年通りにぎわい創出事業」に着手しました。この事業を進めるにあたり、秋田県からは、人的支援、財政的支援など様々な支援をいただいています。事業期間は平成24年度~28年度の5か年となっています。主な事業内容は、旧小坂駅舎及び構内施設等を活用した「小坂鉄道レールパーク」等の整備(旧小坂駅舎・停車場、鉄道体験館、鉄道車輌展示場、駐車場等)、明治百年通りの拠点施設としての赤煉瓦にぎわい館「赤煉瓦倶楽部」建設、モニュメント・案内機能整備等です。レールセンターとして活用している旧小坂駅舎は、小坂鉄道開業と同時に建設されたものです。また、体験館・資料展示室として活用している機関車庫は昭和37年(1962)年に建設されたもので、現在は小坂鉄道で活用した車輌を収め、その整備や保管を目的とするほか、鉄道の歴史や車輌の仕組みなど町と鉄道の関わりを知ることができます。これらの施設は平成27年に国登録有形文化財に指定されています。小坂鉄道レールパークは、平成26年6月にオープンし、線路を活用した観光トロッコやレールバイクの乗車体験及び車輌展示場での見学のほか、ディーゼル機関車やラッセル車の体験運転ができる施設として全国から注目され、開業後1年間で18,705人、そして2年目にはすでに20,000人を超える方々に訪れていただきました。
また平成27年には、ダイヤ改正により青森・上野間の運行を終了した「寝台特急あけぼの」の車輌4両をJR東日本から購入し、「ブルートレインあけぼの」の名称で宿泊施設として営業を開始しました。この宿泊施設は同じ場所に固定せず、夕方ホームに横付けして宿泊客が乗り込み、翌日に宿泊客が退室した後はホームから移動する現役時代を彷彿させるものとなっています。朝食には駅弁も用意しています。平成27年はB個室車輌1輌による10月末から11月末までの1か月間での週末のみの営業でしたが、町内外162人の方々に宿泊していただきました。
明治百年通りの“にぎわい”の中心である小坂鉱山事務所の入館者数は、平成13年のオープン以来減少傾向でありましたが、小坂鉄道レールパーク開業年の平成26年から増加に転じ平成27年度もさらに増加しており、康楽館の入場者数もまた平成27年度から増加に転じました。これは、小坂鉄道レールパーク来園者の多数を占める子ども連れのファミリー層の方々が小坂鉱山事務所にも足を運んでいただいていることと、それに加えて、赤煉瓦倶楽部のオープン等の波及効果が康楽館にも及んできたものと受け止めています。
この明治百年通りを拠点として、多くの人が行き交いそして地元事業の活性化や来町者が町民との交流を図ることを目的に、地元食材を使った「駅弁」や「スイーツ」など特産品・土産物等の開発や、新たな旅行商品の開発などソフト面の充実も図っています。
小坂町は、「活用なくして保存なし」をテーマにこれら近代化産業遺産を有効活用した産業観光の発展に向けて取り組んでいます。そして、十和田湖の大自然、資源循環型社会による環境への配慮とともに、自然・環境・産業が調和した観光とまちづくりに取り組み続けます。平成26年10月に小坂町を会場に開催された「全国産業観光フォーラム」においては、その取組が評価され特別賞を受賞しました。
今年は十和田湖が国立公園に指定されて80周年を迎えます。十和田湖もまた小坂町の大きな財産であり、多くの観光客に訪れていただくための施策も必要です。
昨年、十和田湖でヒメマス養殖に生涯を捧げた和井内貞行と妻のカツ子を描いた芝居「天空の魚影」が康楽館で上演され、観客に感動を与え大きな反響がありました。そして、十和田湖の素晴らしさと先人の偉大さを再認識いたしました。
【町民目線を大事にしたまちづくりに向けて】
平成23年4月にスタートした「第5次小坂町総合計画」は、10年後のまちの将来像を「“ひと”と“まち”が輝く躍動する小坂~十和田湖と鉱山文化、人と自然にやさしい環境が新しい時代を築く~」としています。これまでのまちづくりや鉱山文化などの歴史に育まれた人材といった小坂町の“ひとの個性”と、十和田湖の自然、鉱山文化や近代化産業遺産群、資源循環への取り組みや環境リサイクル産業といった小坂町の“まちの個性”を輝かせ、人々の交流と地域産業が躍動し発展する小坂町を、10年後の将来の姿とするものです。特に、十和田湖と鉱山文化、生活環境や自然環境の保全に取り組んできた小坂町の“個性”を活かし、これら個性が連携したまちづくりを進めていかなければなりません。これまで述べてきたように、小坂町では資源を活かした観光施策を充実し、交流人口拡大による地域経済活性化をめざしたまちづくりを進めるとともに、「人口減少」・「少子高齢化」が進む過疎地域の課題にも取り組んでまいります。平成27年からの総合戦略の趣旨である若者の定住に向け、「子育て・保育」、「健康・医療」、「商工業・雇用」、「教育」など各分野において種々施策を展開し、さらに充実を図る必要があります。これら施策は、即効性を期待できるものではありませんが、将来において必ずや実を結ぶものと信じております。
私の信条である「町民目線」を大事にし、町民とともにより良いまちづくりに向け、他に類のない資源の有効な活用を図り、「住んでいる人が暮らしやすい小坂町」をめざすとともに、町外の方々からも「小坂に行ってみたい・住んでみたい」と思われるまちづくりに取り組んでまいります。