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新年(平成30年)県内景気見通し

 昨年の国内景気を、四半期別の実質GDP成長率(季節調整系列、前期比年率換算)の推移でみてみると、次のとおりである。
[四半期別GDP推移]
 ≪28/10~12月期:1.4%⇒29/1~3月期:1.5%⇒4~6月期:2.9%⇒7~9月期:2.5%≫
 年初から5月にかけて、個人消費や設備投資、住宅建設に足踏みや弱含みの動きがみられたが、全体として「一部に改善の遅れもみられるが、緩やかな回復基調が続いている」景気であった。6月以降は、個人消費が緩やかに持ち直し、設備投資も持ち直した後、年末には緩やかな増加に転じた。公共投資は、12月に下方修正されたものの堅調もしくは底堅く推移し、輸出も年初の「持ち直しの動き」から3月以降は「持ち直している」が続き、年末まで全体の景気としては「緩やかな回復基調が続いている」状況で推移した。
 12月の月例経済報告では、堅調な外需を背景に輸出が伸び、自動車や機械などで国内生産が増えていることから生産判断が1年ぶりに上方修正されたほか、設備投資も6か月ぶりに上方修正された。
 秋田県の景気は、年初は、主力の電子部品や個人消費が弱含み、木材も低調に推移したため、全体として足踏み状態であったが、4月以降、電子部品や個人消費、木材に持ち直しの動きがみられ、全体として持ち直しに転じ、その後も個人消費の持ち直しに足踏みはあるものの、年初来の機械金属と公共工事の堅調に支えられ持ち直しの動きが続いている。雇用情勢は改善基調にあるが、一部業種で不足感の強い状況が続いた。
 新年は、トランプ米大統領の経済政策、イギリスのEU離脱交渉の行方等によっては、国内景気も大きく揺れ動く可能性があるが、海外経済の回復を背景に輸出が増加基調を維持し、設備投資も企業収益の改善から徐々に持ち直すほか、政府の経済対策の効果などが顕在化することにより、景気は緩やかな回復が続くものと見込まれる。
 県内の主要な業界団体からご協力いただいたアンケート結果も踏まえて、国内および県内景気の新年の見通しについてとりまとめた。

1 国内経済の見通し

(1) 国内景気の現状と先行きについて、内閣府と日銀の判断は次のとおりである。
a 内閣府『月例経済報告』(29.12.21)
「景気は、緩やかな回復基調が続いている。」
・個人消費  緩やかに持ち直している
・設備投資  緩やかに増加している
・住宅建設  このところ弱含んでいる
・輸出    持ち直している
・生産    緩やかに増加している
・企業収益  改善している
・業況判断  改善している
・雇用情勢  改善している
・消費者物価 横ばいとなっている
「先行きについては、雇用・所得環境の改善が続くなかで、各種政策の効果もあって、緩やかに回復していくことが期待される。ただし、海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある。」

b 日銀『経済・物価情勢の展望』(29.11.1)
(a) 経済の現状
「わが国の景気は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで、緩やかに拡大している。」
(b) 経済の中心的な見通し
「先行きのわが国経済は、緩やかな拡大を続けるとみられる。2018年度までの期間を展望すると、国内需要は、きわめて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調をたどると考えられる。すなわち、設備投資は、緩和的な金融環境や成長期待の高まり、オリンピック関連投資の本格化、人手不足に対応した省力化投資の増加などから、緩やかな増加を続けると予想される。個人消費も、雇用・所得環境の改善が続くもとで、緩やかな増加傾向をたどるとみられる。公共投資は、経済対策の効果などから2017年度に増加した後、2018年度は、経済対策効果の減衰に伴い減少に転じるものの、オリンピック関連需要もあって高めの水準を維持すると考えられる。
この間、海外経済は、先進国の着実な成長に加え、その好影響の波及や各国の政策効果によって、新興国経済の回復もしっかりとしたものになっていくとみられることから、緩やかな成長を続けると予想している。こうした海外経済の成長を背景として、輸出も、基調として緩やかな増加を続けるとみられる。」
(c) 経済の上振れ・下振れ要因
「上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ、下振れ要因としては、第1に、海外経済の動向に関する不確実性がある。具体的には、米国の経済政策運営やそれが国際金融市場に及ぼす影響、新興国・資源国経済の動向、英国のEU離脱交渉の展開やその影響、金融セクターを含む欧州債務問題の展開、地政学的リスクなどが挙げられる。いずれも経済の下押し要因となる可能性がある。一方で、市場や経済主体がそうしたリスクをある程度意識していることを踏まえると、展開によっては上振れにつながる可能性もある。
第2に、企業や家計の中長期的な成長期待は、少子高齢化など中長期的な課題への取組みや労働市場をはじめとする規制・制度改革の動向に加え、企業のイノベーション、雇用・所得環境などによって、上下双方向に変化する可能性がある。
第3に、財政の中長期的な持続可能性に対する信認が低下する場合、人々の将来不安の強まりやそれに伴う長期金利の上昇などを通じて、経済の下振れにつながる惧れがある。一方、財政再建の道筋に対する信認が高まり、将来不安が軽減されれば、経済が上振れる可能性もある。」

(2) また、世界景気の現状・先行きについては、次のとおり判断している。
a 内閣府『月例経済報告』
(a) 「世界の景気は、緩やかに回復している。
先行きについては、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、中国を始めアジア新興国等の経済の先行き、政策に関する不確実性による影響、金融資本市場の変動の影響等について留意する必要がある。」
(b) 「アメリカでは、景気は確実に回復が続い
ている。先行きについては、着実に回復が続くと見込まれる。ただし、今後の政策の動向及び影響等に留意する必要がある。
 中国では、各種政策効果もあり、景気は持ち直しの動きが続いている。先行きについては、各種政策効果もあり、当面は持ち直しの動きが続くものと見込まれる。ただし、不動産価格や過剰債務問題を含む金融市場の動向等によっては、景気が下振れするリスクがある。
ユーロ圏では、景気は緩やかに回復している。ドイツでは、景気は緩やかに回復している。先行きについては、緩やかな回復が続くことが期待される。ただし、地政学的リスクの影響、政策に関する不確実性の影響等に留意する必要がある。英国では、景気回復は緩やかになっている。先行きについては、EU離脱問題に伴う不透明感による影響から、回復がさらに緩やかになることが見込まれる。」

b 日銀『経済・物価情勢の展望』
 「海外経済は、総じてみれば緩やかな成長が続いている。グローバルな製造業の業況感は改善傾向にあるほか、世界貿易量も回復している。」
 「先行きの海外経済については、先進国の着実な成長に加え、その好影響の波及や各国の政策効果によって、新興国経済の回復もしっかりとしたものになっていくとみられることから、緩やかな成長を続けると予想している。」
「米国経済は、国内民間需要を中心にしっかりとした成長が続くと見込まれる。欧州経済については、英国のEU離脱交渉の展開をはじめとする政治情勢や金融セクターを含む債務問題を巡る不透明感が経済活動の重石となるものの、基調としては緩やかな回復経路をたどる可能性が高い。中国経済は、当局が財政・金融政策を機動的に運営するもとで、概ね安定した成長経路をたどると考えられる。その他の新興国・資源国経済については、先進国の着実な成長の波及や景気刺激策の効果などから、成長率は徐々に高まっていくと予想している。」

(3) IMF(国際通貨基金)の実質成長率(GDP)見通し
 昨年10月に発表されたIMFの経済見通しによる世界全体・主要国・地域の平成29年および30年の実質GDP見通しは、次のとおりである。世界の成長率予測を29年は3.6%、30年は3.7%とし、先進国の投資や貿易の改善を評価し、7月時点の予測から上方修正した。日本も輸出が底堅く伸びたほか、経済・財政再生計画による景気への効果期待から、29年・30年とも見通しが引き上げられた。ただし、財政効果がなくなる30年は、29年の1.5%から0.7%に減速すると予測している。

[IMFの実質GDP見通し(29.10)] [単位:%]
  28年 29年 30年
世界 3.2 3.6(+0.1) 3.7(+0.1)
先進国 1.7 2.2(+0.2) 2.0(+0.1)
日本 1.0 1.5(+0.2) 0.7(+0.1)
米国 1.5 2.2(+0.1) 2.3(+0.2)
ユーロ圏 1.8 2.1(+0.2) 1.9(+0.2)
ドイツ 1.9 2.0(+0.2) 1.8(+0.2)
イギリス 1.8 1.7(±0.0) 1.5(±0.0)
新興国 4.3 4.6(±0.0) 4.9(+0.1)
中国 6.7 6.8(+0.1) 6.5(+0.1)
(注)()内は29年7月予想比

 なお、IMFは、「回復は完全ではない。基本シナリオの見通しは改善しているものの、多くの国で成長は弱いままで、先進諸国・地域の大半でインフレ率が目標を下回っている。~短期リスクは概ねバランスしているものの、中期的なリスクは依然下方に傾いている。」としている。中期的なリスクとしては、金融状況の引き締まりや先進国・地域の低インフレ、新興国の金融混乱、保護主義政策に伴うリスク等が挙げられている。

(4) 「日銀短観(全国企業短期経済観測調査:29.11.14~12.14)業況判断指数―全国中小企業」
 全国の中小企業(5,577社。うち製造業2,119社、非製造業3,458社)の業況判断指数(「良い」企業―「悪い」企業)の推移は次のとおり。
  29年9月調査 29年12月調査
最近 12月予測 最近 30/3予測
全産業 9 6 11 7
製造業 10 8 15 11
非製造業 8 4 9 5

 昨年12月時点の業況は、昨年9月時点での「先行き(平成29年12月)」予測に比べて、製造業、非製造業とも上回り、9月時点の業況から改善されている。
 ただし、「先行き(30年3月)」については、製造業、非製造業とも、昨年12月より「良い」超幅が縮小と予測している。

2 県内経済の見通し

(1) 日銀短観(29.11.14~12.14)「業況判断指数―秋田県」(153社。うち製造業54社、非製造業99社)
  29年9月調査 29年12月調査
最近 12月予測 最近 30/3予測
全産業 14 12 13 12
製造業 8 15 14 15
非製造業 18 10 12 10

 昨年12月時点の業況は、昨年9月時点の業況から、製造業の「良い」超幅は拡大したものの、非製造業の「良い」超幅が縮小したため、全産業では「良い」超幅が1ポイント低下した。
 なお、全ての業種で改善または横ばいとなっており、「悪い」超とする業種がなく、景気回復の裾野の広がりがみられる。
 本年3月時点の業況予測については、製造業、非製造業とも「良い」超幅がほぼ横ばいの予測となっている。
 29年度設備投資計画は、前年度の投資増加の反動から製造業が5年ぶりの減少計画(前年度比△31.6%)、非製造業も4年連続の減少計画(同△13.5%)となり、全産業で5年ぶりの減少計画(同△29.5%)となった。
 なお、鉱工業の生産量を表わす「鉱工業生産指数(季節調整済)」(平成22年=100)の推移は次のとおりである。
 四半期別の指数では、28年第3・4四半期は、東北・全国平均並みであったが、29年に入り下回って推移している。昨年10月には、6業種で前月比上昇したものの、「はん用・生産用・業務用機械工業」、「その他工業(パッキン類、一般製材)」など8業種で低下したため、東北・全国平均との乖離幅が拡大した。
四半期・月 秋田県 東 北 全 国
28年 第3四半期 98.4 98.0 98.0
第4四半期 99.1 99.9 99.8
29年 第1四半期 98.0 100.2 100.0
第2四半期 97.4 100.7 102.1
第3四半期 98.0 100.6 102.5
10月 95.7 100.0 103.0

(2) 県内主要業界団体アンケート結果
a 「平成29年の業界の業況」および「平成30年の業界の業況見通し」
 15団体から回答いただいた「平成29年の業界の業況」および「平成30年の業界の業況見通し」の結果は次のとおりである。
平成29年の業界の業況 平成30年の業況見通し
好  況 1業界 好  転 0業界
やや好況 3 〃 やや好転 2 〃
変わらない 9 〃 変わらない 10 〃
やや不況 2 〃 やや悪化 3 〃
不  況 0 〃 悪  化 0 〃

 平成29年の各業界の業況は、「変わらない」が9業界と多数を占めたが、「好況」と「やや好況」だった業界が、28年の1業界(やや好況)から4業界に増えた。一方、28年は「不況」が2業界、「やや不況」が3業界と、合わせて5業界あったが、29年は「やや不況」が2業界のみとなり、全体としては改善がみられた1年といえる。
 平成30年の各業界の業況見通しについては、「変わらない」が10業界と最も多いが、「やや好転」とみる業界が2業界に対し、「やや悪化」とみる業界が3業界あり、全体としては29年よりやや後退するものとみられる。

b 「平成30年の県内景気見通し」
 自業界の業況見通しとは別に、「平成30年の県内景気見通し」についても回答いただいたが、その結果は次のとおりである。なお、カッコ内は昨年同時期の回答結果である。
やや好転 4業界(2業界)
変わらない 9業界(10業界)
やや悪化 2業界(3業界)
悪化 0業界(0業界)

「変わらない」とみる業界が昨年より1業界
減の9業界と多数を占めた。ただし、「やや好転」とみる業界は昨年より2業界増の4業界、「やや悪化」とみる業界が昨年より1業界減の2業界と、全体としてはやや改善するとの見方となっている。

c 「国内外および県内経済・社会における重大関心事」
 「業界の重要課題」に加えて、「国内外および県内経済・社会における重大関心事」をお聞きした(自由記述)。 重大関心事の回答数の多い事項は次のとおりである。

Ⅰ 労働力の確保      (10業界)
Ⅱ 人口減少、少子・高齢化問題(7業界)
Ⅲ アメリカの政治・経済の動向(「アメリカ離脱後のTPP問題」含む)(6業界)
Ⅲ 北朝鮮問題(「県民の安全・安心の確保」含む))(6業界)
Ⅴ 働き方改革、IT・AIの活用(4業界)

【参考】昨年の重大関心事
Ⅰ 人口減少・少子高齢化対策  (9業界)
Ⅱ 米国トランプ次期大統領の政策  (5業界)
Ⅱ TPP問題の行方       (5業界)
Ⅳ 地方創生の推進        (4業界)
Ⅳ 秋田県の産業活性化、創造  (4業界)
Ⅳ 人材の育成・確保      (4業界)

 例年と同様に、「人口減少、少子・高齢化問題」が7業界と上位(2番目)の関心事に挙げられたが、今回は「労働力の確保」が10業界から関心事に挙げられトップとなった。4業界から挙げられた「働き方改革、IT・AIの活用」も含めると、各業界とも「人手不足」「技術の継承」対策が経営上の最重要課題になっていることが窺われる。
 今回は、「北朝鮮問題」が、ミサイル発射、木造船漂着に加え、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備問題もあり、身近な地政学リスク発現として6業界から挙げられたことが特筆される。
 また、昨年同様、「アメリカの政治・経済の動向」が「アメリカ離脱後のTPP問題」と併せ高い関心が寄せられている。昨年12月に30年ぶりとなる同国の大型減税(10年間で1.5兆ドル)が成立したが、このプラス効果と連邦政府債務の積み上がりというマイナスの影響にも留意する必要がある。
 このほか、自業界独自の課題も含めて、数多くの課題が記されている。

3 さいごに

 本年の県内経済は、国内外の需要の拡大などから、生産活動は持ち直しの動きが続き、住宅投資や個人消費に足踏み感はあるものの、雇用・所得環境の改善基調を受けて、緩やかな回復傾向を辿るものと見込まれる。
 公共投資は、国や地方自治体の厳しい財政事情を反映し抑制傾向で推移するものの、社会資本老朽化への対応や駅前地区の再開発、公共施設の統廃合などへの投資は引き続き行われ、相応の水準は確保される見込みである。
 県人口は昨年87年ぶりに100万人を割り込んだが、県政の運営指針である(第2期)『ふるさと秋田元気創造プラン』の着実な推進により、地方創生の萌芽が県内各地に出現し、成果が現れてきている。
 本年4月からは、社会減や出生数減に歯止めをかける「攻め」と、住民の共助の推進や市町村との協働など「守り」の両面から人口減少の克服を目指して、新たな(第3期)『ふるさと秋田元気創造プラン』がスタートする。
 現時点では素案であるが、次の4つの元気の創造に向け、6つの戦略の展開を予定している。

(第3期)『ふるさと秋田元気創造プラン』
 ≪4つの元気≫
 元気A 人口減少の抑制と地域を守るシステムの構築
 元気B 県内産業の「稼ぐ力」の向上と質の高い雇用の創出
 元気C 交流人口の拡大と交通基盤の充実
 元気D 健康で安心な生活の実現と未来を支える人づくり

 ≪6つの戦略≫
 戦略1 ふるさと定着回帰戦略
 戦略2 成長産業振興戦略
 戦略3 稼ぐ農林水産業創造戦略
 戦略4 人・もの交流拡大戦略
 戦略5 いきいき健康長寿戦略
 戦略6 地域を支える人材育成戦略
 新たなプランの下、産官学金労言、各界あげて、回復傾向が見込まれる景気をテコに“高質な田舎”づくりに一層邁進していきたい。
(松渕 秀和)
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