2015年12月、フランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)において、2020年以降の新しい温暖化対策の枠組みとして、1997年の京都議定書以来となる「パリ協定」が150か国もの首脳参加のもと採択されました。
全体目標として掲げられている「世界の平均気温上昇を2度未満に抑える」に向けて、世界全体が今世紀後半には、温室効果ガス排出量を実質的にゼロにしていく事となります。我が国は2020年以降の温室効果ガス削減に向けてエネルギーミックスと整合的なものとなるよう実現可能な削減目標として「2030年度に、2013年度比で、温室効果ガス排出量を26%削減する」との概要を打ち出しました。温室効果ガスの削減、つまり石油や石炭などの化石燃料を使ったエネルギー生産を抑え、再生可能エネルギーの利用、省エネの推進、フロン対策の強化、森林吸収源の活用などが必要となります。今後、我が国もさらなる低炭素社会へと進み、脱炭素社会を目指す事となります。
私は、9.11アメリカ同時多発テロ直後に社会人となり、現在まで再エネ・新エネ分野に従事して参りました。馴染みの少なかった本分野において、LOHAS思考(注1)の流行や未曾有の大震災とそこから発生した原発事故など、その後の電力需給を大きく示唆した再生可能エネルギー固定価格買取制度がスタートしました。国内のいたる所で太陽光発電や風力発電施設が設置されるようになり、「エネルギーの利活用」について身近に感じるようになりました。
本県においても、再生可能エネルギーの導入量は着実に増加していると共に、他県と比べ風力発電や水力発電はもとより全国平均日射量に対する太陽光発電量もけっして見劣りするものではなく、またシェールオイルの今後の活用など日本国内におけるエネルギー分野で高いポテンシャルを有しています。このような中、弊社においては県内ではいち早く新エネルギー事業に着手し、太陽光発電による緊急時避難誘導灯など各種照明設備や大規模蓄電池を併用した施設向け補助電源設備、その他、海外へ向けた農作物の給水設備や養魚場の飼育補助設備など自然エネルギー関連事業に積極的に取り組んでまいりました。
新たな事業として取り組んでいるのが農業と発電事業を両立するソーラーシェアリングです。制度上の名称は「営農型発電設備」というもので、田畑の上に太陽光パネルを設置し、発電と農作物によるダブル収入を得るという取り組みです。従来の太陽光発電と異なる部分は、農地の上空3メートルから4メートルほどの高さに特定の間隔で太陽光パネルを設置することで、上では発電を、下では農業を行う事が可能です。2013年に農林水産省が通知を出し、営農を継続して行うことなどを条件に、太陽光発電設備を農地に設置する事が認められるようになり、近年全国的に注目を浴びている事業例です。
現在、国内の農業従事人口は200万人を大きく割り込み、うち65歳以上が125万人以上に達しております。これに対して、年間の新規就農者は6.5万人にとどまり、44歳以下の若手と言われる年代は2万人程度となっています。秋田県内の農業生産高は昭和60年頃をピークとしてこの30年で半減しております。このような状況からソーラーシェアリングの導入意義として個人・企業単位で考えた場合、農家は農業に加え発電事業を行う事で所得の向上につながり、農地に電源設備が出来る事で農作業の効率化などが期待できます。また、エリア規模で考えた場合、農業法人化・農地集約が促進され、地域農業の活性化、新規就農者の増加、農業技術の継承が期待されます。併せて、税収増加による公共サービスの充実や移住者増加、地域経済の活性化も考えられます。
低炭素社会をリードし、自然から得られる豊富なエネルギーの活用から生まれる利益、地域活力の向上が期待でき、秋田県が課題とする人口減少、農山村地域活力の低下、もしくは経済活動全体の低下にも歯止めが掛けられるのではないかと思います。また、様々なエネルギーを有する地域だからこそエネルギー利用を地産・地消・地所有する事で電源を有効に利活用する地域間コミュニティの構築が可能とも考えます。
今後は既在の再生可能エネルギーをカバーするオフグリッドシステム(注2)の普及や、次世代エネルギー供給網と言われるローカルグリッド(注3)の開発・提案なども行い、業務を通じてより良く深く、地域社会と関わって行きたいと考えています。
(注1) LOHAS:Lifestyles Of Health And Sustainabilityの略。健康と環境を志向した、持続可能なライフスタイルの意
(注2) オフグリッドシステム:電力会社の送配電網
(グリッド)に依存しない独立電源システム
(注3)ローカルグリッド:地域を限定した電力網
経営随想
地域社会におけるエネルギーの利活用
齊藤 徹
(株式会社アイセス 代表取締役) (会 社 概 要)
会社名 | 株式会社アイセス |
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代表者名 | 代表取締役 齊藤 徹 |
所在地 | 〒018-1512 南秋田郡井川町北川尻字下田面替場11-1 |
TEL | 018-874-3252 |
FAX | 018-874-3242 |
URL | https://www.aises.jp |
設立年月 | 昭和61年9月 |
資本金 | 2,500万円 |
年 商 | 12億円 |
従業員 | 56名(平成30年6月末) |
事業内容 | 各種基盤設計・製造業、新エネルギー事業 |
企業理念 | 志を高く絶えざる技術革新の追求とともに、高品質の製品の提供など時代の変化に対応した企業活動を通して、「社会生活の改善と向上」に貢献し、広く社会からの信頼を得られる企業を目指す。 |